人材 マネジメント

社会環境の変化に伴い人材確保が難しくなっているため、限られた人材を最大限に活かす「人材マネジメント」が重視されています。人材マネジメントが注目される背景、人材マネジメントの対象領域、進め方、実現のポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

人材マネジメントとは

人材マネジメントとは、企業の経営戦略・経営目標を実現させるため、人材活用の最適化を図る仕組みを指します。

リクルートが企業の人事担当者を対象に2023年に実施した「企業の人材マネジメントに関する調査(※1)」によると、「人事制度や雇用慣行を変える必要性を感じている」と回答した企業が約6割(強く感じている:18.1%、やや感じている:43.4%)に達しました(P5)。

人事制度や雇用慣行を変える必要性_回答グラフ

企業が「人事課題」だと感じている上位項目として「次世代リーダーの育成」「従業員のモチベーション維持・向上」「管理職のマネジメントスキル向上」「中途採用・キャリア採用の強化」などが挙げられます(P7)。

現在、人事課題だと感じているものについての回答グラフ

(※1)出典:株式会社リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査2023データ集」

人材マネジメントが注目されている背景

人材マネジメントが注目され、重要課題と捉える企業が増えている背景としては、次のような事情が挙げられます。

生産年齢人口の減少

近年、少子高齢化に伴って生産年齢人口が減少の一途をたどっており、企業の人材確保が難しくなっています。そうした社会環境下において、企業が存続・成長するためには、採用活動を成功させることはもちろん、限られた人的資源を最大限に活かす必要があります。従業員一人ひとりの能力を引き出し、パフォーマンスを最大化する人材マネジメントによって、組織全体の生産性を高めることが課題となっているのです。

仕事の価値観の多様化

ダイバーシティ(多様性)への意識が高まっていること、「働き方改革」によって働き方の柔軟性・自由度が増していることから、個人の仕事に対する価値観が多様化しています。

特に若い世代を中心に、キャリアオーナーシップを持って主体的に働く場所・働き方を選ぶ人が増えていくと考えられています。今後、人材流動化がさらに活発化すると見込まれるなか、働く人から「選ばれる」企業になるためにも、多様な価値観に対応する人材マネジメントの仕組みづくりが求められています。

変化に対応し、成長するため

テクノロジーの進化などによって新たなビジネスモデルやサービスが生まれたり、海外企業が台頭してきたりするなか、既存の事業の変革に迫られるケースも増えてきました。外部環境の変化に対応し、成長を続けていくためには、新たな知見やスキルを取り入れる必要があります。自社にいない人材の採用や社内での育成・リスキリングなどの人材戦略も重要となっています。

人材マネジメントの対象

人材マネジメントを行うにあたり、対象となる領域として「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置」「代謝」が挙げられます。

採用

経営戦略や事業計画に基づき、必要な人材の採用を行います。求めるポジションに応じて必要な経験・スキル・人物像を明確化し、ターゲット人材に最適な採用手法を用いて募集・選考・内定後のフォローを行います。

育成

職務遂行に必要な能力・スキルを習得させるため、職場以外で教育訓練する「OFF-JT(Off-The-Job Training)」と職場で業務を通じて教育訓練する「OJT(On-The-Job Training)」を組み合わせ、育成を行います。また、部門異動や職務転換といったジョブ・ローテーション、メンター制度、自己啓発のセミナー・研修プログラムなど、多様な手法を駆使して従業員の成長を支援します。

評価

従業員の目標達成状況・成果・組織への貢献・能力・行動など、さまざまな指標を用いて評価する制度を構築・運用します。評価制度は、報酬の決定や今後の育成計画、従業員のモチベーションなどに影響するため、適切な設計・運用が求められます。

報酬

評価に基づき、昇給・昇格、賞与額、インセンティブの付与などの報酬を決定します。従業員が納得感を持てるように、評価が報酬に反映される仕組みを明確にする必要があります。また、「裁量権の付与」など、金銭面以外での報酬を設計する方法もあります。

