2万人の現場とデジタルを繋ぎ、鉄道を未来へ。JR西日本が挑む、持続可能なインフラへの変革

少子高齢化、労働力不足、そしてコロナ禍がもたらしたライフスタイルの変容。100年以上の歴史を誇る鉄道事業は今、かつてない大きな転換点に立っています。この巨大なインフラを未来へとつなぐため、DX戦略を劇的に加速させているのが、JR西日本の「イノベーション本部 鉄道DX部」です。「鉄道は、データの宝庫。でも、そのポテンシャルをまだ使い切れていない」。そう語るのは、新卒入社で現場の最前線を熟知する茨木さんと、総合コンサルティングファームから転身した新沢さん。異なるバックグラウンドを持つ二人が、なぜ今「鉄道×DX」に心血を注ぐのか。そして、IT・AI人財にとって、JR西日本という広大なフィールドがどれほど刺激的な「キャンバス」であるのか。変革の核心を伺いました。

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「部門の壁」を壊し、技術で2万人の鉄道現場をリードする

──まずは、お二人が所属する「イノベーション本部」の立ち位置とミッションを教えてください。

茨木:イノベーション本部自体はコロナ禍前から存在していましたが、そのミッションはより明確になっています。「イノベーションの力で新しい価値を創造し、経営課題を解決していくこと」。これが私たちの存在意義です。鉄道事業には長年培ってきた固有技術のベースがありますが、それをデジタルの力でさらに発展させ、持続可能なものにアップデートしていく。本部内には鉄道DX部のほかに、次世代モビリティグループや国際事業室などがあり、あらゆる角度から「これからの鉄道のあり方」を検討しています。

── イノベーション本部設立の背景を教えてください。

茨木:鉄道には、駅、運輸、車両、施設(保線・土木・建築・機械)、電気(電力・信号・通信)、システムといった「系統」と呼ばれる専門領域があります。社員約2万5,000人のうち、9割はこうした鉄道の現場にいます。これまで各系統は、自分たちの業務を効率化するために特化した「レガシーシステム」を個別に構築し、運用してきました。しかし、それでは部門を跨いだ最適化が難しく、システムコストもかさみます。そこで私たちが「横串」を刺す役割を担うことになりました。系統の垣根を超えて技術を連携させ、全体最適をデザインする。いわば、グループの未来を技術でリードしていく「司令塔」のような組織、それがイノベーション本部です。

新沢:私たちが所属する「鉄道DX部」は、その中でも「本業」である鉄道領域に特化しています。不動産や物販、ポイントサービスなど多角化が進むJR西日本の事業領域において、根幹となる事業は鉄道です。この巨大な物理インフラと膨大な現場オペレーションを、いかにデジタルで変革するか。そこに力を注いでいます。

鉄道の持続可能性をかけた、切実なDXの裏側

── なぜ今、そこまでDXに注力されているのでしょうか。

茨木:背景にあるのは、非常に強い危機感です。コロナ禍で人の移動が制限された際、鉄道事業がいかに外部環境に左右される「危うさ」を持っているかが浮き彫りになりました。さらに少子高齢化によって、設備のメンテナンスを支える人手の確保が年々難しくなっています。「これまで通り」のやり方では、安心・安全な鉄道をいつか維持できなくなる。いかに持続可能なインフラであり続けるか。その答えの一つがDXにあると考えています。

── システム部門としては「デジタルソリューション本部」が存在するとお聞きしましたが、その役割も、以前とは変わってきているのでしょうか。

茨木:はい。これまでシステム部門といえば、グループウェアや社内ネットワーク環境の整備、基幹系業務システムの保守・運用といった「社内インフラ構築・保守」が主でした。しかし今の私たちは、現場の「業務そのもの」を見つめ直し、整理するところから始める必要性を感じています。単純な既存業務のシステム化ではなく、業務をどう整理すればシステム化しやすくなり、その結果現場の負担が減り、生産性が上がるのか。鉄道現場のプロフェッショナルたちと伴走しながら、業務変革(DX)に取り組んでいるところです。

新沢:「旧態依然とした仕事、効率の悪い仕事」をテクノロジーで改善し、もっとクリエイティブで魅力ある鉄道業務に変えていきたい。そのために、システムの「全体最適化」と「コスト削減」、そして「シンプル化」を目指しています。

「データの民主化」が、安全と安心の新しいスタンダードを作る

── 具体的なプロジェクトについて伺わせてください。新沢さんが担当されている「MDM」とはどのようなものでしょうか。

新沢:MDMは、マスターデータマネジメントの略称です。現在、データに基づいた鉄道事業経営を実現するためにMDM担当として、部門横断でのデータ整備を行っています。具体的には、パッケージシステムの導入を見据えた大規模な基幹系業務システムの統合に向けた検討を開始しており、経営判断に必要な、正確で統一されたデータ基盤の構築を進めています。これまでは、部門ごとにデータの持ち方がバラバラで、例えば同じ「駅」についてのデータでも、それぞれの部門が独自の業務や基幹システムに特化したデータを作り込んで運用してきました。しかし、部門を横断したデータの利用・分析や、今回のようなシステム統合プロジェクトでは、データの定義が一致していなければ正しい利用はできません。そのため、MDMを通じてこれらを一元化し、シームレスに連携できるよう取り組んでいます。さらに、ある部門が他部門にとって有意義なデータを持っていても、部門を跨いで簡単にアクセスでき、誰が見ても使いやすい環境が整備されていないと意味がありません。こういった鉄道のデータ環境を整えることが、私たちが目指す「データの民主化」です。本来、現場の方が労力をかけるべきではない「データの転記」や「読み換え」といった手間をなくすことで、社員は安全に関わる重要な業務や、より付加価値の高い業務にリソースを集中できるようになります。さらに、将来的にAIを業務や経営判断に活用していくためにも、こうした前提となるデータ環境の整備が不可欠だと考えています。

