製造現場を変革するプロダクト。ターゲットユーザーは、かつて悩んでいた元工場長の自分。

『現場の未来を切り拓く』をミッションに掲げるTebiki株式会社。デスクレスワーカーが働く“現場”のノウハウを可視化する教育プロダクト「tebiki」は、製造や小売、物流、サービス業などの幅広い業界で支持を受け、エンタープライズ企業を中心に導入が進んでいます。今回お話を伺ったのは、かつて食品メーカーで工場長を務めた経歴を持つ、同社代表の貴山 敬さん。事業構想の経緯や事業にかける想い、これから見据える未来など、一連のストーリーをお聞きしました。

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26歳、食品メーカーの工場長 兼 副社長に

── まずは創業に至るまでの経緯をお伺いしていけたらと思います。

小・中・高と特筆すべきことはなく、地元で普通の学生生活を送っていました。将来の夢も特になかったと思います。高校卒業後に進学したのが、当時では先進的な取り組みを数多くしていた活気のある大学でした。周りの学生は、志を持った向上心の高い人ばかりで、教授や講師陣も豪華でした。例えば、ある講義の中では、世界情勢や政治・経済のあり方について自分の意見を求められる。それまではメディアの向こう側の話だと思っていた、国家レベルの講義や会話が日常になりました。そんな環境に身を置く4年間で、世の中に対する想いや、何か大きなことをしたいという火種のようなものが自分の中に生まれたのだと思います。ただ、当時は今ほど学生起業やスタートアップといったものが盛んではなく、その選択肢はまったく頭にありませんでした。周りと同じように就職活動をして、新卒で入社したのは三菱商事でした。

── チーズ工場でのご勤務経験もあるとお聞きしました。

実はそれも、三菱商事時代の話です。私が配属されたのは食品関連の事業部でした。1年目から国内外を飛び回り、大きな裁量を与えられ、さまざまな挑戦をさせてもらいました。その中で26歳のときに、食品メーカーのM&Aを自ら企画して多額の投資を行い、チーズ製造工場の工事長 兼 副社長として出向しました。ですから、今でもチーズには相当詳しいですよ。飲食店でピザに乗っているチーズを見たら、原産国と商品名と配合まで大体当てられます。特に何の役にも立たないですが(笑)。

チーズ工場での仕事は、最初から上手くいったわけではありませんでした。いきなり26歳の若造が赴任してきて工場長になるわけですから、当然、工場内の反発も大きかったです。そんな中でも師匠と呼べる人物に出会い、現場管理のいろはを徹底的に叩き込んでもらいました。今、当時と同じことをやれと言われても勘弁してほしいと思ってしまうくらい、朝から晩まで、年中ほぼ休みなく働いていましたね。その甲斐あって、着任してからの4年間で新たな工場の建設や増設も行い、業績を2倍以上に伸ばすことができました。しかし、親会社である三菱商事と現場の板挟みになることも、正直多かったのです。一定の成果を上げつつも、商社のイチ社員としてできることの限界を感じました。さらにその頃、大学時代の同期たちが次々と起業して、世間的にも注目されるほど活躍し始めました。自らの現状と比較して焦りを感じるとともに、「自分にも、もっと大きなことができるはずだ」という想いが湧いてきまして。工場長の任を退くとともに、新卒からお世話になった会社の退職を決意しました。

かつての自分を救う、現場教育プロダクト

── そうして大学の同級生たちと同じように、起業の道へ進まれたのでしょうか。

と思いきや、違いました。「自分が今一番やりたいことを、心の向くままにやろう」と思って、アメリカのサンディエゴに渡りました。「サーフィンやりたい!」という衝動に駆られてしまったのです(笑)。毎日、日の出とともに海に入り、日暮れ近くまで波と向き合う。そんな生活を1年間も続けていました。けれど、次第にこう思うようになってしまいました。「俺がここでどんなビッグウェーブをメイクしたって、世の中は何一つ変わらないじゃないか」と。そうして、やっと起業の道へ進むわけですが、そこからは失敗の連続でした。

