プロ野球8球団からアイドルまで。応援を可視化する「電子トレカ」で次世代のファン体験を世界へ。

『全てのファンが、自分の「好き」に誇りを持てる世界をつくる—。』をミッションに掲げる株式会社ventus(以下:ventus)は、スポーツとエンタメを融合した、ファンの熱量を可視化する電子トレカサービス「ORICAL(オリカル)」を手がけるスタートアップカンパニーです。
2020年6月の「埼玉西武ライオンズ」との大型契約を皮切りに、現在はプロ野球8球団、「公益財団法人日本相撲協会」といったスポーツ分野から、「Hello! Project」や「ウルトラマンシリーズ」といった幅広い分野にまで進出。創業者である梅澤優太さんは東京大学在籍中に「ファンの応援履歴をデジタル化する」というアイデアを事業化し、ventusを立ち上げました。今回は、学生起業に至った経緯、サービス開発までの紆余曲折、ビジョンなどについてお話を伺いました。

梅澤優太

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はじまりは、テレビ越しに感じた観客の熱狂。

── 現在のビジネスにつながる原体験はあったのでしょうか?

小学生の頃に、スポーツとエンタメが持つ「人々を熱狂させる力」に強く惹かれた経験があります。当時、共働きの両親が帰宅するまでケーブルテレビのスポーツ中継に釘付けになる日々を送っていました。世界中のあらゆる競技を観るなかで、ある日、今でも忘れられない光景を目の当たりにします。それは、アメリカ最大のプロレス団体が主催する、年間最大の大会のメインイベント。迎えたクライマックスで屈強な大男二人が激突し、リングが崩壊した瞬間です。冷静に見ればあり得ない光景なのですが、スタジアムを埋め尽くす10万人の観客がスタンディングオベーションで歓声を上げる姿に心を奪われました。スポーツとエンタメが融合したとき、これほどまでに人の心を動かす力が生まれるのかと胸を打たれたのです。

── スポーツ選手を目指そうとは思わなかったのですか?

家族全員、熱狂的なサッカーファンで、私自身は3歳から高校生までサッカーを続けていました。ただ、プロ選手になりたかったかと聞かれればそうではなく、サッカーで影響を受けたのは、選手よりも地元のJリーグクラブ「ジェフユナイテッド市原・千葉」を率いたイビチャ・オシム監督でした。当時の「ジェフ」は決して資金的に恵まれたチームではなく、有名選手も多くなかったのですが、オシム監督の采配と戦術によって、Jリーグの上位を争う強豪チームに変貌し、日本代表に選出される選手も複数輩出するようになったのです。

そんな一連のストーリーを目にして、“監督”、ひいては“運営を行うビジネスサイド”に強い関心が生まれます。中学2年生の進路面談では、「プロチームの監督かGM(ゼネラルマネージャー)になりたいです!」と言っていたほど。友人とサッカーゲームをしていても、選手のスキルを競うより、戦術がうまく機能しているかばかりに気を取られていました(笑)。高校生になると、将来は弁護士資格をとってプロ選手の代理人になるか、企業の社長になってチームを持つか……。漠然としていましたが、どんな形であれ、スポーツの世界に深く関わっていきたい。そう志すようになっていきました。

── 東京大学に進学後、起業を意識しはじめたタイミングありましたか?

きっかけは、大学1年次にスポーツ関連のベンチャー企業のインターンに参加していたときのこと。そもそも入学当初は、大学を卒業したらすぐにスポーツ関係の企業で活躍したいという想いを持っていて、起業は考えてもいませんでした。しかし、スポーツ業界の求人を調べると新卒採用を行う企業はほとんどなく、経験者しか採用していなかったのです。それでもスポーツ業界に関わりたいと思い、その会社のインターンに参加したのですが、業界の現実は厳しいものでした。スポーツは一見きらびやかな世界ですが、スポーツのサービスでマネタイズしていくことはとても難しいということを痛感しました。そんなある日、大学でビジネスコンテストが開催されることを知ります。「難しいかもしれないが、学生の間はまずチャレンジすることも大事なのではないか」と考え、大好きなスポーツを軸にした事業アイデアを試してみようと参加を決意しました。

応援の「証」をデジタルでつくれないか。ファンとしての問いが、ventusの出発点に。

── どのような事業アイデアを考えたのですか?

