「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者が語る AIで変わる10年後の生活(後編)
前編では、人工知能とは何なのか、人工知能の出現によって私たちの生活がどのように変わるのかを中心に「人工知能は私たちを滅ぼすのか―計算機が神になる100年の物語(ダイヤモンド社)」の著書・児玉哲彦氏に話を伺った。
後編では、人工知能で失われる仕事と、どんな人材が必要とされるのか、10年後に備えて何をするべきなのか、ビジネスパーソンの未来に関わる大きな課題についてお話しいただいた。
前編:「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者が語る AIで変わる10年後の生活
――「10年後には今ある仕事のうち、半分がなくなる」と言われていますが、児玉さんはどのようにお考えでしょうか。
バックオフィス系はほとんど人から人工知能に置き換わると思います。経理や総務、人事も一部は置き換わるでしょう。例えば会議室の管理などは、音声認識ソフトが代わりにやってくれるようになると思います。
――「人事も」と仰いましたが、採用活動も人工知能で行われるようになるのでしょうか?
採用はちょっと難しいでしょうね。人工知能が特定の用途に使いにくい理由を、『評価関数がない』っていう言い方をするんですけど、採用はまさにそれなんです。
能力の部分だけを見て採用するのって難しいじゃないですか。人柄や会社との相性、ビジョンが合うかといった問題もありますよね。役員とものすごく気があって採用される場合もあるかもしれない。採用は人間の主観的な判断が大きく関わる部分なので、定量的な評価軸から物事を判断する人工知能との相性は良くないかもしれません。
■失われる仕事がある中、今後も生き残れる人材とは?
――人工知能が普及すると今までと評価される人材も変わってくるのでしょうか。
人工知能が当たり前の世界では、真面目にタスクをこなすタイプの人は、現代と違って尊敬されにくくなります。それはロボットがやればいい、という考えが普及してくるんです。だから色んなことがそつなく出来るゼネラルタイプよりも、すごくニッチな人材の方が求められるようになると思います。
例えば私が創業したアトモスデザインというデザイン会社の場合ですが、受託開発をやっているにも関わらず、ウェブサイトに連絡先を一切開示していないんです。そして作る製品は思いっきりニッチな製品になっている。口コミや紹介じゃないとこの会社にはたどり着けないので、逆に顧客はその会社がどんな製品を作るのか知っているし、依頼意欲も強い段階でお互い繋がれるので、効率がいいんです。
――プログラミングもできて、農業もできて、コンサルティングもできる、といった一見離れていそうなキャリア経歴でも、その方がオリジナル性があって良い、という考えもあるかと思いますが、いかがでしょうか?
何ができるかも大事ですが、結局は価値観とか意志によってどれだけ事業をデザインできるかだと思います。『ウェブ進化論』の著者・梅田望夫さんが提唱されている、『高速道路の先理論』というものがあります。最近では色んな情報が得やすくなり、ある程度までは高速道路のように昔よりもすぐに手に入れることができるようになりました。だからこそ、高速道路の先で得た知識や情報を統合して、何かを作り出せるような『複数のものを統合して新しい価値を創り出す力』、いわゆるプロデュース力が大切なのではないでしょうか。
――『複数のものを統合して新しい価値を創り出す』というのは、とても難しいことだと思うのですが、その力が『ない人』と『ある人』の大きな違いはなんでしょう?
この力ばかりは経験することでしか磨かれないと思います。なぜスティーブ・ジョブズがあんなにコンピューターで成功してるかというと、世界で一番色々なコンピューターを生み出しているからでしょうね。失敗した、と世間に思われても何度もPDCAを繰り返し、新しい価値を作ることを繰り返さないといけないと思います。
■人工知能時代にも生き残れる人材を育てるには
――これから生まれてくる子どもたちは、生まれながらに人工知能と共存してくわけですが、教育も変わってくるのでしょうか。
とても興味深いことに、世界的に活躍しているIT企業のエンジニアには、シュタイナー教育を受けている人がとても多いです。
シュタイナー教育というのは、初等教育における教育法のひとつなのですが、子どもに講義などは行わないし、何も教えないんです。その一方で、感覚刺激を与えられる遊具や環境を用意して自由に行動させます。例えばスマートフォンで動画を見続けるような受動的な楽しみだけではなく、子どもが主体性を持って遊んだり、ものづくりをしたりする上でのヒントを得られます。
形式的な数式を解くことや、記憶力の部分は人工知能が得意とするところなので、ここが出来てもあまり意味がなくなってくる。人工知能ができない、創造性やプロジェクトを作り上げる力を伸ばしていくと、今後の世界では活躍できるかもしれません。逆に数学の天才になって人工知能の作り手に回るというのもいいですけど、その道はかなり突き詰めることができる人でないと難しいかもしれません。
■人工知能時代に備えて今から何をすればいいのか
――今からでも、人工知能の普及の前にしておいた方がいいことはありますか?
まずは新しいテクノロジーやソリューションを恐れずに試してみるということ。まだどんなテクノロジーがベストかは決まっていないので、クラウドがどんなものか、AR(仮想現実)がどんなものかということを体験して、試行錯誤してみましょう。
また、最先端の技術に対応できるかは、環境もすごく大事です。過去の遺産を使い続けている企業に居て新しい情報や技術に触れられないというのは、キャリアにとっては良くはないかもしれません。
更に言うと、今はまだプログラミングができればエンジニアとして評価されるといったことがありますが、これからはプログラミングも基礎的な能力になってしまうでしょう。すでにバックオフィスの人も含めて、全社員がプログラミングをできるようにしようと動き出している会社も出てきています。これからの未来を生きる人は、プログラミングを「エクセルが使える」くらい基礎的な能力だと思って、今からでも学んでおいたほうがいいでしょうね。
■最後に
――人工知能時代を生きるビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
人工知能が出来ることや得意なこととは競争せずに、人間しか出来ない領域で勝負していってください。評価関数があって、自動化できるものは機械に置き換えられる可能性が高いため、そうではない価値観を追求し、チャレンジしていくことが、人工知能が普及しても活躍できる人材であるためには、回り道のようで一番の近道だと思います。
――ありがとうございました。
◎インタビューを終えて
今回のインタビュー記事をご覧になり、「人工知能で本当に自分の仕事が劇的に変わるのか?」と思っていた方も、少しずつ人工知能の活かし方、共存する姿が見えてきたのではないだろうか。
今後人工知能は、私たちの煩雑な作業を請け負ってくれる、頼れる存在になるだろう。そして、人間が本来持っている創造性や文化の発達に人間自身がより注力しやすい環境を整えることにも大いに力を発揮してくれるのではないだろうか。すぐ先の未来に訪れる人工知能という存在を、人間である私たちも今から受け入れる準備をしていくことが必要なのかもしれない。
前編:「人工知能は私たちを滅ぼすのか」著者が語る AIで変わる10年後の生活
<プロフィール>
児玉哲彦氏
1980年、東京に生まれる。父親のMIT留学に伴い、幼少時代をボストンで過ごす。10代からデジタルメディアの開発に取り組む。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにてモバイル/IoTの研究に従事、2010年に博士号(政策・メディア)取得。頓智ドット株式会社にて80万ダウンロード超のモバイル地域情報サービス「tab」の設計、フリービット株式会社にてモバイルキャリア「フリービットモバイル」(現トーンモバイル)のブランディングと製品設計に従事。2014年には株式会社アトモスデザインを立ち上げ、ロボット/AIを含むIT製品の設計と開発を支援。大手からスタートアップまでを対象に幅広い事業に関わる。現在は外資系IT大手にて製品マネージャーを務める。