「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者が語る AIで変わる10年後の生活(前編)
近年ますます注目される人工知能。「10年後には今ある仕事のうち、半分がロボットや人工知能(AI)に取って代わられる」というニュースが話題になったのも記憶に新しい。囲碁の対局では人工知能がプロ棋士に勝ち、医療分野では医師も特定できなかった病名を見抜いて難病患者を救うなど、テレビや新聞で人工知能の活躍を見聞きすることが多くなっている。
そこで、「人工知能は私たちを滅ぼすのか―計算機が神になる100年の物語(ダイヤモンド社)」の著者である児玉哲彦氏に、人工知能とはいったい何者で、私たちの生活をどう変えていくのか、どんな仕事であれば人工知能が普及した時代でも生き残っていけるのかを伺い、その内容を前後編に分けてお送りしたい。
後編:「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者が語る、10年後に必要とされる人材
――最初に、人工知能とはいったい何者なのでしょうか。
簡単に言うと、『人が作った知能』が人工知能です。では知能とは何か? という話になるかと思いますが、今日一般的に用いられている「人工知能」という言葉の前提は、『人間の知能は計算である』というものです。つまり、情報を計算することが人工知能である、と言えます。
――計算というと、電卓とかそういったものも人工知能に含まれるのでしょうか。
人工知能には3つの段階があると私は思っています。
第一段階には、計算機やエクセルのような自動的に計算できるもの。会社のデータべースからデータを取ってきて、そのデータを元にグラフを作ったりCSVを作成したりするということもこれに含まれます。
今まさに開発が進んでいる第二段階では、感覚的な情報を扱うことができるようになってきています。音声を認識するとか、人間の動きを認識する、画像に何が映っているかも認識する。そして第三段階では、ただ感覚的情報を認識して終わりではなく、その情報を元に『現実の世界で動く』、つまりアウトプットまでできるようになってきているんです。
――それは例えば、人工知能が自分の通り道にある障害物の大きさなどを認識して、避けたり動かしたりする、ということでしょうか。
その通りです。まず知能の定義には、今まで出会ったことのない状況でもその状況から判断をして行動をする、という意味が含まれています。不確実な状況を予測して行動するのです。逆の例で言うと、工場の中で決まった位置にビスを打つ機械はあまり賢いとは感じないですよね。『決められたプログラム通りにこなすこと』は知能としての段階は低いんです。
――囲碁で人工知能が人間に勝ったことがニュースになっていましたが、人工知能ということは、勝ち手がプログラミングされていたわけではなく、常に変化する盤面の状況から、有利な手を人工知能自ら考えて行動をしたことで人間に勝った、ということなんですね。
はい。そもそも囲碁の盤面のパターンは宇宙の原子より多いので、全パターンを記憶しておくことはできません。単純なパターン応答では到底勝つことはできないんですね。
最近の人工知能は囲碁の盤面を見て、なんとなくここのエリアが勝ってるぞ、負けてるぞ、だからここに置いたらいいんじゃないか、という視点で次の手を指しています。これって、人間もほとんど同じ仕組みで考えているんです。
人間の場合は脳の大脳新皮質というところで、次はこうなりそうだ、という予測を立てています。最近の人工知能はこういった人間の脳の仕組みを真似しているんです。
■進化する人工知能によって生活はどう変わるのか
――進化が著しい人工知能ですが、人工知能が普及することによって生活はどう変化するのでしょうか?
