採用ペルソナ

採用活動を始める際には、まず「求める人物像」を明確化することが重要です。求める人物像があいまいな状態で募集要件のみを設定すると、採用した後にミスマッチが起きる可能性があります。
人物のモデル、イメージは「ペルソナ」と呼ばれます。採用ペルソナを設定することの効果、作成方法、設定する項目、設定例、活用法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

採用ペルソナとは?

まずは「採用ペルソナ」とはどのようなものなのか、理解しておきましょう。

採用におけるペルソナとは

「ペルソナ」とは、「架空の人物モデル」を指します。マーケティングにおいては、商品やサービスを利用する「典型的な人物像」を具体的にイメージし、その人物のニーズや購買の動機などを設定するのに使われています。採用における「ペルソナ」とは、「自社が採用したい人物像」を指します。

ターゲットとペルソナの違い

ペルソナと類似している言葉に「ターゲット」があります。ターゲットは、「年齢」「職種」「収入レベル」などざっくりとした層を想定するのに対し、ペルソナは細かなパーソナリティまで設定します。個人の日々の仕事ぶりや生活が想像できるレベルまで具体化するのが特徴です。

採用にペルソナを設定する効果

採用においてペルソナを設定する効果・メリットとしては、次のようなものが挙げられます。

欲しい人材の認識を揃えられる

採用に関わる関係者の間で、「求める人物像」の認識を揃えられます。それにより、誰が面接を行っても同一の視点・基準に基づいて判断、評価することが可能になります。

選考・採用がしやすくなる

求める人物像が明確に定まっていると、選考での判断をスピーディに行うことができ、迷いが生じにくくなります。採用活動のプロセスの効率化につながります。

求人広告・採用ページ・スカウトメールを作りやすくなる

求める人物像を具体化すると、その人物が仕事や転職においてどのような要素を重視しているかを想像しやすくなります。それを踏まえ、求人広告や採用ページ、スカウトメールなどで自社の特徴をアピールすれば、採用ターゲットとなる人に響きやすく、興味を持ってもらえる可能性が高まります。

自社にマッチした採用ペルソナを作成する方法

自社にマッチした採用ペルソナを作成するにあたっては、次のステップを踏んで進めていくといいでしょう。

(1)採用の目的を明らかにする

まずは採用を行う目的を明らかにしましょう。
例えば「既存商品のマーケットを拡大するため」「新規事業を立ち上げるため」「組織改革を行うため」といったように、採用したい人物に任せたいミッション、期待する成果を具体的に設定します。

(2)採用の目的」を実現できる人材要件を決定する

(1)で設定した目的・目標を実現できるのはどのような人物かを設定します。
経営陣や配属先の部署にヒアリングを行い、業務遂行に必要な経験・スキルをはじめ、キャリアの志向性や性格タイプなどのパーソナリティまで具体化します。

(3)人材要件にのっとってペルソナを設計する

(2)で挙がった要件をもとに、具体的なペルソナを設計します。そして、その人が転職をするならどのような希望を持つか、実在の人物に近づけるように、ストーリーを組み立てます。
次の例を参考にしてみてください。

<求める要件>
「社会人経験5年以上」「法人営業の経験者」「無形商材を扱い、提案力に長けている」「スケールが大きな仕事にチャレンジしたいと考えている」「指示を待つのではなく、自分で考えて動ける」

<ペルソナのストーリー>
「ITサービスを扱う企業で、法人向けにソリューション営業を行う社会人経験10年程度の社員で。チームリーダーも務めている。これまで中小企業を顧客としてきたが、大手企業を対象に組織力を活用した提案を経験したいと考えている。より大きな裁量権を持って働ける風土を求めている」

(4)関係者に確認を行う

(3)で作成したペルソナを経営陣や配属予定部署の責任者に確認してもらい、求める人物像からずれている部分があれば修正します。

(5)確定したペルソナを共有する

確定したペルソナを、採用に関わる全ての関係者と共有します。ペルソナを踏まえ、面接の際に注目するポイント、評価の基準に対する認識を揃えておきます。

(6)採用活動に合わせて調整を行う

実際に採用活動を進めるなかで、必要に応じてペルソナを調整します。例えば、「ペルソナに設定した人物が転職市場にほとんどいない」「ペルソナに設定した人物は、自社の雇用条件では採用が難しい」といったことが分かれば、一部の要件を緩和するなどしましょう。

