雇い入れ時健康診断 費用

会社が新たに人材を雇用するとき、「雇入れ時健康診断」を実施する必要があります。その目的・時期・対象者・検査項目・費用・準備・事後の対応などについて、社会保険労務士の岡 佳伸氏が解説します。

雇入れ時健康診断とは

雇入れ時健康診断とは、労働安全衛生規則第43条で「事業者は常時使用する労働者を雇い入れるときに、医師による健康診断を行わなければならない」と定められており、雇用者である事業主に義務付けられているものです。

また、労働安全衛生規則第 44 条では、事業主に対して、1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を行うことも義務付けられています。

事業主は、雇入れ時健康診断によって労働者の雇入れ時の健康状態を把握することで、適正な配置を行うなどといった就業上の配慮をしたり、入社後の健康管理に役立てたりします。定期健康診断によって年に1度定期的に労働者の健康状態を把握することで、労働による健康悪化がないかどうかを確認することが必要です。

雇入れ時健康診断は会社の義務

前述の通り、雇入れ時健康診断の実施は事業主に義務付けられていますが、労働安全衛生規則第43条には次のような記載もあります。

「ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りではない」

つまり、新たに雇用する人が入社日の直近3カ月以内に前職の会社や自身で健康診断を受けており、その診断結果を提出する場合、提出された項目については健康診断を行う必要はありません。ただし、雇入れ時健康診断の項目は安全衛生規則第43条で決められており、提出された健康診断結果がその項目を満たしていない場合は、労働者自身でその項目を受診し、入社先に提出する必要があります。

雇入れ時健康診断は雇入れの直前または直後に行う

雇入れ時健康診断は、「雇入れの直前または直後」に行うこととされており、具体的にいつまでにということは決められていませんが、入社前か入社後1カ月以内が一般的です。
雇入れ時健康診断は、労働契約が成立した後(採用内定後)に入社者に実施することになりますが、入社までに受診させる場合が多いようです。

内定から入社まで時間がない場合など、入社後に受診させる場合は、雇入れ時の健康状態を確認し、適正配置や今後の健康管理に役立てるという目的から、できるだけ速やかに、遅くとも配属部署に配置する前に実施するのが望ましいでしょう。

雇入れ時健康診断の対象者

雇入れ時健康診断を行う対象者は、労働安全衛生規則第43条で「常時使用する労働者」と定められています。常時使用する労働者とは、1年以上の勤続が見込まれ、かつ週30時間以上の労働が見込まれる労働者のことを指します。

パート・アルバイトについては、雇用期間・労働時間に基づいて判断されます。「下記1~3のいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である場合、健康診断を実施する必要がある」とされています。

  1. 雇用期間の定めのない者
  2. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(※1)使用される予定の者
  3. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1 年以上(※1)引き続き使用されている者

(※1)特定業務従事者(坑内労働、深夜業等の特定の有害業務に常時従事する者)にあっては 6か月以上

雇入れ時健康診断の検査項目

雇入れ時健康診断において、必須とされている検査項目は以下のとおりです。

  1. 既往歴(過去の病気や手術、治療について)及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査

雇入れ時健康診断にかかる費用相場と費用負担の範囲

雇入れ時健康診断を実施するにあたっての費用の相場・負担についてご説明します。

雇入れ時健康診断の費用の相場

一般的に雇入れ時健康診断にかかる費用の相場は入社者一人当たり1万円~1万5千円程度です。自由診療扱いであり医療機関によって料金が異なるため、利用する予定の医療機関の料金を確認してみてください。

雇入れ時健康診断の費用は会社が負担することが原則

雇入れ時健康診断は、法律で事業主に実施が義務付けられているものなので、費用は原則として会社が負担します。

会社が指定する医療機関で受けてもらうケースもあれば、本人の希望する医療機関で受診してもらい、領収書の提出を受けて精算し、費用を負担するケースもあります。

再検査やオプション検査の場合は個人負担が一般的

雇入れ時健康診断を行った結果、異常の所見があり再検査になった場合は、その料金は原則本人負担になります。その後、要治療になった場合の治療費も本人の負担です。
また、雇入れ時健康診断の項目以外に、自分の意思で検査項目を増やす場合は、その分も原則本人負担になります。

