中途採用の選考の中で「適性検査」を導入する企業もあります。目的を持って利用するサービスを選ぶことが大切です。そこで今回は、中途採用における適性検査の選び方や導入の目的、活用方法などについて、代表的な適性検査「SPI」にフォーカスし、開発元であるリクルートマネジメントソリューションズの測定技術研究所 研究員の新井一寿さんにお話を伺いました。
目次
適性検査とは
適性検査とは企業が採用活動を行うにあたって、応募者の能力や人物特性を把握するために取り入れる検査です。業種や職種によって必要とされる能力は異なるため、適性検査によって、応募者が採用ポジションにふさわしいかどうかを判断する一つの指標として考えられています。
適性検査にはさまざまな種類があり、広く導入されている適性検査が「SPI」です。2021年年12月期実績で、年間で1万4400社に利用され、215万人が受検しています。SPIは新卒採用で実施するイメージを持つ人がいるかもしれませんが、中途採用にもSPIは広く活用されています。
新卒採用の場合は、複数の応募者を客観的に、かつ公平に選定する目的で適性検査を導入する企業が多く見られますが、SPIは本来、新卒・中途を問わず「一般企業人として必要な資質」を見るための検査であり、近年は中途採用でも多く使われています。
適性検査(SPI)の種類
SPIの検査は主に「能力検査」と「性格検査」の2つが実施されます。企業や採用ポジションによっては「英語能力検査」「構造的把握力検査」を合わせて実施するケースもあります。
能力検査
能力検査とは、業務を行ううえで必要な基本的な知的能力を測る検査です。話の要旨や言葉の意味を的確に理解する能力を測る「言語分野」と、論理的な思考力や数的処理能力を測る「非言語分野」で構成されています。コミュニケーションや思考力、新しい知識・技能の習得などのベースとなる能力が測定されます。
性格検査
性格検査とは、受検者の人物特性を測る検査です。普段の行動や考え方に関する質問を通して、「どのような人物なのか」「どのような仕事が向いているか」「自社のカルチャーに馴染めそうか」などを判断するための材料として行われます。受検者に対する質問は、普段の行動や考え方について提示し、どの程度当てはまるのかを選択するものです。
適性検査(SPI)導入の目的・活用方法
企業がSPIを導入する主な目的は、「応募者の人となりを把握するため」です。SPIの検査結果をもとに「自社に合う人材かどうか」「募集職種で求める能力や性格を持ち合わせているか」「入社後に定着・活躍してくれるか」などを知る材料となります。
特に、適性検査は性格や能力など、書類や面接で見えにくい資質的な側面を見るのに適した検査です。応募者と自社や職場との相性、フィット感を確認する際により活用できるでしょう。
またビジネス経験の豊富な応募者の場合、面接など人前で話すことにも慣れています。そのため、面接の中で応募者本来の資質が見えづらいこともあるかもしれません。そのような場合に、客観的な指標として適性検査を活用し、冷静に応募者の人となりや特徴についての理解を深めることができます。
その他、企業での主なSPIの活用方法は下記の通りです。
- 入社後の配属先を決めるための参考情報
- 入社後に配属先の上司に入社者を理解してもらうための参考情報
- 採用活動の振り返りや改善を行うための参考情報
適性検査(SPI)の実施方法
SPIを実施する方法は主に4種類あります。それぞれの特徴について解説します。
テストセンターで実施
テストセンターとは、SPIの受検方法の1つです。受検者にリクルートマネジメントソリューションズが運営する専用会場のパソコンで受検してもらう方法(リアル会場)と、受検者に自宅などのパソコンから、専用のシステムを通して監督者の監督のもと受検してもらう(オンライン会場)2つの方法があります。
リアル会場でもオンライン会場でも不正受検防止の取り組みを行っています。
詳細は以下をご参照ください。
Webテスト
Webテストは受検者に適性検査のURLを送り、受検期間を指定したうえでパソコンから受検してもらう方法です。スマートフォンから受検できないので、パソコンから受検してもらうように応募者に案内する必要があります。
インハウス
インハウスとは、受検者に会社に来てもらい、社内のパソコンで受検してもらう方法です。インハウスの場合は、回答後すぐに結果が分かるため、面接の直前に受検してもらい、その結果に基づいて面接を行うケースもあります。
ペーパーテスト
ペーパーテストは自社で手配した会場で、受検者に紙のテスト用紙に回答をしてもらう方法です。会場や監督者を手配する必要があるため、少人数の受検ではなく大人数の受検者がいる場合に検討するとよいでしょう。
適性検査(SPI)を実施するタイミング
中途採用の選考にSPIを組み込む場合、一次面接の前、あるいは一次面接と同日に実施することが多いようです。Web上で受検する場合は一次面接前、ペーパーテストの形式で受検する場合は一次面接と同日、といったように受検方法によっても実施タイミングが異なります。
