ワークエンゲージメント

「人的資本経営」の重要性が認識されるなか、「エンゲージメント」の向上に取り組む企業が増えています。今回は「ワークエンゲージメント」にフォーカスし、定義や注目される背景、ワークエンゲージメントを高めるメリットや効果的な施策、測定方法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

ワークエンゲージメントとは?

エンゲージメントとは、もともとは契約、誓約、婚約、の意味の英語です。ワークエンゲージメントとは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授が提唱した概念であり、仕事に対する「ポジティブで充実した」心理状態や態度を指します。

この記事では、厚生労働省の「令和元年度版・労働経済の分析―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について」(※1)をもとに、ワークエンゲージメントについて解説します。

(※1)厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について- 第Ⅱ部第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現にむけて」( https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf

ワークエンゲージメントの3つの要素

ワークエンゲージメントは、「活力」「熱意」「没頭」という3つの要素が揃った状態として定義されています。いずれの要素も「一時的な状態」ではなく、基本的には持続的かつ安定的な状態を指します。
ここからは、ワークエンゲージメントの測定で使われる質問項目と合わせてご紹介します。

活力

仕事から活力を得ていきいきとしている状態。

  • 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
  • 職場では、元気が出て精力的になるように感じる
  • 朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる

熱意

仕事に誇りとやりがいを感じている状態。

  • 仕事に熱心である
  • 仕事は、私に活力を与えてくれる
  • 自分の仕事に誇りを感じる

没頭

仕事に熱心に取り組んでいる状態。

  • 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
  • 私は仕事にのめり込んでいる
  • 仕事をしていると、つい夢中になってしまう

ワークエンゲージメントが注目される背景

労働力人口が減少に向かい、人材獲得競争が激化するなか、企業は採用において自社で働く魅力、メリットを打ち出す必要性が高まっています。また、終身雇用が崩れ、働く人にとって転職は当たり前のこととなりつつあります。

求職者が企業を選ぶ際の価値観も多様化してきました。さらには、リモートワークの普及・定着によって企業と従業員の間に物理的距離もできています。

こうした環境において、人事領域では、「社員と会社の信頼関係」を意味する「エンゲージメント」が注目されるようになりました。2019年には、当時、経団連の会長だった中西宏明氏(故人)が「働き手がやりがいを持って仕事に打ち込める『エンゲージメント』を高めることが、日本経済にとって重要だ」との考えを示しました。

エンゲージメントは「組織に対するもの」と「仕事に対するもの」に分けられ、仕事面にフォーカスしたのが「ワークエンゲージメント」です。

「労働経済の分析」では、「働きやすさ」を実現するための観点の1つとしてワークエンゲージメントを挙げています。

従業員エンゲージメント・従業員満足度(ES)との違い

ワークエンゲージメントは「仕事内容」に関わるものであるのに対し、「従業員エンゲージメント」は企業・組織と個人の関わりを指します。

また、「従業員満足度(ES)」とは、職務内容・労働環境・待遇・人間関係・福利厚生など、従業員の仕事や職場に対する満足度を表す指標です。

ワークエンゲージメントの関連概念

ワークエンゲージメントに関連する概念として「バーンアウト(燃え尽き)」「ワーカホリズム」「職務満足感」が挙げられます。(※1)の「労働経済の分析」では、以下のように紹介されています。

バーンアウト(燃え尽き)

仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊的に抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信を低下させた状態。「仕事への態度・認知」について否定的で、「活動水準」が低い。仕事に夢中になりつつも心の健康を維持しているワークエンゲージメントとは対の概念。

ワーカホリズム

過度に一生懸命に強迫的に働く傾向。「活動水準」は高いが、「仕事への態度・認知」が否定的な状態。

職務満足感

自分の仕事を評価してみた結果として生じる、ポジティブな情動状態。ワークエンゲージメントは「仕事をしているとき」の感情や認知を指すのに対し、職務満足感は「仕事そのものに対する」感情や認知を指す。いずれも「仕事への態度・認知」について肯定的な状態であるものの、後者は仕事に没頭しているわけではないため、「活動水準」が低い状態。

