裁量労働制

昨今、柔軟な働き方・自由度の高い働き方を希望する人が増えています。企業が優秀な人材の獲得を目指すなら、求める人材適応した働き方や制度を導入することが重要と言えるでしょう柔軟な働き方を実現する労働時間制度の一つ「裁量労働制」があります。裁量労働制の仕組みと種類、適用される業務、他制度との違い、メリット・デメリットについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏と、社会保険労務士 ・岡佳伸氏が解説します。 

裁量労働制とは?仕組みと種類 

「裁量労働制」とは、「みなし労働時間制」の種類の一つです。実際に働いた実労働時間にかかわらず、企業と労働者の間であらかじめ規定した時間を「働いた」とみなし、その分の賃金を支払う制度です。 

例えば、みなし労働時間を1日8時間と定めた場合、所定労働日に9時間働いても「8時間働いた」とみなし、1時間分の残業代を支払う義務は発生しません。逆に所定労働日に7時間働いても「8時間働いた」とみなし、規定の賃金を支払います。報酬の対象を「労働時間」ではなく「成果」とし、時間に縛られずに働けるようにすることを目的としています。 

ただし、深夜労働・休日労働に対しては法律で定められた割増賃金の支払いが発生します。また、労働基準法において、労働時間は原則として「1日8時間・週40時間」と規定されているため、この上限を超えることはできません。 

事業場外みなし労働時間制との違い 

みなし労働時間制には、裁量労働制のほかに「事業場外みなし労働時間制」があります。これは、外回りや出張が多い営業職や旅行会社の添乗員など、すべての業務あるいは一部業務を「事業場外」で行う職種を対象としています。使用者の指揮監督が行き届かず、労働時間の算定が難しいことから、規定の時間を働いたとみなします。一方、裁量労働制の場合、事業場内で行う業務にも適用されます。 

裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」がある 

裁量労働制は適用できる職種に制限があります。適用対象となる業務によって、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」に分かれます。 

なお、厚生労働省が実施した「令和4年就労条件総合調査(※1)」によると、導入している企業の割合は「専門業務型」が2.2%、「企画業務型」が0.6%にとどまっています。 

出典(※1):令和4年就労条件総合調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/22/dl/gaikyou.pdf

2024年4月1日から、新たな手続きが必要 

2024年4月1日以降、裁量労働制を導入あるいは継続するには、新たな手続きが必要となります。裁量労働制を導入・適用する日までに、労働基準監督署に協定届・決議届を行わなければなりません(※2)。 

出典(※2):裁量労働制の省令・告示の改正・2024年4月1日施行https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19508.html

裁量労働制が適用される業務 

前述の通り、裁量労働制はすべての労働者に適用できるわけではなく、労働基準法などで定められた特定の業務に対象が限定されます。所定の手続きを行うことで、制度の運用が認められます。 

「専門業務型」と「企画業務型」、それぞれの対象業務を確認したうえで導入を検討しましょう。 

専門業務型裁量労働制 

専門業務型裁量労働制が適用される業務は、労働基準法・第38条の3と労働基準法施行規則で定められています(※3)。業務を遂行するための手段や時間配分を、大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務を対象としています。該当するのは下記の19業務です。 

「専門業務型」の対象業務 

  1. 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務 
  2. 情報処理システムの分析又は設計の業務 
  3. 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務 
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 
  5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務) 
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 
  10. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務) 
  11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 
  12. 大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。) 
  13. 公認会計士の業務 
  14. 弁護士の業務 
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務 
  16. 不動産鑑定士の業務 
  17. 弁理士の業務 
  18. 税理士の業務 
  19. 中小企業診断士の業務 

出典(※3):厚生労働省「専門業務型裁量労働制」 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/index.html

企画業務型裁量労働制 

企画業務型裁量労働制が適用される業務は、労働基準法・38条の4第1項1号で定められています(※4)。 

事業運営における重要な決定が行われる事業場(本社など)において、企画、立案、調査、分析などの業務を行う労働者が対象となります。 

「企画業務型」の対象業務 

  1. 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
  2. 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
  3. 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務 
  4. 人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務 
  5. 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務 
  6. 広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務 
  7. 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務 
  8. 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務 

