採用基準

人材採用を行う際、自社にマッチする人材を選ぶために、事前に「採用基準」を設定する必要があります。採用基準の設定方法は企業規模・採用頻度・採用職種などによって変わりますが、ここでは基本的な考え方と手順、注意するポイントなどについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏が解説します。 

採用基準とは? 

「採用基準」とは、企業が採用選考を行うにあたり、自社にマッチした人材を選べるように設定する評価指標です。 

採用基準を設定する目的と必要性 

採用基準を設定する目的・必要性としては、主に次のポイントが挙げられます。 

評価基準の言語化 

採用選考においては、選考を行う人の「主観」が評価に影響を及ぼすことがあります。書類選考や面接で判断にばらつきが生じないようにするために、経営陣・人事担当者・配属部門責任者など、選考に携わるすべての人が目線を合わせる必要があります。そこで、評価基準を言語化し、共通認識を持っておくことが大切です。 

採用ミスマッチ防止 

採用基準が明確化されていないと、本当に必要とする人材とは異なる応募者を選んでしまうことが考えられます。採用でミスマッチが生じた場合、組織に混乱をきたすだけでなく、採用された当人も違和感を覚えて早期離職につながる可能性があります。 

採用活動の最適化 

採用基準を定めておくと、それに基づき「採用結果の検証」を行うことができます。入社後の活躍状況から自社にマッチしていたかを確認し、採用基準を見直すことが可能になります。中長期スパンで採用活動のPDCAを回し、採用活動の最適化につながります。 

採用基準の決め方 

採用基準を設定する際には、下記のステップを踏んで求める人材像を詰めていきましょう。 

自社が求める人物像を定める 

まずは人事担当者が経営層や採用を行う部門の責任者などと協議を行い、求める人材像を明確にするところから始めます。 ここでは実務スキルよりも、ビジネスパーソンとしての基本スタンスやマインドに注目します。 大きく分けると、以下の2つの観点で検討するといいでしょう。 

カルチャーフィット 

自社の社風や価値観にマッチする人物像をイメージします。 
「企業理念」「ビジョン/ミッション/バリュー」「パーパス(企業の存在意義)」などとして掲げている要素を、採用基準にも適用するといいでしょう。 

コンピテンシー 

「コンピテンシー」とは、「高い成果を挙げている社員が共通して持っている行動特性」を指します。当然ながら、企業によってコンピテンシーは異なります。コンピテンシーを設定するには、まず活躍している社員を数名~十数名選び、その社員の行動特性について調査・ヒアリングし、重要項目を挙げます。共通点が見つからない場合は、調査人数を増やしたり調査項目を変えたりしましょう。人事責任者や経営層に認識が合っているか確認し、「コンピテンシーモデル」を作成して採用基準に組み込みます。 

現場の担当者に必要な経験・スキルを探る 

採用を行う部門の責任者やマネジャー、メンバーなどにヒアリングを行い、採用する職種・ポジションに必要な要件を明確化します。ここでは、「○○の実務経験○年」「○○ツールの操作スキル」「○○名規模のチームのマネジメント経験」といった具体的な要件を挙げてもらいます。また、既存メンバーとのバランスも加味し、求める人物タイプも設定するといいでしょう。例えば「主体的に発言・提案ができるタイプ」「調整力に長けたタイプ」などが例として挙げられます。 

人事担当者がイメージしている人物と現場が求めている人物にはギャップがあることもあります。ミスマッチにならないように、現場のニーズを正しく把握しましょう。 

採用基準に合う人材の見極め方 

採用基準を設定したら、基準に合っているかどうかを適切に判断するための評価方法を検討します。次のような手法をとることで、見極めがしやすくなります。 

評価項目と具体的な質問を設定する 

採用基準をもとに、評価項目を設定します。「必要な経験・スキル」「仕事への取り組み姿勢」「理念・方針への共感」などの観点で、面接で注目するポイントを一覧にしましょう。 

