私のキャリアの軌跡【株式会社サイバーエージェント】採用戦略室 室長 大久保 泰行氏|営業一筋からの大転換、人事の世界で見えた新たな景色 

1998年の創業以来、メディアやゲームなど幅広くインターネット事業を展開してきたサイバーエージェント。創業初期から在籍する大久保泰行さんは、約15年の営業経験を経て人事へ転身。8000人もの従業員の成長を支え、企業の成長に大きく貢献してきました。今回は、そんな大久保さんのキャリアの歩みと想いに迫ります。

大久保 泰行氏

2003年に新卒でサイバーエージェントに入社し、インターネット広告代理事業部門の営業としてキャリアをスタート。エグゼクティブプランナー、営業局長を経て、2017年にコーポレート人事へ。社内サーベイ運用や社内ヘッドハンティングを担うキャリアエージェントの責任者として、適材適所を推進。2022年からは採用戦略室の責任者として、新卒・中途採用の戦略立案と実行を統括。

全員がブレイヤー、がむしゃらに働いてキャリアを積んできた

―これまでのご経歴を教えてください。 

大久保:私は2003年にサイバーエージェントに新卒で入社し、営業職としてキャリアをスタートさせました。サイバーエージェントに入社を決めた理由は、内定者懇親会で目にした社員の姿勢。当時、当社は創業4年ほどで、売上は100億円規模。先行き不透明なインターネット市場でしたが、「もし仮に事業が行き詰まったとしても、その時はこの皆でやれば面白いよね」と語り合っているのを聞いて、他社にはないこの業界に飛び込む人独特の勢いや感性に惹かれて入社を決めました。

けれど、入社後は想像以上に厳しく、当時の離職率は40%程度で、毎月のように組織が変わるカオスな環境。平均年齢25歳で全員がプレイヤーとして、新人同士で営業のスクリプトをつくるなどして、がむしゃらに働いていました。気づけば会社は成長を遂げ、自身もマネージャーや営業局長を務めるまでになっていきました。

会社の売上が大きく伸長するなかで、ふと「自分は何を成し遂げたいんだろう」と考えるように。そこで、岡本副社長に「新たな挑戦をしたい」と相談し、最終的に人事への転身を決意したのです。

数字で管理する営業から数字化の困難な人事へ。未知の領域への挑戦

―ゼロからキャリアを始めるために、人事部門へ異動されたのですね。

大久保:異動したのは、コーポレート人事でした。当時、抱いていた人事のイメージは「採用」の側面しかなく、まったくの未知の領域でした。「適材適所の100点の状態とは何か」「社員が活躍している状態とは?」という問いに対して、正解はありません。営業のように数字で表せるものではないけれど、確実に経営数字に直結する――。人事が何かわからないところからスタートした私は、まず社内で直面している課題を定めるところから始めていきました。課題を特定したら、数値に落とし込み、人事戦略を立て、周囲のスタッフに共有しアクションにつなげていくサイクルをまわしていったのです。

人事戦略を構築する上で意識したのは、制度や仕組みが「独り歩き」したときにどう変化するか。営業部にいたころは、部内のメンバー一人ひとりと対峙すればよかったのですが、人事が対象とする8,000人もの従業員一人ひとりに説明することはできません。そこで、それぞれの解釈によって理解が変わってゆくことを想像して設計する必要があります。それまでとはまったく異なる頭の使い方をするのは、大変でしたが、とても新鮮で面白いと感じました。

まずは、社員一人ひとりを知ることから

ー異動されてからの印象的なエピソードを教えてください。

大久保:特に印象的だったのは、異動間もなく、社内のパルスサーベイに携わったことですね。「パルスサーベイ」は、社員が成果を出すことを支援する為にコンディションや障害になっていること、キャリア志向などを聞くアンケートで、月1回聞いています。そのため、9割の社員は回答する一方で、1割は回答しない状況がありました。そこで、サーベイを単なる「アンケート」にするのではなく、社員との「コミュニケーションツール」と位置づけることに。社員の回答すべてに返信するとともに、小さな変化や要望にもリアクションするように徹底しました。

こうしたアナログな方法は、労力と時間がかかるので非常に大変でしたが、覚悟を決めて実行したことで、回答率は100%に。リアルな社員の声を得て、社員のキャリア支援につなげる好循環を生み出せるようになりました。いま思い返せば、営業時代は、目的を達成するためにどうするかを考えるのが当たり前な文化。そんな目的志向が、タレントマネジメント領域でも役立った瞬間でもありました。

