人材採用の手法が多様化するなか、注目されている採用手法の一つが「ダイレクト・ソーシング」です。
ダイレクト・ソーシングやその他の採用手法との違い、導入するメリット・デメリット、向いている企業、手順、実現させるポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
ダイレクト・ソーシングとは
まずは、ダイレクト・ソーシングの定義、他の採用手法との違い、考え方と世の中の流れについてお伝えします。
ダイレクト・ソーシングの定義
ダイレクト・ソーシングとは、人材採用を行う企業が自ら候補者を探し、第三者を介さずに直接アプローチする採用手法です。
ダイレクトリクルーティングとの違い
近しい言葉に「ダイレクトリクルーティング」がありますが、意味はダイレクト・ソーシングとほぼ同じです。ダイレクト・ソーシングは海外で一般的に使われている言葉ですが、日本では採用活動を「リクルーティング」と呼ぶことが多いため、和製英語として「ダイレクトリクルーティング」という言葉がよく使われています。
なお、「ダイレクト・ソーシング」は、採用活動のうち、人材の発掘・選定・アプローチといった前半のプロセスに焦点を当てたもの、「ダイレクトリクルーティング」は人材サーチから選考、採用までの全プロセスを指すものとして使い分けられることもあります。
転職サイトや転職エージェントとの違い
「転職サイト」は、採用を検討している企業が転職サイトの運営会社に依頼して求人情報を掲載し、人材を募集する採用手法です。「転職エージェント」は、採用を検討している企業が転職エージェントに求める人材要件を伝え、要件に合う求職者の紹介を受ける採用手法です。
転職サイトや転職エージェントは、求職者からの応募を待つ、いわゆる「待ちの採用」であるのに対し、ダイレクト・ソーシングは企業から求職者に直接働きかける「攻めの採用」と言われています。
ダイレクト・ソーシングの考え方と世の中の流れ
転職サイトや転職エージェントなど第三者に依頼する「待ちの採用」は、自社内での採用担当者の工数が少なくなるというメリットがありますが、応募者の質や量、スケジュールのコントロールが難しくなることがあります。一方、第三者を介さないダイレクト・ソーシング(=攻めの採用)は、採用担当者の工数はかかるものの、自社が採用活動を主導し、コントロールすることが可能です。
近年、少子高齢化に伴い人材獲得が困難になる一方で、多くの企業が時代の変化に対応するための変革や新規事業開発に取り組んでおり、人材ニーズは高まっています。また、働く個人にも「キャリア自律」の意識が広がり、自身のキャリア構築のため、転職を視野に入れる人が増えつつあるようです。
そこで、企業は、転職活動を積極的に行っている「転職顕在層」からの応募を待つだけでなく、今すぐの転職を考えていない「転職潜在層」にもアプローチするダイレクト・ソーシングに注目し、積極的な導入が進んでいるのです。
ダイレクト・ソーシングのメリット
ダイレクト・ソーシングを行うメリットとしては、次のポイントが挙げられます。
ニーズに合わせてピンポイントで採用できる
ダイレクト・ソーシングの場合、自社が求める人材像にマッチする人にピンポイントでアプローチします。書類選考や1次選考などを経て、母集団から候補者を絞り込む時間と手間を省けると言えるでしょう。
採用コストを抑えられる
転職サイトに求人情報を掲載した場合、採用に至らなくても広告費がかかります。転職エージェントを利用する場合は、紹介を受けた人材の採用が決定した際に成功報酬を支払います。ダイレクト・ソーシングの代表的な手法である「スカウトサービス」を活用した場合も、採用成立後に成功報酬が発生することが一般的ですが、転職エージェントと比較すると金額は低めです。
採用ノウハウが蓄積される
自社が主体となって、ダイレクトに求職者にアプローチする活動を重ねていくなかで、次のようなノウハウが蓄積されていきます。
- 返信率が高いスカウトメール文面の傾向
- 求める人材に対し、自社のどのような強みを訴求すれば良いか
- どのような採用手法やツールが自社にマッチしているか
- 応募意欲・入社意欲を高めるためのコミュニケーションの取り方やスピード感
- 採用部門との連携の仕方
- 転職市場の動向と、適切な対応
ダイレクト・ソーシングのデメリット
ダイレクト・ソーシングには、デメリットもあります。以下の注意点を踏まえ、利用を検討する際には慎重に検討しましょう。
大量採用に向いていない
ダイレクト・ソーシングは一人ひとりにアプローチするため、大量に採用するケースには向いていません。決められた条件にマッチする人材を、少人数採用したいときに適しているでしょう。転職サイトや転職エージェントと使い分けながら利用することも一案です。
採用工数が増えやすい
転職サイトや転職エージェントを利用すると、いくつかの採用活動プロセスを外部に任せることができます。一方、ダイレクト・ソーシングはすべて自社で行う必要があるため、採用工数が多くなりやすいでしょう。自社の採用工数や体制を踏まえて活動計画を立てる必要があります。
ダイレクト・ソーシングに向いている企業
ダイレクト・ソーシングが向いている企業、効果が期待できる企業の特徴として、以下が挙げられます。
少人数の採用をする企業
大量採用を行う場合は、転職サイトなど多くの求職者の目に触れる採用手法が比較的有効ですが、少人数の採用を行う場合、ダイレクト・ソーシングの手法であればコストを抑えられるでしょう。
転職市場で希少な人材を採用したい企業