── 茨木さんは「リアルタイムデータ基盤」を担当されていますね。

茨木:はい。当社には運行管理システムという、列車の運行を制御する極めて高いセキュリティレベルが求められる重要なインフラシステムがあります。このシステムが持つ情報はリアルタイムに走る列車に関する様々なデータを保有しており、鉄道事業を始め、色々な事業領域に有用な価値を秘めています。しかし、そこから例えば「いま列車がどこにいるか」というデータを抽出するだけでも、これまでは膨大な工事費用と長い期間を経てパイプライン構築が必要でした。この課題を解決するために、汎用的にデータを使いやすい形で配信できる環境として、「鉄道運行系リアルタイムデータ基盤」を構築しました。データを使いたい人がAPI連携で従来よりも容易にデータを取り出せる環境を整えたのです。

── その成果が、私たちのスマホにも届いているわけですね。

茨木: その通りです。例えば「WESTERアプリ」の「マイ駅時刻表」では、これまで固定の時刻表しか表示できませんでしたが、この基盤を通じて、現在の遅延状況が反映された「生きた時刻表」を提供できるようになりました。「コストや時間がかかるから」と諦めていた便利な機能を、低いハードルで実装できるようになったと言えます。こういったデータの環境整備は社内向けの価値提供が第一歩であることが多く、一見すると直接的な価値が見えにくいですが、これを基盤に業務の変革が進み、鉄道の「安定性」向上につながり、その安定性の積み重ねが、結果としてお客様への「安全性」と「利便性」につながっていく。私たちはそう考えています。

内製開発で「現場の当たり前」をアップデートする

── 鉄道のデータ環境整備の一方で、現場に密着したアプリ開発も盛んだと伺いました。

茨木:部内ではシステムの「内製開発」も推進しています。これまで紙やExcelのバケツリレー、口頭による伝達などで運用していたアナログな業務や手間のかかる申請・承認業務などの業務プロセスを再設計し、生成AIやローコード開発ツールといった最新のテクノロジーを活用しながら、可能な限り社員自らの手によりシステム化を進めています。例えば、ローカルな環境に眠っていた業務ナレッジデータを整理し、生成AIの機能を組み込んだアプリケーションを作ることで、情報検索の効率や精度の向上、知識の形式知化につなげています。他にも、オフィスの来客受付システムや関係者が多岐にわたる業務フロー管理システムの内製化など、本当に外注で進めるべきシステムの開発にリソースを割けるよう、社員の力でできること・やるべきことは何かを見極め、現場と連携しながら開発に取り組んでいます。

新沢:これらは一見、小さなことに見えるかもしれませんが、2万人規模の現場で積み重なると、創出される時間は膨大です。二重入力をなくし、業務をシンプルにする。こうした「手触り感のある変革」を、自分たちの手で形にできるのが今の仕事の面白さです。

巨大インフラを「当事者」として動かす面白さ

── 新沢さんはコンサルティング業界からの転身ですが、JR西日本に入って感じたギャップはありますか?

新沢:最大の違いは、やはり「オーナーシップ」です。コンサルタントも非常にやりがいのある仕事ですが、あくまで「支援」の立場であり、最後はクライアントの判断に委ねられます。しかし、事業会社では、自分たちの意思でプロジェクトを動かし、最後までやり切らなければなりません。鉄道という社会に不可欠なインフラを動かしているという使命感は、何物にも代えがたいものがあります。また、イノベーション本部は部門の垣根を越え、多様な人財が集まる組織であるとともに、年次に関係なく大きなプロジェクトの裁量を任されます。社外の最新AI事例を学んだり、他社の有識者と情報交換したりと、常に刺激を受けながら成長できる環境です。

── 現場出身の茨木さんから見て、外部のIT人財には何を期待していますか?

茨木:私たち現場出身者は、どうしても自分の「系統(部門)」の常識に縛られがちです。だからこそ、フラットな視点で全体を俯瞰し、「そもそもこの業務、必要ですか?」「このデータを使えばもっと良くなりますよ」と提案できる外部の知見を必要としています。鉄道DXの現場は、決して「テクノロジーありき」ではありません。自ら現場に飛び込み、業務を理解し、泥臭く課題を解決していく。そうした姿勢を持っていただける人財にとって、これほど巨大で、かつ改善の余地があるキャンバスは他にないと思います。

100年続く鉄道を、あなたの技術で「再定義」してほしい

── 最後に、これから一緒に働く仲間へメッセージをお願いします。

茨木:鉄道は、知れば知るほど奥が深く、面白い業界です。自分の携わる仕事が数十万、数百万人の日々の移動を支える一端を担うと思うと、とてもやりがいがあるのではないかと思います。私たちには無い新しい視点を持つ方と共に、さらなるイノベーションを生み出していけると嬉しいです。

新沢:「インフラ企業は硬そう、古そう」というイメージは捨ててください。サービスや業務等の改善だけでなく、社員の柔軟な働き方の促進や風通しの良い風土醸成など、働きやすさも追求しています。伝統を守ることも大切ですが、それを可能な限り最新技術でアップデートして、新しいスタンダードを一緒に作っていきましょう。

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※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。