雇用契約書とは

企業が従業員を雇用すると、雇用契約を結びます。この際、書面にて労働条件を明示する必要があります。今回は「雇用契約書」の作成について、労働条件通知書とどのように違うのか、どのような内容を記載すればいいのかについて、社会保険労務士・岡佳伸氏の監修のもと解説します 

雇用契約書とは? 

雇用契約書とは、企業が従業員を雇用する際に取り交わす契約書です。労働条件を明示し双方の合意を得るために発行され、お互いの押印または署名などにより契約の締結を行います。雇用契約は口頭でも成立するものであり、雇用契約書の締結は法律では義務付けられておりません。 

雇用契約書と労働条件通知書との違い 

雇用契約書と間違われる書類の一つに「労働条件通知書」があります。 

労働条件通知書は、雇用契約書同様に、賃金や就業場所、始業・終業の時刻などの雇用条件(労働条件)が記載された書類です。労働条件の記載については、法律で明示項目が定められており、明示項目がすべて記載されているのであれば「労働条件通知書」という名称ではなくとも構いません。企業の中には、雇用契約書内に明示項目を記載するケースもあるようです。 

雇用契約書を発行するタイミング 

内定を出すと同時に「労働条件通知書」を作成し、雇用条件を通知することが一般的です。「求人・求人広告に雇用条件を明記してあり、応募者はその条件を承知した上で応募している」「面接の場で勤務時間・勤務地・雇用形態などの条件を伝え、承諾を得た」といった状況であるとしても、内定のタイミングで正式な書面によって最終確認をとる必要があります。 

一方雇用契約書は、労働条件通知書と同時に提示されるケースもありますが、企業によっては内定承諾後や、入社日に雇用契約を結ぶケースも見られます。 

雇用用契約書・労働条件通知書の必要項目 

労働条件の明示項目として法律で定められているのは、以下のとおりです。 

書面の交付による明示事項(絶対的明示事項) 

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 就業の場所・従事する業務に関する事項
  3. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務に関する事項
  4. 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
  5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  6. 昇給に関する事項
  7. 就業場所・業務の変更の範囲
    ※有期契約の場合は更新上限、無期転換権発生後は無期転換申込機会、無期転換後の労働条件の明示が加わります。 

参考:厚生労働省 令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されますhttps://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080267.pdf

口頭の明示でも良い事項(相対的明示事項) 

8. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項 
9. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項 
10. 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項 
11. 安全・衛生に関する事項 
12. 職業訓練に関する事項 
13. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 
14. 表彰、制裁に関する事項 
15. 休職に関する事項 

実務的には雇用契約書・労働条件通知書ともに就業規則等を併せて交付することで、全ての労働条件を伝えることが出来ると言えます 

雇用契約書と労働条件通知書は電子化可能 

労働基準法改正により、2019年4月1日から雇用契約書と労働条件通知書は紙での交付に限らず、電子化が可能となりました。印刷・郵送が不要となり、電子文書をメールに添付して送ることができます。これにより、郵送の手間やコストが省けるほか、管理がしやすくなりました。 

文書のやりとりをオンライン上で行えるため、スピーディな契約締結ができ、業務効率化にもつながります。 

内定者から「雇用条件の変更」を求められることも 

内定者に雇用契約書や労働条件通知書を提示した段階で「条件を変更してほしい」と相談を持ちかけられることがあります。相談としてよくあるのは「入社時期」についてです。内定が出たため在籍企業に退職意思を表示したところ、会社から強く引き留められてなかなか退職願を受理してもらえなかったり、「後任者を手配できるまではとどまり、引継ぎを終えてから退職してほしい」と請われたりすることがあります。その場合、「入社日の延期」を相談されるケースがあります。このような可能性も踏まえ、選考段階で入社時期の見込みについて話し合っておくといいでしょう。 

また「賃金」について、上乗せの交渉を切り出されるケースもあります。例えば、「同時に選考が進んでいる他社から○○万円でオファーが出ているので、その水準まで上げてもらえないか」などです。その提示金額を受け入れるかどうかは、その応募者を採用することで自社にどれだけの効果・貢献がもたらされるかを検討した上で判断してください。 

雇用契約書に関するトラブル例 

識者の経験では、雇用契約書・労働条件通知書にまつわるトラブルとしては、「就労時間」「就労場所」「賃金」などで「記載内容と入社後の実態が異なる」というものが見られます。 

具体的な例として、以下が挙げられます。 

【就労時間】 
「実態はシフトがあり、早朝、夜間、土日の出勤が求められる」 
「時間外労働時間が多い」 

【就労場所】 
「転勤があり、入社時の勤務地と違うところに異動を命じられた」 

【賃金】 
「基本給の一部に固定残業代が組み込まれている」 
「試用期間中は基本給が違っていた」 
「入社時期によっては、賞与の支給が無い(例えば4月入社では査定期間が10~3月のため、6月支給の賞与が無いなど)」 

トラブルを防ぐためには、実態に即した内容を記載しなくてはなりません。「後から修正すればよい」と安易に考えず、正確に作成しましょう。 

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この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。