「○○のスキルに長けていて、○○というマインドで仕事に向き合える人」など、具体的なペルソナを作成しておくのも一つの手です。 

面接の質疑応答を通じて評価しやすい回答を引き出すために、質問項目を設定しておいてもいいでしょう。面接担当者の「面接スキル」にばらつきがある場合も、決まった質問項目に沿って進めていけばスムーズに回答を引き出しやすくなります。 

<質問項目一例> 

  • ご自身の「強み」と認識していることをお聞かせください 
  • これまでの成功体験をお聞かせください 
  • これまでの失敗体験と、それをどう乗り越えたかをお聞かせください 
  • 企業を選ぶ際にどのようなポイントを重視しますか? 
  • 当社のどのような点に興味を持ってくださったのですか? 
  • 仕事において大切にしていることは何ですか?
  • 仕事のどのような場面でモチベーションが上がりますか?  
  • 今後、どのようなキャリアを築いていきたいですか? 

評価基準を決める 

採用基準に基づいて評価する際には、数値で表す(点数を付ける)と、面接担当者が評価しやすくなります。 

「満たしている=3、普通=2、不足=1」といったように、3~5段階程度で評価します。このとき、評価基準を明確にしておくことで、面接担当者の主観による差を防ぐことができます。段階ごとに「どの程度の内容を満たしていればよいか」を設定するといいでしょう、 

例えば「理念への共感」を判断する場合は、 

1)自社が掲げる理念を理解している 

2)自社が掲げる理念への共感を、自らの体験談を交えて語れる 

3)自社が掲げる理念の実現に向けて、自らがどのように貢献できるかを語れる 

……といったように、統一された基準で評価できるようにしておきましょう。 
5段階にする場合は、1と2、2と3の間にもう1段階追加します。 

採用基準を決める際の注意点 

採用基準を決める際には、下記のポイントに注意してください。これらの視点が抜け落ちると、採用活動が進まないばかりかトラブルを招く恐れがあります。 

就職差別につながる質問を除外する 

企業が人材の募集や選考を行う際には、さまざまな法令の規制を受けます。無意識のうちに法令に違反し、トラブルを発生させないように注意してください。 

特に「就職差別」とされる採用基準や面接での質問は除外しましょう。禁止されている事項は「性別による制限」「年齢制限」など。ほか、以下に配慮する必要があります。 

<本人に責任のない事項> 

  • 本籍・出生地に関すること  
  • 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など) 
  • 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など) 
  • 生活環境・家庭環境などに関すること 

<本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)> 

  • 宗教に関すること 
  • 支持政党に関すること 
  • 人生観、生活信条に関すること 
  • 尊敬する人物に関すること 
  • 思想に関すること 
  • 労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など) 
  • 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること 

転職市場と自社の採用力を考慮する 

人材に求める要件を挙げていった結果、要件を絞りすぎて「転職市場にほとんど存在しない」人物像が出来上がることがあります。また転職市場に存在したとしても、自社が求める人材に見合う報酬額を出せないこともあります。転職市場を理解し、採用できる可能性がある人材像を設定しましょう。 

現場と人事の役割分担を決める 

 人事担当者のみで採用活動を進めても、人材要件の認識にズレがあるなど、うまくいかないことが多いものです。採用を行う部門の現場責任者と連携し、役割分担を決めましょう。特にエンジニアは、スキルの専門性が高く転職市場でも強いニーズがあるものの、専門性が高いからこそ現場で求められる技術力を人事担当者が的確に判断することが難しいため、人事担当者のみで採用活動を進めた場合、ミスマッチになる可能性があります。また、評価が分かれる人材に対して、人事と現場、どちらが最終判断を下すかも決めておきたいものです。 

採用基準は定期的に見直しを 

経営戦略や組織の状況に応じて、必要な人材像は変化していきます。また、転職市場も時代の流れとともに変わっていきます。同じ要件でも、採用しやすくなったり採用が困難になったりするものです。採用基準は定期的に見直しましょう。 

採用活動は、選考基準を変えてもすぐに成果が表れるものではありません。期待した採用の成果が出るまで、想定よりも時間を要することがあります。人事担当者として採用基準の最適化を常に意識しておくことが重要です。 

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。