化学の巨人が手がけるSaaS。自社課題から生まれたAI『STiV(スティーブ)』は、新たな知のインフラを創りだす。

電子機器の基板を守る絶縁材「ソルダーレジスト」。その世界シェア7割を誇る総合化学メーカーが太陽ホールディングスです。70年以上の歴史で築かれた技術と経営資本を武器に、長期構想「Beyond Imagination 2030」の実現に向けて、製薬・ICT・エネルギー・食糧などへ事業の多角化を推進中。そのICT領域における最前線では、知のインフラを創る生成AI活用ナレッジマネジメントシステム『STiV(スティーブ)』が誕生しています。今回はグループ企業を横断してSaaS事業を牽引する小宮山靖裕氏に、現場課題がきっかけとなった『STiV』の誕生譚から、その社会的役割と未来像、これからどんな仲間とイノベーションに挑みたいかを聞きました。

小宮山 靖裕

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グループビジョン「Beyond Imagination 2030」と新規事業開発課の使命。

── これから太陽ホールディングスを知る方もいらっしゃると思います。改めて、これまでの歴史や現在の事業内容について教えいただけますか。

私たちの事業は多岐に及びますが、化学でエレクトロニクスを支えてきた会社と言えます。スマートフォンやPC、車載機器といった電子機器の内部には、緑色の基板が入っているのをご存知でしょうか?それは、機器を正しく動かすための「心臓」や「脳」とも例えられる大切な部品です。基板の表面には回路を守るために絶縁性のインクが貼られています。それが、当社が長年に渡り主力事業とし、世界中に供給しているソルダーレジストという素材です。もともと、1953年の創業時は「太陽インキ製造株式会社」として印刷用インキを扱っていました。1976年に社運を懸けて、当時は未知数であったエレクトロニクス業界に事業領域を移し、ソルダーレジストを主力製品に据える大転換を行いました。この先輩方の先見の明が功を奏し現在では世界トップシェア*を握ることができています。そして、エレクトロニクス事業で培ってきた技術力と資本力が、今日のグループ全体の新たな挑戦を支えているのです。

*「2024 エレクトロニクス先端材料の現状と将来展望」株式会社富士キメラ総研より

── 新たな挑戦とは具体的にどのようなものでしょうか?

2021年にグループビジョン「Beyond Imagination 2030」を策定し、グループ全体のシナジーによってあらゆる社会課題に挑もうと、事業領域の多角化を進めています。例えば、総合化学メーカーとしての技術的知見を活かせる医療・医薬品領域にはじまり、DXやSaaSを担うICT領域、自社工場の電力供給を賄う再生エネルギーや食糧(植物工場・昆虫飼料・地産地消コンセプトの食堂)、ファインケミカルなどへ展開しています。

その中で私はICT領域における新規事業開発課に所属しています。「Beyond Imagination 2030」の一環として2023年に新設された同課のミッションは、DXをテーマに社内で生まれたソリューションをプロダクト化し、世の中に価値を届けること。グループ企業である太陽ファルマ株式会社・太陽ファルマテック株式会社(医療・医薬品)、株式会社ファンリード(ICT)の3社を横断しながらSaaS事業を推進し、生成AI活用ナレッジマネジメントシステム『STiV(スティーブ)』を開発しました。現在は外販フェーズに入り、グループ内の専門性を掛け合わせて事業を進めています。

出発点はトラック2台分の紙資料。現場課題から生まれた『STiV(スティーブ)』の誕生秘話。

── 『STiV』とはどのようなシステムなのでしょうか?また、なぜ生まれたのでしょう。

『STiV』とは、社内外の膨大なデータを扱い、横断検索や文書生成、要約や壁打ちなどを効率化する生成AI活用ナレッジマネジメントシステムです。医薬品製造現場などを想定し、監査レベルが高かったり、厳しい情報管理が求められる環境でも活用できるのが特徴です。誕生のきっかけは、太陽ファルマの現場にありました。太陽ファルマは他の製薬会社様が長年販売してきた長期収載品(※特許が満期を迎えた先発医薬品)などをライセンスごと承継し製造販売する企業です。承継が決まれば、元々の製薬会社様から1品目あたりトラック2台分の段ボールが届きます。中には数十年前から蓄積されてきた試験記録、変更履歴、承認申請書、照会回答書……、まさに膨大な紙の山が入っています。引き継ぎに際して薬の製造工場や製造手順の更新が発生すれば、変更申請を行うため、厚生労働省へ関連する資料一式を踏まえた情報提出する必要があります。つまり、申請が生じるたびに紙の山から書類を探さなければいけないのです。さらに、申請に関する専門業務の回答のナレッジやノウハウは属人化しており、特定のベテラン社員の頭の中にしか存在しない。過去にあった同様の照会に対して回答に齟齬が生じれば、製薬会社としての信頼を損なうリスクさえある。そうした現場課題が『STiV』の出発点になりました。

── 現場課題をどのように解決されていったのですか?

転機となったのは、2022年後半から加速したAI技術。日に日に進化する能力には目を見張るものがあり、この技術を用いれば紙の山から抜け出せるのはないか?と、プロジェクトが立ち上がりました。そして、根拠に欠ける回答の生成やハルシネーションを回避し、あくまで人間が答えを見つけるための“生き字引”に徹させるという考え方が、プロダクトの方向性を決定づけました。そこで「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」という技術を採用します。簡単に言えばAIが正確な情報源を探し出し、特定された一次情報に基づいてはじめて回答を生成するというもの。全ての回答はシステム内に保管された論文、報告書、省令ガイドラインなどの膨大なドキュメント群のどこかに必ず紐づけられています。デジタル化が難しい手書きのメモや印鑑の陰影にいかに対応するかという点はOCR(光学式文字読取)を駆使し、トライ・アンド・エラーを重ねながら精度を上げていきました。こうして、生成AI活用ナレッジマネジメントシステム『STiV』が誕生し、社内で効果を発揮した事でプロダクト化に踏み切ることが出来ました。プロダクトの名前には「Share and Transform into Value(共有して価値に転換する)」という想いを込めています。

社内が“実験場”になり、社外は“成長エンジン”となる。

── 『STiV』誕生後、どのようなインパクトが生まれましたか?