スポーツとエンタメを掛け合わせたアイデアにしたいと思っていました。ヒントになったコンテンツは、紙のトレーディングカード。日本にはトレカ文化が深く浸透しており、今もなお、リバイバルブームの影響で大人も夢中になるほどの急成長マーケットです。コンテストでは「ファンの応援履歴を証明するデジタルトレーディングカード」というアイデアを発表しました。紙トレカをデジタル化し、コレクションする楽しさに加えて、ファン一人ひとりの応援の歴史を可視化できるような仕組みを考えました。紙トレカと違って、SNSなどにおけるファンコミュニティで手軽にシェアできるので、スポーツの楽しみ方が広がり、新しいファン体験を生み出せるのではないかと思ったのです。

そのアイデアは大学から高い評価をいただき、コンテストでは3位に入賞。コンテストに前後して、自分のアイデアと思いに共感してくれる仲間を集めることができ、2017年11月に法人化して事業をスタートしました。自分ほどスポーツ業界で新たなビジネスをやりたい人間はいないだろうと、根拠のない自信も後押ししました。これがventusのはじまりです。

── 事業を立ち上げて、まず何をしましたか?

デジタルトレカサービスのプロダクトをつくるために資金調達から動きました。実績のない学生が資金を集めることは至難の業だと思っていたのですが、幸い学生起業家を支援するエンジェル投資家との出会いがあり、当時はまだ数が多くなかった「東大発ベンチャー」ということにも期待を持っていただき、スタートを切ることができました。

そこからエンジニア仲間を集めて、メンバー総動員で開発に取り組み、法人化から約半年後の2018年5月に電子トレカ販売サービス「whooop!」のβ版をリリースしました。スポーツチームが発行したトレカを、ventusが所有する“プラットフォーム”で販売できるサービスです。マイナーチームから地道に営業を重ね、卓球やロードレース、大学サッカーをはじめとした計40チームに導入いただきました。しかし、瞬間的に売り上げは立ったものの、長期的なスケールが難しいという壁にぶつかります。

社運を懸けた、プラットフォーム脱却という決断。

── なぜ「壁にぶつかった」と思われたのですか?

トレカサービスをプラットフォーム化したことで、二つの課題が浮き彫りになりました。ひとつは、ファンからすると、企業がチームを使ってお金稼ぎをしているような見え方になることです。お金を払ってトレカを購入しても「結局聞いたことのない運営会社に利益が流れるのではないか?」という目で見られてしまう。ファンがトレカを集めるのはチームや選手を応援するため。そして、チームの運営に貢献するためです。企業が間に立つことで、チームとの距離感が生まれ、購買意欲が下がってしまったのです。

ふたつ目は、チームの個性を十分に表現できていなかったことです。たとえば、色。チームにはチームカラーがあり、ロゴやユニフォームにも表れる重要なアイデンティティです。しかし、プラットフォームには型があるため、デザインできる範囲が限られてしまい、チームごとのアレンジが効きません。極端な話、「阪神タイガース」のトレカを買いに訪れたサイトの配色が、「読売ジャイアンツ」のチームカラーであるオレンジになっているということも起こり得る。求めてられていたことは、チームオリジナルのプロダクト。ファンの気持ちに寄り添えていなかったことを気付かされました。

── どう軌道修正されたのでしょうか?

メンバーと会社に泊まり込み、四六時中、議論を交わした結果、「思い切って、プラットフォームから脱却すれば勝機はあるのではないか」という答えに辿り着きました。

そんななか、大きなチャンスが訪れます。「埼玉西武ライオンズ」で働いていた知り合いが「whooop!」に興味を示し、導入を検討してくれたのです。このチャンスは逃せないと、デザイナーやエンジニアをはじめ、ventusの総力をフルベットして「埼玉西武ライオンズ」専用のオリジナルトレカサービスをつくると決心しました。2019年9月から約8ヶ月後にあたる2020年3月、プロ野球開幕と同時にリリースすることを目指し、全力を注いで2020年の1月に「ORICAL」のプロトタイプが完成。しかし半年後、予期せぬ事態に見舞われます。

1月にコロナパンデミックが発生し、プロ野球開幕が6月に後ろ倒れたのです。ventusとしては3月のリリースから売り上げを立てようと全てのマンパワーとコストを投じていたので、資金がほぼ底をついてしまいました。会社の維持を最優先にして、外部からの受託開発依頼を請け負い、急場を凌ぐ日々が続きましたが、ついに6月、正式に「ORICAL」をリリースすることができました。生活を助けてくれた両親と、一緒に苦労を乗り越えてくれたメンバーには、感謝しかありません。

── リリース後の反響はいかがでしたか?

