採用CX

人手不足の深刻化や採用競争の激化などを背景に、「採用CX(候補者体験)」が今、注目されています。この記事では、企業が採用CXに取り組んだほうがいい理由や具体的な取り組み方法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

採用CX(候補者体験)とは?

「採用CX」(Candidate Experience)とは「候補者体験」のこと。採用候補者(求職者)から自社を選んでもらうために、採用にいたるまでの一連のプロセスの中で「この企業に応募してよかった」と思ってもらえるような価値提供を行うことを指します。

採用CXが注目されている理由

少子高齢化による労働力人口の減少を受け、あらゆる業界・企業で人材不足が深刻化しています。その結果、転職市場では「売り手市場」の様相が強まっており、企業が求職者を選ぶのではなく「求職者から企業が選ばれる時代」へと変化しつつあります。
また近年では、SNSや口コミサイトなどで、企業の採用選考時の対応などの情報を集めやすくなっています。投稿されているネガティブな情報を見て、応募を控える求職者も少なくありません。

これらを背景に、選考過程で求職者に自社の価値を感じてもらう体験を増やし、入社の動機付けを行う「採用CX」が重要視されているのです。

採用CXに取り組むメリット

企業が採用CXに取り組む具体的なメリットをご紹介します。

自社に好意を持ってもらえる

採用CXがうまく実現できていると、採用された場合には自社への愛着が湧き、エンゲージメントが向上します。
そして、不採用者にもいい印象が残るというメリットがあります。採用選考を通して相互理解を深める過程で、「この会社の社風や文化に向いていないと気づいた」「この役割にはミスマッチだとわかった」など、求職者自身が不採用理由に気づき納得できれば、「残念ながらお見送りになったけれどいい会社だった」と感じてもらうことができるでしょう。

他者に自社を紹介してもらえる・将来再び応募してもらえる可能性がある

企業側が自社を理解してもらうための取り組みを行い、選考を通じて良好な関係性を築くことで、求職者に「自社のファン」になってもらえる可能性があります。その結果、入社後に友人・知人に自社を紹介し、リファラル採用が実現できたり、残念ながら今回の採用要件には合わなかった優秀な求職者が、将来的に再応募してくれたりする可能性もあります。

企業イメージが上がる

選考過程で企業に対していいイメージができると、SNSなどで良い口コミを拡散されやすくなります。採用に関する情報だけでなく、自社の事業や商品・サービスに関するイメージの向上につながる可能性もあるでしょう。
また、転職エージェントを活用している場合は、転職エージェントから見た自社の企業イメージも上がり、より自社に合った応募者が集まりやすくなるというメリットも考えられます。

ミスマッチの防止による定着率向上

選考過程で相互理解が深まることで、ミスマッチの確率を減らすことができます。自社にマッチしている人に、より納得感を持って入社してもらうことができるうえ、組織や文化に早くなじみ、仕事でも早期に活躍できるようになり、結果的に定着率が上がる…という好循環が生まれる可能性もあります。

自社の採用力向上・採用知見の蓄積

採用CXを推進する際には、経営陣や現場社員にも協力してもらう必要があるため、組織としての採用力向上が期待できます。例えば

  • 自社の強みや魅力を多くの社員が明確に語れるようになる
  • 組織全体の面接スキルが上がる
  • 新規採用に対するモチベーションが高まる
  • 経営陣や現場責任者の理解を得やすくなることで新しい採用施策に取り組めるようになる

などです。結果的に採用知見が蓄積するというメリットが考えられます。

従業員のエンゲージメントの向上

採用者のエンゲージメントが高まるのはもちろんのこと、採用CXを推進する中で、採用担当者や現場社員の自社理解がより深まるというメリットもあります。経営陣を含めたコミュニケーションが増え、会社との一体感を覚えたり、面談や面接、採用イベントなどを通じて会社説明・仕事説明をする中で自社を相対的・客観的に見る機会が増え、自社の魅力を再確認したりするケースも増えると考えられます。

採用CXに取り組まないことによるデメリットは?

採用CXに取り組まないことは、すなわち前述のような各メリットが得られないということにつながります。例えば、不採用者に事実とは異なるマイナスな印象を残してしまい、SNSなどで良くない口コミが出回った結果、企業イメージを落としてしまう可能性が考えられます。また、予定通りに採用ができても、採用過程で相互理解が深められなかった結果、入社後にミスマッチが起きてしまったり、エンゲージメントが高まらず定着率が下がったりすることも予想されるでしょう。

そもそも、採用CXがうまくできていないと、内定を辞退されてしまう可能性も高まります。例えば、応募者が複数の内定を得ている場合、労働条件や給与待遇などは同程度であったとしても、「他社のほうが自分を理解してくれた」「質問に対して丁寧に対応してくれた」などを理由に辞退されることもあるでしょう。

【採用プロセス別に解説】採用CXの取り組み方法

効果的な採用CXを実践するために、「事前準備」「認知」「応募」「選考」「内定」という5つのタッチポイント別に、採用CXの具体的な方法を紹介します。

事前準備

「そもそもなぜ人材採用を行うのか」に立ち戻り、改めて事業戦略や中期経営計画を見直し必要な人材像を明らかにしておきましょう。それをもとに、採用方針や採用基準を明確化しておくことが大切です。また、次のステップに向け、求職者にアピールすべき自社の魅力を言語化し、整理しておきましょう。

