社員の成長促進やキャリアプランニングにおいて、「ロールモデル」の重要性を感じている企業が増えています。特に「女性活躍推進」を背景として、女性の管理職やリーダーが少ない現状を踏まえて女性社員の目標となるロールモデルを自社内につくろうとする動きが活発です。ロールモデルの存在が与える影響や効果、ロールモデルの設定・育成方法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
ロールモデルとは
「ロールモデル」の語源は、英語の「role(役割・任務)」「model(模範・手本)」。厚生労働省では、ロールモデルを以下のように定義しています(※1)。
「社員が将来において目指したいと思う、模範となる存在であり、そのスキルや具体的な行動を学んだり模倣をしたりする対象となる人材」また、「スキルだけでなく、仕事とライフイベントの両立や業務への取り組み姿勢など、考え方やあり方についてよい刺激を受けることができる存在でもある」
ロールモデルとなる人材は社内で設定するとは限らず、ふさわしい人材がいれば社外の人材を選定しても問題はありません。ただし、社内でロールモデルを設定した方が身近であり他の従業員がキャリアの参考にしやすいため、今回は社内でロールモデルを設定した場合の効果や方法を中心に解説します。
参考(※1):厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf
ロールモデルが与える効果
社員がロールモデルを持つことの効果としては、以下が挙げられます。
キャリア形成の参考になる
ロールモデルとなる人材がこれまで歩んできた道を知ることで、自社にどのようなキャリアパスがあるかが分かり、キャリアを形成していくうえでの参考になります。目指す姿に近づくための行動・学習・経験など、何をすべきかが明確になれば、目標設定がしやすくなるでしょう。
モチベーション・定着性が高まる
ロールモデルとなる自社内の人材をお手本にすることで、自身の将来像をイメージしやすくなります。目指す姿が明確になればモチベーションが高まり、新たなチャレンジへの意欲も湧いてくることが期待できます。目標に向けて継続的に働くことができるようになり、自社への定着にもつながる可能性があります。
組織が活性化する
個々の社員が自身のロールモデルとなる人に話を聴いたり相談したりすることで、社内のコミュニケーションが活発化し、組織の活性化につながります。普段の業務で関わる人と話すだけでなく、他部署のロールモデルと交流すれば、個人の視野が広がるのはもちろん、部署同士のコミュニケーションの増加も期待できます。
ロールモデルの設定方法
自社内でロールモデルを提示する際には、社員の年代・ポジションに応じて設定する必要があります。それぞれの年代・ポジションの社員が描くなりたい姿とかけ離れた人をロールモデルにすると、現状と理想のギャップが大きすぎて、ロールモデルを持つ効果が低減する可能性があるため注意が必要です。
以下を参考に、現状より「一段上」の人を設定するといいでしょう。
新入社員のロールモデル
- 新入社員と年齢が近い(離れすぎていない)
- さまざまな仕事に積極的にチャレンジしている
- 自分なりの判断基準を持って行動している
- 成果を挙げており、社内での評価が高い
- 自社のミッション/ビジョン/バリューへの理解度・体現度が高い
リーダー層のロールモデル
- 管理職(マネジャー)として、社内外を含めた多様な関係者と適切なコミュニケーションをとっている
- リーダーシップをとり、組織運営の中核を担っている
- 担当業務の遂行だけでなく、組織のビジョンや事業計画などの立案・推進も行っている
- 将来的なキャリアビジョンを持ち、スキルアップに努めている
管理職のロールモデル
- 役員や上級管理職として、組織全体や事業全体をマネジメントする経験や視座を持っている
- 「修羅場」を経験している(成功体験もありつつ、大きな失敗や危機も体験している)
- ビジネス知見だけではなく、基礎教養を含めた多様な知識や見解を持っている
スペシャリストのロールモデル
- その専門分野において、圧倒的に高い実績を持っている(研究・理系職種であれば論文の引用数や権威ある学会・雑誌での発表など)
- 高度な資格取得や社会人大学院などでの学び直し、専門家ネットワークの保有など、常に高度なものや新しいものを吸収し続けている
ロールモデルを育成する
社員にロールモデルを提示しようとするなら、ロールモデルを育成する必要があります。ロールモデル育成の2つのポイントをお伝えします。
思考や行動を分析し教育研修に活かす
ロールモデルとなり得る人材が、仕事においてどのような思考やスタンスを持っているか、どのような行動特性があるかを分析します。それを研修プログラムに組み込むといいでしょう。さらには、研修で学んだことを現場で実践できる仕組みを設けることも重要です。
ロールモデルとなる人材を周知する
社内にロールモデルとなり得る人材がいても、その存在が知られなければロールモデルとしての効力を発揮することはできません。ロールモデルになり得る人材を広く社員に周知する必要があります。
周知する方法としては、「社内報やイントラネットなどに紹介記事を掲載する」「採用活動や社内研修で、活躍している社員の事例として紹介する」などがあります。
ロールモデルは複数設定することも有効
ロールモデルの設定は、必ずしも1種類・1人に限る必要はありません。年代・ポジション・職歴が異なる人のほか、社員自身が得たい力や姿勢などに応じ、複数のロールモデルを設定するのも有効です。
例えば「Aさんは課題分析のロールモデル」「Bさんはチームマネジメントのロールモデル」「Cさんは育児と仕事の両立のロールモデル」といったように、それぞれの観点で高いスキルを持つ人をロールモデルに設定するといいでしょう。
なお、社内でロールモデルが見つからない場合は、育成する以外に他社で活躍している人を見つけてロールモデルにする方法もあります。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。