食の現場から社会を変える、ホシザキの技術革新。

飲食・宿泊・病院など、食を支える現場では人手不足が深刻化しています。ホシザキはフードサービス機器のリーディングカンパニーとして、凍結・解凍・保存・洗浄・ディスペンスのコア技術を軸に、品質と効率化の両立を推進してきました。象徴的なのが、真空マイクロ波解凍技術です。職人技に頼りがちだった解凍工程を“誰でも均一に”し、現場の持続性に新しい選択肢を提示します。今回は、執行役員 兼 中央研究所所長の佐々木誠氏に、最先端Techの現在地と未来像を伺いました。

佐々木 誠

1990年4月、ホシザキ電機株式会社(現 ホシザキ株式会社)に入社。以来、開発・設計領域を中心にキャリアを重ね、開発設計部門内の各部門長や中央研究所所長などを歴任し、技術開発の中核を担ってきた。2023年3月、執行役員(開発・技術部門担当)に就任。現在は中央研究所所長を兼任。

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コア技術を起点に、“食”の現場を支え続ける

── 取り組んでいる技術領域・事業概要について教えてください。

ホシザキは、フードサービス機器の開発・製造・販売を手がけ、飲食店をはじめとする幅広い“食の現場”を支えてきた企業です。製氷機や業務用冷蔵庫をはじめとする製品群で国内外に事業を展開しています。日本では、直販体制によって現場の声を直接吸い上げながら技術進化を続けてきました。単なる機器メーカーではなく、「食」に関わる課題を技術で解決する存在として、社会インフラの一端を担っています。

その根幹にあるのが、凍結・解凍・保存、洗浄、ディスペンスといったコア技術です。これらを単体の技術として扱うのではなく、長年培ってきた知見をもとに深掘りし、新たな価値へとつなげていくことを重視しています。社内での研究開発にとどまらず、大学や他企業との協業を通じて技術をインキュベーションし、実際の製品として社会に実装していく点が特徴です。

とくに凍結・解凍・保存の領域では、これまでのノウハウの蓄積が厚く、食材の鮮度や品質を維持するための重要な基盤となっています。そこに洗浄やディスペンスの技術を組み合わせることで、厨房全体の効率化や衛生管理、作業の均一化までを視野に入れた製品開発を進めています。単に機能を追加するのではなく、現場の作業やオペレーションそのものをどう変えられるかを考え続けている点に、当社の事業の本質があります。

人手不足の時代に、“おいしさ”を守る技術を

── 先端Tech開発/導入の背景について教えてください。

ホシザキが技術開発を進める背景には、「食」を取り巻く環境の大きな変化があります。飲食業界をはじめ、宿泊施設や医療・福祉の現場では、人手不足、気候変動による影響、食材費の高騰、鮮度管理、HACCP対応など、複数の課題が同時に押し寄せています。なかでも深刻なのが人手不足です。調理を担う人材だけでなく、食材や調理した食品を運ぶ物流の現場でも担い手が不足し、従来の体制では日々のオペレーションを維持すること自体が難しくなりつつあります。

こうした状況のなかで、負担を軽減する手段として冷凍食品の活用がさらに広がっていくと見られています。あらかじめ調理された食品を効率よく流通させることで、現場での作業を減らし、省人化につなげることができます。ただし、冷凍食品を本当においしく提供するためには、「上手に凍らせる」だけでなく、「上手に解凍する」技術が不可欠です。凍結の技術は長年進化してきた一方、解凍は依然として職人の経験や勘に頼る部分が多く、機械化が遅れている領域でもありました。

象徴的な例が、冷凍マグロの解凍です。刺身として提供する場合、一般的には塩水解凍を行い、その後冷蔵庫で時間をかけて温度をなじませる方法が取られます。丁寧に行えば高品質に仕上がる一方、塩水の濃度や時間管理などに一定の技量が求められ、作業にも時間がかかります。人手が足りない現場では、その工程を安定して行うこと自体が難しくなることも少なくありません。

こうした課題を解決する手段として開発されたのが、真空マイクロ波解凍技術です。マイクロ波で加熱しながら真空環境を組み合わせることで、食材の温度ムラを抑えつつ均一に解凍できる仕組みとなっています。経験や技量に頼らずとも、誰でもボタン一つで品質を安定させられる。そうした仕組みをつくることで、人手不足の時代でも“おいしさ”を維持できる環境を実現しようとしています。