最初の起業では旅行関連のビジネスを立ち上げ、事業譲渡できるまでになりましたが、世の中に対して新しい価値をもたらせたとは思えない結果に終わりました。次は介護関連ビジネスをやろうとしましたが、法規制があまりに強く、スタートアップの出る幕はないと諦めました。個人的に、起業において「成功のセオリー」は存在しないと思っています。しかし、「失敗のセオリー」は明確にあります。その地雷を、ことごとく踏んでいったのが最初の起業でした。その後も、いろんな失敗や挫折や理不尽を経験して、本当にもう、紆余曲折あったのです。ただ、渦中で出会いもありました。自分と似たスタンスや熱量を持った、心から信頼できる人物。次に起業するなら、こういう奴と一緒にやりたいと思えた。それが当社の現CTOです。彼を誘い、2018年に当社創業に至りました。

── 事業の構想はどのように生まれたのですか?

数々の失敗を経て分かりましたが、起業って、基本的には上手くいかないもの。だからこそ、市場規模やニーズの大きさ以上に「この問題を解決したい」という強い気持ち、執着のようなものが大事だと思いました。それで頭に浮かんだのが、チーズ工場の製造現場での経験だったのです。私自身、最も苦労したのが現場スタッフの教育でした。あの頃、こんな仕組みがあれば、会社をもっと成長させられたのではないか。こんなサービスがあれば、あの人は辞めずに済んだはずだし、従業員をもっと幸せにできたんじゃないか。ある種、やりきれなさや後悔を伴う記憶。そこから生まれたプロダクトが『tebiki』です。ですから、創業当初から今まで変わらず、tebikiのターゲットユーザーは“あの頃の自分”なのです。

大規模な設備を伴う製造工場などでは、一度工場が出来上がってしまうと、簡単に設備を変えることはできません。だから工場がいかにハイテクであろうと、最終的に他社との競争力の源泉になるもの、持続的な成長の要因になるものは「人材」です。しかし、人手不足によって新人の教育リソースが枯渇している上に、現場の自動化が進んだことで、一人のオペレーターに求められる知識・スキルの幅が広くなっている。総じて、若手の活躍機会、成長機会が減少しています。そこで私たちが提供するのは、現場のノウハウを可視化して人材教育を効率化・高度化するサービスです。PCの中で業務が完結するデスクワーカーと違って、製造現場では人の動きや機械の動きなど、三次元の情報を可視化する必要があるため、動画教育の手法にたどり着きました。

私たちは、製造現場の基幹システムそのものになる

── どのようにして事業を軌道に乗せ、またこの先どんな構想を描かれていますか?

とにかく地道にやってきた、と言うほかありません。さまざまな工場や倉庫に一つひとつアポを取り付けて営業活動をしたり、展示会に出展したり。そうして次第にクチコミや紹介も増えていって。幸いにして順調に、大きな地雷を踏むことなく成長を続けてきました。度重なる失敗経験の賜物です。創業からこれまで毎年、tebikiの導入顧客数は倍々で増え、製造現場における人材教育の領域では一定のポジションを確保できたと思っています。しかし、まだまだ道半ばです。私たちが目指すのは、日本の製造業を復活させ、国際競争力を取り戻すこと。そのために、現場教育サービスに加えて、2024年に『tebiki現場分析』をリリースしました。現場帳票をデジタル化して、分析・管理を簡単にできるクラウドサービスです。

当然のことながら、大切なのは現場を教育したその後、どんな成果が上がるかです。当社としても教育して終わりではなく、現場に蓄積されていく膨大なデータの分析・活用方法を考えるフェーズになりました。製造現場では、まだまだ紙媒体による記録作業が根強く残っていて、データ活用がしづらい状況。『tebiki現場分析』によって、そこに変化を起こせると考えています。そうして、現場のあらゆるノウハウや教育を司り、記録・分析を司り、それらのデータを活かして生産管理システムまで担っていく。それが現在の構想です。つまり我々は、日本のモノづくりを支えている製造現場の基幹システムそのものになろうとしているのです。