ワーク・エンゲイジメントの概念について

出典:(※1)厚生労働省令和元年版「労働経済の分析」172P(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3_01.pdf

ワークエンゲージメントを高める効果・メリット

ワークエンゲージメントを高めることによって得られる効果・メリットとしては、次のようなものが挙げられます。

いずれも先に示した調査において、「働きがい」(ワークエンゲージメント)との相関関係があることが認められています。

離職率の低下

調査によると、働きがいを感じている人が多い企業では、新入社員の定着率(入社3年後)の上昇、離職率の低下の傾向が表れています。離職率の改善により、採用にかかる手間とコストも削減できます。

労働生産性の向上

仕事に没頭して集中力を発揮できることから、労働生産性の向上につながります。ワークエンゲージメントが高まれば、新たな知識・スキルの習得への意欲も高まり、さらなるパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。

自発性・積極性の向上

従業員が、都度指示をされなくても自発的に仕事に取り組むようになります。また、他の従業員に対し、自身の役割外のことであっても積極的に支援します。

成長感・自己効力感の向上

仕事を通じて成長できていると感じられたり、仕事に自信を持って自己効力感が高まったりします。「どのようにキャリアを築いていくか」という意識を持って将来ビジョンを描けるようにもなると期待できます。

顧客満足度の向上

従業員が誇りややりがいを持って取り組むことで、その企業の商品を購入したりサービスを利用したりする顧客側の満足度も向上していることが、調査結果に表れています。顧客に安心感、信頼感を与えていると考えられます。

ストレス・疲労の軽減

仕事を楽しみ、仕事によって活力を得られるため、精神的なストレスや疲労を感じにくいと言えます。睡眠の質の向上や健康維持にもつながるでしょう。

ワークエンゲージメントを高める施策

ワークエンゲージメントを高める効果が期待できる施策の一例をご紹介します。

「雇用管理」における施策

  • 職場のコミュニケーションを円滑化する
  • 労働時間を短縮する
  • 働き方に柔軟性を持たせる
  • 業務執行にあたっての裁量権を拡大する

「目標管理」における施策

  • 目標設定を行う際、達成にある程度の努力を要する難易度で設定することにより、成長実感を高める
  • 業務に対する上司からのフィードバックを頻度高く行う
  • フィードバックの際には具体的な行動について重要性や意義について説明し、行動した直後に誉める

「人材育成」における施策

  • 指導役や教育係を配置する(メンター制度の設置など)
  • キャリアコンサルティングなどを行い、将来展望を明確に描けるようにする
  • 企業として、人材育成方針・計画を策定する
  • 日常業務のなかで、今後のキャリア展望について管理職と話し合う。その際、現在の担当業務だけでなく、将来を見据えて対話する
  • ロールモデルとなる先輩社員を見つけられるようにする

ワークエンゲージメントの尺度と測定方法

自社のワークエンゲージメントの実態を把握するために、尺度と測定方法をご紹介します。

UWES(Utrecht Work. Engagement Scale・ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度)

ワークエンゲージメントを測る尺度としては、国際比較がしやすいなどの理由から「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)」が広く使われているようです。

従業員に対し、ワークエンゲージメントの3つの下位要素「活力」「熱意」「没頭」について17個の質問を行い、その回答からワークエンゲージメントのレベルをスコア化します。日本版UWESでは9個の質問と5段階のスケールを設定して使用されるケースが多く見られます。

MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey・マスラック・バーンアウト一般調査)

ワークエンゲージメントの対概念とされる「バーンアウト」を測定する手法です。バーンアウトの特徴である「疲労感」「冷笑的態度(シニシズム)」「職務効力感」について計16項目の質問を行った結果、数値が低い=ワークエンゲージメントが高いと判断されます。

OLBI(Oldenburg Burnout Inventory・オルデンバーグ・バーンアウト表)

MBI-GSと同様、「バーンアウト」の測定を通じてワークエンゲージメントを評価する手法です。「疲弊」「離脱」という2つのネガティブ要素の質問項目により、数値が低い=ワークエンゲージメントが高いと判断されます。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。