即戦力人材の採用においては、「キャリア採用」が有効な手段の一つとして考えられます。キャリア採用は中途採用とどのような違いがあるのか、キャリア採用の導入のコツや採用事例などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
キャリア採用とは?中途採用との違い
キャリア採用とは中途採用の一種であり、自社と同じ業界の経験や募集をしている職種の経験がある人を採用する手法です。「経験者採用」と呼ばれることもあり、企業は「即戦力性」を期待して採用活動を行います。
つまり、キャリア採用と中途採用は同じ概念ではありますが、中途採用が「就業経験のある人材」を対象としているのに対し、キャリア採用は「専門知識や経験が豊富な即戦力」が対象となります。
キャリア採用を実現させるには、採用基準に「専門的知識や経験を持ち合わせており、即戦力になり得ること」を盛り込むことが重要です。
キャリア採用と中途採用の違い
中途採用とは、就業経験のある人材を企業が採用することを指します。
一方で、キャリア採用は就業経験の有無に加えて、前述の通り、自社と同じ業界での経験や募集をしている職種での経験があることが必須条件になります。
キャリア採用が注目されている背景
近年、キャリア採用が注目を集めている理由について解説します。
採用活動が活発化し、即戦力人材を求める企業も増加している
株式会社リクルートのリクルートワークス研究所が実施した「中途採用実態調査(※1)」(2023年度実績、正規社員)によると、企業の採用活動は2021年から増加傾向にあります。2023年度下期に「中途採用活動について「実施した・実施中」と答えた企業は、79.5%でした。前年2022年同時期(75.6%)に比べて3.9%上昇しています。
また、「中途採用の実施目的」は上位から「離職への対応」(70.7%)、「即戦力人材の獲得」(69.5%)、「採用未充足への対応」(64.0%)となっており、即戦力となる人材の獲得のニーズの高さがうかがえます。
(※1)出典:リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2023年度実績、正規社員)」(2024年6月6日)
時代の変化に臨機応変に対応し、成長を続ける
株式会社リクルートの「2024年度上半期・転職市場動向レポート(※2)」によると、近年の求人の背景にあるのは「変革(トランスフォーメーション)」とのこと。「各業界で事業モデルやサービスの変革に伴う採用がより強化されている。変革を推進する人材として、異業界の経験者が迎えられる事例も続々と生まれている」と指摘されています。
企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化し、かつ先の見えづらいVUCA(※3)の時代と言われる今、豊富な経験をもとに主体的に行動できる変化対応力の高い人材を採用し、持続的に成長するために、キャリア採用を強化する動きがあるようです。
(※2)出典:株式会社リクルート「2024年度上半期・転職市場動向レポート」(2024年7月)
(※3)VUCA=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語
キャリア採用を導入するメリット
企業がキャリア採用を導入するメリットは大きく3つあります。
即戦力人材の採用
キャリア採用の大きなメリットは、即戦力人材を採用できることです。同じ業界での経験や募集職種での経験がある人材を採用できるため、今までの経験やスキルを活かして、早期に自社への貢献が期待できます。
教育コストの低減
採用後の教育コストを抑えられる点も、キャリア採用のメリットです。
ビジネスマナーや社会人としての基本がすでに備わっている点は、中途採用と同じですが、キャリア採用の場合はさらに、業界や仕事内容のインプットにかかる教育コストも抑えられる可能性が高いでしょう。
新しい視点やノウハウの導入
キャリア採用の場合、「同じ業界の競合他社」や「他業界の同じ職種」で培ってきた経験やスキルを自社内で活かしてもらうことができます。そのため、今まで自社になかった新しい視点やノウハウの導入が期待できます。
キャリア採用を導入するデメリット・注意点
即戦力人材を採用できるキャリア採用ですが、デメリットや注意したほうがいいこともあります。導入の際に気を付けたい点を3つ解説します。
採用コストの増加
キャリア採用は経験者を採用するため、未経験者を採用する場合に比べると採用コストが高くなる傾向にあります。
例えば転職エージェントを利用する場合、成功報酬という形で入社者の年収に対する一定割合を転職エージェントに支払うことが一般的です。入社者の年収は前職の年収やこれまでの経験・スキルなどを考慮して設定するので、未経験者採用に比べると、キャリア採用の場合は採用コストが高くなる可能性があります。