現場の声から生まれ、現場で磨かれるモノづくり

── 働く社員のやりがいについて教えてください。

ホシザキの製品開発・設計には、約170名の技術者が関わっています。内訳は、設計部が約130名、開発部が約40名という構成です。開発部の中には、お客様の課題を起点に製品コンセプトを形にしていく「コンセプト企画」と、凍結・解凍などのコア技術を深掘りする「コアユニット開発」を配置し、現場のニーズと技術研究の両面から、新たな価値創出に取り組んでいます。

特長は、お客様の声が開発に直結する仕組みにあります。お客様の声をもとに、コンセプト企画がモックアップ(試作機)を製作し、実際の店舗や施設で使ってもらい、そこで得られた反応を再び開発へフィードバックする。そうした循環が日常的にあります。

お客様から寄せられる相談の多くは、人手不足を背景としたものです。たとえば、閉店後に行う清掃やメンテナンスの簡便化、ドリンクディスペンサーの自動化、飲料ボトルから別容器へ移し替える機構の開発など、作業の省力化と均一化に関するニーズが中心となっています。いずれの要望にも共通するのは、「誰でも簡単に、同じ品質で作業できる環境を実現したい」という現場の切実な想いです。

こうした相談が当社に集まりやすい理由の一つが、全国に広がる直販・サービス網の存在です。北海道から沖縄まで販売会社や営業所を展開し、多くの営業・サービス担当が日常的にお客様のもとを訪れています。そのため、課題が発生した際にも開発側が直接現場へ足を運ぶことができます。エンジニア自身がお客様と対話しながら企画段階から関わることも珍しくなく、「こういうものはできないか」という一言が新しい製品の出発点になるケースも少なくありません。

その環境の中で働くエンジニアのやりがいは、自分が設計した製品を最後まで見届けられる点にあります。少人数で一つの製品を担当するため、部分設計にとどまらず、製品全体を自分の手でつくり上げているという実感を持てます。完成した機械は営業や販売会社を通じて現場に届けられ、ときには自ら設置や説明に立ち会うこともあります。そこで使い勝手を聞き、喜びの声を直接受け取れる瞬間は、この仕事ならではの醍醐味です。

もちろん、お客様の声は良いものばかりではありません。改善点を厳しく指摘されることもあり、ときには強い言葉を受ける場面もあります。それでも、課題に向き合い続けた結果、現場の負担が減り、「助かった」と言ってもらえたときの達成感は大きいものです。仕様が決まったものを形にするだけでなく、アイデアを出す段階からお客様と一緒に考え、形にしていく。そうしたプロセスそのものが、開発設計に携わる社員にとって大きなやりがいとなっています。

技術は後から伸ばせる。成長を決めるのは、人と向き合う力

── 本事業領域において必要とされるスキルセット・キャリアパスについて教えてください。

前段で触れたように、ホシザキの開発現場は、お客様の課題に寄り添いながら少人数で製品全体をつくり上げていくスタイルが特徴です。そのため、求められる人物像も単なる専門性の高さだけでは語れません。製品に関わる技術的な知識は、入社後の教育で身につけることができるため、必須条件ではありません。一方で、製品開発は機械設計だけでなく、プロダクトデザイン、制御設計、営業、生産技術、品質保証など、多くの部門が関わります。分野の異なるメンバーと協力しながら形にしていくため、コミュニケーション力や主体性、そして「良いものをみんなでつくる」という姿勢が重要になります。

また、当社では開発と設計の連携を重視した独自の仕組みを整えています。かつては、開発で生まれたアイデアを製品化する前の段階で設計へ引き継ぐ方法をとっていましたが、解釈の違いや認識のズレからトラブルが生じることもありました。そこで現在は、開発着手審査、投資審査、生産審査といった複数の審査プロセスを設け、開発部が製品化に関わる審査プロセスまでを担当し、「設計着手段階」まで責任をもって形にしたものを設計部へ渡す体制を構築しています。さらに、新製品のテーマが立ち上がる際には、その製品を将来的に設計する若手メンバーを開発部へ一時的に異動させ、企画段階から一緒に関わる仕組みをとっています。製品化の着手段階まで進んだ後は、そのメンバーが製品化業務とともに設計部へ戻り、量産設計までを担う流れです。

