人手 不足 解消

人材採用が厳しく、転職する人の増加によって人材流動が活発化しているなか、多くの企業で人手不足が深刻な課題となっています。人手不足の原因や企業経営に及ぼす影響、人手不足の解消法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。人手不足の解消に成功した企業の事例もご紹介します。

国内の人手不足の原因

国内では人手不足が深刻化しています。多くの企業が抱える課題である人手不足の背景には、次の要因があると考えられています。

少子高齢化

日本では少子高齢化が進行しています。総務省が公表している人口推計(2023年10月1日現在)によると、総人口は1億2435万2000人で、前年に比べ59万5000人(-0.48%)の減少となり、13年連続で減少。日本人人口は1億2119万3000人で、前年に比べ83万7000人(-0.69%)の減少となり、12年連続で減少幅が拡大しています。

このうち、企業が労働力として見込む「生産年齢人口」は1995年をピークに減少。生産年齢人口とは、労働意欲の有無にかかわらず日本国内で労働に従事できる年齢の人口のことで、一般的に15歳~64歳を指します。生産年齢人口は7395万2000人で、前年に比べ25万6000人の減少となっています。

出典:総務省統計局「人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)」
(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2023np/index.html)

労働時間の減少

近年、「働き方改革」により、時間外労働の規制や年次有給休暇の取得率向上施策等が強化されています。従業員1人あたりの労働時間が削減されるなか、これまでと業務量が変わらないとなれば人手不足に陥るでしょう。

仕事に対する価値観の変化

以前に比べると、働く人の価値観が多様化しています。ワーク・ライフ・バランスを重視した働き方を望む人が増えている一方、キャリア構築のための転職、独立・起業などの動きも多く見られるようになっています。また、副業・兼業を容認する企業も増えています。企業としては柔軟な働き方ができる制度、キャリアを形成できる仕組みなどを整えなければ、人材獲得や離職防止が難しい環境となっています。

人手不足が会社に及ぼす影響

人手不足の状態が続いた場合、企業への影響としては以下が挙げられます。

既存事業の縮小

人手が足りなければ、これまで行ってきた業務を遂行できなくなるため、受注量や生産量などを抑制する必要があります。事業が縮小し、売上の減少や市場シェアの低下につながることにもなりかねません。

ノウハウ伝承の困難化

これまで培ってきた技術やノウハウを次世代に伝承することが難しくなります。将来的に企業を支える社員に組織内で継承できなければ、今後の成長はおろか事業の存続も危ぶまれる状況となります。

残業時間の増加

人手不足の状態でも業務量が変わらなければ、既存の従業員の時間外労働が増え、負荷が大きくなります。残業が常態化すると、従業員が疲弊し、業務効率が落ちることもあるでしょう。また、心身に不調をきたして休職や退職に至るケースも考えられます。

従業員の意欲低下

人手不足によって従業員1人あたりの業務量が多くなると、とりあえず目の前の業務をこなすことで精いっぱいとなり、新しい取り組みにチャレンジする余裕がなくなります。働きがいを感じられなくなり、モチベーションが低下する可能性があります。

離職者の増加

厚生労働省が行った「令和4年雇用動向調査」によると、2022年に転職した人が前職を辞めた理由は、個人的理由のうち「その他」を除くと、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が最多(男性9.1%、女性10.8%)を占めています。

出典:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」内、「表5 転職入職者が前職を辞めた理由別割合」
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf)

先述のとおり、残業時間の増加や働く意欲の低下により、離職につながることもあります。それにより、さらに人手不足が加速するという悪循環に陥りかねません。

【人手不足解消法(1)】人事・採用を見直す

ここからは人手不足の解消法についてご紹介します。まずは、人事・採用部門で実践できる方法です。

内部調達

従業員が新たな知識・スキルを身につける「リスキリング」によって解消できる可能性があります。従業員がスキルアップすることで生産性が高まる、あるいは異動や職種転換によって最適な人員配置が可能になると期待できます。

特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進すれば、業務の一部を自動化でき、人手不足の解消につながる可能性がありますが、引き合いの多いIT人材の外部採用は難しい状況です。そこで既存の従業員にデジタルの知識を学んでもらうことで、推進が可能になるかもしれません。

外部調達

多様な人材の採用

人手不足解消のために採用活動を行っても、応募者が集まらなかったり、内定を出しても辞退されてしまったりすることもあるでしょう。そのような場合、「雇用形態」「採用ターゲット」の多様化を図るという選択肢があります。例えば、フルタイム勤務の正社員にこだわらず、派遣社員・契約社員・パート・アルバイト・副業・業務委託などを活用する方法もあるでしょう。

