幹部の転職動機に「キャリアアップ」はなぜNGなのか? 中堅人材と幹部人材における採用理由の違い

幹部の転職動機が「キャリアアップ」「○○を学べる」であることの、イタ過ぎる理由

キャリアカーバーで転職活動中の管理職・経営幹部の皆さんは、今回どのような理由・背景で転職に踏み切られていらっしゃるでしょうか?

マネジメントとしてご活躍、奮闘してこられた皆さんですから、様々な現実的事情や理由から今回、新たな場への転身をお考えのことと思います。現職を辞めたい――「出たい」理由というものは概ねネガティブな事情、心情が多いものです。そのこと自体はご自身からすれば正当な理由が多いでしょう。自分の勝手、わがままでない限り、現職から離れたい理由がネガティブなものであることには問題はありません。

一方で、次の会社への入社動機――「行きたい」理由は「出たい」理由と関連するところもありつつ、また別物です。案外このことを認識されていらっしゃらない幹部クラスの転職者も少なくないのが現実です。

面接で面接者(幹部の皆さんなら一次面接から面接相手が事業責任者、人事役員、あるいは社長本人であることが多いでしょう)相手に、今の会社を辞めたい理由を能弁に語る。しかし相手は(特に先のような役職者にとっては)、あなたが今の会社を辞めたい理由は知りたいことのひとつではありますが、それは前提情報に過ぎません。核心として知りたいのは、「で、そんなあなたは今後、(当社で)何をしたいのですか?」ということです。

そもそも、今後の展望、テーマや希望をお持ちであるか否かがまず問われます。では、転職動機はどのようなものであるべきか?

そこでなのですが、管理職・経営幹部クラスの方々においても、「はい、キャリアアップしたくて」「核心的な事業を展開されていらっしゃる御社で○○を学びたいと希望しています」、このような転職動機をお話しされる方がいらっしゃいます。

この「キャリアアップ」「○○を学べる」という転職動機が、管理職クラス、経営幹部クラスの方々の場合、かなりイタい、イタ過ぎるということに、お気づきでしょうか?

この2つの転職動機は、第二新卒層・若手からギリギリ中堅社員クラスまでにおいての、ある面ベストアンサーですが、それがマネジメントクラスにおいては「ちょっと困った」動機へと転じます。

要は、「キャリアアップ」「○○を学べる」というワークモチベーションはビギナークラスのものであるからです。

若手・中堅人材が採用される理由と、幹部人材が採用される理由の大きな違いを理解しているか?

そもそも「若手・中堅人材が採用される理由」と、「幹部人材が採用される理由」には、当然のことながら大きな違いがあります。

若手・中堅人材は、<組織の中で規定されたファンクションを担い全うしてくれること>が彼・彼女らを採用する決定要因となります。かなり乱暴な言い方をすれば、「当社がやって欲しいことを、もっともレベル高く、つべこべ言わずにやって欲しい」のです。

対して、幹部人材は、<その組織をどう動かしていけば良いのかという問いに答えてくれること>が採用決定要因です。「この人に任せれば、我々では気がつかないレベルの、より良いやり方で組織を率いて成果を上げてくれるかもしれない」と先方企業の事業責任者、人事責任者、経営者が思うかどうかです。

この違いがわかれば、なぜ管理職・経営幹部クラスの転職動機が「キャリアアップ」「○○を学べる」では困る、イタ過ぎるのか、腑に落ちることと思います。

マネジメント人材は、「自分へのインプット」は自分でやってください、我が社においてはそれを持ち込んで「事業・組織へのアウトプット」をしてください、ということですね。

引く手数多の幹部人材が転職活動で見せる「3つの姿勢」を確認せよ!

実際私は日々、引く手数多の幹部人材の皆さんの幹部転職をご支援させていただいていますが、彼らに共通する姿勢は、

(1)事業や組織に貢献したい自身のテーマが明確
(2)事業や組織に貢献できるスキル、専門性、経験を自己認識している
(3)その企業のテーマやビジョン、あるいは課題について現実的に理解した上で共鳴し、ぜひその一翼を担いたいと思っている

という点です。

(3)は実際に採用選考が進んでいく中で明確化されていくもので、スタートの応募段階で必ずしもはっきりしているものであるとは限りません。逆に、我々エージェントから案件紹介をされた時点でそれを感じたとして、その印象や仮説は正しいのかを選考プロセスを通じて確認していくということですね。

管理職、経営幹部職とは、事業や組織をリードし、事業や組織を上手く動かすことを通じて外部市場に対してインパクトを出すこと、価値を提供することを実現する役割を担える人達のことを指します。そのことを通じて(のみ)、自己成長を続け、自己実現を図ります。

あなたがもし、「組織や他人を通じて世の中に価値を生み出し、提供すること」の中身が、現職においてはなにがしかの理由で自己テーマと合致しなくなってしまった、何かの障害があるためどうしてもなし得ない、よって新天地にその場を求める、ということであれば、管理職、経営幹部職としての転職は成功する確率が高いと言えるでしょう。

一方で、もし管理職、経営幹部職のあなたの今回の転職動機が、「キャリアアップしたい」「○○を学べる場に行きたい」ということ(が第一義の理由)であるならば、悪いことは言いません、マネジメントとしての転職はきっぱりと諦めるか、あるいは現職でもう一度、幹部として事業や組織に貢献するとはどういうことなのかをしっかり見つめ直し、現場貢献した上で、改めて次を考えるようにしましょう。

ではまた、次回!

井上和幸氏

井上和幸

1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。

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