
薬ではなく、手術でもない。「治療アプリ」という、新たな治療法をご存知でしょうか。治療アプリは、従来の治療法のように患者の身体に直接作用するのではなく、アプリを通じて患者の行動変容を促すことで病気にアプローチします。医師が関与できない「治療空白」(通院と通院の間の期間)においても、患者に個別最適化された医学的なサポートをリアルタイムで実施。これにより、診療の効率化や質の向上、さらには医療費負担の軽減など、様々な好循環が生まれると期待されています。株式会社CureApp(キュア・アップ)は、厚生労働省から承認を得て、保険適用された治療アプリを日本で初めてリリースした業界のパイオニア的存在です。少子高齢化が進み、医師不足が叫ばれている今、同社の手がける治療アプリは、この時代の救世主となれるのか。同社の共同創業者であるお二人に、創業までのストーリーや今後の展開を伺っていきます。
佐竹 晃太
呼吸器内科医として数年ほど臨床に従事したのち、2012年より海外の大学院に留学。中国の上海中欧国際工商学院(CEIBS)で経営学修士号(MBA)を修了し、アメリカではジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院の公衆衛生学修士号(MPH)を修了した。帰国後の2014年に株式会社CureAppを創業した。
鈴木 晋
医学部在学中に、独学でプログラミングを習得。卒業後は研修医として医師免許の取得を目指しつつ、東京大学医科学研究所やWeb制作会社ではソフトウェアエンジニアとして開発技術を蓄積。「医師×エンジニア」という独自のポジションを築き上げた。その後、2014年に佐竹とともに株式会社CureAppを創業し、開発統括取締役として技術選定から開発・運用など開発全般の指揮統括を行う。
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| 年収 | 700~1000 万 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社CureApp |
| 勤務地 | 東京都中央区 |
| 職種 | 事業企画 マーケティング戦略企画 |
「病気をアプリで治す」。その発明に衝撃を受けた。
── 医師として臨床でもご活躍されていたお二人ですが、創業のきっかけは何だったのでしょうか。
佐竹:アメリカ留学中に指導教官から「治療アプリ」に関する論文を紹介されたのがきっかけです。こんな治療法があるのかと、本当に衝撃を受けました。治療といえば、「医薬品を処方するか、手術をして患部を取り除くか」の2択が当たり前でしたから。ソフトウェアであるアプリが、薬と同じように病気を治す力を持つという事実は、医療業界の常識を覆す発明だと思ったんです。その論文は糖尿病の治療アプリに関するものでしたが、禁煙や高血圧、近視など、多くの疾患に応用できる可能性を感じさせるものでした。ですが、当時の日本では治療アプリを事業とする企業はおろか、その存在を知っている人すらほとんどいなかったんですよね。それなら「自分でやるしかない」と起業を決意して、はじめに声をかけたのが大学時代の後輩である鈴木でした。彼は医学部生ながら優れたエンジニアリング能力を持ち合わせていましたし、論理的で考え抜くところも一緒に会社をやっていくうえで頼りになると思いました。
鈴木:突然、佐竹さんから「プログラミングできたよね。話があって…」と連絡が来たときは、疑心暗鬼でしたけどね(笑)。そもそも医学部でプログラミングができる人は少数派なので、他の方からも医療系のシステム開発でお誘いをいただくことが多かったんです。でも、どれも予約システムなど医療周辺業務の効率化が多く、自身がやる意義を感じなかったんですよね。一方、佐竹さんからの提案は、それらとは全く異質のものでした。最初に治療アプリの存在を聞いたときは、「(ある意味)自分の手で薬が作れるんだ」と興奮しましたね。治療の核心にエンジニアリングで入り込むことができるのかと感動したのを覚えています。
── そもそも「治療アプリ」とは、どのようなものなのでしょうか。
佐竹:治療アプリは医薬品や手術に次ぐ、新たな治療法です。従来の医薬品や医療機器だけでは治療効果が不十分だった病気に対して、アプリを通じて日常的な行動変容を促すことで治療効果を発揮します。アプリに入力された患者さんの日々の身体データや行動記録を、医学的知見を搭載したアルゴリズムが解析して、適切な治療介入を実施します。これによって、通院と通院の間の「治療空白」と呼ばれる在宅時間にもリアルタイムで介入することができ、医療の質を飛躍的に高めることが期待できます。また、アプリから得られる患者さんの日々の経過データは、医師側のパソコン上にも分かりやすい形で連携されます。治療方針の策定に必要なデータが事前に得られていることで、診察時間の短縮や、診療の効率性向上にも貢献します。医療の質を向上させながら、同時に効率化を叶えることが期待できるのです。
── 実際にどれほどの効果が期待できるものなのでしょうか?
