人事領域において「タレントマネジメント」への注目が高まっています。グローバル企業がいち早く取り組み、日本企業でも導入する動きが活発化しています。タレントマネジメントが重視される背景や導入のメリット、導入方法や注意点について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントとは、従業員が持つ能力や資質、経験、スキルなどの情報を企業が一元的に管理することで、組織横断的に最適な人事配置や人材開発を行う人事マネジメントを指します。
タレントマネジメントが注目される背景
タレントマネジメントが注目を集めている背景として、以下が挙げられます。
労働人口の減少
日本では少子高齢化に伴い、生産年齢人口が減少しています。人材獲得競争が激化し、採用が難しくなっているため、既存の従業員の能力を最大限に活かすことが重要となっています。
働き方改革
「働き方改革」により長時間労働が抑制されていることから、タレントマネジメントによって効率的な事業運営、生産性アップを図る必要に迫られています。
急速な変化への対応
近年、テクノロジーの進化によりビジネスの展開スピードが速くなっています。ビジネス環境の急速な変化に対応するには、人材配置を柔軟に適切に行っていく必要があり、従業員のスキル・能力を把握しておこうとする意識が高まっています。
働く人の価値観の多様化
近年、働く人の価値観が多様化しています。コロナ禍以降、テレワークが普及したことで働き方の選択肢が拡大しました。「ダイバーシティ」推進によって、多様な人材の受け入れも進んでいます。従来の人事マネジメントでは対応に限界があるため、新たなタレントマネジメントの仕組みの構築が急務となっています。
「人的資本」の情報開示
「人的資本経営」への意識が高まるなか、企業に対して「人的資本」の開示が義務化されています。社会や投資家に向けて人的資本を開示していくためにも、従業員の可視化、データ化が必要となっています。
タレントマネジメントのメリット
タレントマネジメントを実施することで得られるメリットとして、以下が挙げられます。
最適な人材配置により、生産性向上につながる
従業員一人ひとりの経験・スキル・資質などが可視化されると、その人の力をどうすれば活かせるか、どうすれば伸ばせるかを判断しやすくなります。強みを活かす配属や業務の割り当てを行うことができ、組織としても生産性の向上や成果につながるでしょう。
採用戦略を立てやすくなり、コスト削減にもつながる
自社内でどのような人材が何人不足しているのか、その人材は外部から採用する必要があるのか、既存社員の教育で対応できるのかなどを見極めやすくなり、採用戦略・採用活動の最適化を図ることができます。採用を効率化できれば、採用コストの削減も期待できるでしょう。
組織のエンゲージメント向上
従業員が、「会社が自身の能力を理解・評価し、活躍できる部署・職務に配属されている」「自分に合うプロジェクトや業務を任されている」と実感すれば、会社を信頼し、モチベーション高く仕事に取り組むことができます。
さらに、「一緒に働く人との相性」や「今後の成長促進・キャリア形成」なども考慮した配属がなされていると、会社への信頼度や働きやすさがさらに高まり、組織全体のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。結果的に、離職防止の効果も期待できます。
評価が属人化しない
従業員の能力・資質・経験・スキルなどを会社が一元管理するということは、客観的な指標・基準を設け、それをもとに評価を行うことにつながります。評価が属人化せず、従業員は公平な評価をされていると感じることができるでしょう。
タレントマネジメントの導入方法
タレントマネジメントの導入に際しては、社内に蓄積された各種データを活用するための専用のシステムやツールを活用することもあります。タレントマネジメントのシステムを導入するにあたって、選び方や手順をご紹介します。
社内データを確認し、導入の目的を設定する
まず、従業員一人ひとりの職務経歴・実績・評価・能力・志向などデータベース化し、可視化する必要があります。データを元に、経営戦略に照らし合わせてタレントマネジメントを行う目的を明確にします。
タレントマネジメントのシステムやツールには多様な機能があるため、目的を整理して明確化しておかないと、運用が回らなかったり使いこなせなかったりすることもあります。「人事の業務効率化のために人材管理を一括管理したい」「人事評価を最適化したい」「個々に合わせた配置を実現したい」など、目的やゴールを明確化しておきましょう。
自社にマッチしたシステムを選定する
タレントマネジメントを支援する、HRテック(HR Tech)のシステムやツールには多様な種類があります。
以下のポイントを検討し、自社にマッチするものを選びましょう。
- 「評価履歴管理」「スキル管理」「育成プラン」「人材配置シミュレーション」「データ分析」「満足度調査の集計」など、自社が必要とする機能があるか
- 採用管理など、関連する情報システムとスムーズに連携できるか
- 誰もが操作しやすいか
- 費用対効果に優れているか
運用ルールを決め研修や周知を行う
誰がどのように運用していくかルールを決め、運用担当者の研修を実施します。管理職や従業員など、関係者には何を目的に導入するのか伝達し、認識を揃えておくことが重要です。
振り返りやアンケートなどを行い運用改善する
タレントマネジメントシステムをもとに人材配置や育成を行ったら、そのプロセスや成果を振り返り、効果を検証します。アンケートも活用し、期待した成果が表れていないようであれば、運用に改善点がないか確認してみましょう。
タレントマネジメントシステム導入の注意点
タレントマネジメントシステムを導入するのは、想定以上に手間がかかります。従来のシステムに慣れている場合、新しいシステムの使い方を覚えることに負担を感じ、抵抗感を抱くことも考えられます。システムを使用するメンバーの理解を得るためにも、目的・目標を明確に定めて伝えましょう。
また、タレントマネジメントシステムの導入により、他の業務にも影響が生じ現場の運営を滞らせてしまう可能性もあります。いきなり全社に一斉導入するのではなく、「一部署から始める」「○○職から始める」など少しずつ導入を進め、改善を図りながら適応させていくという方法もあります。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。