私のキャリアの軌跡【株式会社サイバーエージェント】法務・コンプライアンス部 マネージャー・弁護士 舩嶋貴史氏|「攻めの法務」で会社の成長を後押ししたい 

「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、インターネット広告に、メディア、ゲームなど、幅広い分野で事業を展開するサイバーエージェント。今回は、同社の経営本部のなかでも法務担当として活躍されている、舩嶋貴史さんにお話を伺いました。 

舩嶋 貴史氏

ロースクール卒業後、司法試験に合格し、都内法律事務所で勤務。
その後、株式会社サイバーエージェントの法務部門に転職し、広告代理店担当やメディア部門マネージャーを経験。現在はAbemaTVなどのメディア事業の担当を中心に、株主総会周りのIR業務にも従事している。

前へ進む人の力になりたい。法律事務所の弁護士から、一般企業の法務へ転身 

―舩嶋さんは2018年に中途入社されたのですね。前職でのご経験や入社後のキャリアについて、教えていただけますでしょうか。

舩嶋:サイバーエージェントに入社する前は、都内の法律事務所で働いていました。当時は、すでに起こってしまったトラブルの解決や法的サポートが中心でした。もちろん問題を適切に解決することが弁護士としての責務ですが、一度損なわれた信頼関係やマイナスの状況を完全に回復することは難しく、解決はできても元通りにはできないという現実を、日々痛感していました。そうした経験から「問題の発生を未然に防ぐことが、本質的な解決につながるのでは?」と考えるようになります。いわゆる“予防法務”、企業の事業活動をサポートする法務の仕事へと関心が高まったのです。

もともと、仕事熱心な父の影響もあり、ビジネスの世界には学生の頃から興味がありました。そこで弁護士としての知見を活かしつつ、一般企業でのキャリアに挑戦してみようと思い、サイバーエージェントに転職しました。

入社後は、まずは法務部門の一員としてさまざまな案件に従事。その後は、法務の広告代理店担当やメディア部門のマネージャーを経て、現在は法務室長として組織全体を率いる立場にあります。そのほか、AbemaTVの担当や株主総会周りのIR系業務にも携わっており、法務の立場で会社の成長をサポートできるこの仕事に、大きなやりがいを感じています。

―一般企業に転職するにあたり、サイバーエージェントを選ばれたのはなぜだったのでしょうか。

舩嶋:漠然とですが、「前へ進む人の力になりたい」という気持ちがありました。その点、サイバーエージェントは、本当に多種多様な事業を展開しており、どこまでも挑戦を恐れない企業です。インターネット広告、メディア、ゲーム、スポーツなど領域が幅広く、新規事業への投資も積極的に行っています。そんな攻めの企業だからこそ、単なるリスク管理だけではない、挑戦を後押しする法務が求められる場面も多いのではと感じました。

そして、最終的な決め手となったのは、面接で会った上司の人柄でした。寡黙で厳格でありつつも、内に秘めた情熱を感じる人で、「この人のもとで働いてみたい!」と思い入社を決意しました。実際に働いてみると、上司だけでなく、サイバーエージェントの社員はみんな真剣に何かに挑戦しようとする人ばかりだと感じます。法務部門に相談にこられる社員の方々の真剣さや熱意に触れるたびに、こちらも法務として最大限の力を尽くさなければ、と自然と気持ちが高まります。

―サイバーエージェントの法務部門について、また現在のお仕事について詳しくお聞かせいただけますか。

舩嶋:サイバーエージェントの法務部門は、経営本部内に位置づけられており、いわゆるリスク管理にとどまらず、“経営を推進するための法務”という役割が求められています。そのため、経営陣の迅速かつ的確な判断をサポートしながら、会社の経営方針に沿った形で法的な知識を活かすことを日々意識しています。

現在は、法務コンプライアンス部の法務室長として、主にメンバーのマネジメントや個別の契約書の確認、新規事業の企画段階での法務的な相談対応などをしています。会社の目指す経営をしっかり支えられるように、部門全体の調整役を担うような立場ですね。

室長という肩書きではありますが、私自身が現場で具体的な判断を求められる場面も多いです。たとえば最近では、動画配信プラットフォーム「 ABEMA 」の法務担当も務めています。映像コンテンツの調達やドラマ制作に関わる契約書の最終承認を担当することも多く、エンターテインメント業界ならではの契約条件や権利関係について考えながら対応するようにしています。

