新たに採用業務を担当するにあたり、採用フローについて理解を深めたい方や、現状の採用フローに課題を感じており、最適な採用フローを検討・改善したいという方のために、新卒採用、中途採用それぞれの採用フローの基本パターンや、採用フローの作り方、注意点、採用プロセスにおける課題の解決法などについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説していただきました。
目次
採用フローとは
採用フローとは、「採用活動の流れ」を意味しています。企業の事業計画や目標を達成するための人員配置や、採用活動の計画を立て、実現するための活動工程である採用フローを設計し、それに基づいて採用活動を進めていきます。
採用活動を計画的に進めるためには、採用フローを決めることが重要であり、適切な人材採用のために必要不可欠です。
採用フローを作るメリット
採用活動は、人事部の採用担当者だけでは進められません。採用部門の責任者や最終面接を行う役員クラスなど、選考プロセスで多くの人が関わります。関わるメンバー全員が採用フローを認識しておくことで、選考が滞るのを防ぎ、目標に向かってスムーズに進めることができます。
また、工程を分けることにより、採用がうまくいかない場合もそれぞれの工程を分析することで課題が見えやすくなり、改善を図りやすくなるでしょう。
新卒採用と中途採用の採用フローの違い
新卒採用と中途採用では、採用フローが異なります。新卒採用の場合、一般的に採用活動を行う時期、内定を出す時期、入社時期がほぼ決まっており、その時期に合わせて採用活動を進めます。
一方、中途採用では配属先や募集ポジションによって採用手法、選考時期、内定~入社時期はバラバラです。採用の緊急度も異なるため、現場とコミュニケーションをとりながら臨機応変に進めていく必要があります。
新卒採用の一般的な採用フロー
新卒採用の場合、自社に興味を持つ学生から就職サイトや自社サイト上で「エントリー(※)」をしてもらい、会社説明会などを経てから、選考に進んでもらうことが一般的です。
経団連の「採用選考に関する指針」によると、「正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降」とされているため、多くの企業は10月に「内定式」を実施します。
内定式で渡すことの多い「採用通知」には、入社日や内定を取り消す場合の取消事由などが記載されており、学生がその内容をふまえて入社を承諾するという一連の手続きをもって「内定」となります。
(※)エントリーとは、学生が企業側への「興味がある」という意思表示を伝えるものです。就活サービスや企業によっては「エントリー」以外の名称を使うケースもあります。エントリーすると、その学生の情報が企業に届くのが一般的です。
中途採用の一般的な採用フロー
中途採用の採用フローの基本は、以下の通りです。
上記のフローを基本とし、募集職種・ポジションによってさまざまな形でアレンジされます。例えば、未経験者も対象とした複数名~大量採用の場合、新卒と同様に採用説明会を行った上で応募を受け付けることもあります。
一方、即戦力となる人材であれば、書類選考を省いて1次面接から現場責任者や役員クラスが対応することもあります。内定前に「条件」をすり合わせる面談を設けるケースがあることも、中途採用の特徴です。
また、近年注目されているダイレクトリクルーティングの一つである「スカウトサービス」では、次のようなフローで進めることが一般的です。
採用フローの作り方
採用フローの作成方法についてご紹介します。
採用目標を設定する
会社の事業戦略を踏まえ、採用目標を設定します。次の項目それぞれについて目標を明確にしましょう。具体的かつ現実的な数字を定めることが重要です。
- どの部署で
- どのような人材を
- どのくらいの人数を
- いつまでに
- どのくらいのコストで
採用したい人材のペルソナを設定する
ターゲットとなる人材像をより具体化します。このとき「スキルフィット」と「カルチャーフィット」の両面で明確化しておくと、入社後のミスマッチの防止につながります。
「スキルフィット」とは、採用ポジションの業務を遂行するにあたって必要な経験・スキル・資格などを意味します。任せたい業務で求める要素を洗い出します。ただし、条件を盛り込みすぎると該当する人材がなかなか見つからない可能性があるため、「必須」とあれば歓迎するがなくても良い「尚可の条件」を整理しておくといいでしょう。
「カルチャーフィット」は、自社の文化や社風との相性を指します。スキルフィットと比較すると言語化が難しいのですが、自社が掲げる「企業理念」「パーパス」「ミッション/ビジョン/バリュー」などに共感できるかどうかが一つの基準となるでしょう。
面接においては、面接担当者の主観によって評価が分かれることもあります。定量・定性の両面で「採用基準」を明文化し、面接担当者全員が目線を合わせて統一した基準で判断できるようにすることが大切です。
採用計画を立てる
選考の手順・スケジュールを決定します。「選考の方法」「面接の回数」「面接担当者」を決め、入社してほしい期日から逆算して募集をスタートする時期、面接設定の期間などを検討しましょう。
