不条理な社会課題に挑み続ける ヘンリーが起こす医療経営と現場の進化

中小規模の病院向けクラウド型電子カルテ・レセコンシステム「Henry」を開発・提供する、株式会社ヘンリー。高齢化社会の中で医療ニーズが高まる一方、非効率な業務に悩まされる医療機関は少なくありません。そんな課題に対し、同社は「誰もが使いやすいUI」「導入ハードルの低さ」「運用負荷を減らす設計」を軸に、テクノロジーの力で医療の現場に変革をもたらしています。創業者の逆瀬川光人さんと、営業統括執行役員の須賀崇さんに、創業の背景やサービスの価値、今後の展望についてお聞きしました。

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理想を語るだけでは、社会課題は解決できない。

── 創業に至るまでの背景やきっかけについて教えてください。

逆瀬川:大学時代、私はフェアトレードに取り組む国際協力系のサークルに所属していました。生産者に正当な対価を支払うことで、発展途上国の労働環境や生活水準を改善しようという試みです。その思想には強く共感していましたし、社会を良くするための一つの手段だと信じていました。ただ、実際に活動を続ける中で痛感したのが、理想だけでは持続しないという現実でした。どれだけ意義があることでも、経済的に成り立たなければ、継続も拡大もできない。 資金面が不安定な団体は、活動が立ちゆかなくなることも多く、そんな現実を目の当たりにして、「社会課題を本気で解決するなら、お金が回る仕組みをつくらなければいけない」と強く思うようになったんです。

その思いがビジネスに目を向けるきっかけになり、卒業後は楽天に入社。そこには、のちに起業して成功された方も多く在籍していました。そうした方々の背中を見ながら、自然と「自分もいつか起業したい」と思うようになっていましたね。また、楽天という大きなプラットフォームが社会に与えるインパクトの大きさも、私にとって非常に印象的でした。たとえば、地方の商店がネットを通じて全国に商品を販売できるようになる。その瞬間、彼らの商圏は10倍、100倍に広がります。それはまさに“革命”でした。やるなら、自分もそういう大きな変化を起こせる事業をやりたい。そう考えるようになりました。

── 起業する際、なぜ医療業界に着目されたのでしょうか。また、電子カルテという領域にどんな可能性を見出されたのでしょうか。

逆瀬川:医療業界に着目したのは、市場の大きさと社会貢献性の高さに強く惹かれたからです。なかでも中小病院 の現場には、紙のカルテの運用や煩雑な業務フローなど、疲弊を招く構造が色濃く残っていました。創業当初、20名以上の医師にヒアリングを行ったところ、「電子カルテが使いにくい」「業務がスムーズに回らない」といった声が多数寄せられました。当時の電子カルテの導入率は50%未満。導入していても、いまだに「30年前の設計」のまま。満足に使われていないのが現実でした。情報量の多い画面 、直感的でない操作性、院内に縛られるオンプレミス型の仕様。こうした「使いにくさ」が医療現場のストレスになっていると感じました。

電子カルテを導入することで、業務の煩雑さを減らし、医療従事者が患者と向き合う時間を増やすことで、診療の質向上やスタッフの働きやすさ、離職率の改善にもつながる。さらには、患者情報や診療情報をリアルタイムで共有し、システムによる自動チェックなどでヒューマンエラーを防ぐこともできる。そこに大きな可能性を感じたんです。

それと同時に、その現場で働く医療従事者の志の高さに、心を打たれました。多くのドクターが十代のころから「人の命を救う」と決意し、患者さんに真摯に向き合い続けている。その志に私たちのビジョンが重なったとき、この事業は必ず意味のあるものになると確信しました。

── 須賀さんはもともと別の会社を経営されていたそうですね。ヘンリーに参画された背景についてお聞かせください。

須賀:新卒で入社した会社では、法人営業に従事しました。その後、自分で営業コンサルティング会社を立ち上げ、取締役COOとして約10年、さまざまな企業の営業支援や組織づくりに携わってきました。コンサルタントという立場だからこそ見える課題や、クライアントの事業成長に寄与できる瞬間は確かにあって、それ自体には大きなやりがいを感じていました。ただ一方で、どこまでいっても「当事者」にはなれないという限界も感じていたんです。