佐竹:高血圧向けの治療アプリでは、一般的によく服用されている降圧薬の低用量から中用量と同じくらいの降圧効果があると言えるエビデンスも出ています。高血圧のような慢性疾患の場合、お薬は一度飲み始めると何十年も飲み続けなければならないことが多く、抵抗を感じる患者さんもいらっしゃるんですよね。毎日薬を飲むという行動も負担ですが、費用も払い続けることになりますから。しかし治療アプリを活用すれば、生活習慣を変えることで薬を服用することなく血圧を下げられる可能性があります。また、すでに薬を服用している方でもアプリ治療によって薬量を減らせる場合があります。実際に研究では、まだ薬を飲み始める前の高血圧症の人たちにアプリ治療を施した結果、そのうち約8割の方が薬を服用せずに済むまでに症状が緩和したと報告されています。これは、すごいことですよね。薬のような直接的な治療を施すことなく、容態を改善することができたんです。費用面でも、当社のアプリは保険が適用されるため、3割負担の場合、6ヶ月の使用で1万5000円程度でご利用いただけます。これにより、高血圧の患者さんが生涯で負担するであろう数百万円以上の医療費を節約できる可能性があり、医療費適正化にも大きく貢献できると確信しています。

「1秒でも早く、患者さんに届ける」ための逆算思考。
── 改めて、現在までの事業の変遷を教えてください。
佐竹:CureAppの治療アプリの第一弾として開発したのが、禁煙を促すニコチン依存症向けのアプリでした。約6年の時を経て、2020年8月に日本で初めて製造販売承認(薬事承認)を取得し、同年12月に保険適用となっています。その後、2022年4月には高血圧治療補助アプリが薬事承認を受け、2025年2月には減酒治療補助アプリも薬事承認を取得しています。この他にも複数のアプリを現在も開発中です。
── 一般的なアプリ開発と比べるとスローペースにも思えますが、いかがでしょうか。
佐竹:確かにアプリ開発という観点で見れば、そうですよね。ですが、治療アプリの場合は、リリースするまでに臨床試験や研究によってエビデンスを獲得し、厚生労働省から薬事承認や保険適用を得るというプロセスが生じます。アプリというよりも、医薬品と捉えていただくと良いかもしれません。同様の工程をたどる新薬の開発では、通常10年から15年かかると言われていますから、それと比較すれば6年という数字は大変短いと考えています。当社の開発した日本初のニコチン依存症治療アプリを皮切りに、他の大手製薬企業やベンチャー企業も事業に参入していますが、当社ほどのスピードが実現できているプレーヤーは日本にも世界にもほとんどいないと思います。
── そうしたスピード感でリリースまで至れた理由は何だと思いますか?
佐竹:開発プロセスにおける“フォーマット”がないからでしょうか。当社には医薬品などの開発経験がないため、臨床試験や薬事承認を含め「一般的にはこのスケジュール感で、こういう流れで進める」という従前の固定観念がありません。常に、この事業を進めるためには何が本当に必要なのか、最短で成し遂げるにはどういう意思決定をすべきか、といった本質的な問いを持ち、ゴールから逆算して実行してきました。前提にとらわれないからこそ叶えられたスピード感だと思います。
鈴木:佐竹の持つ“推進力”も大きな要因のひとつだと思います。社内でよく「1秒でも早く患者さんに届ける」と言っているんですよね。開発側からしたら「もっと丁寧に作りたいのに…」と思うかもしれないですが(笑)。でも、それほどに「早く世に出したい」という想いが本当に強いんです。治験が終わってから承認申請を出すまでの期間も、一般的な医薬品のスケジュールの4分の1、5分の1まで短縮して進めます。大変なのは確かですが、やればできるんですよね。このスピード感は今も維持していますし、会社の文化や考え方に影響している部分も大きいと思います。
佐竹:たしかに「旗を立てる」ことは、意識しています。何か成し遂げたいことがある場合、普通であれば、タスクを分解して「どのくらいかかりそうか」とプロセスを積算しますよね。ですが、私は必ず「いつまでに成し遂げたいか」から逆算しています。ゴールを決めれば、達成するためにはいつまでに何が必要かと考えることができる。全員で知恵を絞れば、案外、想像以上のスピードで成果は生み出せるものです。

── 医療機関への導入に際してはハードルも多そうですが、その点はいかがでしょうか。