認知

求職者に「この会社で働きたい」と思ってもらえるよう、自社の魅力を積極的にアピールしましょう。自社の採用ページで従業員インタビューを紹介したり、自社の魅力を紹介する動画などを公開したりするのは一つの方法です。求職者のためのイベントに出展したり、採用メディアを活用したり、SNSを使って発信したりするのも有効。広く求職者に認知してもらうべく、さまざまな方法でタッチポイントを構築していきましょう。

応募

求職者の応募意欲を促進するための取り組みを実行しましょう。例えばスカウトメールの送信やリファラル採用の強化、選考前のカジュアル面談の実施、応募手続きが簡単な応募フォームの作成などが挙げられます。
そして、求職者から応募があったら他社へと流れてしまわないよう、迅速なレスポンスを徹底することも大切。応募者に対し、一貫して誠意あるコミュニケーションを取ることが大切です。

選考

選考段階では、「相互理解を深めようとする姿勢」を徹底しましょう。応募者を理解するべく寄り添い、かつ自社も深く理解してもらおうとする姿勢が、応募者の入社意欲を高めることにつながります。
具体的には、オフィス(面接会場)での対応に気を配る、面接に来てくれたことに感謝の気持ちを示す、応募者からの質問には丁寧に答える、不安や懸念事項を解消する、選考時のコミュニケーションにも留意する、などが挙げられます。場合によっては現場マネジャーや社員も巻き込み、職場の雰囲気や仕事のやりがい、醍醐味などを語ってもらうことも有効です。

内定

内定後は、「早くこの企業に入社したい」という入社モチベーションを高める取り組みを行いましょう。もし他社からも内定をもらっている場合、自社を選んでもらう決め手になるうえ、入社後のモチベーションやエンゲージメントにも関わります。
例えば、入社までのスケジュールや手続きを具体的に説明する、入社前の疑問や不安、確認事項に丁寧に対応する、配属先の社員と交流の機会を設ける、社内見学の機会を設ける、などの取り組みが挙げられます。

採用CXの効果が出ない場合の「考えられる理由」と「改善のポイント」

採用CXの向上に取り組んでいるけれど、思うような効果が上がらない…という悩みを抱えている企業もあるようです。そこで、効果が出ない原因と、その改善方法についてご紹介します。

採用ペルソナがずれている

どんなに多くの自社アピールを行っても、応募者に寄り添った採用選考を行っても、そもそもの採用ペルソナがずれてしまっていては期待するような効果は上がりません。例えば、ターゲットが知りたいと思っている情報発信ができていない、ターゲットに合ったメディア選定ができていない、ターゲットに適した選考対応ができていない、などが考えられます。まずは採用ペルソナが自社の欲しい人材像に即したものなのか、見直すことが大切です。

応募者対応・タッチポイントが適切ではない

求職者に向けて提供している情報が少ない、発信するメディアが少ない、面談やオフィス訪問を実施していない、応募者からの質問や要望を受ける機会などを設けていないなど、そもそものタッチポイントの量(接点量)が不足している可能性があります。

また、応募者への対応が遅い、情報提供の内容が不足している、面接担当者の質問内容や態度が良くないなど、タッチポイントの質自体が低いケースも考えられます。前述した5つのタッチポイントを一つひとつ見直し、量や質を高める工夫を行ってみましょう。

優先順位がつけられていない

「採用CXに注力しなければ」との意識が強く、組織の能力やキャパシティ以上のことに取り組もうとして、結果的に総花的な取り組みになっている可能性があります。実際、過度に多くの取り組みをしようとした結果、手が回らなくなり、必要なタッチポイントが持てていないケースが散見されます。
何もかもやろうとするとどうしても求職者への対応の質が落ち、逆効果となってしまうかもしれません。採用ターゲットに合わせ、取り組む項目に優先順位をつけてから臨みましょう。

形式や仕組み通りに行うことばかりに注力している

タッチポイントを完ぺきに押さえ、十分な情報発信や応募者への丁寧な対応ができていても、最終的には「人が魅力的かどうか」が入社の分かれ目となるケースが多いようです。したがって、事前に決めた採用CXの形式や仕組み通りに採用活動を行うだけでなく、採用担当者・面接担当者が「自社の魅力を自分の言葉で納得して腹落ちした上で応募者に伝えたいと思っている」、「応募者の個別状況や心理状態を汲み取って真摯に対応したいと思っている」といったスタンスを持って臨むことが、何より重要だと考えられます。

実際、入社の決め手を聞く質問で「最終的には人で選んだ」という答えをよく耳にしますがまさにこれで、採用担当者の認識共有ができているか、思いが腹落ちできているかが最終的にはモノを言います。改めて、組織としての採用に臨むスタンスを見直し、担当者一人ひとりが納得できるまで目線合わせを行うことが重要と言えます。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。