代謝

経営戦略・事業計画の実行に必要な人材を確保する一方、人材を手放すことで会社の新陳代謝を図ります。定年退職制度、早期退職制度などの運用もこれに当たります。

なお、休職・復職への対応も代謝の一環といえるでしょう。出産・育児・介護といったライフステージの変化、あるいは病気やケガなどによる休職が発生しても、そのまま離職に至るのではなく、早期復職を支援するフォロー体制を整えることも重要です。

人材マネジメントの進め方

人材マネジメントを最適な形で実現するため、進め方の一例をご紹介します。

自社の人材課題を明確にする

まずは自社の人材課題を明確化しましょう。
以下はリクルートが行った「企業の人材マネジメントに関する調査2023 人事制度/人事課題編(※2)」において、人事担当者が回答した「人事課題と感じている項目」です。このグラフの項目を参考にしてもいいでしょう。

現在、人事課題だと感じているものの回答グラフ

(※2)出典:株式会社リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査 2023

経営戦略に沿って優先順位をつける

多くの課題が抽出された場合は、経営戦略を踏まえ、どの課題を優先して取り組むべきかを検討します。
課題によって、解決までに要する期間にも差が見られることもあります。時間軸も念頭に、どの課題から着手すれば早く効果を得られるかを判断するといいでしょう。

解決策や求める人材像を明らかにする

優先課題に対する解決策を検討します。例えば、「ミドルマネジメント層が育っていない」という課題であれば、「外部人材の採用」や「社内育成」といった解決策視野に入れる必要があるでしょう。必要なポジションを任せられるのはどのような人材かを明確化し、採用・育成の方針を定めましょう。

人材マネジメントのプランを策定する

採用・育成方針を定めたら、目標を立て、具体的な計画に落とし込みます。採用であれば、採用ポジション・人数、募集時期、募集方法、選考スケジュールなどのプランを立てます。育成であれば、対象者、教育を行う時期、教育手法、研修プログラムの内容などを決定します。

実施・効果検証を行う

立案した計画を実行します。実行は現場に任せきりにするのではなく、現場の責任者と密にコミュニケーションを図り、進捗状況や目標達成状況の確認、効果の検証を行いましょう。想定どおりに進んでいない場合は、原因を分析し、計画を見直します。

人材マネジメントを実現するポイント

人材マネジメントにおいて効果を得るためには、次のポイントを心がけてみましょう。

自社に合わせた現実的なプランを立てる

近年、人材マネジメントの手法は多様化しています。さまざまなノウハウや他社事例などの情報を得ることができますが、他社で成功した手法が自社でも効果を発揮するとは限りません。事業内容や組織形態、従業員の志向・価値観などによって適した人材マネジメント手法は異なるため、自社に合う手法を取り入れましょう。また、最初から高い理想を追い求めすぎず、現実的で実行可能なプランからスタートするといいでしょう。

経営戦略に合わせ、経営との合意形成を行う

経営を取り巻く環境は常に変化しています。環境が変われば経営課題も変わり、人材に求める要件も変わっていくことが考えられます。経営陣とも協議を重ね、リアルタイムで課題を把握し、今後の人材マネジメント方針についての合意形成を行いましょう。

人事の目的や方針などを周知する

人材マネジメントの方針や計画は、人事で決めて人事だけで実行できるものでもありません。現場の管理職や従業員が連携・協力しなければ、スムーズな遂行や目標達成は難しいでしょう。人材マネジメントの目的・目標を共有し、理解を得ることが大切です。

外部の力を借りるという選択肢も視野に入れる

人事担当者のリソースが限られている場合、外部の力を借りるという方法もあります。
現在はHRテック(HR Tech)が進化しており、人材マネジメントにまつわる業務を支援するさまざまなツールやサービスが提供されています。自社に合うサービスの導入を検討してもいいでしょう。

また、人事・組織コンサルタントから、組織課題の分析のサポート、解決策の提案を受けることができます。転職エージェントからは、人材の紹介はもちろん、求職者の動向についての情報を得られるため、採用戦略を立てる参考になります。採用コンサルタントに上流の採用戦略策定から伴走してもらったり、採用代行サービス(RPO)に実務の一部を任せたりすることも一案です。

自社の人材が足りない場合は、人材マネジメント計画を遂行できるマネジャークラスの人員を採用するのも一つの有効策といえるでしょう。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。