HRテック

HRテック(HR Tech)の導入を検討している、あるいはすでに導入しているが活用度を高めたいと考えている人事担当者の皆さんに、HRテックの基礎知識、導入メリット、領域ごとの動向、導入方法、活用事例などをお伝えします。日本総合研究所・太田壮祐氏が解説します。 

なぜ、今HRテック(HR Tech)が注目されているのか? 

今、HRテックが注目され、導入する企業が増えている背景には主に以下の要因が考えられます。 

テクノロジーの進化 

これまでも勤怠管理や給与計算など人事業務に関するシステムは多数ありました。しかし昨今はテクノロジーの進化によって機能がさらに強化されています。システムを使ってできることが増え、操作性も向上。提供されるサービスやツールの種類も増えていることから、積極活用したいと考える企業が増えています。 

「管理部門」から「戦略部門へ」 

これまでの人事部門は、給与計算や入社・退職・福利厚生などの手続きを行ったり、労働組合に対応したりと、「管理・調整」業務の割合が多い部門として位置づけられていました。 

ところが近年、「人的資本経営」が重視されています。人的資本経営とは、「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」(経済産業省の定義)を指します。 

今後、人事部門は管理・調整業務に加え、人事戦略を策定・遂行していくことがより一層強く求められることになるでしょう。そのため、HRテックのサポート機能に期待が寄せられているのです 

HRテック(HR Tech)を導入するメリット 

HRテックを導入するメリットとして、大きく分けると「効率化」と「高度化」が挙げられます。 

人事業務の「効率化」 

従来の業務を効率化することで、時間やコストの削減につながります。人事担当者は業務負担が軽くなる分、人的資本経営の実現に向けた戦略策定や企画業務にパワーをかけられるようになるでしょう。 

人事企画の「高度化」 

経営方針を踏まえた人事戦略に取り組むにあたっては、いわゆる「経験と勘」だけに頼らず、論理的に組み立てて行くことが重要です。つまり、データに基づく分析や課題設定を行う必要があり、実行後のモニタリングや効果測定もより精緻に行うことが求められます。このような企画系業務にもデジタルの力が活かされます。 

HRテック(HR Tech)の主な導入領域とトレンド 

人事に関する業務は多様ですが、HRテックの導入によって効果を発揮している領域、活用のトレンドなどについてご紹介します。 

採用・マッチング 

採用活動においては、HRテックを導入することで「面接日程の調整」「選考スケジュールの管理」などの業務を大幅に効率化できます。どの応募者がどの選考段階まで進んでいるか、次の面接の担当者は誰かなどを把握し、応募者と面接担当者の日程調整を行うという非常に煩雑な作業をシステムに任せることができるわけです。 

採用は基本的なフローが決まっているため、システムがガイドしてくれることによって抜け漏れを防ぎ、適切なタイミングでアクションを起こして円滑に進めていくことができます。 

また、複数の求人媒体や転職エージェントを併用している場合も、連携機能を持つツールであれば一元管理が可能です。 

応募者が採用ポジションの要件にマッチしているかどうかを判断するにあたってのサポート機能を持つツールやサービスもあります。マッチングの指標はさまざまですが、例えば、採用する職種で高い業績を挙げている従業員を分析して性格特性・行動特性などを設定し、適性検査によって応募者の活躍可能性を判断するなど、多様なデータの収集・分析の機能を活用することで、選考過程でのミスマッチの防止につながるでしょう。 

リテンション 

リテンションとは、若手の早期離職など、人材流出を防止する施策のことです。HRテックの中には、リテンションのサポート機能を持つツール・サービスもあります。入社者の性格・志向タイプに応じて、人事担当者や上司がどのようなフォローをしたりコミュニケーションをとったりするとよいかをシステムが提案してくれます。 

タレントマネジメント 

HRテックの盛り上がりの起点の一つとなったのが、タレントマネジメントの領域です。「適材適所」を実現するための施策として、採り入れられたことが背景にあります。従業員一人ひとりの業務経験、スキル面および性格面での強み・弱みをデータで分析・管理し、配属・人事異動・チーム編成などに活用します。 

人材育成・教育・研修 

社内外で実施されている研修プログラムについて、従業員一人ひとりの受講履歴を管理したいというニーズもあります。 

近年は、従業員の自己啓発を支援するためにオンライン研修を導入し、好きなプログラムを好きな時間に受講できるようにしている企業が増えています。HRテックを導入することで、従業員がどのプログラムを受講したかが自動的にシステムに反映されるため、人事担当者の管理の負担が軽減されています。 

労務・勤怠管理 

労務・勤怠管理のシステムは以前からありましたが、クラウド化が進んだことで機能が進化しました。特に店舗での勤怠管理などは、従業員が個々のスマートフォンを使って勤務時間を申請できたり、超過勤務になりそうであればアラートが出されたりと、利便性が向上しています。 

福利厚生・健康管理 

先進的な活用方法としては、従業員の健康増進を図るため、本人に運動時間を記録・申請させることにより、よく運動している人を表彰するという事例があります。また、最近では「適切な睡眠がとれているかどうか」をチェックし、生産性向上につなげようとする動きも見られます。 