また経営幹部などのハイクラス人材の採用の場合、スカウトサービスやエグゼクティブサーチ、ヘッドハンティングなどの手法を取り入れることもあるでしょう。それぞれの採用手法によってかかるコストは異なりますが、一般的には経営幹部などの人材は採用の難易度が高かったり、採用期間が長くなったりする傾向にあるので、さらにコストがかかることが見込まれます。
自社内の予算に合わせて、事前に採用手法の検討やかかるコストを算出するが大切です。
受け入れ体制の整備が必要
未経験採用の場合、自業界や募集職種の知識や知見がないことを考慮し、社内での受け入れ体制を手厚く整えることでしょう。
一方で、キャリア採用の場合は「経験があるので大丈夫だろう」と考え、受け入れ体制をきちんと整えないまま入社者を迎え入れてしまうことがあります。経験者とはいえ、自社で働くことは初めてです。業務の説明を丁寧にしたり、自社の独自の文化やルールを教えたりなど、入社者が安心して業務に取り組めるように体制を整えておきましょう。
キャリアアップを目的とした離職リスクがある
経験豊富で高い専門性やスキルを持つ人材の場合、さらなるキャリアアップを志向する傾向があります。経験・スキル、高い専門性が評価され、ヘッドハンティングやスカウト、リファラルなどさまざまな形で転職のアプローチを受けることも考えられるため、自社に希望するキャリアアップの機会や選択肢がない場合、転職を選択する可能性もあるでしょう。
キャリア採用の流れ・実現させるためのコツ
キャリア採用の主な流れと実現させるためのコツは次の通りです。
【募集前】
- 採用要件を厳しくし過ぎない
- 選考フローと採用基準の明確化
- 社内の受け入れ体制を整える
【選考中】
- 自社の魅力を積極的に発信する
- スキルだけでなく人柄も合わせて判断する
- 経験・スキルを自社でどのように活かせるかを伝える
【内定後】
- 入社後のフォローアップを行う
それぞれのコツについて、具体的に解説します。
【募集前】採用要件を厳しくし過ぎない
キャリア採用を行う前に、まずは採用要件を明確にしましょう。ただし、即戦力人材を採用したいからといって、希望条件を多くしすぎないことがポイントです。キャリア採用の場合、すぐに事業に貢献してくれることを望んで、採用要件に多くの条件を設定するケースが見られます。しかし条件を多く設定し過ぎると、当てはまる人が見つからなかったり、応募者が集まらなかったりする可能性があります。
まずは、ある程度の応募者が集まる条件を設定し、選考のなかで詳しいスキルや経験面などを確認していきましょう。
【募集前】採用基準と選考フローの明確化
採用基準と選考フローを明確化しておくことも大切なポイントです。
「即戦力となる人材を採用したい」と言っても、どのような人材を自社で求めているのか不明確では採用後のミスマッチが起こりかねません。そのため、前述の採用要件に加えて、採用基準も定めておくことが大切です。
またキャリア採用の場合、最初から面接回数を少なく設定する企業も見られますが、応募者の経験やスキル、人となりを知るためにはある程度の回数を踏んだ方が良い場合もあります。そのため例えば、面接回数を流動的に設定しておき、一次面接、二次面接が終わった後にその後の工程を改めて検討することや、選考の間に面談を設定して社風との相性を確認することなども一案です。また職種によっては応募者に課題を与えて、実力を確認してみましょう。
【募集前】社内の受け入れ体制を整える
前述のように、キャリア採用の場合は体制を整えずに受け入れてしまうケースが見られますが、経験や知識があるからこそ過去の成功体験が本人に強く根付いていたり、わからないことや基礎的なことを周囲に質問しにくかったりする場合があるようです。
配属先以外の部署との連携や、上司との定期的な面談を設定することで、入社後スムーズに力を発揮することができるでしょう。
【募集前、選考中】自社の魅力を積極的に発信する
自社サイトや転職サービスを活用して求人を募集する際、他社と比較したときの自社の魅力を発信することで、転職活動者の応募につながりやすくなるでしょう。
経験者採用の場合、すでに業界の知識が豊富であるケースがあります。さらに、競合他社と比較して応募を検討していることも考えられます。そこで、応募者に魅力に感じてもらえるような「自社ならではの情報」を発信していくといいでしょう。例えば、経営戦略や経営者インタビュー、入社後の部署内のメンバーや雰囲気などを伝えることでより自社らしさが伝わるかもしれません。過去にキャリア採用を行った実績があれば、どのような人が入社してどのように活躍しているのかも伝えられると、より応募者の興味を引くことができるでしょう。
また、求職者に直接アプローチして自社の魅力や採用への熱意を伝えたい場合は、ダイレクトリクルーティングも有効でしょう。
【選考中】面接ではスキルだけでなく、社風にマッチするかも確認する
キャリア採用は経験やスキルが重視されがちですが、自社の社風や文化などにマッチするかどうかを確認することも大切です。経験やスキルは申し分ないが、会社や部署の雰囲気に合わない場合、十分な力を発揮してもらえなかったり、早期離職につながったりする可能性もあります。面接では経験やスキルについてだけを確認するのではなく、応募者の人となりを知れるように質問内容などを検討するといいでしょう。