この仕組みにより、設計者が企画・開発の初期段階から関わった製品に最後まで一貫して携わることができます。その結果、部門間の認識のズレは大きく解消し、さらに、設計と開発の双方を経験する人材が増えたことで、組織内に自然と共通言語が醸成されています。単なる役割分担にとどまらず、人の異動を通じて知見をつなぎ、製品の完成度を高めていく。そうした文化が根づいています。

社内の雰囲気も、こうした協働を後押しするものです。社内では役職に関係なく「さんづけ」で呼び合う文化が徹底され、部署ごとの壁や役員室などの個室もありません。役員も担当する部門のオフィスに席があり、フロアにはオープンな打ち合わせスペースが複数設けられ、自然と人が集まり議論が始まる環境が整っています。黙々と一人で作業を続けるというよりも、周囲の知見を取り込みながら技術を磨いていく風土が特徴です。

実際に活躍している人材のバックグラウンドも多様です。自動車業界などの異業種から転職してきたエンジニアも多く、大規模分業の中で部分設計を担ってきた経験を持つ方が、「製品全体に関わりたい」「自分が考えたものを形にしたい」という想いで当社を選ぶケースも少なくありません。入社後は全社的な研修に加え、技術部門内での専門教育、海外志向の人材に向けた語学研修など、成長を支える仕組みも整えられています。技術を磨きながら、人と協力して価値を生み出す。そのプロセスそのものを楽しめる方にとって、フィットする環境といえると思います。

技術で支えるのは、“おいしい”だけではなく社会そのもの

── 今後の展望について教えてください。

ホシザキが見据えているのは、機器開発の先にある“食の未来”です。食の現場ではすでに人手不足が常態化し、現場の運営のあり方そのものが変わり始めています。店長が担ってきたシフト管理や発注業務の負担、洗い場の人材確保の難しさなど、日々の店舗運営を支える役割にひずみが生まれている状況です。そこで当社は、凍結・解凍・保存の技術を軸に、自動化や作業の効率化を支える製品開発に取り組み、現場の負担を軽減する仕組みづくりを進めています。特に洗い場(食器洗浄工程)の自動化は重要なテーマの一つであり、接客や調理を志して入ってきた人材が洗い場業務で離職してしまうといった現実に対しても、技術で応えていきたいと考えています。

また、解凍技術の進化は飲食店にとどまらず、福祉施設や小規模な病院などにも新たな可能性をもたらします。早朝から仕込みを行う人材の確保が難しい現場では、セントラルキッチンで調理したものを各施設へ配送し、再加熱して提供する形が広がっています。今後、冷凍食品の活用がさらに進めば、必要な分だけ解凍して提供するスタイルが定着し、現場の負担軽減に一層寄与していくと考えられます。さらに、冷凍によって賞味期限を延ばし、必要な分だけ使う運用が浸透すれば、食品ロス削減にもつながります。技術の進化が、現場の課題解決と持続可能な食の仕組みづくりを同時に後押ししていく可能性を秘めています。

加えて、社内ではAIの活用も進められています。これまで蓄積されてきたクレーム事例や失敗事例、技術者の知見などは膨大で、必要な情報にたどり着くことが難しい場面もありました。そこで、チャットボット形式で過去の事例を検索・参照できる仕組みを整え、開発の精度向上と技術伝承の効率化を進めています。将来的には、ベテラン社員の経験や判断をデータとして残し、新しい世代の技術者が活用できる環境をつくることも視野に入れています。

当社の仕事の魅力は、自分が手がけた製品が現場で使われ、その価値が社会に広がっていく実感を持てる点にあります。製品がさまざまな場所で使われている喜びだけでなく、それが人手不足や食品ロスといった社会課題の解決に役立っていると感じられることが、大きなやりがいにつながります。食に関わる仕事を通じて社会を支えたい、技術の力で現場を変えたい。そうした想いを持つ方にとって、挑戦し続けられるフィールドがここにはあります。

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