「契約×AI」の新領域で、ビジネスを変え、社会のあり方を変えていく。

「すべての合意をフェアにする」をビジョンに掲げるスタートアップ、MNTSQ(モンテスキュー)株式会社。契約交渉を支えるAIリーガルエンジン「MNTSQ CLM」は、国内の大企業を中心に利用社数が拡大しています。代表取締役の板谷隆平さんは、四大法律事務所の一つである長島・大野・常松法律事務所にも所属し、弁護士と経営者の二足のわらじ。大手事務所の弁護士というキャリアがありながら、なぜ起業の道を選び、どんな未来を見据えているのか。一連のストーリーと、事業にかける想いをお聞きしました。

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人類の進歩に立ち会える仕事がしたい

── 弁護士でありテック企業の経営者という異色の経歴をお持ちですが、まずはどんな経緯で弁護士の道に進まれたのでしょう。

少し遡った話になりますが、小さい頃から少年漫画雑誌が何よりの楽しみで。漫画に育ててもらったようなところがあります。どこにでもいる普通の少年が、一途に夢を追い、困難を乗り越え何者かになっていく。そんなストーリーに憧れて、人生のあらゆる面で影響を受けています。学生時代はラグビーをしていましたが、漫画の主人公に勇気をもらって自分より大きい相手に立ち向かい、オーストラリアでトンガ人にタックルをしていました。大学受験の際には、どうせ挑むなら偏差値がいちばん高いところを目指そうと意気込み、東京大学法学部に進学しました。単純ですよね(笑)。ですから、もともと弁護士を志していたわけではありませんでした。

ファーストキャリアとして弁護士を選んだ理由は二つあります。一つは、社会正義というものに興味があり、人の助けにもなれる仕事ではないかと思ったからです。もう一つは壮大な話になりますが、私は昔から「人類の進歩の最前線にいたい」という想いを持っていました。これも漫画の影響を受けていますね(笑)。テクノロジーを手にした人類の、急速な進化の過程。それはある種、少年漫画的なロマンに溢れています。では、自分にどんなスキルがあれば、その進歩の瞬間に立ち会えるだろう。現実的に考えてみた結果、人間や社会構造に対する理解、ビジネスの理解、語学力などの複合的な能力が求められ、あらゆるビジネスとの接点を持てる弁護士という職業に可能性を感じたのです。すぐに六法全書を買って勉強に励み、大学在学中に司法試験予備試験に合格。弁護士のキャリアをスタートしました。

弁護士として感じた無力感と、契約×AIの可能性

── 若くしてトップローファーム所属の弁護士になり、順風満帆のキャリアに見えますが、どうして起業に至ったのですか?

私は、いわゆる訴訟を行う弁護士ではなく、企業法務やM&Aなどの分野で、契約交渉を行う弁護士をしていました。これは社会的需要の大きい仕事です。なぜなら、どれだけ素晴らしいビジネスでも、契約交渉の手腕によっては遅々として前に進まず、下手をすると潰されてしまう場合もあるからです。世の中にとって必要不可欠な仕事に、やりがいや意義を感じていました。しかし、同時に無力感や葛藤も抱えるようになりました。たったひとつの契約を結ぶために、数週間、場合によっては数ヶ月もビジネスが止まってしまう。さらに、相手が契約に関して知識不足だと、そこを突いてアンフェアな契約を戦略的に提案することも実際にありました。

私の担当案件でも、こんなことがありました。当時、ある金融機関側の弁護士として、ベンチャー企業に対する資金融資の契約書作成を担当していました。私は、ベンチャー企業側からの交渉があることも見越して、まずは依頼者である金融機関に非常に有利になるような契約書を作成しました。こうした案件の際にはごく普通の対応です。ところが蓋を開けてみると、ベンチャー企業側からの交渉や反論は一切なく、すんなり合意に至ってしまったのです。まさに相手の事業を潰しかねないアンフェアな契約を押し付けてしまい「取り返しのつかないことをしてしまった」というのが正直な気持ちでした。将来有望な事業の芽を、自分が摘んでしまったかもしれない。一つの事業に想いを注ぐベンチャー企業に対して、まったく専門外の法務の知識まで求めるのは酷なことだと、今なら思います。

そんな後悔もあり、気持ちの変化がありました。「契約」とは、私たちがビジネスを進めるため、社会に価値を生み出すために必須のプロトコルである。それにも関わらず、あまりに難解で、時間がかかり、そして簡単に相手を騙すこともできてしまう。これって本当に正しいのだろうか…と。もちろん、一人の弁護士として自分の担当案件を正しい方向に導くことはできます。ですが、日本の年間の契約件数は5億件もあり、どんなに頑張っても社会のごく一部にしか貢献できません。目の前のクライアントの役に立てることはもちろん嬉しいですが、社会全体を前進させている実感が持てませんでした。

── そこからどのようにしてビジネスの構想が生まれたのですか?