―これまでのキャリアにおける“転機”を教えてください。

舩嶋:入社4年目にマネージャーになったことが、大きな転機だったと思います。法律という分野は、きちんと調べればある程度の答えが見つかることも多いです。条文や判例が公開されているので、ある程度の論点や解決策は浮かび上がってきます。しかし、その情報をどのように事業推進に活用するのか、具体的には「サイバーエージェントとして、どこまでのリスクを許容するのか?」という判断はいくら勉強しても身に付くことはありません。入社当時からかなり意識をし、上司に相談をして身に着けてきたつもりでしたが、マネージャーとしての判断が求められるようになった当時、自分が担当している事業以外の判断も当然必要となるため、会社としての判断基準を理解することに非常に苦労しましたね。

取り組んだこととして、まずは、経営陣に近い部長と日頃から密にコミュニケーションをとること。サイバーエージェントらしい経営視点を自分に刷り込ませていくために、部長に積極的に話しかけて意見を伝えたり、聞いたりと言葉のラリーを繰り返し行っていました。その積み重ねが、自分の考えを磨き、経営目線の理解につながったと感じています。時には、経営陣の定例会議に参加させてもらうこともありました。トレンドの変遷の激しいIT業界で、サイバーエージェントは、いま何を求め、どこへ向かっているのか。経営陣が描く未来をできるだけ同じ解像度で見ようとする。この努力が経営視点の法務には必要なのだと思います。

攻めの法務で、経営者の挑戦を支える

―舩嶋さんは、今後どのようなキャリアを目指していますか。

舩嶋:法務の観点だけに留まらず、経営者をそばで支えられる存在になることが目標です。法務、経理、税務、人事など、経営に関わる分野を、横断的に理解できる、視野の広い人材になりたい。そして、トラブルを未然に防ぐだけでなく、攻めることを後押しできる人間として、サイバーエージェントの成長に貢献したいと思っています。

最近は、AIの台頭などにより、前例のない事案が増えてきています。しかし、法令が未整備だから判断できないと立ち止まっていては、流れの早いIT業界において、遅れをとってしまいます。挑戦しないことが、大きな機会損失につながるのです。法務の役割は、単にリスクを避けるだけでなく、リスクを管理しながら新たなビジネスチャンスを作り出すことにもある。進化し続けるサイバーエージェントをもっと面白い会社にするために、固定観念に捉われず、「このラインまでならアクセルを踏んでも大丈夫!」と経営者や社員の背中を押せる法務部門を創っていけたらと思います。そのためにも、過去事例や社会の流れを深く洞察し、適切に見極める力を養いたいですね。

―サイバーエージェントの環境・風土で魅力に感じている点はどのようなところでしょうか。

舩嶋:何度もお伝えしていますが、やはり「挑戦の姿勢」にあると思います。そして、その文化が浸透しているためか、働く一人ひとりもフットワークが軽く、行動力のある人が多いところが魅力ですね。法務部門のメンバーもみな、多趣味な人が多く、気になることがあればすぐに調べる、やってみる、というスタンスの人ばかり。法務というと、法令知識や経験が重要だと思われがちですが、実はさらに必要となるのが、社会の空気を適切に掴む力です。一年前には許容されていた出来事が、一年後には不適切であると判断される時代。常に世の中の動向にアンテナを立て、政治、エンターテイメント、スポーツ、ビジネス、芸術、あらゆる分野に広く浅く精通している人が活躍できる仕事だと感じます。その点、うちは会社全体が常に新しいことに挑戦していますから、働いていると自然と自分の世界が広がっていくのではないでしょうか。

―サイバーエージェントの法務職に求められるスキルはありますか?

舩嶋:まず前提として、法務の知識や経験はそこまで重要ではありません。入社後に学びながら活躍している方が沢山いますので、ご安心ください。それ以上に大切だと考えているのは、コミュニケーション能力、そして人間性です。事業のリスクや契約内容の話は、どうしても重いテーマになりがちで、なかなか相談しにくいものです。法務の人が日頃から話しやすい空気を作っておけると、早めに相談を受けられる場面が増え、結果的にリスクを減らせることが多いんです。その点で、法務は人柄やコミュニケーションの面から、会社経営の透明性を高め、ガバナンスを効かせることができる存在だと思います。そして、経営者や事業責任者、各部門の社員たちの「あんなことやってみたい!」のすぐそばで力になれることが、法務として働く魅力でもあります。そんな熱意溢れるコミュニケーションを楽しんでもらえる方と一緒に働けたら嬉しいですね。