佐竹:医師は患者さんに対して適切な治療か否かを慎重に判断しますから、たしかにハードルがあるとも言えます。しかし、その中でも当社の治療アプリの浸透スピードは、圧倒的に早いと思います。すでに数千の医療機関が導入してくださり、オンライン診療などの他社サービスと比較すると2倍以上の速さで広がっている状況です。病状が改善して患者さんが喜んでくれる、その姿を見て医師も喜ぶ。そんな成功体験が、多くの医療機関で生まれています。
── お二人は現在も医師として現場に立たれていますが、そこにはどういった想いがあるのでしょうか。
鈴木:開発者として、現場を見るのはとても大事なんです。当社の治療アプリが周囲の医師からどう評価されているかを知る貴重な機会になりますし、私自身も患者さんを診る医師の視点から、いちユーザーとしてアプリの使い心地をレビューできますから。あとは、患者さんの中にはアプリでうまくいく方もいれば、そうでない方もいて。例えば、後者の場合はなぜ改善につながらなかったのかを、患者さんのお人柄や特性なども踏まえて検討しています。現場で働くことで得られる気づきが、アプリの改善や、新規開発の企画につながっています。
佐竹:私も週に1度、臨床現場に出るようにしています。鈴木が言ってくれたような観点もありますが、私の場合は患者さんへの想いを強く持ち続けたいというのが1番の理由です。創業2年目の頃に、半年間ほど臨床から離れた時期があったんですが、そのときに「患者さんを治したい」という想いが、少しずつ薄れていくのを感じたんです。治療アプリを生み出す私にとって、それは絶対にあってはならないことでした。また、臨床に出ていることで、医師の方々に治療アプリを受け入れてもらいやすいというメリットも感じています。現場を知っている、患者さんの声を聞いている人が作ったものだと、信頼感を持っていただけるのだと思います。
バリューを深く共有した、“真摯な挑戦者”たち。
── 会社のカルチャーや風土について教えていただけますか。
佐竹:「CURE」という4つのバリューが、まさに会社のカルチャーを表してくれていると思います。これは、「Chase ideal」(力を尽くして、前へ)、「be Unique」(前例は、自らつくる)、「be Responsible」(達成への責任)、「Enrich your loved ones」(愛を持って周囲を豊かに)の頭文字をとったものです。少しずつアップデートされていますが、最新のものは鈴木を筆頭に担当メンバーが一文字にまでこだわって作り上げてくれました。今の私たちを表すうえで、非常にしっくりくるものになっています。
鈴木:私自身も、このバリューは当社の考え方をよく表していると思います。個人的に特に重視しているのは、「be Unique」(前例は、自らつくる)です。治療アプリ自体が前例のない新しいプロダクトだからこそ、ゼロベースで最適な形を模索しています。その工程を経るからこそ、結果的にCureAppならではの独創性が生まれていくと考えています。また、バリューとあわせて、会社のキャラクターを表す「真摯な挑戦者」という言葉をつくりました。医療を扱う立場として「真摯」であること、そして社会のシステムを変革する存在として「挑戦者」であることを私たちは決して忘れてはいけません。バリューやキャラクターは日々のコミュニケーションの中でも頻出していますし、Slackのスタンプにもなっており、社内に深く浸透している実感があります。会社として大切にすべき考え方や価値観は、言葉に落としこむことで共有され、社員のベクトルを自然と同じ方向へと導いてくれるのだと思います。

── CureAppが求めているのはどのような人材でしょうか?
佐竹:一言でいえば自律できる人ですね。当社は社員数もそれほど多くないので、一人ひとりに自走力が求められます。目指すべき方向や旗印はお伝えできますが、そこに向かってどう進むかは、自ら考えて設計できる方が活躍いただけると思います。あとは前向きな方でしょうか。スタートアップには、困難や想定外のハプニングがどうしてもついてまわります。そうした状況でも、前向きに対応策を検討していけるマインドを持っていてもらえると心強いですね。
鈴木:例えば、最近なら生成AIを積極的に自分のものにして、業務に活用しようと動ける方は魅力的ですよね。エンジニアチームではもちろん使用していますが、生成AIにはすべての部門で業務プロセス自体を見直せるほどの力があると思っています。ゼロベースで事業のチャンスや新しい仕事のやり方を見つけてくだされば、私たちが闇雲に止めることはありません。「be Unique」(前例は、自らつくる)とあるように、自分らしいアイデアを積極的に出していただきたいです。
── 応募に際して、医療分野の経験は必要なのでしょうか?