弁護士として働くなかで感じたのが、世の中の契約のうち9割くらいは人間が交渉する必要のないものではないか?ということでした。「契約」は非常にレガシーな分野ですが、実はテクノロジーとの相性がすごく良い分野でもあります。とりわけ、LLM技術との相性が良い。なぜなら、世の中のあらやる契約書は自然言語を用いた類似のフォーマットで書かれており、落としどころも定型化されているからです。私たちが「契約」をややこしく感じるのは、プログラミング言語と同じで、普通の日本語ではないからというだけなのです。

ただ、「契約」という言語は3000年も進化しておらず、毎回の契約のたびにオンプレミスのフルスクラッチ開発のようなことをやっている状態でした。ここ30年で、プログラミング言語は劇的に進化を遂げています。その発展を「契約」という言語にも持ち込めないだろうか?きっとできるだろう。そう考えました。これまで社会で合意されてきた、さまざまな契約データをもとにAI Agentを構築すれば、契約書の問題点や、双方にとってフェアな落としどころを瞬時に導き出してくれる。弁護士の職人芸だった契約交渉を、ある程度AIに任すことができる。そうすれば誰も損をしなくて済むし、ビジネスが進むスピードも上がる。弁護士や、企業の法務部の業務負担も減らせる。そういうサービスを実現しようと思ったのです。

とはいえ私の専門分野はあくまで法律で、テクノロジーに関しては専門外。仲間が必要でした。そこで私は、大学時代から親しくしていた同級生に相談してみました。「法務の世界って、AIとすごく相性が良いと思うのだけど、どう思う?」と。すると彼は「すごくいい!一緒にやってみようか」と。そうして、今や日本を代表するAIエンジニアとして活躍している友人、安野貴博との共同創業でMNTSQの活動が始まりました。

大手法律事務所と提携し、大企業向けプロダクトを確立

── 前例のない事業ということで、困難もあったのではないですか?

まず苦しかったのは、AIを構築するベースとなるリソースが不足していたことです。法律・法務は閉ざされた業界で、データやノウハウの取得が困難でした。優秀なAIエンジニアがいても、AIを育てる情報が足りない。そこで私は、弁護士としての所属先である長島・大野・常松法律事務所の代表に直談判に行きました。「これからはテクノロジーと人間が共存していく世界になります。業界に先駆けたサービスをつくるので、協力していただけませんか」と。社長はとてもビジョナリーな方で、提携を快諾してくれた上に、8億円もの出資までしてくださいました。これは法律事務所がテクノロジー企業に投資する金額としては、当時、世界でも最大額でした。

── そのまま順調に、ビジネスは軌道に乗っていったのでしょうか。

そうはいきませんでした。最初は、大手法律事務所にプロダクトを提供すれば、それだけでビジネスが成立するのではないかと簡単に考えていました。しかし、日本の市場規模的に、法律事務所のサポートプロダクトでは大きなビジネスにはならなかったのです。そこで早々に方針を切り替え、大企業に向けたプロダクト提供を始めました。名だたる企業の法務部長と直接お会いして、さまざまなお話をするなかで、やはり契約という分野はWordとメールだけの世界であり、そもそもテクノロジーが進出していないことが分かりました。法務向けのSaaSすらないのだと。クライアントが抱えていたペインが大きく、だからこそ、私たちが提案するリーガルテックを受け入れていただけたのだと思います。

ここ数年、リモートワーク推進の流れもあって業務のデジタル化が加速しました。契約分野にも追い風が吹き、当社のビジネス規模も数年間で何倍にも広がっています。2024年に日本経済新聞社が発表した「法務力が高い企業」ランキングでは、上位20社のうち、13社がMNTSQのサービス利用企業という結果になりました。

契約は、テクノロジーの最後の空白地帯である

── MNTSQ社の今後のビジョンを教えてください。

私たちが掲げるのは「すべての合意をフェアにする」というビジョンです。“すべて”とは、ただの概念的な言葉ではなく、本当に“すべて”。企業と企業が交わす合意はもちろん、企業と個人、個人と個人、さらには国家間の合意も含めて、世の中のあらゆる合意形成がMNTSQのサービス上で行われる世界を目指しています。ちょっと壮大な話ですが、それぐらい影響力のあるインフラをつくろうと本気で考えているのです。