効果は大きかったです。まず社内の業務改善においては、太陽ファルマの薬事部門で年間360時間を費やしていた資料の検索・調査を160時間にまで短縮できました。厚生労働省への申請や照会だけではなく、医師や薬剤師などの医療従事者からの問い合わせ対応業務でも、回答文面の作成時間が1件あたり平均60分から15分へと短縮され、生産性は実に4倍に高まるケースも見えてきています。誰が『STiV』を使用しても同じ根拠に辿り着けるので説明にムラが出ず、回答のナレッジやノウハウの属人化課題を解消でき、業務スピードと監査耐性を同時に向上させたのです。

また、これから『STiV』の活用が行き渡れば、業務の効率化だけではなく、製薬業界全体の品質担保にもつながります。製薬業界では、定められた製造方法、管理基準、試験規格などと乖離が起きる事を “逸脱”と呼びます。設備故障や意図的に偽った不正まで理由はさまざまですが、多くは大量の情報を管理しきれていないために起きるヒューマンエラー。時折、一つの薬が生産停止となり不足するニュースが流れてくるかと思いますが、逸脱が起きると業務停止命令を受けて薬を供給できなくなったり、最悪の場合は人の命に影響しかねない。もし逸脱した薬がインフルエンザやコロナのワクチンであれば数千万人規模に影響が生まれます。『STiV』を利用することでそのリスクを未然防止できるのです。

一方、現在の弊グループ内では製薬とは違うところでも効果を発揮しています。例えば、出張旅費規程の確認といった人事総務領域。これまではその都度PDFを探して、開いて、自分の等級を探し……、と手作業でしたが『STiV』に聞けば出典元のありかとともに答えを教えてくれます。

── 外販を開始されて、手応えはいかがでしょうか?

おかげさまで、製薬業界を中心に多くのお客様からお引き合いをいただいています。一方で、導入後に魔法のように課題が解決するとは考えていません。それぞれの現場の業務プロセスにどう組み込むのかを検証し、お客様が使いこなせないと意味がないからです。その点、製薬を深く理解したカスタマーサクセスチームが事業上の成果を出すまで徹底的にお客様を支援します。そうすることで伴走だけではなく、導入先からのフィードバックが寄せられ、私たちがまだ発見していない改善点に気づけるのです。太陽ファルマという実験場でベースを鍛え、社外はクオリティを高める成長エンジンにする。そんなユニークな循環と強みが生まれています。また、そうして集められた『STiV』のデータを基に、ユーザー企業様と大学教授方と共同研究を行い、学術誌『PHARM TECH JAPAN』に論文として発表しました。これは『STiV』が組織の業務効率化・知識レベルの向上に寄与し、業界全体のコンプライアンス意識の強化にも繋がるポテンシャルを示しています。

Message:大企業のなかで起業している感覚。資本とスピードを兼ね備えた舞台。

── プロダクトとしてのビジョンと、どんな仲間と『STiV』の成長期を歩んでいきたいかを教えてください。

プロダクトライフサイクルで言えば、『STiV』は一部の先進的な企業が導入をはじめる「導入期」を終え、本格的に拡大させていく「成長期」へと突入する前のタイミングにあります。今後の戦略の柱は二つあります。一つは、まずは国内での成功事例を積み重ね、圧倒的なシェアを獲得し、製薬業界のスタンダードとしての地位を確立する。そして、薬の製造ガイドラインは基本的にグローバルで共通されているので、海外各国の法規制などを『STiV』に学習させれば、やがて世界展開も可能です。

もう一つは、他業界への展開です。「規制が厳しい」「膨大な文書管理が必要」「専門知識の属人化が進んでいる」といった課題は、金融、法務、製造、建設など、他業界にも存在すると考えます。製薬で培ったノウハウを汎用化し、あらゆる現場で知のインフラを整備するプロダクトへと進化させていきます。

そのために、具体的なポジションでは『STiV』を世の中に広めて事業を加速させる「営業責任者」と、プロダクトのさらなる進化を担う「開発責任者」を少数精鋭で迎える予定です。求めているのは、経験豊富なプロフェッショナルというよりも「新たな市場を生み出す感覚」を共に楽しめる方です。

── 最後に、これから太陽ホールディングスでイノベーティブな挑戦をしたいと考える求職者へ向けて、メッセージをお願いします。

私自身、これまでさまざまな規模の企業を経験してきましたが、太陽ホールディングスのスピード感には正直驚かされました。トップ層との距離が近く、ロジックと情熱があれば「Go!」と背中を押してくれますし、『STiV』のように一つの現場課題からグループ企業を横断するプロジェクトが動き出すこともあります。スタートアップのような裁量で動きながら、大企業の信用とリソースを最大限に活用できるのは、チャレンジングなキャリアを突き進みたい人にとって最高の環境と言えるでしょう。

ルーチンに物足りなさを感じている、まだ名のない市場に旗を立てる当事者でありたい——。そんな想いがあれば、ぜひ扉を叩いてください。太陽ホールディングスが挑戦の舞台になります。そして、その挑戦はこれからのスタンダードになっていきます。私たちと世界を驚かせるものづくりをしましょう。お会いできる日を心から楽しみにしています。

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※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。