佐竹:入社する方の医療経験は一切問いません。現在働いている社員も、医療従事者以外は医療の専門性がない方がほとんどです。むしろ様々なバックグラウンドを持つ方が加わることで、良い意味で刺激し合い、お互いに学び、影響し合えると実感しています。
鈴木:異なるバックグラウンドを持ちながらも、互いに対して敬意があれば、むしろ相乗効果が生まれると信じています。バリューのひとつに「Enrich your loved ones」(愛を持って周囲を豊かに)とありますが、これは他の人の仕事や取り組みを100%理解できなくても、その努力や成果をリスペクトしようという想いが込められています。そうした考えが浸透しているからこそ、エンジニアは営業の考えを理解し、逆に営業もエンジニアがどうアプリを開発しているのかを学ぼうとしています。相手に敬意を持ち、業務を理解し合うからこそ、ひとつの目標に対して多角的に取り組むことができるんです。
── CureAppが思い描く理想の組織とはどのようなものでしょうか。
佐竹:今までお話ししてきたような考え方を持った方が集まることで、同じミッション・ビジョンに向かって、一つのベクトルになれている組織が理想ですね。個の力も大切ですが、会社としての推進力は、チームとしてどれだけ前に進めるかにかかっていますから。

治療アプリを、世界の当たり前に。
── 今後の取り組みについて教えてください。
鈴木:治療アプリは一定の成果を出していますが、改良の余地はまだまだあります。実際に処方していて如実に感じるのは、治療アプリを使用した生活習慣の改善に意欲的な方には効果がある一方で、そうでない方にはまだ価値が届きづらいということです。医薬品であれば生物学的なメカニズムで効くため、使う人の意欲に左右されませんが、治療アプリはその差が顕著に現れるんですよね。より幅広い方に効果を届けられるように、二つの角度からの改善が必要だと考えています。
ひとつは、プロダクトの改良です。開発において私たちは、「行動変容」を「やるべきこと」と「やりやすくすること」の2つに分解して考えます。「やるべきこと」は、高血圧なら減塩や運動のように医学的に示されています。しかし、それをただ伝えるだけでは、ほとんどの患者は行動に移しません。そのため 「やりやすくすること」が重要です。現在もリマインド機能を付与したり、喜びや達成感を与える仕掛けをつくったり、タスクを細分化したりと、様々な工夫を施しています。ですが、今の時点で効果を出せない患者さんにも積極的に使ってもらうためには、この「やりやすさ」をもう一段階引き上げなければいけません。そこで生成AIを活用して、患者さんに個別最適化された提案を届けられないかと考えています。生成AIを組み込んだ治療アプリはまだ国内で前例がありませんが、そのハードルを乗り越えて、実装を目指しています。
そして二つ目は、少し規模の大きな話になりますが、社会の仕組みを変えることです。アプリが効果を発揮するためには、ユーザーに「やりたい」と思わせることが重要です。だからこそ、アプリで生活習慣を見直したい、改善したいという自発性が生まれるようなムーブメントを起こしたいんです。日本の国民皆保険は素晴らしいセーフティーネットですが、少子高齢化の時代に、そこに甘えてはいられません。「自分の健康は自分で治していこう」という意識を国民全体で高めていくことが必要だと考えています。
佐竹:創業から10年が経った今、当社は「アプリで治療する未来を創造する」というビジョンを掲げています。「アプリを処方する」という新しい治療法を世の中の当たり前にするために、まずは日本における事業基盤を確立し、成長を加速させることが目先の課題です。
── 最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
鈴木:日本の人口動態などを踏まえると、今後、“医療”が社会課題として顕在化することは明らかです。個々の力や政府だけではどうにもできない課題だからこそ、ソフトウェアが打開の鍵を握ると私自身は思っています。もし私たちと同じように、医療業界の抱える社会課題に強い想いをお持ちの方がいたら、ぜひCureAppという環境を使ってください。チャレンジをお待ちしております。
佐竹:病気で苦しむ人の役に立つ、病気を治して幸せにするという経験ができるのは、当社ならではの大きな特徴です。これまで医師として病院で働いてきましたが、患者さんから「ありがとう」と言っていただけたときのやりがいは言葉で表しきれません。自分たちの手で作り出したアプリが、直接的に患者さんを“治す“。そこで感じられる意義深さは、他ではなかなか味わえないものだと思います。患者さんの力になれること、新しい産業を世に生み出すことに魅力を感じていただけたら、ぜひご応募いただきたいと思います。

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| 年収 | 700~1000 万 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社CureApp |
| 勤務地 | 東京都中央区 |
| 職種 | 事業企画 マーケティング戦略企画 |
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。