そんなビジョンに向けて、今、重要なフェーズを迎えています。これまで大企業の法務部門をサポートするプロダクトを提供してきましたが、現在取り組んでいるのは、社内のすべての事業部で使っていただけるサービスの拡充です。法務部という一つの部門に閉じず、会社全体の契約のあり方を変える。そして、クライアント企業内だけでなく、その企業と取引するすべての企業・個人が使うプラットフォームに育てていく。これが、今後数年での目標です。

── ライバルとなる企業やサービスはありますか?

ライバルは海外のテック企業ですね。これまで、経理や人事領域にさまざまなSaaSが生まれるなか、法務だけが遅れをとっていました。それは法務が定量化しづらい領域だったからですが、AIの発達によって定性的な領域にもテクノロジーが使えるようになりました。経理・人事領域は、世界的にもサービスが成熟してきています。日本の大企業のSaaS利用状況を見ると、海外のテック企業が提供するSaaSが大きなシェアを占めているのが現状です。

ただし、法務領域に限っては、まだ海外勢の参入を許していません。だからこそ、私たちがその空白地帯を取りにいかねばならない。民主主義の基盤とも言える法務の領域だけは、日本のベンダーが死守しなければならないと思うのです。この考えに賛同してくださり、創業時より関係のある長島・大野・常松法律事務所だけではなく、2024年には、同じく四大法律事務所の一角である西村あさひ法律事務所様とも協業を開始しました。事務所間の競合関係を超えた“オールジャパン”の座組で、ビジョン実現に向けて歩みを進めようとしているところです。

壮大なビジョンの追求を、一人ひとりが楽しめる組織へ

── ビジョン実現に向けて、どのような組織づくりをされていますか?

最も大事にしているのは「自由と責任の文化」です。“自由”の捉え方はさまざまですが、当社が定義しているのは「社員のポテンシャルが最大限発揮されている状態」。性善説にもとづいて、当社への入社を選択してくれた方を信頼し、のびのびと能力を発揮できるように努める。そのために「情報と裁量」をお渡しします。どんなに優秀な方でも、情報が限られていたらパフォーマンスに限界があると思うからです。

具体的に取り組んでいるのは、情報をオープンにすること。部門を越えてあらゆる情報共有がなされています。エンジニアがカスタマーサクセスの領域に踏み込んで意見を出したり、セールスがプロダクト開発の提案をしたり、マーケターがエンジニアチームの功績を労ったり。各職種や領域を横断してコラボレーションし、みんなで一つのサービスをつくり上げていく。プロダクト企業ならではの面白さでもあると思っています。いわゆるマイクロマネジメント的なことはしていません。それゆえに責任も伴いますが、この環境を楽しめる方にはフィットするのではないでしょうか。

── 今、どんな人材を採用したいとお考えですか?

当社のビジネスの特徴の一つは、エンタープライズ向けのプロダクトを開発していることです。取引相手はトップ企業の社長・部長クラスであり、日本のリーダーとも言える、視座の高い方々。そんな人たちに価値を感じてもらうためには、モノを売るのではなく、我々なりの世界観を提示できることが大事です。これはセールスに限った話ではなく、マーケティングであれ、プロダクト開発であれ、カスタマーサクセスであれ同じこと。MNTSQのサービスを導入することで、クライアントのビジネスに、そして社会にどんな変化や価値が生まれていくのかを語っていただきたい。そこにマニュアルはなく、AIにも代替できない、一人ひとりの創造性が求められる部分です。まだ世の中にないサービスを生み出そうとしているからこその、そうした難しい課題にチャレンジしてみたい方をお待ちしています。

それから開発人材に関して言えば、大規模言語モデル開発に携わりたい方には本当に面白い環境だと思います。契約交渉を大規模言語モデルで進めるという私たちの目標を達成するため、大規模言語モデルは「ちょっと使ってます」というレベルではなく、正真正銘、事業のコアです。

お伝えしたいことはまだまだあるのですが、最後に一つだけ。私たちがつくっているプロダクトは、間違いなく社会インフラになっていきます。ちょっとした便利ツールではなく、日本のビジネス全体が、あるいは社会そのものが、MNTSQのプロダクトの上で成立する。テクノロジーの実装が、社会貢献に直結していく。そんな夢を、私たちと一緒に追いかけていきませんか。

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