組織改善・データ分析 

従業員エンゲージメントのサーベイにもHRテックは活用されています。ツールの提供元企業はさまざまな企業のサーベイデータを蓄積しているため、他社と比較してどのような状況にあるのかを診断し、示唆を与える機能・サービスを提供しています。 

HRテック(HR Tech)の導入方法 

HRテックを導入するために、どのようなステップを踏んで進めていけばよいかをお伝えします。 

導入目的を明確にする 

「効率化」を目指す場合、業務の見直しを行い、「やる必要のない業務」「やり方を変えた方がいい業務」などを棚卸しして整理します。システム化によって、業務の「ありたい姿」を明確に描くことが大切です。 

一方、「高度化」を目的とする場合は、自社の経営上の課題を明確にしたうえで、それを解決するための人事戦略を検討します。人事戦略にもとづき、どのようなHRテックの活用が必要なのかを明確化しましょう。 

目的に合うサービス・ツールを選択する 

目的を明確化したら、それを実現できる機能を持つツール・サービスの情報を収集し、比較検討します。 

提供元企業に対してRFI(情報提供依頼)・RFP(提案依頼)を行い、「自社の目的にマッチするか」「コストは見合うか」などを検討。デモンストレーションを通じて「使いやすそうか」も見極め、最適なものを選択します。 

既存システムとの統合を図る 

これまで使ってきた業務システムとの調整・統合を行います。新たなシステムを導入すると、これまでしていたことができなくなるケースも多々あります。 

残すべきもの・捨ててもいいものを仕分けし、「業務改革」を図ります。「システム」を理解している情報システム担当者と、「人事業務」を理解している人事担当者でしっかりと協議を行い、目線を合わせることが大切です。 

HRテック(HR Tech)を導入する際の注意点 

「効率化」を目的に導入した場合、導入後の業務のやり方を着実に遂行出来れば、比較的早い段階で効果を感じられる一方、「高度化」を図る機能は「導入したものの使われない」というケースが多々見られます。 

必ずしもやらなければならない通常業務ではなく、「新しいことをしてみようか」という実験的な企画業務として導入した場合、ちょっとした障害にぶつかっただけで頓挫してしまいやすいのです。ですから、最初に目的・目標を明確に定めておくことが重要です。 

そして、一足飛びに目標達成することを目指さない方がいいでしょう。いきなり全社で稼働させるのではなく「一部署から始める」「この職種から始める」といったように、「少しずつでも進めていき、進めながら改善・拡大を図っていく」ことを意識するようにしてください。 

HRテック(HR Tech)の導入事例 

実際にHRテックを導入した企業の人事担当者の声をご紹介します。 

応募者の情報確認・やりとりがスムーズに 

A社では以前、転職エージェントから紹介された応募者の面接日程調整をメールで行っていました。しかし、1日に数百通のメールを受信するなか、日程変更などの連絡が入るとメールの履歴を探すのに手間取ってしまうこともありました。 

また、次の面接に進んだ応募者の日程調整のやりとりが滞ってしまったことも。採用ツールの導入後は応募者の情報や選考の進捗状況を画面上で一元管理できるため、情報にアクセスしやすく、「対応忘れ」もなくなりました。 

事務作業の手間を削減できた分、採用活動の振り返りや分析をして、次の施策を考える時間を増やすことができたそうです。 

コミュニケーションが円滑化し、離職率が低下 

B社では、従業員の性格タイプを分析・分類できる機能を持つタレントマネジメントツールを活用しています。 

「このタイプの人には理論的に話した方が伝わりやすい」「このタイプの人は感情に訴えた方が響きやすい」といったタイプ別のコミュニケーション方法のガイドを参考に、上司と部下の1on1が実施されています。 

結果、円滑なコミュニケーションがとれるようになり、新卒入社1~3年以内の離職率が半分程度に減少しました。 

「戦略人事」がより求められ、HRテックの有用性が高まる 

労働人口減少に伴い、人材獲得はこれからどんどん困難になっていくでしょう。デジタルを活用することで業務効率化を図り、その分、採用戦略や離職防止策にパワーをかけられるようにする必要性が高まっていきます。 

一方、「高度化」への取り組みは、現在のところ企業の「人的資本経営」への考え方によって温度差があります。しかしながら、人的資本情報の開示の義務化も進んでいるなか、経営陣の意識も高まっていくでしょう。 

「戦略人事」が求められるようになり、HRテックへの投資も積極化する可能性が高いといえます。機能もさらに進化を続けていきますので、自社の経営上の目的を見据え、最大限に活用してください。 

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この記事の監修者

太田壮祐氏

さまざまな業界の人事組織課題の解決を専門に従事。近年では、労働問題に関する経済産業省・厚生労働省の委託調査等も幅広く実施。人的資本経営状況の診断・分析から戦略立案・推進支援まで、一気通貫で実効性の高いソリューションを提供。