1週間毎日ラーメンを食べるとか、野菜を食べないなんて方もいるかもしれませんが、今後は食事や睡眠に関する健康データを保険会社が要求するようになってくるでしょう。データを見ることで、その人の健康リスクが見えやすくなるわけですから。そうすると、当然不健康な生活を送っている人は保険に入れなかったり、保険金額が高くなったりします。
そして、健康管理が経済的なインセンティブになってくると、ライフスタイルもきちんとせざるを得なくなる。そうなるとまず、朝二度寝をする、朝ごはんを食べない、運動をしない、ゲームをして夜更かしをする、といった生活はしにくくなると思います。
睡眠の管理はすでに進んでいて、自分のカレンダーの予定と連動して自動的に起こしてくれるアプリもあります。まさに、超管理社会の到来ですね。
――すごく大変そうですね。
便利になることも、もちろんたくさんありますよ。例えば、すでにネットでは個人にカスタマイズされた情報が手に入るようになっていると思いますが、テレビや新聞でもパーソナライズ化された情報が得られるようになってくるでしょう。
また、メールや通信履歴の内容から、スケジュール管理も人工知能が自動で行ってくれるようになるし、メールの内容次第では、自動的に返信することも簡単なのではないでしょうか。
さらに、移動手段も変わると思います。公共交通も残ると思いますが、自動運転とカーシェアがかなり普及してくるでしょう。駅をハブとして人が移動するのではなく、自動運転やカーシェアで交通もインターネット型になって自由に行き来ができるようになる。
すると満員電車に乗って通勤する必要もなくなるし、駅近物件の価値も変化するかもしれません。
これも10年後くらいには広がってくると思います。
――家事はどうでしょうか?
掃除・洗濯は、もう15年くらいで自動化されると思います。すでにテクノロジーはできあがっているので、あとは高速化とか精度を上げていく段階ですね。また子育てという点では、子どもに静かにしておいて欲しいときにはYoutubeが勉強や遊びなど、子どもの興味に合う動画を提供してくれて、とても役立っているのではないでしょうか。音声応答がさらに高度化すれば、アニメのようにロボットが子守りをする世界が現実のものになるかもしれません。
■人工知能によってSFの世界が現実化する可能性は?
――生活が便利になりそうだとワクワクする一方、SF映画のように人間の司令に対して、指示をはねのけたり反乱を起こしたりする人工知能が生まれるのではないか? という不安に関する議論もあるかと思いますが、いかがでしょうか?
食べる・子孫を残すといった『生命的欲求』と『知能』のどちらが強いかを比べたら、『生命的欲求』の方がより生命体にとっては根本的ですよね。でも、人工知能というのは、人間の『知能』だけを抜き出しているので、『欲求』はないんです。だから『お腹が減ったから何か食べたい』とか『モテたい』といった欲求は持っていません。
また、人工知能に欲求を持たせるか否かの議論についてですが、個人的には、人工知能に欲求は持たせない方がいいと思っています。それこそ、SF映画のようにコントロールできなくなる可能性がありますからね。
――世界的にも「欲求」を持たせない方がいい、という流れなんでしょうか?
そもそも人工知能に欲求を持たせよう、というのは非常に日本人的な考えなんです。
欧米ではキリスト教の影響が強いため、人間のようなものを作れるのは神様しかいないという考えが一般的。逆に日本は、生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂が宿っているというアニミズムの考えが根強いんです。
だから、擬人化やキャラクター化が多いのかもしれません。こういった宗教観もあって、今は欲求を持たせないという方向で進んでいます。
◎前半のインタビューを終えて
インタビューの前編では、人工知能とは何か、どのように健康管理や家事に影響を与えるのか、また、人工知能には欲求を持たせた方がよいのか、といった疑問について児玉氏の考えを聞くことができた。
後編では、人工知能の普及でビジネスはどう変わり、どんな人材が今後必要とされるのか、今から私たちに何ができるのかを伺っていく。
後編:「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者が語る、10年後に必要とされる人材
<プロフィール>
児玉哲彦氏
1980年、東京に生まれる。父親のMIT留学に伴い、幼少時代をボストンで過ごす。10代からデジタルメディアの開発に取り組む。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにてモバイル/IoTの研究に従事、2010年に博士号(政策・メディア)取得。頓智ドット株式会社にて80万ダウンロード超のモバイル地域情報サービス「tab」の設計、フリービット株式会社にてモバイルキャリア「フリービットモバイル」(現トーンモバイル)のブランディングと製品設計に従事。2014年には株式会社アトモスデザインを立ち上げ、ロボット/AIを含むIT製品の設計と開発を支援。大手からスタートアップまでを対象に幅広い事業に関わる。現在は外資系IT大手にて製品マネージャーを務める。