コンピテンシー

人材採用や人事評価などの場面で「コンピテンシー」を活用している企業は少なくありません。ただ、コンピテンシーとはどのようなものなのか、把握し切れていないという人も多いのではないでしょうか。この記事では、コンピテンシーの意味や活用するメリット、具体的な導入手順などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

コンピテンシーとは?近年注目されている背景

「コンピテンシー」とは、高い成果を持つ従業員(=ハイパフォーマー)が共通して持っている、能力や技能などを発揮するための「行動特性」のことを指します。
「行動特性」は能力そのもの、行動そのものを指すのではなく、優れた能力や技能などを発揮するための志向や動機、価値観などといったさまざまな要素が関係しています。

労働力人口の減少による人手不足の深刻化などを受け、あらゆる組織で生産性向上が求められています。そのような環境下で、ハイパフォーマーの行動特性である「コンピテンシー」を基に人材採用や人材育成などを行うことが、個人のパフォーマンスを高め組織の生産性を向上させるために有効だと考える企業が増えつつあります。

スキルやアビリティ、コア・コンピタンスとの違い

コンピテンシーと同じような場面で使われる言葉に、「スキル」「アビリティ」「コア・コンピタンス」がありますが、いずれもコンピテンシーとは意味合いが異なります。それぞれの意味の違いについて説明します。

スキル

スキルとは、学びや経験などを通して身に付き、磨かれた「能力」や「技能」のこと。一方のコンピテンシーは、その能力や技能を発揮するための行動特性を指します。したがって、たとえスキルレベルが同じ人であっても、志向や動機などが異なればコンピテンシーが異なるケースはあります。

アビリティ

アビリティは、個人がそもそも持っている先天的な力のことを指します。スキルと似ていますが、スキルは先天的なものではなく、自ら磨き上げ身に付けた後天的な能力であるという違いがあります。
そしてアビリティが「(先天的な)能力そのもの」を指すのに対し、コンピテンシーは、アビリティを含めた「能力を発揮するための行動特性」という違いがあります。

コア・コンピタンス

コア・コンピタンスとは、他社との圧倒的な差別化ポイントとなる、「自社の核となる能力」のこと。コンピテンシーが個人に対して使われるのに対し、コア・コンピタンスは企業や組織を対象にした言葉という違いがあります。

コンピテンシーの活用シーンとメリット

コンピテンシーはどのような場面で活用できるのか、そして具体的にどのようなメリットがあるのか、それぞれご説明します。

人事評価

人事評価にコンピテンシーを取り入れることで、客観的でぶれのない評価が可能になります。コンピテンシーを全社員にオープンにすれば、評価基準の透明性と公平性が高まり、自身の評価に対する従業員の納得感も得やすくなるでしょう。

採用面接

人材採用においては、自社に合った採用基準を設定することが大切ですが、コンピテンシーを基にすれば、面接時に確認すべき項目が明確になり、客観的な判断がしやすくなります。面接担当者同士の認識合わせもしやすくなり、入社後の活躍が期待される人材を採用できるようになるでしょう。また、例えば新卒採用の一次選考など、人事以外の社員が面接を担当する場合も、コンピテンシーによる基準があれば採否の判断にぶれが生じにくくなるでしょう。

人材育成

コンピテンシーにより「求める人材像」が明確になるので、管理職はそれに基づいた人材育成ができるようになり、自社に合った人材の早期育成・成長が期待できます。社内でコンピテンシーを共有することで、従業員一人ひとりが「このような行動を意識しよう」と自発的に動けるようになるため、効率的に人材開発が行えるというメリットもあります。

組織マネジメント

コンピテンシーを基にバリューやクレドを設定し、それを全社員に共有すれば、従業員にどのような判断基準を持てばいいのか、あるべき行動とは何かを周知することができます。また、部署や役割ごとにどのような行動特性が成果を上げやすいか把握することで、従業員の適切な配置が可能になり、配属によるミスマッチを防ぐことができるでしょう。

コンピテンシー策定・導入のステップと注意点

コンピテンシーをどのように策定し、導入すればいいのか、具体的なステップを解説します。また、策定・導入の注意点や気を付けたほうがいいことについてもご説明します。

STEP1:事前準備を行う

まずは、自社の経営方針や事業戦略などと照らし合わせて、それらを実現するためにはどのような人材が必要なのか明らかにします。人事が中心となり、各部署の管理職などとすり合わせながら言語化していくといいでしょう。

