人材採用を行う際、以前は「求人メディアに広告を出稿する」「転職エージェントに紹介を依頼する」といった手法が主流でした。ところが近年は、求職者が幅広いチャネルから情報を収集するようになったため、ターゲット人材の目に留まるように「採用広報」に注力する企業が見られます。
採用広報を行うメリット・デメリット、方法やチャネル、進め方などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
採用広報とは
採用広報とは、人材採用を行う企業が自社の存在や魅力をアピールすることで、応募喚起を狙う広報活動を指します。近年は、Webの口コミやSNSなど、求職者が企業情報を得るチャネルが多様化しています。旧来の母集団の獲得手法だけでは、求める人材にリーチしづらくなってきました。
SNSを巧みに活用して注目を集め、採用につなげている企業も見られるなか、人材獲得競争で優位に立つには採用広報活動が重要と言えるでしょう。労働力人口減少に伴い、今後も売り手市場が続くことが考えられます。応募や内定承諾を得るためにも、企業は積極的に自社の魅力を発信していく必要があると言えます。
採用広報の方法やチャネル
採用広報の手法・チャネルには以下のようなものがあります。採用ポジションやターゲット層に応じて使い分けましょう。なお、採用難易度が高いエンジニアなどに向けた広報では、イベント開催など大がかりな広報活動を展開する企業も多数見られます。
オウンドメディア・SNS・メルマガ
自社で無料運用できるチャネルとして、「オウンドメディア(自社サイトやブログなど)」「SNS」「メルマガ」などがあります。自分たちの言葉で、伝えたいことを盛り込めるのがオウンドメディアやSNS、メルマガの魅力です。自社の採用サイトを作成してその中に採用情報や求人に記載したり、自社のSNSアカウントから採用情報を発信したりすることができます。これらの方法は、自社の価値観やカルチャーに共感してくれる人が集まりやすくなる効果が期待できます。
有料広告
自社の採用ターゲット層の人々が多く見ている媒体(SNS・動画含む)に広告を出稿する方法です。
デジタル広告は細かなターゲティングが可能であるため、求める人材に向けての訴求がしやすいと言えます。予算があれば、多くのターゲットにリーチすることができるでしょう。
イベント(リアル/オンライン)
「転職フェア」などの採用関連イベントに出展すると、来場者に直接アピールすることができます。スタートアップの場合は、自社の技術・商品・サービスをプレゼンテーションする「ピッチイベント」「ピッチコンテスト」などに参加する方法もあります。
採用ニーズが高く、かつ採用難易度が高いITエンジニアなどに向けては、自社ミートアップ、LT会(=Lightning Talk/プレゼン型勉強会)などを実施する企業も見られます。他にも、「著名な講師を招いてセミナーや勉強会を開催する」「技術関連イベントに自社エンジニアを登壇させる」といった手段により、すぐに採用にはつながらなくても、エンジニアの認知度を高めるところから始めている企業もあります。
なお、転職エージェント向けにセミナーやイベントを開催し、経営陣から直接自社のプレゼンテーションを行ったり、採用部門のメンバーが職場や仕事のリアルな情報を語ったりする機会を設けるのも有効です。転職エージェントに自社への理解を深めてもらうことにより、マッチする人材を紹介してもらいやすくなる可能性があります。
採用資料、ノベルティ・グッズなど
求職者と何らかの接点を持ったときに、渡せるものがあると印象深くなりつながりを保ちやすくなります。自社を紹介する採用資料や動画などは、見やすく分かりやすいものを作成しておくといいでしょう。
また、スタートアップなどでは自社メンバーの一体感やカルチャー醸成のために、Tシャツやロゴシールなどのオリジナルアイテムを作っていることがあります。それを採用イベントなどの際に、求職者に配布している企業もあります。直接採用に影響しませんが、企業イメージを伝える手段のひとつです。
採用広報を行うメリット
採用広報を行うことによるメリット・効果としては、次のようなものが挙げられます。
認知度の向上
中小規模のベンチャー企業や創業から日が浅いスタートアップでも、認知度の低さからなかなか応募が集まらないケースも少なくありません。しかし、認知度が低い企業でも、手法によっては自社の存在を知ってもらうことができます。例えば、SNSやオウンドメディアを活用して自社の「ファン」を増やしていけば、「この会社で働いてみたい」と応募につながることが期待できるでしょう。
母集団の拡大
