“顧客満足”を求めてブライダル業界から投資ファンドへ【転職事例Vol.07】高橋啓

「価値観のマッチング」で、ブライダル業界一筋の仕掛け人を気鋭の投資ファンドへ紹介し、大規模レジャー施設のトップに据える

「“顧客満足”は必要ないのでしょうか。」話は人生相談から始まった

今回ご紹介するのは、ブライダル業界一筋だった方で、あるウェディングサービスの仕掛け人として、業界でも名が通っている40歳前後の男性です。私のところを訪ねて来たのは、昨年、ご家族の体調不良で帰郷し、あるブライダル施設の支配人として地元企業に転職して、たった数カ月のことでした。

「ビジネスに“顧客満足”は必要ないのでしょうか」。その方は悩んだ様子でこのようなことを語り出しました。聞けば、それまで長く勤めてきた会社では、結婚式に参加されるすべての方が楽しめるウェディングイベントづくりに全力を注いできたそうです。しかし、転職先の地元企業では、効率性や売上の向上を強く求められている。もちろん、企業だから利益が肝心なのはよく分かっているが、それにしても今までの自分のスタイルとはそぐわない。「そこで、高橋さんに伺いたいのです。顧客満足を一番に据える私の働き方にニーズはないのでしょうか。もしニーズがないのなら仕方ありません。私も潔く考え方を改めて、今のポジションで効率と売上を高めていきたいと思います」と言うのです。

つまり、この方は転職相談の前に、ある種の人生相談に来たのです。私としては、そのような相談はむしろ願ったり叶ったり。なぜなら、私は何よりも転職希望者の「価値観」を深くお聞きし、企業と「価値観のマッチング」をしたいと考えているからです。そのために、事前にレジュメをことこまかに読み込み、その方の全体像を十分に把握した上で、できれば趣味やプライベートまでじっくりヒアリングし、この方が「何を頑張ってきたのか」「どのようなことに喜びを感じるか」を明らかにするようにしています。ただし、このとき「あなたの価値観は?」などと直接的に尋ねることはしません。それでは用意した答えが返ってきてしまうからです。あくまでも具体的なエピソードのなかから、私が価値観を推察し、導き出す必要があります。

高橋啓さん

「顧客満足を深く追求したレジャー施設を創りたい」とファンドの方々は強調した

一方で、私は企業側へのヒアリングや提案も重視しています。価値観のマッチングを行うには、単なる採用スペックだけでなく、そのポジションにはどのような考え方が求められるか、今どのようなところで働いている方がよいか、どのように面接に臨めばよいかなどを、できるだけ具体的に擦りあわせる必要があるからです。

今回のご紹介先は、大手ファンドからスピンアウトしたメンバーが中心になって立ち上げた気鋭の商業施設・不動産系投資ファンドです。チャレンジの一環として、この度初めて、何百人のアルバイトが働くことになる大規模レジャー施設を自ら開発・運営することを決めており、その施設長を求めていました。企業のシンボルとなるだろう重要な施設ですが、当然ながら社内にはノウハウが少なく、当初はどのような方が適しているか、まったく分からない状況でした。そこで私は何度もミーティングを重ね、粘り強く人物像を明確にしていきました。

彼らは投資ファンドですから、もちろん利益も見ているのですが、最初から「顧客満足を深く追求したレジャー施設を創りたい」という強い意向をもっていました。それなら、レジャー施設の経験者にこだわるよりも、限られた時間で最大限の顧客満足度を追及するという価値観を判断軸の中心に据えて、例えば、外食、ホテル、ショッピングモールといった周辺業界のマネジメント経験者経験者にも幅広く面接した方がよいと私は提案しました。業界知識や知見はコンサルタントやアドバイザリーといった専門家がいくらでもフォローできますが、転職者の根本的な価値観を変えるのは難しいからです。その候補には、当然ブライダル業界も入っていました。

高橋啓さん

「忙しいですが、楽しいです」と、何年後かに言われたい

今回のケースでは、事前に企業とミーティングを重ね、求める人材を明確にした上でスカウト活動を行っている中で、この方が相談にいらっしゃった為、紹介から決定までは、実はさほど時間がかかりませんでした。この方にはまず、顧客満足を求める姿勢にニーズがあることをご説明した上で、今回の案件をご紹介しました。投資ファンドは、ある意味でサービス業や“顧客重視”のイメージとは正反対ですし、ブライダル業界しか経験のない自分が他業界で通用するか自信が持てなかったこともあって、最初は多少の抵抗感もあったようです。しかし、投資ファンドの方々が直接その方のもとへ赴き、自分たちが顧客満足を第一に考えていること、業界知識は入社後で間に合うことなどを丁寧に伝えたら、すぐに理解してくださいました。それどころか、その場で両者が予想以上に意気投合し、そこからはとんとん拍子で決定まで進みました。

ただし、現在の会社にも支配人として入社していますから、簡単に辞めることはできません。その点は私もアドバイスして、現在は、受け入れ先企業に円満退社を待っていただいている状態です。しかし、転職者の方はその間も入社準備を着々と進めており、レジャー施設の現地に何度も足を運び、入社後に受けたい研修の逆提案までしているそうです。なお、勤務地はその方の地元から通えるところで、その点でも条件をクリアしています。

私がこのような「価値観のマッチング」を重視しているのは、転職する方には長期間、成果を出し続けていただきたいし、周囲にも継続的に良い影響を与える存在でいて欲しいと願うためです。そのような関係を保つには、価値観の合致が欠かせません。また、価値観さえ合えば、条件面での多少のズレなども十分に調整できるものです。数年後、転職者の方にお会いしたとき、「毎日とても忙しいですが、楽しくやっています」とお話しいただけるのが、理想のマッチングだと考えています。

高橋啓さん

高橋 啓さん

株式会社プロフェッショナルバンク プロフェッショナルプレースメント事業部 エグゼクティブコンサルタント

新卒で大手人材サービス会社に入社。大手自動車メーカー専属担当として、中核人材の活用提案や海外人材の採用支援に携わる。その後、組織開発コンサル・人事コンサルタントの立場で経営者の考え・ビジョンの見える化、社員への浸透などのプロジェクトへ関わった。この活動を通じて、プロ人材のキャリアについて関心が高まり、プロフェッショナルバンクに参画。地方の経営幹部採用や事業再生、投資ファンド案件に関する豊富な知識・人脈は業界内外で高い評価を得ている。特に綿密な企業分析に基づく行う幹部人材のポジション提案は、潜在的人材ニーズに応えるものとして、毎年多くの実績を残している。

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