また、例えばミドルシニア層の採用も、人手不足解消の選択肢のひとつになります。ほかにも、これまで積極的に採用してこなかった時短勤務希望者などに門戸を開き、雇用形態や勤務体系を工夫して受け入れるなどの方法もあります。リモートワークを活用すれば、通勤時間や居住エリアといった物理的な制約も緩和でき、より多くの人材が採応募しやすくなるでしょう。

採用活動の見直し

採用がうまくいかない場合には、採用活動自体を見直してみましょう。自社の魅力を求職者にアピールするための「採用広報」「採用ブランディング」を強化することで、求める人材から注目してもらえるかもしれません。

また、近年、採用に成功している企業は多様な手法を併用している傾向が見られます。「求人広告の出稿」「転職エージェントへの依頼」といった従来型の手法にとどまらず、企業から求める人材に直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」の手法を取り入れる企業が増えてきました。例えば、「スカウトサービス」「SNS」「リファラル採用」などの活用です。自社が採用ターゲットとする人材に応じ、最適な採用手法を選ぶといいでしょう。

離職防止

人材不足を進行させないため、既存の従業員の離職を防ぐ対策も重要です。労働条件・人事制度・企業風土などを見直し、整備や刷新を図ることで、離職防止はもちろんのこと、採用成功にもつながる可能性があります。例えば、以下のような施策を検討してみてはいかがでしょうか。

●給与アップ・福利厚生の充実
●労働時間の短縮
●「リモートワーク制度」「フレックスタイム制」「時短勤務」など柔軟な働き方ができる制度・仕組みの導入
●有給休暇の取得の奨励
●キャリア形成のための教育・研修制度の整備
●メンタルヘルスをサポートするプログラムの導入
●人事評価制度の刷新

【人手不足解消法(2)】業務の進め方を見直す

各部署で組織体制や業務の進め方を改善すれば、少人数で業務を遂行できるようになる可能性があります。一例として、次のような方法が挙げられます。

業務効率化

業務の効率化により、限られた人数でも業務を回せるようになることがあります。業務プロセスの一つひとつを見直し、「不要な工程を省く」「1人に集中している業務を分散させる」など、進め方を変える工夫をしてみるといいでしょう。

DXの推進

業務効率化の手段として有効なのがDXの推進です。AIツールやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して業務を自動化することにより、生産性が向上する可能性があります。チャットツールを活用するなど、従業員同士のコミュニケーションスタイルを変えることでも効率化につながることもあるでしょう。

業務のアウトソーシング

業務を切り分け、一部をアウトソーシングする方法もあります。コストはかかりますが、その業務のスペシャリストに任せれば、自社従業員は戦略策定や顧客対応といったコア業務に集中でき、トータルで生産性アップにつながる可能性があります。

人手不足を解消した企業の具体例に学ぶ

経済産業省が公表している「中小企業・小規模事業者の人手不足への対応事例」より、人手不足を解消した企業の成功事例の一部をご紹介します。

AI・IoTの活用で社員の作業工数を削減/機器メーカー

事務作業と現場作業の工程を検証して機械化可能な作業を洗い出し、ITを用いた機器の遠隔操作など、AI・IoTを徹底的に導入。残業時間の減少によって、有給休暇の取得やノー残業デー実施が可能となり、社員は家族と過ごしたり自己啓発の時間が増えたりして、モチベーションの向上につながりました。IT活用で、スピーディなトラブル対応も可能となっています。

フレックスタイム制の導入で、仕事と家庭の両立を可能に/技術サービス会社

仕事と家庭や介護の両立ができるよう、非正規を含む全職員が利用できるフレックスタイム制度を導入。出退勤を柔軟にしたことで、仕事の量や増減に合わせた勤務を可能にしました。個々人の労務管理意識が高まった結果、約14%の時間外労働削減にもつながりました。

分業化・ジョブローテーションでフォロー体制を構築/ブライダル会社

これまで特定職種に集中していた業務を他部門が担うという分業体制へ移行。また、ジョブローテーションを積極的に行うことで社員一人ひとりのスキルアップにつながり、繁忙期には臨機応変に他部署の人員フォローができる組織体制を構築しました。

出典:「中小企業・小規模事業者の人手不足への対応事例」
(https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000611969.pdf)

人手不足を解消するためには、会社全体で取り組むことが大切

人手不足の解消は、人事だけで解決することが難しい課題です。経営層に対し、客観的な数値を示して現状を伝えるとともに、各部門とも連携することが重要です。会社全体で取り組んでいくことで、解決できる可能性が高まるでしょう。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。