ただし、異常の所見があった労働者について、会社が就業上の措置を決定するために再検査や精密検査の受診を勧奨する場合には、会社側が負担するケースもあります。

国や自治体の助成金活用は雇入れ時健康診断には活用できない

労働安全衛生法で定められた法定内健康診断に該当しないものに対して、国や自治体が助成金制度を設けており活用できるケースもありますが、雇入れ時健康診断は法定健康診断であるため、原則これらの助成金を活用することはできません。法定外の健康診断とは「人間ドック」「生活習慣病予防健診」などが該当します。

なお、入社者が入社日の直近3カ月以内に自ら受診して提出した健康診断については、助成金が活用されていても問題はありません。

雇入れ時健康診断のために必要な事前準備

雇入れ時健康診断を実施するにあたっては、以下の3ステップに沿って行うといいでしょう。

Step1:入社日の直近3カ月以内に健康診断を受診しているかどうか、必要な項目を満たしているかどうかを確認する 
➡満たしている場合は診断結果を提出してもらう

Step2:受診していない、もしくは項目を満たしていない場合は、かかりつけ医など自身で受診したい医療機関があるかどうかを確認する 
➡受診したい医療機関がある場合は、自身で予約の上、受診してもらう

Step3:かかりつけ医など自身で受診したい医療機関がない場合は、会社が医療機関を指定する(本人が予約、もしくは会社が予約)

Step2を飛ばし、会社が医療機関を指定しても問題はありませんが、入社者本人にかかりつけ医がある場合は、「健康診断結果がカルテに残る」「受診しやすい」など本人にとってメリットがあります。そのため、まずは本人の意向を確認することをお勧めします。

なお、雇入れ時健康診断を受ける前に、次の点について入社者に事前に伝えておきましょう。

  • 領収書を会社名で発行してもらう必要があるため、自身で予約を取る際には入社予定の企業名を医療機関に伝えること
  • 予約の際に「雇入れ時健康診断」であることを明確に伝えること(医療機関側が雇入れ時健康診断であることを認識していないと、法定項目を網羅した検査が実施されないこともあり得るため)
  • 費用は基本会社負担となるが、雇入れ時健康診断の項目以外の検査も併せて行いたい場合、その分の費用は自己負担となること

雇入れ時健康診断を受けている時間の賃金

雇入れ時健康診断の受診時間の賃金については、法律上では決まりがなく、労使で取り決めることとなりますが、通達(※2)では、「労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可決な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと」とされています。

入社後に雇入れ時健康診断を実施する場合は、労働時間内に受診してもらうのが原則です。したがって、健康診断受診の時間分の賃金はもちろん、医療機関への交通費についても会社負担となるのが一般的です。

入社前に雇入れ時健康診断を実施する場合、健康診断受診の時間は労働時間には当たらないため、賃金は発生しません。ただ、医療機関までの交通費は会社が負担するケースが一般的のようです。

(※2)参考:厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2043&dataType=1&pageNo=1)

雇入れ時健康診断を実施した後に行うこと

雇入れ時健康診断を実施したら、労働安全衛生法第66条の3から第66条の7までに基づき、以下の対応を行ってください。

  • 診断結果を法律で定められた期間、保存する(一般健康診断の場合は5年間)
  • 異常が見られた場合、産業医からの意見を聴取し、適切な措置を講じる
  • 診断結果を本人に通知する

なお、定期健康診断については所轄の労働基準監督署に「定期健康診断結果報告書」を提出する必要がありますが、雇入れ時健康診断についてはその必要はありません。

雇入れ時健康診断の結果は、採否を決定するものではない

雇入れ時健康診断の結果、健康上の問題が発見されたとしても、それを理由とする内定の取り消しや解雇はできません。万が一問題が見つかった場合も、「速やかに治療してもらい早期に戦力になってもらう」と捉えることが会社としての基本姿勢です。

もし健康診断結果を採否の参考にしたい場合は、採用選考時に健康診断を行うか、もしくは本人の承諾を得た上で健康状態の申告書を提出してもらう必要があります。

なお、募集職種によっては、採用選考の段階で、応募者にその業務を遂行する上で健康上の問題がないか、健康診断によって確認するケースもあります(運転業務における「てんかん」や、食品を扱う業務での「アレルギー」など)。

雇入れ時健康診断は、あくまで労働契約を締結した労働者に対して実施するものであり、雇入れ時健康診断の結果によって採否を決定するものではありません。採用選考時の健康診断と雇入れ時健康診断は性質が異なるものですので、混同しないようにくれぐれも注意しましょう。

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この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。