2019年暮れから始まったコロナ禍をきっかけに、大幅な事業ポートフォリオの変更を求められたJR西日本グループ。鉄道事業の次を担う新たなビジネスの創出が必要であり、人財採用においても多様性に重きを置いています。中でも、新規事業の企画開発を担うビジネスデザイン部は、従来の同グループにはいなかった多種多様な異業界での経験を積んだ人財が集まるセクション。広大な路線エリアと有形、無形のアセットを豊富に持つ同グループの強みを活かして、さまざまな新規ビジネスが生まれ、社会での広がりを見せています。その中核で活躍する奥田さんに、新規事業を手掛ける魅力と難しさ、そしてJR西日本グループの一員として描き出す未来についてお話を伺いました。

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既存事業で得たアセットが最大の強み。社会課題の解決につながる新規事業の創出に挑む。

── JR西日本が、新規事業に注力する理由について教えてください。

当社グループが新規事業に注力する背景には、新型コロナウイルス感染拡大を契機とした事業ポートフォリオの偏りへの再認識、そしてグループとしての存在意義の再定義があります。私たちビジネスデザイン部では、新たな領域における「鉄道の次を担う事業」の立ち上げを手掛けています。単に収益性に優れたビジネスではなく、西日本を足掛かりに、日本全体さらには世界規模で社会課題の解決を図っていく事業の創出がミッションです。社会課題の解決から新たな事業を立ち上げていくことが、私たちが理想とする形であり、その実現に向けて必要なアセットやリソースが当社グループには十分にそろっていると考えています。

── JR西日本グループが持つ強みについて聞かせてください。

当社グループが持つ強みは、大きく分けて４つあります。（1）駅や不動産、鉄道設備など有形の資産（2）ECサイトやバーチャルビジネスなどの無形の資産（3）西日本エリアで培ってきた自治体や地域とのネットワーク（4）人の移動、決済や購買活動から得たデータ資産、この４つに区分されます。逆に、強みの裏返しが当グループのウィークポイントです。西日本エリアに密着した企業だけに、他の地域での認知度や知名度が低い点やリアルアセットのエリアによる偏りは、ローカライズされたサービスに特化する企業としての弱み。今後、新規事業を立ち上げ育てていく上で、エリアを問わずシームレスなサービスでユーザーの開拓を図っていけるかどうか、が私たちにとって一つの課題になると言えます。

社会課題の解決を目指して立ち上げる新規事業。誰かの困りごとがビジネスのヒント。

── ビジネスデザイン部の実績には、どのようなサービスがあるのでしょうか？

現在私たちが手掛けている事業は、総合インフラマネジメント事業の「JCLaaS（ジェイクラース）」、メタバース空間「バーチャル大阪駅」、人材マッチングサービス「JOBJOBGO（ジョブジョブゴー）」、コワーキングスペース予約サービス「＋PLACE(プラスプレイス)」の４事業です。このすべての事業で、当社グループが培ってきたアセットやネットワークが大いに生かせると考えています。まず、「JCLaaS（ジェイクラース）」は全国の老朽化したインフラの維持管理のために、財源や人財の確保などを多角的に支援するインフラマネジメントサービスのプラットフォーム。当社グループのほか、NTTドコモビジネスと４社の金融系企業によって立ち上がりました。自治体が所有する維持運営が難しいインフラに対して、われわれが培ってきた鉄道インフラ構築の知見を生かすことで、持続可能な社会構築を目指すというものです。対象となるインフラは建築物に限らず、道路や公園整備など幅広くあります。今後の需要拡大が大いに見込まれている事業領域と言えるでしょう。一方、同じ当社グループのアセットやネットワークを全くの別角度から生かした取り組みが「バーチャル・ステーション」です。これはリアルの『駅』が有する社会性や機能性をバーチャル上に再現・拡張することで、より自由で創造的な価値創出フィールドを創り出すことを目指したプロジェクトで、鉄道会社ならではの豊富なリアルアセットを活かしながら、多様なユーザーのニーズに応える施策展開が行われています。その一つである「バーチャル大阪駅」は、開業１年で世界中から約2800万人以上が訪れるなど、その集客力は折り紙付き。まさに、リアルアセットが豊富な当社グループだからこそ実現可能なXR事業ではないでしょうか。３番目に紹介するのが、私も携わっている「JOBJOBGO」です。これは、新たな働き方と移動の創出を目的とした人材マッチングサービス。ユーザーが希望する旅先で、現地の仕事を経験しながら観光も楽しむことができ、まさに“働く旅”を実現します。JR西日本のエリア内であれば移動費も無料になるため、これまでにない合理的で魅力的な旅のスタイルを提案しています。最後が、コワーキングスペース予約サービスの「＋PLACE」。全国の駅ナカや駅チカにある多様なワークスペースを、手軽に検索・予約できるサービスです。移動の合間や出張先など、すきま時間を有効に活用できる利便性が、多くのビジネスパーソンから支持されています。