転職する意思がなく、求人メディアや転職エージェントなどを利用していない人でも、企業が発信する情報に触れて興味を持てば、入社意欲が湧く可能性があります。「応募してみよう」と行動を起こしてもらえれば、母集団を拡大できるでしょう。
ミスマッチ回避
採用広報により自社への理解が深まった状態で応募してもらうと、選考過程でも入社後にもミスマッチが生じにくいでしょう。辞退を防ぐためのフォローの負荷が軽減され、入社後の定着も期待できます。
採用コスト削減
採用広報活動が功を奏し、自社サイト・SNS経由での応募増加、ダイレクトリクルーティングの成功率アップ、リファラル採用の増加につながれば、求人メディアへの出稿費用や採用支援サービスの利用料を抑えることができ、採用コストを削減できます。
採用広報を行うデメリット・注意点
採用広報の活動には、デメリットが生じることもあります。下記の点に注意して、やり方を検討することが大切です。
コストがかかる
採用広報活動を本格的に行おうとすると、「Webマーケティング」「コンテンツ制作」などが必要となってきます。これらを担える人材が自社にいない場合、新たに採用したり外部の専門人材に依頼したりすることになり、そのコストが想定よりかさむこともあります。
例えば、広報コンテンツとして、「パーパス」「ミッション・ビジョン・バリュー」などを定めるところから始めるとなれば、ノウハウを持つコンサルタントへの依頼が必要となるかもしれません。コンテンツ制作も、Web・SNS広告や動画コンテンツなどを準備する必要があるでしょう。
効果が見えにくい
採用広報の成果は、開始してすぐに表れるものではありません。SNSの閲覧数やフォロワー数などが伸びたとしても、そこから「応募」「採用」につながるには長い期間を要します。採用広報プロジェクトで、いきなり応募者数や採用人数をKPIに置いてしまうと、成果が見えずに焦りやプレッシャーを感じてしまうこともあり得ます。
採用広報の進め方
採用広報に取り組む場合、以下のステップで進めていきましょう。
自社の採用活動の課題を分析する
まずは現在の採用活動の状況から、課題を分析します。「母集団形成ができない」「応募者は集まるが求める人材像とズレている」「内定辞退が多い」など、どのフェーズに改善すべき問題があるかを明確化しましょう。
採用ターゲットと伝えたいメッセージを決める
採用ポジションで活躍できるのはどのような人材なのか、ターゲットとなる人物像をより細かく設定します。このとき、経験・スキルだけでなく、「どのような志向や価値観を持っている人か」「何にやりがいを感じ、何に不満を感じる人か」なども具体化します。
そして、その人物像に対してどのようなメッセージを送れば、興味を持ってもらえたり魅力を感じてもらえたりするかを検討しましょう。
メッセージの打ち出しにあたっては、自社の特性を整理しましょう。事業、商品・サービス、組織体制、社風、働き方、待遇など、ターゲット人材が魅力を感じそうなポイントをピックアップします。
項目の一例を挙げますので参考にしてみてください。
- 成長率
- シェア
- 顧客ラインナップ
- プロダクトの先進性
- 裁量権
- 昇進スピード
- 経営陣や同僚の経歴
- 年収アップ
- 副業
- 教育プログラム
- 資格取得支援
- リモートワーク
- フルフレックス
- ワーケーション
- オフィス内の福利厚生
- 部活動 など
広報戦略を練る
どのような形で情報を発信すればターゲット人材に届きやすいかを検討し、手段や媒体を選定します。このとき、人事担当者だけで進めるのではなく、現場(採用部署)を巻き込むことが重要です。媒体選定や発信するコンテンツに現場のリアルな声を反映することで、採用ターゲットに響きやすくなり、訴求力が高まるでしょう。
振り返りを行う
採用広報活動の結果を振り返り、チャネルごとのアクセスデータを分析して課題をつかみましょう。前述の通り、広報の成果が表れるまで長期間を要することもあります。効果測定を行いながら調整を図っていくことで、閲覧数や応募数などの指標が向上していくでしょう。PDCAサイクルを回し続けていくことが大切です。
採用広報は持続可能なスタイルで実践しよう
採用広報のためのオウンドメディアやSNSを立ち上げたものの、運用に行き詰るケースは少なくありません。人員が限られていると、採用業務が多忙になったときに広報活動にまで手が回らなくなる可能性があります。オウンドメディアやSNSがあるのに更新や投稿が長期間されていないと、応募者から「人材募集していないのでは?」と、不安や不信感を持たれてしまうかもしれません。手を広げすぎないように注意し、持続可能な範囲で実践していきましょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。