ハイクラス層や専門性が高い人材など、市場価値が高く、現職でも優遇されている人材は、転職する強い動機を持っていない傾向があります。「チャンスがあれば転職しても良い」と考えつつも、転職市場に出て積極的に活動していないのです。このような「転職潜在層」にアプローチするためには、ダイレクト・ソーシングが適しています。
世間一般の認知度が低い企業
BtoBビジネスを行っている企業、設立間もないスタートアップ企業、中小規模のベンチャー企業など、世間一般の認知度が低い企業は、転職サイトに求人情報を掲載しても求職者の目に留まりにくくなります。転職エージェントから紹介を受けても企業のイメージがわかないため、複数の候補求人のなかで埋もれてしまう可能性があります。
その点、ダイレクト・ソーシングは求職者に直接コンタクトを取ることで、自社の存在が認知され、「自分に興味を持ってくれた会社」として、求職者側の興味も喚起できると期待できます。
自社の魅力や特徴に自信がある企業
自社の魅力や特徴に自信があるにもかかわらず、従来型の採用手法で多くの求人情報に埋もれてしまい、せっかく持っている魅力の発信が難しかった企業もダイレクト・ソーシングに向いています。
転職サイトの求人情報のフォーマットは情報掲載のスペースや表現が限られており、転職エージェント経由では十分に情報が伝わらないこともあるでしょう。ダイレクト・ソーシングであれば、多様な手法を用いて自社をアピールすることができます。
ダイレクト・ソーシングの進め方
ダイレクト・ソーシングの進め方をご紹介します。
採用課題を明確にする
事業戦略に基づいて人員計画を立て、採用が必要な職種・ポジション・人数を明確にします。いつまでに入社する必要があるのか、目標時期を設定し、スケジュールを立てましょう。
具体的なターゲットを設定する
採用ポジションに必要な経験・スキルを洗い出し、具体的な採用ターゲットを設定します。経験・スキルに加え、「このような志向・価値観を持っている人」「このようなキャリアビジョンを描いている人」「このようなマインドで仕事に取り組める人」など、人物像のイメージも描いておきましょう。
自社の訴求ポイントをまとめる
自社の事業上の強み・弱み、採用上の強み・弱みなどを明確にしたうえで、どのようなポイントを人材に訴求すれば良いかをまとめましょう。その要素を、スカウト文面、採用サイト、採用動画などに盛り込みます。
自社に適したダイレクト・ソーシングサービス・手法を選定する
利用するサービスによって特徴や費用が異なりますので、戦略に合わせたサービス選定が重要です。
ハイクラス層に強い媒体を利用するのか、特定の業界に特化した媒体を利用するのかなど、求めている人材によって選択肢が変わるでしょう。
また、社内の採用ノウハウが少ない場合は、担当者がつくなどのフォローが手厚いサービスを選択するのも効率よく採用活動を進めるコツです。
コミュニケーション戦略を検討する
選定した候補者に対し、誰が最初にアプローチするか(採用担当者/事業部門長/経営層など)を検討します。「カジュアル面談」からスタートするか、「面接確約」を前提に応募を促すのか、そして面談や面接を誰が担当するかを決めます。
さらに、どのような情報を、どのような手段で提供するかも重要なポイントです。例えば、次のような方法が考えられます。
- 会社説明資料(採用ピッチ資料)を個別に送る
- 採用サイトを充実させて、フォームからアクセスしてもらう
- ブログ・SNSで発信しておく
- 公開していない情報を抜粋してアプローチし、面談時に役員などから直接詳細説明をする
経営層や現場との協働で取り組む
人事だけでなく、経営層、採用部門、採用者が入社後に協働する部門などと協力し、会社全体でダイレクト・ソーシングに取り組みましょう。
振り返りを行い、改善を繰り返す
採用活動を終えたら、振り返りを行い、次回の採用活動に活かしましょう。次のようなポイントを検証・分析してみてください。
- 候補者の条件設定
- スカウトメールの返信率
- 返信率が高かったスカウトメールの文面
- 選考プロセス
課題に感じたことは改善を図り、PDCAを回していくことで、採用活動の効率化につながるでしょう。
ダイレクト・ソーシングを運用するポイント
ダイレクト・ソーシングを運用するポイントをご紹介します。
情報管理は一元化する
採用活動を始めるとターゲット選定やアプローチの進捗状況、面談の日程調整など、管理するべき情報が増えていきます。また、複数の採用担当者が改善を繰り返すうちに、改善のポイントや効果の良いメール文面などの情報量にばらつきが出るため、情報管理を一元化しておくことが重要です。
ダイレクト・ソーシングで得た知見をまとめて管理できる環境を構築すれば、効率的に採用活動を進められるでしょう。
蓄積したノウハウで生産性を高める
前述のとおり、ダイレクト・ソーシングを繰り返していくと「効果的なスカウトメール文面」「訴求する強み」「自社に向く採用手法・ツール」「候補者とのコミュニケーション」「各部門との連携」「転職市場への対応」など、多様なノウハウが蓄積されます。これらを意識的に活かし、生産性アップを図りましょう。
採用活動のひとつにダイレクト・ソーシングの活用も検討を
ダイレクト・ソーシングを活用することで、他の採用手法や求人媒体では出会えないような人材を獲得できる可能性があります。スタート時には社内の業務量が増えますが、ノウハウを溜めていけば、採用活動の効率化、採用コスト削減にもつながっていくでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。