── いずれも独自性に富んだサービスですが、どのようなプロセスからアイデアが生まれるのでしょうか？

当社グループには、実に多くの企業があり、幅広い領域で事業を展開しています。その数だけ新規事業への活用が可能なアセットやリソースがあり、私たちも把握しきれていないほどです。豊富な経営資源の中から、自分たちが実現したいビジネスに役立つものがないかを模索し、知見やノウハウも含めた有形、無形の資産を使って企画を立案していきます。

── ビジネスデザイン部の部署内の様子や雰囲気についてはどうでしょう？

私が入社した当時はまだ20人ほどの組織でしたが、事業の立ち上がりなどと並行して、現在は約60人にまで増えました。また、私たちと同様に、当社グループのノウハウや知見を生かした事業創出に取り組むJR西日本イノベーションズというグループ企業と連携することも多く、合わせると100人ほどのメンバーで一緒に働いています。メンバーは非常に前向きで、新規事業を生み出すことに強い誇りとやりがいを持って取り組んでいます。挑戦を楽しみながら、未来を切り拓いていく——そんな仲間たちとともに、日々新しい価値の創造に挑んでいます。

── 奥田さん自身は、どんな思いを持って仕事に取り組んでいらっしゃいますか？

新規事業の可能性はあらゆる領域に広がっていますが、私たちが常に意識しているのは、それが“私たちの志”に合致し、JR西日本グループだからこそ取り組むべきテーマかどうかという点です。単に利益を上げるための事業ではなく、日本が抱えるさまざまな課題の解決につながるサービスを生み出したいと思っています。例えば私が担当する「JOBJOBGO」は、働き手を求める地方自治体や企業と、働き手となる人材をマッチングするサービスです。掲載されている多くの求人は、ホテルなどの宿泊施設、観光施設、農業をはじめとする一次産業を手掛ける企業、団体で、これらの法人は、労働力不足や関係人口増加に課題を抱えています。持続的に事業を続けていくためには、人材の確保が欠かせません。この課題に対して「JOBJOBGO」では、学生、フリーランス、アクティブシニアなど、時間に柔軟性のあるユーザーをターゲットに、「働きながら旅行ができる」新しい価値を提供しています。給料を得ながらリゾート地や観光地を訪れることができ、さらに現地までの交通費は「JOBJOBGO」が負担する仕組みです。企業や自治体が抱える人材課題を解決すると同時に、ユーザーには「使って良かった」と思ってもらえるサービスを目指して展開しています。人口減少が加速する日本において、私たちのサービスが少しでも活気ある街づくりに貢献できれば幸いです。

生み出した事業がやがて日本全体、さらには世界規模で広まっていく。

── ビジネスデザイン部の仕事のやりがいはどんな点にあるでしょうか？

私たちの仕事は新規事業の企画にとどまらず、アイデアの立案から事業設計、プロダクトの開発、プロモーション、さらには経営資源の確保に至るまで、すべてのプロセスを一貫して手掛けるということです。もちろん、すべてが最初からうまくいくわけではありません。私自身も「一歩進んで二歩下がる」ような経験を何度も重ねてきました。それでも、自分たちが立ち上げたサービスに初めて取引先ができた瞬間の喜びは、言葉では言い表せないほどの感動があります。JR西日本グループという信頼性の高いバックボーンを背に、自分の思い描くサービスや未来を自由に形にできる環境は、他の企業にはない大きな魅力です。

── 最後に、ビジネスデザイン部に受け入れたい人財について教えてください。

当社グループには、私たち自身でも把握しきれないほど多くの、そして質の高いアセットやリソースが存在しています。だからこそ、私たちが生み出せるサービスや商品の可能性も無限に広がっています。社会課題の解決に向けて挑戦したい、新たな事業が立ち上がる瞬間に関わりたい——そんな想いを持つ方にとって、ここは理想的な環境です。どんなサービスでも創り出せる土壌があり、自らの手で“新しい価値”を生み出すことができます。もちろん、最初から大きな事業を立ち上げるのは簡単なことではありません。だからこそ、描いた大きな理想を胸に抱きながらも、目の前の課題に真摯に向き合い、一歩ずつ着実に進めていく姿勢が大切だと考えています。私自身、「Think Globally, Act Locally（地球規模で考え、足元から行動する）」という言葉を意識しながら、日々の業務に取り組んでいます。JR西日本グループの強みを最大限に生かして、社会課題の解決に共に取り組んでくださる方と、一緒に働けることを心から楽しみにしています。

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