採用部署とコミュニケーションをとって繁忙期などを把握し、「応募が来ているのに面接日程を組めない」といった事態に陥らないよう、スケジュールを調整する必要があります。
採用フローを作る際の注意点
採用フローを作る際の注意点についてお伝えします。
目標値は各フェーズで設定する
前項で採用フローを作成する際は、「採用目標の設定する」とお伝えしましたが、この際、これまでの採用実績を振り返り、「○人を採用するには、○人の応募者を集め、○人を面接へ進める」など、各フェーズでの数値目標を設定するようにしましょう。
各フェーズで目標値を設定しておくと、採用活動を終えた後に振り返りがしやすくなります。求人媒体ごとの応募者数、選考通過率などのデータを検証することで、採用課題をつかみ、より効率的な手法を選択できるようになるでしょう。
定期的に振り返り・見直しをする
採用フローは一度決めればよいというものではなく、時代の流れや自社内での採用要件の変化などに合わせられるよう、都度見直しを行い、ブラッシュアップしていく必要があります。求める人材の採用に至っていない場合は、どのフェーズに課題があるかを検証しましょう。場合によっては採用目標、採用手法から見直す必要があるかもしれません。
また、十分な成果が得られた場合も、この先同じ方法を継続して同じ成果を得られるとは限りません。採用マーケットは常に変化しています。競合が増加したり、働く人の価値観が変わったりすることもあります。
転職エージェントやスカウトサービスを利用している場合は、担当者から転職市場動向やトレンド情報を得て、今のフローが最適かどうか検討することも一案です。
関係者間で目線を合わせる
採用方針・フローの決定は、採用担当者の独断ではなく、採用部署と連携し、対話を重ねながら行うことが大切です。ビジネス環境の変化スピードが速い昨今、現場のニーズも日々変わっていくものです。採用フローの各フェーズにおいて、関係者が目線を合わせることで、適切な選考が可能となります。
数値だけにとらわれない
採用活動の成果を、数値だけで判断しないことも大切です。例えば、想定以上にたくさんの応募者数が集まったとしても、求める人材像に当てはまっていない人が多ければ成果が上がっているとはいません。このようなケースでは、数値だけにとらわれず、求人媒体の選定や訴求するメッセージの内容などを見直すことも一案です。
中途採用の各フェーズで生じる代表的な課題と改善方法
採用フローの各フェーズで生じることが多い課題と、その改善のヒントをお伝えします。
応募が集まらない/応募はあるが、求める人材がいない
応募が集まらない場合、あるいは応募はあっても求める人材がいない場合は、「採用方法」「募集要件」を見直しましょう。求人広告を掲載する媒体、利用する転職エージェントなどがターゲット層にマッチしていない可能性があります。
このほか、採用ブランディングができていない──つまり、ターゲット人材の興味を引くような自社の魅力を訴求できていないことが考えられます。
求人媒体を変更する、求人情報で打ち出すメッセージを変える以外にも、転職エージェントに自社の魅力を伝えたり、自社の求めるターゲット像をより明確に伝えたりするなどの方法を試してみてください。
選考通過率が低い
選考通過率が低い場合、選考ハードルが高すぎる可能性があります。まず、求める人材の要件を見直し、「必須」とする要件と、あれば歓迎するがなくても良い「尚可の条件」を整理してください。
必須と考えているものも、「最低限○○の経験があれば、入社後の研修や育成で早期にキャッチアップできる」「上司がフォローできる」など、必須条件から外せるかもしれません。
あるいは、面接担当者の目線が厳しすぎることも考えられます。主観によって評価が左右されないよう、選考基準を明文化するといいでしょう。
面接後辞退/内定辞退が多い
優秀な人材ほど転職先の選択肢が豊富であり、辞退されることも少なくありません。辞退を防ぎ、入社意欲を高めてもらうためには、1次面接から逆質問などの時間を設けたり、カジュアル面談の場を設けたりなど、応募者が懸念や不安を解消できるように、コミュニケーションを取るようにしましょう。
人事担当者・部門長・役員クラスだけでなく、現場で一緒に働くメンバーと話す機会を設けるのも一つの手です。入社志望度が低かった企業に対し、「メンバーと話してみて、一緒に働きたいと思った」と入社を決めたケースは少なくありません。
ダイレクトリクルーティングの活用で採用フローの改善
採用フローがうまく回っていないと感じたとき、「ダイレクトリクルーティング」を活用するのも有効です。中でも「スカウトサービス」では、サービスのデータベースに登録している求職者の情報を企業が見て、自社が求める経験・スキルを持つ人材に対して、直接アプローチすることができます。
転職サイトに掲載しても応募者が集まらない、転職エージェントに依頼してもなかなか紹介がこない、応募はあっても求める人材像とずれているといった課題の解決につながる可能性があります。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。