コンサルタントという外部の立場ではなく、自分自身が事業の内側に入り、当事者として経営に携わりながら課題を解決していきたい。そんなときに出会ったのが、逆瀬川でした。彼の話を聞いて、「これは本当に社会を変えられる挑戦だ」と感じたんです。単にプロダクトを売るという話ではなく、現場の声に耳を傾けながら、一緒に医療の仕組みそのものを変えていこうとしている。そういう誠実な姿勢とビジョンに強く共感して、ヘンリーにジョインすることを決めました。

入社してみて感じたのは、「これはコンサルでは見えなかった景色だな」ということです。自分たちの意思が、すぐにプロダクトや事業に反映されていく。そのスピード感と、顧客と一緒にプロダクトや事業そのものをつくり上げていく一体感には、本当に驚かされました。そして、現場から社会の仕組みを変えていこうとする覚悟に触れるたびに、自分がいまいる場所の意味を再確認しています。

医療機関の業務と経営を、根本から一緒に変革していく。

── ヘンリーのプロダクトは電子カルテ・レセコンシステムが中心と伺いました。具体的にはどんな事業を展開しているのでしょうか?

逆瀬川:私たちは今、電子カルテ、オーダー、レセプトコンピュータ(医事会計システム)という3つの基幹システムを1つの製品で医療機関向けのクラウドサービスとして展開しています。これがHenryというプロダクトの核であり、この会社のメイン事業です。

まず、この事業を通して医療機関の皆様に提供したい価値は、大きく2つあります。ひとつは、生産性を上げること。もうひとつは、収益構造の改善、つまり経営改善に寄与することです。診療の現場を支えるだけでなく、病院の経営基盤まで含めて良くしていく、というのが我々のスタンスです。
そのためには、医療機関の業務を深く理解し、業務そのものを提案していく必要があります。Henryを活用しつつ具体的にどのような運用フローにするかなど、製品をただ導入するのではなく、業務そのものを設計し、現場に浸透させながら導入することが大事です。大変ですが、ヘンリーの面白さそのものであると思います。

また、もちろん、電子カルテだけあっても医療現場のDXは進みません。ITインフラが整っていなければ、いくら優れたクラウドサービスでも活用できない。だから我々は、Henry本体に加えて、その導入や運用を支える「周辺事業」にも取り組んでいます。

須賀:診療報酬制度には、実に1700ページ以上にもわたる複雑なルールが存在します。しかし重要なのは、そのすべてを網羅した機能を入れることではなく、それを各医療機関の運用にどう適用し、成果につなげるかという点です。つまり、システムを導入することがゴールではなく、導入の先にある「本来得たい成果」を現場で実現することが大切なんです。

そのために、Henryというソフトウェアに加えて、ITサービス、導入支援などのプロフェッショナルサービス、さらには診療報酬実務を支えるBPOサービスも提供しています。これらを一体として提供することで、医療機関の業務と経営の両面を根本から支えることを目指しています。

── オンプレミス型ではなく、クラウド型にこだわった理由はなんでしょうか?

逆瀬川:もともと医療業界で使われてきた電子カルテは、オンプレミス(院内設置型)かつカスタマイズ前提のシステムが多く、導入や運用に非常にコストがかかっていました。たとえば、5年間で5,000〜8,000万円かかるようなケースもあり、小規模な病院では「高すぎて導入できない」という状況があったんです。結果として、紙カルテのまま運用していたり、古いシステムを無理に使い続けていたりする現場も多かった。そういった構造的な課題を根本から変えるためにクラウド型で提供し、導入・運用コストを大幅に下げる設計にしています。実際、Henryは同等機能の既存システムと比較して約半額程度のコストで導入できますし、カスタマイズを極力減らすことで、導入工数も抑えられています。