出典(※4):厚生労働省「企画業務型裁量労働制」 040324-8a.pdf (mhlw.go.jp) 

裁量労働制と他の労働時間制度との違い 

労働時間制度には、他にも複数の種類があります。代表的な制度をご紹介します。 

フレックスタイム制 

フレックスタイム制とは、「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度」を指します(※5)。 

例えば、1カ月の所定労働時間を160時間と定めた場合、「今日は10時間勤務、明日は5時間勤務」といったバラつきがあっても、1カ月間の労働時間の合計が160時間になればよいのです。 

出典(※5):厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」 https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000382401.pdf

裁量労働制は1日の労働時間に制約を設けず、一定の労働時間を「働いた」とみなすのに対し、フレックスタイム制では、1日の中で必ず勤務しなければならない「コアタイム」の設定が可能です。 

変形労働時間制 

変形労働時間制は、繁忙期・閑散期など一定時期の業務量に応じ、労働時間を柔軟に調整できる制度です。1週間・1カ月間・1年間など、一定期間の平均労働時間が法定労働時間を超えないように調整することで、特定の期間は法定労働時間を超えて働くことができます。 

例えば、月末・月初に残業が発生しがちな経理職などは、比較的余裕がある月の半ばで労働時間を抑制し、労働時間の月平均を法廷労働時間内に収めるといったように活用されています。 

高度プロフェッショナル制度 

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門的知識を有し、一定水準以上の年収要件(1,075万円以上)を満たす労働者を対象として、労働基準法の規定を適用しない制度です。 

裁量労働制では、休日労働・深夜労働に対する割増賃金の発生など、労働基準法が適用されるのに対し、高度プロフェッショナル制度では労働基準法が定める「労働時間」「深夜の割増賃金」「休日」といった規定が適用されません。対象職種も、「コンサルタント」「研究開発」「アナリスト」など、裁量労働制よりも限定されています。 

裁量労働制のメリット・デメリット 

裁量労働制にはメリット・デメリットがあります。理解したうえで導入が適切かどうかを検討しましょう。 

裁量労働制のメリット 

人事にとって裁量労働制を導入するメリットとして「労務管理の負担軽減」が挙げられます。深夜労働・休日出勤を除くと、時間外手当が発生しないためです。また、社員にとっては自由度の高い働き方が可能になり、ワークライフバランスを整えやすくなります。社員の満足度が向上するため、人材の定着や採用力の強化につながります。生産性向上の効果も生まれるでしょう。 

2021年6月に厚生労働省が発表した「裁量労働制実態調査(※6)」によると、裁量労働制の適用に対し、労働者の満足度が高いという結果が表れています。適用労働者における、裁量労働制が適用されていることに対する満足度別労働者割合は、「満足している」(41.8%)が最も高く、次いで「やや満足している」(38.6%)となっています。 

裁量労働制の適用に対する満足度別労働者割合

また、適用労働者における働き方の認識状況別労働者割合は、次の項目で高い結果となりました。 

「時間にとらわれず柔軟に働くことで、ワークライフバランスが確保できる」(50.4%) 

「仕事の裁量が与えられることで、メリハリのある仕事ができる」(48.9%) 

「効率的に働くことで、労働時間を減らすことができる」(45.7%) 

働き方の認識状況別労働者割合

出典(※6):厚生労働省「裁量労働制実態調査」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19508.html

裁量労働制のデメリット 

人事にとっての裁量労働制のデメリットとしては、「導入手続きの負担」が挙げられます。特に「企画型」を導入するには、労使委員会の設置や労使委員会での決議といった煩雑な手続きが発生します。また、労働時間に制限がないため、長時間労働につながる可能性があります。自己管理が苦手な社員にとってはマイナスとなるかもしれません。 

裁量労働制の導入は総合的に判断を 

裁量労働制はメリットも大きい一方、適切に運用できなければ長時間労働を発生させる可能性もあります。メリットとデメリットを認識したうえで検討する必要があるでしょう。他の働き方の制度とも比較し、自社の業務特性や風土なども踏まえて総合的に判断してください。 

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏 

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。 

この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏 

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。