「自社に採用担当者を置きたい」「採用担当の仕事に興味がある」「採用担当者になったので、仕事の流れやポイントを知りたい」という方々に向けて、採用担当者の役割・仕事内容、向いている人の特徴、必要なスキル、選出の方法・注意点について、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説していただきました。
採用担当者とは
「採用担当者」とは、企業が必要とする人材の獲得を目指して採用活動を行う担当者を指します。主に人事部門に所属していることが一般的ですが、近年は企業によっては、事業部門に採用担当者が配属されるケースもあるようです。
採用担当者の役割
採用担当者は人材を必要とする部署から求める要件を聞き、採用目標の設定から採用手法の選定、募集、選考、内定など、一連の業務を行います。
最近では、採用担当の役割を「タレントアクイジション(Talent Acquisition)」と定義する企業も見られます。これは、タレント(才能・能力)とアクイジション(獲得)を組み合わせた言葉です。経営戦略に基づいて必要な人材の定義し、採用を目的とした自社のブランディングを行い、優秀な人材に積極的にアプローチしていく動きが活発化しています。
事業部門から都度寄せられる採用ニーズに応えるだけでなく、中長期視点で会社の成長に必要な人材を獲得する役割を担っています。
採用担当者と人事担当者の違い
一般的には、人事部門の機能の一つとして、採用の業務があり、担当者のことを「採用担当者」と呼びます。人事部門には、採用のほかにも、労務管理、人事制度の企画・運用、社員の育成・研修などの機能があります。その中でも、社員の配属や評価といった処遇に関連する業務を担う人を「人事担当者」とするのが一般的です。
採用担当者の仕事
採用担当者の仕事は、大きく上流(計画策定)と中流~下流(実務)に分けることができます。それぞれどのような業務があるのかをまとめてみました。
採用の上流工程(計画策定)
- 経営戦略に基づいた採用戦略の策定
- 採用スケジュールの設定
- 採用予算の確保
- 募集要項の決定(職種名・給与・待遇など)
- 募集方法の選定
- 選考体制、選考方法、選考基準の策定 など
採用の中流~下流工程(実務)
- 募集の開始(求人広告の出稿、転職エージェントへの依頼、スカウトサービス経由で求職者へのアプローチ開始など)
- 採用説明会の開催、採用フェアなどへの出展
- 応募受付
- 書類選考
- 応募者と面接担当者の面接日程調整
- Webテストや筆記試験、適性検査などの実施
- 面接の実施
- 選考結果の通知、条件面の提示・すり合わせ
- 内定後のフォロー、入社手続きの案内
- 受け入れ体制の整備、オンボーディング など
採用担当者に求められるスキルや経験
採用担当を務めるためにあると望ましいスキルや経験を「テクニカルスキル(業務遂行能力)」と「ポータブルスキル(業種・職種問わず持ち運びできるスキル)」に分けてご紹介します。
採用担当者に必要なテクニカルスキル
- 採用市場の情報のキャッチアップ力(職種・ポジションごとの年収相場、最新の手法・ツール・サービスなど)
- キャリアコンサルティングに類する知識と経験(キャリア理論の知識、相談対応・支援の経験など)
- 労働関連法規の知識(労働基準法、男女雇用機会均等法、職業安定法、雇用対策法、労働安全衛生法、育児・介護休業法、若者雇用促進法など)
- 「人的資本開示」など、今後必要とされる領域の知識 など
<上流工程を担う場合>
- 労務、教育研修、評価・制度設計など人事労務全体の知識と経験
- 経営視点や経営知識(戦略、マーケティング、組織マネジメント、会計・ファイナンス、ITスキルなど) など
採用担当者に必要なポータブルスキル
- 採用部門との交渉力、調整力
- 採用活動にさまざまな人を巻き込んで推進していくプロジェクトマネジメント力
- 求職者や社内外関係者に対応するコミュニケーション力、傾聴力、プレゼンテーション力、気配り
- 面接で応募者の強みや適性などを見抜く分析力、応募者の活躍イメージを描く想像力 など
<上流工程を担う場合>
- 事業戦略を踏まえた採用戦略の策定・実行に必要な論理的思考力、課題発見力、企画力、提案力 など
採用担当者に向いている人の特徴・傾向
採用担当者は応募者にとって、最初にコミュニケーションをとる相手です。採用担当者の対応がそのまま会社への印象となることもあります。そのため、それを意識したコミュニケーションを心がけることができる人は、採用担当者として重宝されるでしょう。
また、親しみやすい対応で応募者の緊張をほぐすことができれば、面接で応募者の考えや思いを引き出しやすくなります。