ただ売ればいいのではない。“なぜやるのか”が問われる

── ヘンリーでは、営業や開発など、さまざまな職種の方が関わっていると思いますが、組織内の連携について教えてください。

須賀:ヘンリーでは営業・導入・カスタマーサクセス・製品本部がそれぞれの役割を担いながらも、連携を非常に重視しています。営業の役割も「製品を売ること」ではありません。顧客の声を丁寧に聴き、現場の課題とともに「ありたい姿」を明確にし、それとのギャップを整理することから始まります。

そのうえで、Henryやサービスを活用した対応策がそのギャップに適さない場合は、たとえ受注のチャンスがあっても、お断りすることもあります。なぜなら、無理に契約しても、導入を引き継ぐチームが困るだけでなく、製品の開発ロードマップにも影響が出て、他の顧客にも迷惑がかかってしまうからです。そして何より、お客様自身も「こんなはずではなかった」となってしまっては、本末転倒です。

実際にそうした判断をした際も、「断ったこと」が責められるのではなく、「勇気ある判断」として社内で理解され、賞賛される。そんな文化がヘンリーには根付いていると思います。

逆瀬川:多くのスタートアップでは、営業が「この機能があれば売れる」と案件を取ってきて、開発が疲弊する。そんな構図に陥りがちです。しかしヘンリーでは、成長の“最短距離”を走るために、あえてブレーキとアクセルを丁寧に踏み分けています。営業と開発が密にすり合わせながら、「今のフェーズで本当に注力すべき機能は何か」「どの案件に応えるべきか」を徹底的に議論。誰かの一存で無理に突き進むのではなく、チームで最適な判断を積み重ねることで、結果としてより早く、より確実に、プロダクトと組織の成長を実現しています。

須賀:私たちが大切にしているのは、“現場第一”の視点です。「KPIのために売る」のではなく、「患者さんや医療者にとって本当に必要か」という視点を最後まで持ち続ける。医療機関から「この機能がほしい」と言われても、それが本当に現場で活用されるのか、運用まで見据えて判断します。

導入を急ぎ、要望を鵜呑みにすると「なぜ導入したのか」が曖昧になり、結局現場が困ることになります。だからこそ営業段階からステークホルダー全員と期待をすり合わせ、経営層から現場スタッフまで納得感を持ってもらうよう心がけています。

逆瀬川:そのために、開発メンバーが実際に病院の現場を訪れ、温度感や運用パターンを自分の目で確かめる機会も増えています。資料だけではわからない「本当の課題」に触れることが、プロダクトをより良くする原動力になるのです。

須賀:営業・導入・カスタマーサクセス・製品それぞれのチームが自分の範囲に閉じこもるのではなく、越境しながら意見を交わし合う。だからこそ、「今なぜこれをやるのか」「将来どんな価値になるのか」という視点を全員で共有できています。それが強い組織の土台になっているのだと思います。

逆瀬川:医療機関は、理事長、事務長、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフなど、立場や専門性が異なる多くの人が関わる複雑な組織です。その中で一つのプロダクトを導入するのは、神経を使う難しい仕事です。

だからこそ私たちは、ただ「売る」のではなく、現場の本質的な課題をどう解くかを考え、一人ひとりが当事者として動く。市場にはまだまだ大きな可能性がありますが、それを広げていくためにも、プロダクトを“チーム全員でつくる”という姿勢が欠かせないと考えています。

── 事業や組織のフェーズが進む中で、いま特に必要だと感じているのはどんな人材でしょうか?