権限委譲を徹底しながら、自らも現場に立つ

── 大きな目標を達成するために、経営や組織運営の面で特徴的な取り組みがあれば教えてください。

私たちは、世の中にまだないものを生み出そうとしていて、不確実性の高いチャレンジをしています。誰も正解を知らない世界です。成功確率を上げるために大事なのは、一次情報を持つ人が自ら決断することだと思っています。営業分野なら営業の最前線の人たち。マーケならマーケの、開発なら開発の担当者が権限を持って、判断を下していく。そんな組織風土をつくるために、社内のあらゆる情報をフルオープンにしています。個々人の人事評価以外、本当にすべて。資金調達の状況や、銀行残高まで公開しています。権限と情報、両方がそろって初めて、社員の主体的な行動が生まれると思っています。

権限委譲の観点でもう一つ。当社では社長である私が、ほぼ採用権限を持っていません。最終面接に私が出ると、結局「社長に採用された」と思うでしょう?すると入社後も、上司ではなく私を見るようになってしまう。これは組織構造として健全ではないと思うのです。社内の権限委譲を強く推し進めるために、経営者としては手放しづらい採用権限を真っ先に放出した形です。私が候補者の方とお会いするのは、最終選考の中で行われる体験入社の日に、直接お話するタイミングぐらいですね。

── そんな中でも、貴山社長が“手放さない”ものはありますか?

社員数100名を超えた今になっても、私自身がカスタマーサクセスとして顧客を担当しているのは、手放さないものの一つかもしれません。当社の創業の理念として、「現場の課題を解決したい」という強い想いがあります。どれだけ規模が大きくなっても、ユーザーファーストの考え方を徹底していきたいのです。けれど、それを社長が偉そうに説いても、製造現場のことを知らない社員には響かないですよ。だから、そこだけは自ら行動で示していくしかないと思っています。言葉ではなんとでも言えるけど、行動では嘘をつけないですからね。

あとは「飲み会拒否権」ですかね(笑)。会社の飲み会にはほとんど参加しません。小さな子どもをお風呂に入れないといけないし。もちろん社員にも、参加の強制は一切しません。とはいえ、そういう場でのコミュニケーションの重要性は理解しています。特徴的な制度として『チームビルディングごはん』というものがあって、参加メンバーを5人以上集めたら、1人につき飲食費5000円を支給しています。なんと回数制限なし。事前申請も必要なし。細かいルールはつくらずに、なるべくみんなの裁量に任せた運営をしています。

「Go Global」事業フィールドは世界へ

── 最後に、読者にメッセージをお願いします。

日本の生産品質が世界レベルであることは、今も変わらないと思っています。当社のビジネス領域には、日本の国際競争力を再びトップ層へ押し上げるポテンシャルがあると確信しています。ですから当社には、社会貢献の確かな手応えを感じられる仕事と、挑戦のフィールドがあることをお約束します。

また、Tebikiという会社は、これからますます面白くなります。現在、事業のさらなる成長戦略として掲げているのが「Go Global」のスローガン。実は、私たちはグローバルに成功するための稀有なポジションを獲得しているのです。どういうことかと言うと、当社のお客様であるメーカー各社は、すでに海外に潤沢な基盤を持っています。だから当社は、まず既存のお客様の海外拠点にサービスを提供し、そこから現地のつながりを構築していくことで、2段階のグローバル進出ができるというわけです。何十年も前から海外市場を切り拓いてきた先駆者たちのおかげで、私たちの前には今、グローバル展開への階段が用意されている。この機を逃さず、日本の製造業、そして日本経済を盛り上げるビジネスに、ともにチャレンジしてみませんか?

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