採用する人材の質向上や、採用活動の効率化などを目的に、多くの企業が導入している「アセスメント採用」。この記事では、アセスメント採用の目的やメリット・デメリット、導入に際しての基本的なステップなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
アセスメント採用とは?導入する目的は?
「アセスメント採用」とは、人材採用の際に応募者の能力などを測定・数値化し、客観的に適性を評価する採用手法のこと。
適性検査や性格検査、知能検査などといった「人材アセスメントツール」を活用することで、能力はもちろん資質や強み、持ち味、仕事における価値観など、応募書類や面接ではわからない特性を数値化することで、採用精度を上げたり、採用した人員の定着率を上げたりできると注目されています。
近年、さまざまな人材アセスメントツールが開発され、バリエーションが増えたことで、新たに導入を検討する企業もあるようです。
アセスメント採用を行うメリット
アセスメント採用を行う主なメリットについて解説します。
応募者を客観的に評価できる
面接の際、どうしても面接担当者の主観が入ってしまい、人によって評価にバラつきが出てしまうことがあります。
採用活動に人材アセスメントツールを取り入れると、応募者の能力や人物タイプなどといった特性が数値化されるため、それをベースにすり合わせを行うことで採否をフラットに決めやすくなります。
採用ミスマッチを軽減し定着率が向上する
応募者の特性を数値化し、客観的に適性を評価することで、採用ミスマッチの軽減が見込まれます。洗い出された特性の中で、気になる点や懸念点を次の面接で深掘りし、確認するという使い方もできるでしょう。
その結果、より自社が求める人材像に合った応募者を採用できるようになり、採用精度が高まることが予想されます。採用精度が高まることで、入社後の活躍や定着率の向上も期待できるでしょう。
性格適性をもとに、それぞれの特性に合った上司やチームに配属したり、メンターをアサインしたりすることで、さらなる定着率向上も可能になると見られます。
採用者のスムーズなキャリア形成
従業員が自身の強みや弱み、持ち味などといった特性を把握することは、自身のキャリアを考えるうえで役に立ちます。
入社後早い段階から、アセスメントツールの結果をもとにキャリア形成について考え、行動することで、自律的なキャリアを促すことも可能になるでしょう。
既存社員の育成・社内コミュニケーション活性化
採用時にアセスメントツールを導入する過程では、既存社員も同じものを受けることになるため、社内で活躍する人材の傾向がわかったり、社員一人ひとりの特性を把握することでより適したマネジメントがしやすくなったりします。特性や適性に応じた配置換えや異動、マネジメント人材への抜擢などがしやすくなるというメリットもあります。
また、アセスメント結果をもとに研修やセミナーを行ったり、上司との1on1に活かしたりするなど、社内コミュニケーションの活性化にもつながると期待されています。
アセスメント採用のデメリット
前述のように、アセスメント採用にはさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在します。
コストがかかる
アセスメントツールを導入する場合は、当然ながら費用が掛かります。例えば、ある適性検査の場合は、実施する人数によって変動はあるものの1人当たり数千円の料金となっています。
応募者が多い場合や、初期選考の段階で実施する場合だと相当分のコストになるため、予算を考えながらアセスメントツールの選択や実施タイミングを検討することが大切です。
時間と労力がかかる
詳しくは後述しますが、アセスメント採用に当たっては、目的や評価項目の設定、アセスメントツールの検討、既存従業員への実施、検査結果の分析など、いくつかのステップを踏む必要があります。その過程では、社内各部署との意見をすり合わせる必要もあり、人事担当者にはかなりの負担がかかると予想されます。
また、応募者に対して適性検査などを実施する際には、場所の確保や日程調整などの手間もかかります。アセスメントツールによっては、実施から分析結果の入手までに数日~1週間超かかるものもあり、採用スケジュール全体に影響を及ぼすケースもあるようです。
アセスメント採用を導入する際の基本的なステップ
アセスメント採用を導入する際の基本的な進め方を紹介します。
Step1:導入目的を定める
まずは採用におけるどの課題を特に解決したいのか、目的を定めましょう。目的が定まっていないとその後のステップもブレてしまい、期待したような成果が上がらない可能性があります。
