採用活動にはさまざまなコストが発生します。費用は採用手法によって大きく異なるため、採用担当者は、コストを最小限に抑えつつ、求める人材の採用を実現させる必要があります。この記事では、採用活動で発生する費用、採用コストが高くなる要因、採用コストを削減する方法について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
採用コストと採用単価の違いと含まれる費用
まずは「採用コスト」についての基本を理解しておきましょう。
採用コストとは、採用活動全般で発生する費用を指します。母集団形成(応募者の獲得)・書類選考・面接・内定・入社までの各プロセスでかかる費用を合算した金額です。
採用コストと採用単価の違い
採用コストに関連する概念として「採用単価」があります。採用単価は「採用者1人につきかかった費用」を指し、「採用コストの総額÷採用した人数」で算出します。
採用コストに含まれる費用
採用コストは、「内部コスト(=社内で発生した費用)」と「外部コスト(=社外へ支払った費用)」とに大別されます。それぞれに含まれる費用の一例をご紹介します。
内部コスト
- 採用関連の業務に従事した人の人件費
- 面接で来訪した人に支給する交通費
- 応募者や内定者との連絡に要する通信費
- 内定通知書の発送・履歴書の返送に際しての郵送費
- 面談や内定者フォローなどでの飲食費用
- リファラル採用(従業員が友人・知人を紹介)が成立した場合の従業員へのインセンティブ支給
外部コスト
- 転職サイトへの求人広告掲載料
- 転職エージェントへの成功報酬
- 転職サービスのスカウト機能の利用料
- 合同企業説明会や転職フェアへの出展など、採用イベントへの参加費
- 採用セミナーの開催費用
- 採用向けWebサイト・動画・資料などの制作料
- 採用管理システムの導入・運用料
採用コストの相場
採用にかかるコストの相場を、「新卒」「中途」に分けてお伝えします。
新卒採用にかかる平均コスト
株式会社リクルートが運営する「就職みらい研究所」が発表した「就職白書2020」によると、2019年度の新卒採用1人当たりの平均採用コストは93万6000円でした。2018年度の新卒採用の平均コストは71万5000円であり、1年で31%増加したことになります。
出典:株式会社リクルート「就職白書2020」P11 2020年 6月11日
なお「就職白書2024」では、2024年卒採用と比較し、2025年卒の採用活動に費やす総費用について、5000人以上規模の企業で約半数(52.9%)、300人未満規模の企業で3割強(32.7%)が「増える見通し」と回答しています。
出典:株式会社リクルート「『就職白書2024』データ集」P141 2024年2月
これらのデータから、新卒採用コストは増加傾向にあることが見てとれます。将来の労働力不足を見越して採用意欲の高い企業も少なくありませんが、計画通りに採用充足できないという課題を抱える企業も少なくありません。このような背景もあり、総じて採用難易度は高まっています。そのため、採用担当者の増強、学生へのPRなどにより多くのコストが必要になっていると考えられます。
中途採用にかかる平均コスト
先述の「就職白書2020」では、中途採用コストも公表しています。2019年度の中途採用1人当たりの平均採用コストは103万3000円でした。先に挙げたとおり、新卒採用1人当たりの平均採用コストは93万6000円なので、それと比較して10万円ほど高い金額です。また、2018年度の平均中途採用コストは83.0万円なので、20万円増加しています。
中途採用においては「即戦力人材」を求めるケースが多く、経験・スキルがマッチする人材を探し出すことが困難であるため、1人あたりの採用コストが高くなると考えられます。
採用コストが高くなる要因
採用計画に対して、採用コストが不必要に高くなってしまうことがあります。また、採用活動を進めるなかで、当初見込んでいた額よりもコストが増えるケースも見られます。その要因としては、以下が考えられます。
採用のミスマッチ
応募者が来ても選考プロセスでミスマッチが生じ、選考や内定を辞退されることがあります。また入社後にミスマッチに気づき、早期離職されることもあります。こうした場合、採用活動をやり直すことになるため余分なコストが発生します。
採用手法が合っていない
自社が求める人材像に対し、採用手法が適切ではない可能性も考えられます。例えば、「転職サイトに広告を出稿したが、自社のターゲット層人材があまり見ておらず、応募が来ない」などです。採用手法が合っていないと、効果が出ない手法に余分なコストを投じてしまうほか、採用活動期間が長引き人件費もかさむことになります。
短期的なコストで判断している
例えば、スカウトサービスのデータベース利用料や転職エージェントへの成功報酬など、目の前の短期的コストの高さ・安さで採用手段を選択することがあります。しかし、コストを抑えたつもりでも、求める人材に出会えないまま採用活動が長引くと、結果的にはコストが高くなってしまいます。一方、一時的に高額なコストがかかったとしても、求める人材の採用に成功し、その人が収益拡大に貢献すれば、そのコストは回収できるといえるでしょう。長期的な視点でコストパフォーマンスを考えることも重要です。
採用コストを削減する方法とは?
