私のキャリアの軌跡【株式会社電通コーポレートワン】法務オフィス長 高橋基行氏・ディレクター 湯浅拓也氏|弁護士としての法知識を活かして、社会的影響も裁量も大きな環境で働く

2022年にdentsu Japan(電通グループの日本リージョン)のコーポレートプラットフォームとして設立された電通コーポレートワン。『電通』という巨大グループで働くインハウスローヤーはどう働き、何にやりがいを感じているのか。今回は、法務オフィス長の高橋基行氏と、同部門でディレクターとして働く、湯浅拓也氏にお話を伺いました。 

高橋 基行氏

2004年に弁護士登録。その後、法律事務所を経て、2013年に株式会社電通に入社。2022年、株式会社電通コーポレートワンに転籍。現在、電通ジャパンにおける法務領域の代表者を務める。2013年から11年間にわたり、M&A、グループ再編、エンタメなど多領域において、大規模案件を担当してきた。

湯浅 拓也氏

2015年に弁護士登録。2016年より外資系法律事務所で弁護士として勤務開始。その後、証券会社の投資銀行部門を経て、2022年9月、現職・株式会社電通コーポレートワンの法務部へ。企業法務として海外案件やスポーツ案件を中心に、法律相談や契約書の確認依頼などを担当する。

なぜ、インハウスローヤーという選択肢を選んだのか

―お二人のご経歴と転職された理由を教えください。

髙橋:僕は、ちょうど20年前に弁護士になり、いわゆる四大法律事務所の一つに就職しました。担当クライアントは大手金融機関。毎日毎日、朝から深夜もしくは翌朝までひたすらファイナンスの契約書をつくっていましたね。絶対にミスも許されない中、当時はもう必死で大量の案件や契約書を回していました。ストレスや緊張のせいなのか、2年続けて年末に原因不明で倒れて救急車で運ばれるくらいに(笑)。同じルーティンを続けることへの飽きもあって、今思うと何も考えずに仕事をやっていましたね。 

そんな中、たまたま、ある金融機関に出向して、そこが買収した企業の資産の整理や処分をしていくプロジェクトに参加したのですが、これがとても楽しかった。法務は僕ともう一人ぐらいしかおらず、経理など他の職種の人たちと組んで仕事を進めていく。それまでは、右も左も弁護士といった弁護士事務所内で仕事をしていたので、異なる分野のプロと知恵を出し合ってプロジェクトを進めるそのやりとりが面白くて。そういう異業種の方々と仕事をする中で、「ああ、自分は弁護士だったんだな」と改めて思いました。僕は法律事務所に閉じこもるよりも、現場に入った方がやりがいを感じて楽しめるんだなと。それでインハウスローヤーとしての転職を考え、2013年に電通に転職しました。 

転職当時、電通のことはあまりよく知らなかったのですが、電通には多種多様なプロフェッショナルがたくさんいて、本当に転職して良かったと思います。特に大型案件だと、リスペクトできる人に出会える。そういう人たちから自分のこともリスペクトしてもらえると嬉しいですね。 

湯浅:私はもともと外資系法律事務所で弁護士として勤務していたのですが、一度、企業内の現場担当者に近いところで働いてみたいと考え、思い切って法務部以外の部門にチャレンジし、証券会社の投資銀行部門に転職しました。法律事務所の弁護士は外部アドバイザーという立ち位置ですが、一社員として企業で働くと、なんというか事業の当事者の一員として、また違った緊張感がありましたね。3年程度の期間でしたが、いい経験でした。

その後、2022年に電通コーポレートワンに転職。法律事務所ではなく、インハウスローヤーを選んだのは、私にとってはいいとこどりだと思ったからです。証券会社では法務以外のポジションでしたが、電通コーポレートワンでインハウスローヤーとして働けば、自分の強みである法務スキルも活かせるし、案件ごとのアドバイスを超えて、継続的に企業やプロジェクトと関わっていくことができる。また、私自身がエンタメやスポーツがとても好きで、どうせ仕事をするなら興味のある分野を対象とできる会社にしたいな、と。それが電通を選んだ理由ですね。