適性検査(SPI)を選考に取り入れる際の注意点
SPIを選考に取り入れる場合、どのような点に注意したらよいのでしょうか。知っておいていただきたい2つの注意点をご紹介します。
ひとつの側面だけで判断しない
書類選考前後にSPIを行う場合の目的の一つに、面接に進む応募者の選定が挙げられます。このとき「検査結果を総合的に見て判断する」ということを意識するようにしましょう。
募集職種によっては、業務上高い知的水準が求められることがあり、このような場合、能力検査の結果だけを見て、次の選考に進めるか進めないかの判断をしてしまうことがあります。もちろん、業務上必要な能力検査の水準はありますが、その一面のみを参考にするのは避けた方がよいでしょう。なぜなら、「募集職種に合うのはどのような性格の人材か」「入社後の部署や会社のカルチャーに合うのはどのような人材か」など、性格面でのマッチ度も入社後の定着や活躍のために非常に重要です。総合的な検査結果を参考にして、選考を行うようにしましょう。
適性検査の効能と限界を理解しておく
適性検査は受検者の資質などを把握するための補助ツールであり、検査結果は受検者の人となりを100%表したものではありません。「適性検査の結果をもとに面接を行ったが、結果とは違う雰囲気の人だった」ということはあり得るものです。
例えば、内向的な側面があるという検査結果だったとしても、これまでの経験から積極的に他者とコミュニケーションを取るようなスキルを身に着けている可能性も考えられます。適性検査は受検者のある一側面を切り取ったものであり、あくまでも参考情報であることを理解しておきましょう。
適性検査の選び方
ここまではSPIについて中心に説明してきました。
この段落では、SPIを含めて数多くある適性検査全般の中から、自社に合う適性検査を選ぶためのポイントを解説します。
品質が担保されているか
適性検査には、さまざまな種類があります。信頼性、妥当性、標準性などの観点から、品質が担保されているサービスを活用するとよいでしょう。
適性検査の品質については以下をご参照ください。
また、適性検査の内容がその時代のニーズに合っているか、またニーズに合わせて定期的に改善やメンテナンスが行われているかどうかについて確認することも大切です。
実績があるかどうか
適性検査を選ぶ際は、過去の受検者数が多く、実績があるかどうかもポイントです。
適性検査によっては全国の受検者と相対的に比較しながら、応募者の資質の理解につなげることができます。受検者数が多いほど、相対的に自社の応募者を判断できるので、より有力な参考情報になり得ます。
自社で用意できる予算・リソースとマッチするかどうか
適性検査を実施するには、費用と自社内で対応する工数が発生します。
費用は適性検査の内容や運営企業によっても異なりますので、気になる適性検査を複数比較し、自社の想定コストから算出するとよいでしょう。
自社内でかかるリソースについては、実施方法によって大きく変わります。
前述したSPIの実施方法を例にして考えてみると、インハウスの場合は検査結果がすぐわかるという利点がある反面、パソコンや会場の用意や監督官の選定など、自社で行わなくてはならないこともあります。一方、テストセンターの場合は社内の工数はほぼかかりませんが、インハウスのように受検直後に面接を行うことはできません。
どのような検査を行いたいのか、想定予算はどのくらいか、社内のリソースはどの程度使えるのかなどをもとに、導入する適性検査を選定するとよいでしょう。
受検後に活用しやすいかどうか
適性検査は受検後に活用しやすいかどうかという観点でも選ぶことができます。応募者に適性検査を受検してもらうと、一般的には「報告書」という形で受検結果を受け取ります。報告書の内容は適性検査を運営している企業によってさまざまです。例えば、採用担当者が選考の判断材料となる情報に加えて、入社後に上司が活用できるような情報や受検者にフィードバックするための情報などを用意してくれることもあります。適性検査の結果をどのような場面で活用したいかを考えてから、依頼先を検討してみましょう。
適性検査(SPI)を利用して自社に合う人材の採用を
適性検査は、選考に取り入れることで応募者の知的能力と人物特性の客観的なデータを把握できます。その中でも、広く導入されているSPIは、採用時だけでなく、入社後の育成などにも適性検査は活用できます。SPIの特徴を理解してうまく活用し、入社後に活躍できる人材の採用確率を高めましょう。
新井 一寿
2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。採用領域のアセスメントや従業員向けサーベイの研究・開発に携わる。その後SPIのコールセンターやテストセンター運営・採点物流のマネジメントを経験し、2017年より現職。SPIをはじめとする適性検査の開発・品質管理や心理測定技術に関する研究を担う。