タレントマネジメントから採用へ。気づきを与えられる人事になりたい

ー現在のお仕事について、教えてください。

大久保:現在は、新卒・中途採用を統括する人事責任者としての役割を担っています。新卒採用では、年間250名のビジネス系人材を採用し、中途採用では、全社横断的に採用基準の策定や各事業部門の採用支援を行っています。実は「採用」に関わるようになったのも、営業時代に培った「目的志向」がきっかけ。もともと担当していたタレントマネジメント領域では、経営課題を人事的な側面で解決するのがミッション。当時、採用活動が苦戦していたことから、採用活動に力を入れることに。その後、気づけば、中途だけでなく、新卒含めた採用を一気通貫で担当する立場になっていました。

採用の仕事の最大のやりがいは、出会う方々に影響を与え、時に人生の転機を生み出せること。転職や就職は、人生で最も自己と向き合う大切な時間。そのタイミングで、新たな選択肢や価値観を提示することで、キャリアだけでなく、価値観や人生そのものを変えるきっかけにもなります。採用の本質は、単に自社のために人材を確保することだけではないと思うんです。企業のファンを増やしたり、気づきを与えたり、働く意欲を高めたり、採用を通じて、より良い世界をつくることにつながっていると実感するようになりました。それが人事の仕事の醍醐味だと感じています。

日本一生成AIを活用している人事集団へ

―採用で出会う方々をひとりの人間としてみて、出会うというのは素敵ですね。今後、目指すキャリアについて教えてください。

大久保:私自身、人事に転身したことが大きな転機となり、仕事の仕方や考え方が大きく変わりました。例えば、小規模な部門から大規模な会社単位へ、数値で測れるものから測れないものへ、など対局の経験を積んだことは自身にとって大きな財産となりました。そんな影響力が大きくて、目に見えない人事領域ではありますが、生成AIを活用することで、新たな価値を生み出せると考えています。例えば、タレントマネジメントにAIを採り入れたり、集団面接の様子をデータで記録し、発言をAIで分析したりすることで、少しでもポテンシャルのある方と直接面談へ進めるきっかけにするなど、日本で最もAIを活用できる人事チームをつくりあげることを目指したいと考えています。AIを駆使することで、人事がチャレンジできる領域が増え、企業と社会により大きなインパクトを与える人事へと飛躍していきたいと考えています。

事業成長の源泉は、「素直でいい人」

―サイバーエージェントの魅力とは?

大久保:サイバーエージェントの最大の魅力は、「素直でいい人」が多く、仕事がしやすい環境が整っている点だと思います。社長と人事チームは、「素直でよい人」を採用すると明確に定め、徹底しています。世の中にない新しいサービスをつくるときに、チーム内にネガティブな姿勢の人がいるとマネジメントコストがかかってしまう。技術や能力は大事ですが、まずは人柄を第一に置いているのはそのためです。ここには前向きで挑戦を楽しめる人が集まっています。そのため、若手が「こういうことをやりたいんですが」と提案しても、それがチームの成功に近づくのであれば、経験があるベテラン社員であっても「そう言うなら、一緒にやろう」と支え合うような文化が根付いているんです。

また、経営陣が「人」に強い関心を持ち、社員がどんなふうに考えているかを知ろうとする姿勢も大きな魅力。組織が大きくなると個々の社員が見えにくくなりますが、役員陣は「どんな人材がいるのか」と積極的に関心をもち、人事チームに可視化を求めます。その結果、組織全体が同じ方向を向くことで、経営に必要な人材を採用し、事業の成長につなげることができるのです。

事業が成長するための伴走者として。

―そんなチャレンジングな財務経理部門に、興味を持つ人も多いと思います。どういう経験・スキルを持った人であれば活躍できるでしょうか?

大久保:当社の人事として活躍するには、経営戦略から逆算し、数字やファクトで語る力が求められます。感覚的な目標ではなく、具体的なデータをもとに人事施策を設計することが重要です。しかし、それ以上に大切なのは、「自分事化」すること。採用を単なる人数調整と捉えるのではなく、「もし自分のチームに迎え入れるなら」という視点をもって、採用したことに責任をもってほしいなと思います。人事の最終的な目的は、組織の成果を最大化すること。そのために、表面的な管理ではなく、本音で向き合う。人事として、組織と個人の成長を本気で考え、寄り添う姿勢を大切にしていきたいと思っています。

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