歴史に残る仕事、広く社会に届く仕事をする喜び 

―現在の仕事内容を教えてください。

高橋:電通にジョインした後、2022年に電通コーポレートワンの法務部立ち上げを行い、転籍し、引き続き部長をやってきました。M&Aやグループ再編、いろいろなプロジェクトを取り扱いましたが、同時に、映画やアニメ、ドラマ、アイドルのプロデュースや制作会社への発注といったエンタメ系のプロジェクトも担当していました。映画ができるまでに、どうやってお金を集め、契約を整理し、と華やかな映像が生まれる裏側をアシストしました。法務の仕事はいわゆる“堅い”仕事が多いのですが、エンタメ案件の場合は向き合う人も違って、柔らかい頭を使いますね。もちろんどちらもまじめにやっていましたが(笑)。

法務部長としては、法務部全体をマネジメントする傍ら、大型のM&Aは僕が受け持つことも多かったですね。でも、ある程度、こういうやり方で進めるんだよと見せてあげて、あとは部下に渡していくようにしています。ノウハウを継承していかないといけませんからね。 

湯浅:高橋さんはアドバイスをくださるのですが、各法務部員に裁量も与えてくれて、とてもやりやすいです。私の担当は、主に海外案件や、サッカー、バスケットボールを含むスポーツの放映権・スポンサー権をスポーツ協会や放送局・スポンサーと契約することに関した法律相談や契約書の作成・確認を担当しています。 

―今までで一番印象に残っている仕事は何でしょうか?

高橋:2020年に、株式会社電通を持株会社にしたことですね。本当にいろいろとありましたが、語れないことも多いです…(笑)。旧来の株式会社電通から、準備会社をつくって、事業を移していく。吸収分割契約を作って、株主総会で承認されることが求められていました。

スケジュールとしては、2019年3月の定時株主総会にかけないといけなかったのですが、私がその話をもらったのは2018年の年末近く。それまで担当されていた先輩が色々あって突然異動となり、法務の担当者は僕一人しかいない。「発議する2月の取締役会まであと1か月半しかない!」という中で、まずは何を準備会社に継承して、何を持株会社に残していくか、全て決める必要がありました。他部署のメンバーや役員、非常に多くの方々と会話を何度も重ねてなんとか作り上げて、株主総会の特別決議で承認をいただくことができました。ただ、吸収分割契約というのは法律上必要なものですけど、それだけではまだまだグランドデザインみたいなものでしかないです。そのため、2020年1月の持株会社体制の開始日までに、更に細かい中身を固めて、ステークホルダーとの対応の準備体制を整え、また、各部門が変わらずに業務をスムーズに遂行できる状態にしなければいけなかった。

この前例のないプロジェクトを2年近く掛けて完遂できたことが、一番印象深い仕事でしょうか。ついでに持株会社である株式会社電通グループの定款上の事業目的を書いたのも僕で、元々は事業目的が100個以上あったものを実態と齟齬が生じない範囲でシンプルな内容に纏めました。登記簿謄本として、この会社の歴史にもずっと残っていく仕事をできたのは、誇りに感じます。この過程で、本当にたくさんのプロフェッショナルたちの協力を仰ぎましたが、そういう仕事がしたくて転職してきたのもありましたからね。そういう意味でも感慨深いです。

湯浅:私の印象に残っている仕事は、海外のスポーツ協会と国内クライアントとの契約交渉や契約書の作成・修正です。とあるスポーツの海外協会が新しい国際大会を開催するということになったのですが、法務相談が来たのは、大会実施のわずか2週間前のタイミング。それに加えてハードな契約交渉も発生し…(笑)。法務の専門家ではない電通の現場スタッフの方とも契約書を確認していく中で、かなりのボリュームがある英文契約書でした。それぞれの当事者の意見を踏まえた契約交渉に加えて、同時に複数の契約を走らせる必要がある。大会開催までには絶対に締結しなければいけないというプレッシャーもあった中でやり切れたのは、達成感がありましたね。日本代表も出場する大会でしたが、試合会場を見て、「ああ、ちゃんとスポンサーの広告が掲示されているなあ」と試合じゃないところばかり気になってしまいました(笑)。 

高橋:その大会、私はテレビ中継を見ていました。その“魔の2週間”は、湯浅さん、だいぶ根を詰めていましたよね。湯浅さんがいなかったら、その大会は成し得なかったと思います。すごいよね!