球団の売上向上に貢献でき、高い評価をいただくことができました。コロナ禍では無観客試合が続き、チケット販売や球場内のグッズ・飲食の収益が大幅に減少するなかで、デジタルトレカという新たなマネタイズモデルを提供できたことには大きな意義があったのです。

さらには、デザイン面でもファンの方から好評を得ることができました。“デジタルトレカをコレクションする”という仕組みは「whooop!」と共通ですが、プラットフォームではなくオリジナルプロダクトである「ORICAL」は、チームのブランドイメージを全面に押し出すことができる。サービスサイトの配色はチームカラーに合わせて、各カードはデジタルの強みを活かして選手のモーションや音声を加えました。ファンに「わかってるじゃん!」と感じていただけるように、高度なカスタマイズ性能を追求したのです。さらに、サヨナラ勝ちといった感動的なシーンや、プロ初勝利といった記録が生まれた際には、熱狂が冷めない数時間以内に記念トレカを販売しています。SNSで寄せられる「もっとこうしてほしい」という声も迅速にキャッチし、常にアップデートを重ねています。そういったデジタルならではの即時性により、アナログのトレカとの差別化を図ることができました。

これまでにないファン体験を、世界に届けていく。

── ORICALの展望を教えてください。

ありがたいことに、「埼玉西武ライオンズ」での成功がスポーツ業界全体で反響を呼び、現在はプロ野球8球団、プロサッカー、日本相撲協会、プロレス、麻雀といった、さまざまな競技のチームに導入いただくまでになりました。「ORICAL」はスポーツ以外の分野でも応用可能なスキームなので、音楽やキャラクターといったエンタメ領域にも進出しています。現在はグローバル展開も進めており、来年には台湾と韓国でのローカライズを計画中。アジア圏を中心に市場拡大を狙い“応援の証を残せる新たなファン体験”を世界中に届けていこうとしています。

── ventusとしてのビジョンはいかがですか?

コアビジネスである「ORICAL」の売上は毎年2倍以上のペースで成長しており、この成長の速度を緩めずに、年商100億円以上を早期に達成したいと考えています。さらに、ファンの熱量がピークに達する試合中や公演中に、リアルタイムで連動する新しいファンサービスの開発に動いています。

一方で、これから次々と新しい事業が生まれても、私たちの根底にある『ファンファースト』という理念は変わりません。スポーツやエンタメは、ファンの存在があるからこそ輝きます。私たちが追求しなければいけないことは、ファンに心からの感動を届け、人生を豊かにするサービスをつくること。その先に、クライアントや自分たちの成功がついてくると信じています。

また、長期的なビジョンではありますが、ventusをスポーツとエンタメの世界を牽引する存在へと成長させたい。自分が死んだ後も何百年と続く企業にするために、全力を尽くしていきたいと本気で思っているのです。ちなみに、私個人としては海外のサッカーチームのファンビジネスを手がけたいです。

── ビジョンの実現に向けて、どのような仲間を集めたいですか?

ventusは「GEEKなプロフェッショナル集団」。ここにはあらゆる活躍のフィールドがあります。成長期を迎えているからこそ、エンジニア・デザイナー・企画プロデューサー・営業をはじめ、全ポジションで採用を強化しています。導入数が増えていることや、クオリティをより高めていくためにも、人員の確保や専属部隊の設置が必要不可欠です。

そして、すでにサービスを導入していただいているクライアントと、もっと信頼関係を深めて伴走する“アカウントエグゼクティブ”のポジションの強化に動いています。なぜなら、私たちのつくるものは、一つひとつがクライアントのオリジナルサービス。その分、クライアントに深く入り込むチャンスが多いため、電子トレカという一つのサービスにとどまらず、ファンクラブやファンポータルといったファンビジネスの上流にまで、事業を広げられるポテンシャルがあると考えているからです。実際に、最近は「千葉ロッテマリーンズ」から公式アプリ「MARINES APP」の全体設計から開発、デザインの刷新までをventusに任せていただきました。
海外進出を控えるいまでは、現地採用やグローバル人材の獲得にも注力しています。事業と組織を併行して強くしていく、第二創業期の機運が高まっています。

── 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

スポーツ・エンタメの企業は?と聞けば、誰もが「ventus」と答える。これこそが私たちの目指しているゴールです。ファンビジネスの在り方そのものを変え、これまでにないファン体験を世界中で創る——。この未来を歩んでくれる仲間との出会いを、心から楽しみにしています。

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