逆瀬川:ヘンリーは今、プロダクトの提供価値を高めつつ、導入先をさらに広げていく「第二成長期」に差し掛かっています。これまでは、プロダクトをゼロから形にし、価値を証明するフェーズでしたが、これからは市場での存在感を確立し、より多くの医療現場に届けるフェーズです。その中で、事業のスピード感が上がり、扱う案件の規模や複雑さも増しています。私たちが向き合っているのは、課題が複雑で、正解が一つではない医療業界。日々、新しい状況や課題に直面しますし、チームの中でもフェーズに応じて求められる動き方が変わってきます。「変化を楽しみながら、自ら役割を広げていける人」が活躍できる環境だと思います。

須賀:事業の規模もスピードも上がり、より多くの医療現場に価値を届けていく中で求めているのは、ビジネス全体を見渡しながら、自分の専門領域にとらわれずに仕事を広げていける人です。たとえば営業なら、「契約のために売る」のではなく、現場の課題や導入後の運用まで考えて提案する。開発なら、現場や顧客の声に耳を傾けながら「本当に価値のあるもの」を判断してつくる。そうしたビジネス視点と当事者意識を持って動ける人が、いまのヘンリーには必要だと感じます。

医療を超えた 社会インフラになりたい。

── 今後、ヘンリーが目指す未来や構想について教えてください。

逆瀬川:私たちが取り組んでいる医療の世界には、いまもまだ、解決されていない課題が山ほどあります。人口減少、高齢化、医療費の増加…。日本はその最前線にいて、これらの問題にどう向き合うかは、これから高齢社会を迎える他国にも大きな示唆を与えるはずです。私たちが、超少子高齢化社会が進んだ日本で「持続可能な医療体制・制度」という成功モデルをつくることができれば、それを海外に展開していくこともできるでしょう。

須賀:私は、前職で営業コンサルタントとして多くの企業成長を見てきましたが、これほどスケールと自由度が共存している市場は他にありません。医療という巨大で複雑な市場には、まだまだ未開の“空白”が残されていて、そこに正面から挑める環境がここにはあります。まだまだ構想は尽きません。だからこそ、異なる視点を持った仲間たちが集まり、自分起点で「こんなこともできる」とアイデアを持ち寄ることで、ヘンリーという事業はますます広がっていく。私は今、それを実感しています。

逆瀬川:私たちは、「理想駆動」という言葉を大切にしています。まず理想から出発し、そこに到達するための最短ルートを自ら見出し、事業として挑戦する。だからこそ、難しくても避けては通れない課題にこそ向き合い、市場をつくりにいくスタンスをとっています。ビジネスとしてしっかりと収益を出し、その利益を再投資することで、さらに大きな挑戦にも踏み出せる。そんな循環を通じて、医療業界の未来を本気で変えていきたい。ヘンリー自身が大きくなることももちろん嬉しいですが、それ以上に、この領域に挑戦する仲間が増えて、市場全体が活性化していく。そんな未来を心から願っています。

ただ、もともと私が目指していたのは「医療に携わること」そのものではなく、社会課題の解決に本気で挑むことでした。その中で、医療という分野は特に複雑かつ解くべき課題が多く、難易度も高い。だからこそ、社会に対するインパクトが大きく、チャレンジする意義があると感じたんです。

この医療の基盤が整えば、次は介護や福祉、行政も含めた社会保障全体の課題にも本格的に挑戦していきたい。医療・介護・行政の情報やサービスをシームレスにつなぐハブとなり、現場の分断を解消していくことで、誰もが安心して暮らせる仕組みを社会に根付かせる。それが、私たちの目指す「社会インフラ」を担う未来だと思っています。

── 最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

逆瀬川:持続可能な医療体制をつくることは、これからの社会にとって非常に重要なテーマです。医療という領域は、制度や商習慣が複雑で、簡単には解けない課題が数多くあります。だからこそ、このフィールドで鍛えられる視点やスキルは、本質的な課題に向き合い、構造から変えていく力であり、業界を問わず活きる、いわば“ポータブルスキル”になると感じています。難しいからこそ、挑みがいがある。そう思えた方と、ぜひ一緒にチャレンジしたいです。

須賀:私はヘンリーに入って2年、ずっと感動し続けています。それは、社会課題に本気で向き合う仲間たちと、大きな市場を舞台に、心からやりたいと思える挑戦をできているから。一つひとつの営業にストーリーがあり、お客さまと、ともに涙する瞬間もある。そんな特別な仕事を、一緒に楽しめる方と出会えたら嬉しいです。

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※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。