選考の判断材料として必要な情報を応募者から引き出すためには「質問力」も大切です。質問に対する受け答えに対し、真意を見極める力もあるといいでしょう。
さらに、先に挙げた「タレントアクイジション」を実行するためには、獲得したい人材が何を求めているかをつかみ、それを自社で実現できることを適切にアピールするプレゼンテーション力も求められる傾向にあります。
採用担当者を選定する方法と注意点
採用担当者を選定する方法や注意点について、「社内」「社外」に分けてお伝えします。
社内で適材を見つける場合
社内から採用担当者を採用する場合のポイントや注意点は以下となります。
「兼務」「異動」など、社内で適切な人材をアサインする
人事・採用・人材開発・組織開発などに興味がある社員に、次のような経験の機会を提供し、適性を判断するといいでしょう。適任と判断した場合、所属部署の上長と相談し、人事部に異動してもらう方法もあります。
- 期間限定で採用業務、リクルーターを兼務する
- 面接に同席する
- 面接を担当する
- リファラル採用プロジェクトに参加する など
応募者の話を聞くだけでなく、「相手のニーズをつかみ、それに合わせて自社をプレゼンする」という営業的な素養があるかどうかにも注目するといいでしょう。
なお、ハイクラス層の採用を担うのであれば、ある程度の年数在籍しており、ビジネス現場への理解と自社全体についての理解(各事業の内容や組織体制など)がある人物を選ぶのが望ましいでしょう。
また、経営陣や上位管理職と関係を築いており、密なコミュニケーションがとれる人であれば、経営のコアに関わる情報を提供することもでき、転職エージェントやハイクラス層へのグリップ力が強くなります。課題があれば、解決に向けて経営陣に働きかけることもできるでしょう。
社内で選定する場合の注意点
本来の担当業務と兼務してもらう場合、業務時間を管理し、負荷をかけ過ぎないように配慮する必要があります。特に事業部の優秀人材を採用専任担当として異動させたい場合などは、部門長と対話を重ね、慎重に進めましょう。
また仕事のパフォーマンスが高い人に着目しがちですが、それだけでは採用担当者として適任とはいえません。自社が好きであり、自社のミッション・ビジョン・バリューに強く共感していなければ、応募者に対して説得力を持って語ることはできない可能性があります。
社外で適材を見つける場合
社外から採用担当者を採用する場合のポイントや注意点は以下となります。
社外から採用する場合のポイント
リクルートが発表した「転職市場における人事関連職種の動向」に関する調査(※1)によると、2018年から2022年の間の人事関連職種の求人数を指数化して見ると、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて落ち込みがありましたが、2022年は2018年の2.4倍という結果になりました。社外から人事関連職種を採用しようとする動きは、増加の傾向にあるようです。
社外から採用担当者を採用する場合、採用経験者だけでなく、未経験者でも「エンジニア経験者」「営業経験者」など、自社で主に採用したい職種への理解がある人を迎えることも一案です。そうすることで、人材を求める事業部門との連携や採用要件の整理などの際に、持っている知見や知識を活かすことができるでしょう。
また、「採用+α(制度設計・教育・労務など)」の経験がある人を迎えることも、有効です。管理職へのキャリアパスや人事部内でのジョブローテーションなどの可能性も持たせることができるでしょう。
(※1)出典元:『リクルートエージェント』転職決定者データ分析 転職市場における人事関連職種の動向 人手不足や「人的資本経営」を背景とした4つの変化を解説
社外で選定する場合の注意点
テクニカルスキルや経験も重要ですが、実務担当者の場合は、ポータブルスキルや人物タイプがその会社のカルチャーに合うことも大切です。
例えば「採用担当」と限定して募集するよりも、制度設計や人材育成など人事全般を経験していけるキャリアパスを提示することが魅力ポイントとなり、採用の可能性が高まるケースもあります。
採用担当者の採用にはスカウトサービスも有効
採用担当者の採用を目指すなら、「ダイレクトリクルーティング」を活用するのも有効です。その中でも「スカウトサービス」を利用する場合、サービスのデータベース上で「採用業務経験者」や「採用担当へのキャリアチェンジを希望している人」などを探し、直接アプローチすることが可能です。
応募を待つだけよりも、職種経験や志向性などが自社にマッチする人材に出会える可能性が高まるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。