採用コストを削減しつつ求める人材の採用を成功させるために、どのような方法が考えられるかをご紹介します。
採用ノウハウを磨く
採用担当者が採用ノウハウを習得することにより、「採用手法の選択」「応募者に対する自社の魅力の訴求」「内定者のフォロー」などが適切に行えるようになれば、採用活動期間の短縮や内定辞退の防止につながり、余分なコストを抑えられるでしょう。
選考プロセスを見直す
選考に費やす期間が長くなるほど、採用に関わる内部コストが増えることになります。「オンライン面接を導入する」「面接回数を減らす」「選考基準を統一する」など、可能な範囲で期間を短縮できないか考えてみましょう。
リファラル採用を実施する
「リファラル採用」は、自社の従業員が友人・知人を会社に紹介し、選考を経て採用する手法です。リファラル採用を制度化した場合、企業によっては、採用に至った場合に紹介した社員にインセンティブを支給するところもあるようです。インセンティブの有無や金額は企業によりまちまちですが、一般的に、外部の採用支援サービスを利用するよりはコストを抑えられるでしょう。
スカウトサービスを利用する
「スカウトサービス」とは、企業の採用担当者が転職サイトなどのデータベースに登録されている求職者の経験・スキルを閲覧し、自社が求める人材に直接アプローチができるサービスです。データベースの利用に際しては、会社によっては利用料がかかる場合もありますが、採用活動が効率的に行えるため、結果的にコスト面でのメリットは大きいといえるでしょう。
ソーシャルリクルーティングを実施する
SNSで自社の募集情報やアピールポイントを発信する「ソーシャルリクルーティング」であれば、採用支援サービスなどを活用するのと比較して、低コストで母集団形成を行えます。
自社採用サイトを強化する
自社の採用サイトで募集情報を発信すれば、転職サイトなどへの広告出稿料などの軽減につながります。転職サイトの多くは掲載できる情報の内容・量に一定の制限がかかりますが、自社の採用サイトであれば情報を網羅的に発信することができます。
ただし、サイトの制作・リニューアルのための初期費用がかかるほか、運営コストも発生します。長期的に採用活動を行う場合は、初期投資として有効と考えられます。
アルムナイ採用を実施する
「アルムナイ」とは「学校の卒業生・同窓生」の意から転じ、自社の「退職者」を意味します。自社を辞めた人を再び迎え入れる「アルムナイ採用」が、近年活発化しています。企業が退職者に声をかけるケースが多いため、採用支援サービスなどの利用コストがかかりません。また、アルムナイ人材は自社の業務を理解しているため、研修・教育コストを省けるメリットもあります。
採用広報/採用ブランディングを強化する
「採用広報」とは、企業が自社の存在や魅力をアピールし、応募を喚起する広報活動を指します。「採用ブランディング」は、求人市場における自社のブランド力の向上を目指すものです。「この会社で働きたい」と思われるような発信を行うことで、応募者の獲得や入社意欲の醸成につながり、採用の効率化によってコスト削減が可能になるでしょう。
内定者フォローを丁寧に行う
採用活動のやり直しや長期化によるコスト増を防ぐためには、「内定辞退」の防止策も必要です。内定者が入社を決意するまでに感じる不安を払しょくし、入社意欲を高めるために、内定者のフォローにも注力しましょう。
採用を効率化してコストダウンを図る
採用は、コストをかけるほど成果につながるというわけではありません。採用ターゲットによって、最適な採用手法や選考プロセスはまったく異なるものです。自社にマッチする採用手法を見極め、応募者に応じて選考プロセスを工夫することで採用を効率化し、コストダウンにつなげましょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。