採用ペルソナで必要な項目例

採用ペルソナを設定する際に検討する項目の例をご紹介します。

属性情報

「年齢」「性別」「学歴」「年収」「居住地」「家族構成」「趣味」「休日の過ごし方」など。ペルソナの人物イメージを揃えるために設定します。

性格・志向

「仕事をするうえで大切にしているこだわり」「どのようなことにやりがいや面白みを感じるか」「興味・関心の対象」など。「キャリア・アンカー」(※)で設定されている8つのタイプを参考にしてもいいでしょう。

※キャリア・アンカー/組織心理学者でマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授の故:エドガー・H・シャイン氏が提唱したキャリア理論。「どうしても譲れない価値観や欲求を基準にキャリアを決めていく」という考え方を指す。

タイプ1「専門・職能別能力」
タイプ2「経営管理能力」
タイプ3「自立・独立」
タイプ4「保障・安定」
タイプ5「起業家的創造性」
タイプ6「奉仕・社会貢献」
タイプ7「純粋な挑戦」
タイプ8「ライフスタイル」

職務経験

「所属してきた企業規模」「職種」「役職・肩書」「プロジェクト経験」「保有資格」「強みとするスキル」「雇用形態」「転職経験の有無/転職回数」など。

転職に求めること

転職先を選ぶ際に重視する条件です。
例えば、「キャリアアップ」「年収アップ」「経験・スキルを活かす」「未知のことにチャレンジする」「柔軟な働き方」「手がけたい領域・テーマ(DX/業務改善/サステナビリティなど)」など。あるいは、「現職に対して抱いている不満・悩み」などを挙げてもいいでしょう。

採用ペルソナ例

上記の項目を組み立てて作成した採用ペルソナの一例をご紹介します。

氏名:○○○○
年齢:32歳
学歴:○○大学○○学部卒業(○○部に所属)
居住地:東京都○○区
家族構成:妻(30歳)、長男(3歳)
趣味:アウトドア、スポーツ観戦
年収:800万円
経歴:新卒入社した××業界大手のメーカーで法人営業を3年経験後、マーケティング部門に異動
スキル:データ分析を得意としており、論理的思考力が高い
パーソナリティ:好奇心旺盛で世の中のトレンドに敏感。コミュニケーション力が高く、チームワークを好む
キャリア志向:新規事業の開発に興味を持っているが、現職では携わるチャンスを得られず、もどかしさを感じている。スペシャリスト志向というより、ゼネラリスト志向が強い

採用ペルソナの活用法

作成した採用ペルソナは、次のように活用することができます。

ペルソナに応じた求人を作成する

ペルソナを意識しながら、求人情報の応募要件やキャッチコピーを作成します。採用向けの会社案内や動画などのコンテンツを企画する際にも利用できます。ペルソナに近い既存社員のインタビューなどを発信すると、共感を得て興味を持たれる可能性があります。

ペルソナに応じた採用手法を選定する

ペルソナによって適した採用手法は異なります。一般的な採用手法であるハローワークや求人誌、転職サイトだけでなく、自社にマッチした人材に直接声を掛けるスカウトサービスやヘッドハンティング、自社社員に紹介してもらうリファラル採用などもあります。

ペルソナに応じたメッセージを伝える

ペルソナによって、心を動かされるキーワードは異なるものです。求人に記載するキャッチコピーやダイレクトリクルーティングで送信するスカウトメールのメッセージなどは、ペルソナに合わせた言葉を選びましょう。

ペルソナに応じた面接担当者をアサインする

選考においては、ペルソナのバックグラウンドに近い社員、ペルソナへの訴求力が高い社員などを面接担当者に選定するといいでしょう。また、ペルソナに応じて「この情報を重点的に提供する」「カジュアル面談を設ける」といったプロセスの工夫をします。

選考で迷った時に用いる

ペルソナをもとに面接の評価シートを作成すると、面接担当者による評価のブレを防ぐことができます。
また、選考に迷った際など、ペルソナを基準にして協議すると判断しやすくなると期待できます。

ペルソナは細かく設定しすぎず、複数使用も可能

ペルソナの項目例をご紹介しましたが、細かく設定しすぎると、合致する人物の母数が少なくなり、応募を集められなくなる可能性があります。「MUST」項目と「WANT」項目を分け、優先順位を調整しましょう。

また、一つのポジションで複数のキャラクターが想定できる場合、複数のペルソナを作成してもかまいません。経営陣の視点、人事の視点、現場の視点、いずれかに偏ることのないよう、バランスをとりながら設定することが大切です。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。