アセスメントツールごとに測定できる内容や項目が異なるため、目的に合ったツールを選ぶためにもはじめに目的を明確にしておきましょう。
Step2:評価項目を設定する
Step1で明確にした目的をもとに、測定したい項目を設定しましょう。例えば仕事のスキルや能力なのか、経験の厚さなのか、仕事における価値観や人間性なのか、などを具体的に洗い出します。
課題解決のためには、選考を通して何を見るべきなのか、採用部署とともに具体的な項目を話し合うことも大切です。
Step3:アセスメントツールを選定する
選考を通して何を確認したいのか具体的に洗い出したうえで、それに適したアセスメントツールを選びましょう。「有名なツールだから」「安価だから」などの理由で安易にツールを選ぶと、必要な項目が含まれていなかったり、分析の粒度が想定と異なっていたりする場合もあるので注意が必要です。
「価格」も重要な要素です。ツールや受験人数によってもコストが変わってくるので、予算に合ったものを選びましょう。
Step4:自社社員にアセスメントツールを受けてもらう
導入するアセスメントツールが決まったら、まず自社の社員に受けてもらいましょう。活躍している社員のデータをもとに、評価項目を精緻化することで、より自社にマッチした人材を見極めやすくなります。
また、自社社員のデータを保有しておくことで、教育・育成プログラムの設定や、配属や異動の際の参考にしたり、マネジャー候補を選定したりする際にも活用できます。
Step5:採用選考フローで適性検査を実施する
応募人数や予算レベルなどにもよりますが、一般的には一次面接の前に実施する企業が多いようです。
測定項目が多い、分析結果が幅広いなど、機能が充実しているとそれだけ価格も高くなる傾向にあります。「充実した内容を求めたいけれど予算的に難しい」などという場合は、人数がある程度絞られた二次面接以降に実施して、分析結果と応募者の印象とを照らし合わせるケースもあるようです。
Step6:検査結果をもとに合否を決定する
面接でのやり取りや印象、質問に対する回答の内容と、検査結果を踏まえて、矛盾がないかなどを確認し、最終的な合否を判断します。もし相違がある場合は、選考後半の面接で深掘りし、懸念点を確認していくといいでしょう。
検査結果を過信し過ぎず、あくまで「面接の補強材料」「不明点や相違点の確認材料」として活用することが大切です。
アセスメント採用の注意点
アセスメント採用を導入するにあたり、注意しておいたほうがいいポイントを解説します。
定期的な見直しが必要
アセスメントツールは「導入したら終わり」ということはありません。定期的に内容を見直し、ブラッシュアップすることが重要です。
例えば、アセスメント採用により入社した人が、その後定着し、活躍できているかをチェックすることが大切。もしも期待通りの成果が上がっていなければ、評価項目や選考過程での活用方法を見直したほうがいいのかもしれません。アセスメントツールそのものが合っていない可能性もあります。
また、事業環境の変化や、会社の成長フェーズなどによって、求められる人材も当然変化します。選考過程で確認する要素も変える必要があるため、定期的に導入ステップ全体を見直し、アップデートしていきましょう。
結果を重視し過ぎない
検査結果を必要以上に重視してしまう企業は、実は少なくありません。面接での印象はイマイチだったけれど、検査結果は自社が求める人材にピッタリだから…と採用を決めてしまうことで、ミスマッチが起きてしまう場合もあります。逆に、面接の印象はよかったのに、検査結果に違和感があるからと採用を見送るケースもあるようですが、もしかしたら自社で活躍できる人材をみすみす逃してしまっているかもしれません。
アセスメントツールの評価は、あくまで判断材料の1つであり、面接の内容などを踏まえ総合的に判断しましょう。
選考スピードが遅くなる可能性がある
ツールにもよりますが、適性検査などを実施した後、分析結果がまとまるまでには数日以上かかるケースが多いようです。
アセスメント採用は、ミスマッチを減らし採用精度を高めるのに効果的ではありますが、次の面接までの間が空き、選考スピードが遅くなることで、応募者が離脱してしまったり、優秀な応募者を別の会社に取られてしまったりするケースがあるようです。
「スピード感をもって採用活動を行い、一刻も早く新たな人材を採用したい」という場合は、アセスメントツールの内容を今より簡易的なものにする、人数をある程度絞ってから適性検査を行う、などの方法でスピード感を担保する、などの工夫が必要になりそうです。
なお、アセスメント採用以外の採用手法については、以下の記事を参考にしてください。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。