【選考中】経験・スキルを自社でどのように活かせるかを伝える
キャリア採用の選考においては、応募者の経験やスキルをどのように自社で活かせるのか具体的に伝えると、応募者により興味を持ってもらうことができるでしょう。企業が応募者を求めている理由がダイレクトに伝わることに加えて、応募者は入社後のキャリアを想像しやすくなります。
【内定後】入社後のフォローアップを行う
受け入れ体制を整えるだけでなく、入社後の継続的なフォローアップも大切です。「入社前のイメージとギャップは生じていないか」「職場の人間関係は問題なく馴染めているか」「自社で働いてみて課題と感じる面はないか」などを気にかけることで、入社者が働きやすい環境を作ることができます。
キャリア採用を行うと効果的な職種の例
キャリア採用を行うと効果的な職種を4つ例に挙げて解説します。
営業・営業企画
営業・営業企画は売上に直結する部門であるため、キャリア採用で営業職を採用することは、売上を伸ばすうえで効果的です。未経験者を採用する場合、一人で売上を立てられるまでに数ヵ月を要することが考えられますが、経験者であれば早いキャッチアップが可能でしょう。早期に業績を伸ばしたいと考えている場合は、キャリア採用を検討することがおすすめです。
バックオフィス部門
人事や法務、経理などのバックオフィス部門も、キャリア採用できると良いかもしれません。バックオフィス部門の人員は営業やエンジニアなどと比べて、どこの企業でも人数が少ないケースが多く見られます。そのため未経験者を採用した場合、育成までに時間がかかり、即戦力になるまで時間を要することが考えられます。
SE・プログラマー
SE・プログラマーは「未経験者可」として募集しているケースも見られますが、企業によっては経験やスキルが豊富な人材を求める傾向にあります。特に、新しい事業を展開する場合や新しい技術を取り入れたい場合などは、その傾向が強く見られます。
クリエイティブ職
デザイナーやクリエイター、ディレクターなどのクリエイティブ職は専門スキルや知識が求められるため、未経験者ではなかなか力が発揮しにくい職種です。そして、経験・スキル・実績が豊富であるほど、周りの意見を取り入れながらアイディアを形にしていく力があると考えられます。
採用選考では、応募者のポートフォリオや実績をもとに、スキルレベルや活躍可能性を判断しやすいのも特徴です。
キャリア採用の実現事例を紹介
採用支援コンサルタントとして関わった企業の中で、企業の思いと応募者の思いが合致しキャリア採用を実現した企業の事例を2つ、ご紹介します。
事例1:IT系スタートアップ企業が大手企業の営業部長経験者を採用
スタートアップ企業のA社。一段の業績拡大を実現するため、即戦力となるベテラン法人営業経験者を求めて、キャリア採用に踏み切りました。
そのようなA社が採用したのは、大手IT企業で営業部長を務めていたBさん(30代)。前職で、担当部門の業績を大きく向上させたマネジメント力や、大手企業相手に培った高い法人営業スキルを高く評価しました。
Bさん自身は、大手企業にはないA社の成長性や裁量権の大きさ、経営者との近さに惹かれたとのこと。また、ストックオプションの付与も魅力に感じてもらうことができ、転職を実現しました。
事例2:金融系ベンチャーが金融・コンサル経験者を経営企画として採用
金融系ベンチャー企業C社では、さらなる成長を目指して経営企画を強化するべく、キャリア採用を実施。経営企画経験者、もしくはそれに準ずる豊富な経験を持つ人材を求めていました。
採用したのは、金融機関と総合コンサルティングファームを経験しているDさん(30代)。金融機関では法人営業と企画部門を経験し、コンサルティングファームでは金融業界担当のコンサルタントとして活躍していました。
金融機関での経験と、コンサルティングファームで金融業界を幅広く見てきた知見、コンサルタントとして磨いた論理的思考力や分析力、調整力などといったポータブルスキルを高く評価。Dさんも、「これまでの経験を活かして経営企画として自社の成長に貢献したい」という思いが強く、双方の思いが合致。採用が決定しました。
キャリア採用を活用すると即戦力人材の獲得が期待できる
キャリア採用は、即戦力人材を採用できるという利点があります。しかし、経験やスキル面だけを見て採用すると、自社に馴染めずに早期退職してしまったり、本来の力を発揮できなくなったりする可能性があります。
経験やスキル面を見つつ、人物面でも自社に合っているのかどうかも見極めて採用することで、キャリア採用の効果を得ることができるでしょう。キャリア採用をうまく活用して、自社の成長や事業拡大を実現してください。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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