湯浅:ありがとうございます!本当に大変でした…。でも、私が入社する前の、高橋さんの持株会社化の話も非常に大変そうですよね。私は今、そうやって高橋さんがつくってくださった環境で面白い仕事をさせてもらっている…。

高橋:そうですね。湯浅さんの今の話もそうだけど、やはり新しいことをやるのは、何だって大変です。持株会社化の際も、皆、経験したことのないプロジェクトでしたから。前例がない中で、「できない」と言う人も出てくる。それを説得しないといけない。衝突もありましたね。それでも説得して、なんとか連携しながらやっていく必要がありました。現場や我々法務だけでなく、人事、経理、いろいろな部署を横断して調整していった。成功したのは、日頃からお互いをリスペクトする、そういう文化があったからだと思います。相手について自分が知らないことがある。逆もそうです。相手の強みをちゃんと理解して、できることを理解して、それに向けて引き出していく。そういうことができたから、困難なプロジェクトを成功に導けたのだと思いますね。 

求められるのは、人と人をつなぐコミュニケーションとリスペクト 

―お二人の今後の目指すキャリアを教えてください。

湯浅:じゃあ、今度は私から。個人としては、今やっている分野、スポーツや海外案件に関わるスキルを伸ばしていきたいと考えています。スキルが身につけば身につくほど、スピードも速くなり、時間に余裕ができるはずですから、その上で、さらにいろいろな周辺・その他の分野に広げる形で知識を身につけ、研鑽していきたいと思います。具体的にはスポーツ案件に留まらない知的財産権の知識・スキルなどでしょうか。知識・スキルの向上については、公的なガイドライン等や書籍に加えて法律事務所が出しているニュースレター等から知識を得るようにしています。あとはテレビや漫画、ゲームも好きなので、高橋さんが担当されているエンタメ分野にも興味があって、そちらも今後携わっていけたらと思っています。 

高橋:じゃあ、お任せしちゃおうかな(笑)。僕個人の話になりますが、2025年1月に法務オフィス長となり、法務部以外の他の部署も束ねていくことになります。そのポジションを狙ってこれまで頑張ってきたと言うわけでは全くありませんが(笑)、まずはオフィス長の役割をしっかり担っていくことですね。さらにその先のことは、今のところ何も考えてはいません(笑)。電通では日々、様々なプロジェクトが走っています。その中でポジティブなこともあれば、インシデントやアクシデントも発生し、それを法務としてとにかく解決していかなければならない。そうこうしているうちに11年間が経っていました。うちの会社は予想だにしないことが常に起きるので、本当に飽きないです(笑)。ポジティブな面でも電通は常に変化に満ちている。それをこれからも楽しんでいきたいですね。オフィス長としては、法務部以外の様々なプロが、自身のフェッショナリズムを自由に発揮できる環境を整えていけたらと思っています。

湯浅:素晴らしいですね。私も法務部員として、組織が拡大していく中で、新しく入社してきた方がやりやすいと思えるように、今の良いところは残しつつ、できることを進めていきたいと思います。 

―電通コーポレートワンの法務職として活躍するために必要なのは、どのような経験、スキルでしょうか? 

高橋:個人的には、前職時代はファイナンス専門でしたが、多くの契約書を作成した経験は活きていますね。もう少し引いた目線で当社に求められる人材要件を考えると、コミュニケーション能力、そして、新たな法分野への飽くなき探求心だと思います。コミュニケーションという点では、相談者に寄り添いつつも、リーガルとして相談者の言うことに流されないバランス感覚がとても大切です。あとは、先ほどから申し上げている通り、相手をリスペクトできる方がマッチすると思います。また、時代的には生成AIやデータマーケティングが多く使用されるようになったことから、当社としても著作権法や個人情報保護法に知見がある方はぜひ来て欲しいと考えています。

湯浅:私自身のことを振り返ってみてですが、労働法や個人情報関連についての知識がよりあれば、さらに業務範囲を広げられると思いますね。一方、英文契約書の作成・確認に関するスキルは、これまでのキャリアで培ってきたことが、大きなアドバンテージになっていると感じています。求められる人材としては、法務知識や事務処理能力についてはもちろんのこと、高橋さんがおっしゃる通り、コミュニケーション力。法務知識があまりない社員に向けて、分かりやすい説明をする能力が活きると思います。

高橋:そうですね。湯浅さんみたいな人が来てくれるといいね(笑)。電通ほどの企業規模であれば、法務部門は50名、100名いてもおかしくはない。そんな中、当社はたった13人の法務部員で電通のすべての案件に対応している。それだけ、幅広く、多彩な仕事ができることもそうですが、自分がなくてはならない存在であるという実感も得られる環境だと思います。ぜひ、インハウスローヤーという選択肢を考えている方がいらっしゃったら、電通コーポレートワンを挑戦の場所として検討いただけたらと思いますね。

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