STEP2:各部署のハイパフォーマーへのインタビュー

コンピテンシーを明らかにするため、自社のハイパフォーマーにインタビューを行い、成果の基となっている行動特性を洗い出します。その際、成果のみに注目するのではなく、成果を出すためにどのような行動を取っているのか、どのような想いで臨んでいるのかなども洗い出すことが大切です。
また、本人だけでは言語化し切れないケースや、成果は上げているけれどたまたま運がよかったというケース、行動や考えが自社に合っていないケースなどもあり得るため、ハイパフォーマー本人だけでなく上司や同僚などへのヒアリングも必要です。

STEP3:コンピテンシーモデル(行動特性の基準項目)作成

インタビュー内容を基に、ハイパフォーマーの行動特性を洗い出し、自社の文化や風土、部署ごとの業務などに適した形で「理想の社員像」であるコンピテンシーモデルを作成します。
その際、STEP2と同様、能力を発揮できている背景・理由(行動、価値観、志向、動機など)に注目することが大切です。
そして、現場の意見も取り入れながら、実態に即しているか、再現性があるかなどを議論しながら具体的な項目を抽出していきます。

STEP4:コンピテンシー評価シートなどの作成

人事評価用、採用選考用、人材育成用、組織マネジメント用など、活用シーンごとにコンピテンシーを評価する項目を作成します。評価項目は全社共通のものと、部署や役割ごとの項目にわけるケースが多いようです。

なお、評価シートを作成する際には、1990年代にライル・M・スペンサーとシグネ・M・スペンサーによって開発された「コンピテンシー・ディクショナリー」を活用する方法があります。これはコンピテンシーを「達成・行動」「援助・対人支援」など6つの項目に分け、それぞれの項目ごとに20項目に分類したもので、評価項目設定の参考になります。

STEP5:目標レベルを設定し、社内に周知させる

評価項目が決まったら、人事評価用、採用面接用などにわけて目標レベルを設定します。レベルごとの達成度などの基準を明確化したうえで、全従業員に公表し社内に周知させましょう。一人ひとりがコンピテンシーを理解している状態を作ることで、コンピテンシーの効果が最大限発揮されます。

STEP6:改善点の抽出・改善

コンピテンシーが設定できたら、それが自社に即しているものかどうか確認するためにテスト運用します。そのうえで改善点を抽出し、必要に応じてブラッシュアップすることが重要です。

導入・活用の際の注意点

ここまでの手順でお判りいただけたかと思いますが、コンピテンシーを策定するまでにはかなりの時間と労力がかかります。

「ハイパフォーマーを抽出しヒアリングする」というフロー一つを取っても、部署や役割ごとに「ハイパフォーマーと認定する基準」を設け、一人ひとりの時間を確保してインタビューを行い、かつ上司や同僚にもインタビューをして裏付けを取らねばなりません。自社の社風や風土、業務内容や事業戦略にも合わせて考える必要もあります。
他社の前例を真似して作れるものではなく、企業規模にもよりますが数カ月~場合によっては年単位の時間がかかるケースもあり、労力がかかり過ぎて途中で頓挫するケースも見受けられます。コンピテンシー策定にはそれなりの人数を割き、本腰を入れて臨むことが重要です。

また、ハイパフォーマーへのインタビューの際には、さまざまな角度から「成果を上げられている理由」を洗い出すことも大切。行動を洗い出すだけでは適正なコンピテンシーにはならず、動機や価値観、志向なども考慮する必要があります。
例えば営業職の場合、「行動量が多く、見込み客へのアプローチ件数が〇件以上ある」などを行動特性として洗い出すケースは少なくありませんが、扱っている商材やエリア特性によって行動量は変わるはずであり、コンピテンシーとして設定すると人事評価などにズレが生じる可能性があります。目標達成すること自体にどのような価値観を持っているのか、行動量を支えている動機は何か、なども洗い出したうえで最適な基準を検討する必要があります。

そして、多大な時間と労力を割いてコンピテンシーを設定しても、定期的に見直し必要に応じてブラッシュアップする必要があります。
組織に必要な行動特性は、当然ながら「市場環境の変化」や「自社の成長ステージ」によってガラリと変わります。にもかかわらず、従来のコンピテンシーを変更せずに運用し続けると、人事評価や人材採用の基準もずれてしまい、市場の変化に対応できなくなったり、皆が頑張っているのに思うような成果が上げられなかったりする恐れがあります。

したがって、コンピテンシーの設定・導入に取り組む前に、自社でコンピテンシーをどのように活用していきたいのか明確な目標を立て、無理のない人員とスケジュールを設定することが大切といえるでしょう。

リクルートダイレクトスカウトをご利用いただくと、日々の時間をかけなくても候補者を確保できたり、独自のデータベースから他では出会えない即戦力人材を採用できる可能性が高まります。初期費用も無料ですので、ぜひご検討ください。
この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。