人事管理とは

人事担当者が担う役割のひとつである「人事管理」。人事管理にはどのような業務があるのか、労務管理とはどう違うのか、これからどのような取り組みが期待されるかについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

人事管理とは

人事管理とは、企業の経営戦略の実行・目標の達成に向け、従業員が能力を最大限に発揮できるような配置・処遇・育成を行うことであり、その体制や制度を整備・運用する取り組みを指します。既存社員に対する人事管理にとどまらず、経営戦略上、必要となる人材を獲得する活動も含まれます。

人事管理の業務内容

人事管理の代表的な業務には、以下が挙げられます。

人材採用

経営戦略や事業計画に基づいて人員計画を立て、新たな人材が必要であれば採用計画を立案・実行します。求める人材像に応じて、転職サイト、転職エージェント、ダイレクトリクルーティング(スカウト・SNS活用・リファラル採用など)、採用イベントといった募集手段を選定。応募を受け付けて選考を行い、内定者が入社に至るまでフォローします。

人材育成

従業員の育成・能力開発の施策を考え、実行します。「社会人基礎力」「テクニカルスキル(専門スキル)」「ポータブルスキル(業種・職種問わず持ち運びできるスキル)」の習得や、リーダー・管理職に必要な知識・スキルの習得など、職場以外で教育訓練する「OFF-JT(Off-The-Job Training)」と職場で業務を通じて教育訓練する「OJT(On-The-Job Training)」を組み合わせて育成を行います。「ジョブ・ローテーション(部門異動・職務転換)」「自己啓発」など、従業員の成長を促す取り組みも行います。

人事評価

従業員の成果や組織への貢献、能力、行動など、さまざまな指標で評価する制度を設計し、運用します。評価指標に紐づいて、目標管理制度、報酬制度、給与体系の設計なども行います。

人材配置

経営戦略や事業計画に基づいて、適切な組織編成、人員配置を行います。従業員一人ひとりの経験・スキル・志向などを把握した上で「適材適所」を実践し、パフォーマンスの最大化を図ります。能力開発や育成を目的とした部門異動・職務転換なども行います。

エンゲージメント把握

企業と従業員の間に信頼関係が築けていて、お互いの成長や利益に貢献し合えているか、仕事に意欲的に取り組めているかどうかを把握します。組織と従業員のエンゲージメントがどのような状態にあるかを、「エンゲージメントサーベイ」や「従業員満足度調査」、あるいは面談などを通じて把握し、課題があれば解決策を講じます。

人事管理と労務との違い

従業員が能力を最大限に発揮できるような配置・処遇・育成を行うのが人事管理ですが、労務とは、雇用や労働条件に関する業務を担います。労務管理とは、勤怠管理、給与計算、入社・退社手続き、社会保険の手続き、就業規則の策定・見直し、福利厚生の制度設計・運用、安全・衛生管理など、従業員が安心して働ける仕組みを整備・運用することを指します。

人事管理に期待される役割

これからの時代の人事管理には、単なる「管理・運用」にとどまらず、経営戦略に基づく「人事戦略」の立案・実行が求められています。例えば、以下のような取り組みが期待されます。

人材配置の最適化

従業員一人ひとりの経験・スキル・資質などを把握し、最大限に活かせる配属や業務の割り当てを行うことで、組織の成果や生産性向上につなげます。また、従業員自身が希望するキャリア形成を支援する配置がなされれば、働くモチベーションやエンゲージメントが向上し、離職防止の効果も期待できるでしょう。

従業員の成長支援

従業員が新たな知識やスキルを習得したり視野が広がったりするような成長の支援、リスキリングの支援を行います。研修プログラムやオンライン受講システムなどを整備するほか、「社内公募制度」など部門異動や職種転換のチャンスを提供するのもひとつの方法でしょう。直属の上司以外に相談できる「メンター制度」、今後のキャリア形成について話し合う「1on1」などを活用する企業もあります。

成長支援により、従業員の能力向上・モチベーション向上・エンゲージメント向上に加え、新たなイノベーションが生み出されて事業創出などにつながるといった効果も期待できるでしょう。

評価制度の策定・運用

人事評価制度の種類は多様であり、行動・成果・情意・能力など、評価においてどのような項目を重視するかが異なります。自社の業務特性や従業員の価値観などを踏まえ、自社に適した制度を選択することが重要です。また、部門や職種によって評価の観点・手法を変えるといった工夫も求められます。評価の偏りを防ぎ、従業員の納得感を高めるために、複数の評価手法を組み合わせて活用する企業も多いようです。

近年、導入している企業が多い評価制度、注目されている評価制度としては以下のようなものが挙げられます。

  • 目標管理制度(MBO・OKR)
  • コンピテンシー評価
  • 360度評価
  • バリュー評価
  • ノーレイティング制度

人事管理の合理化・可視化

人事管理業務を効率的に行うことで、時間・コストを抑えつつ効果を得ることが求められます。効率化できる部分は効率化し、戦略策定などのコア業務に集中できるようにすることが重視されています。また、「経験と勘」に頼る人事管理業務ではなく、データなどで「可視化」し分析や課題設定によって論理的に実践していくことも必要とされています。

こうした人事管理の合理化・可視化には、HRテック(HR Tech)の導入も有効です。目的に応じた多様なツールやサービスがあるため、それらを比較検討し、自社に合うものを選定してみましょう。

社会変化への対応 

近年、人事領域では、「働き方改革」「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」「リスキリング」「人的資本の情報開示」「育児休業取得率の公表」「男女間賃金格差の開示義務」「賃金のデジタル払い解禁」など、新たな課題が相次いで生まれています。また、コロナ禍以降は働く人々の価値観の変化、ライフスタイルやキャリア観が多様化する傾向にあります。

こうした社会の変化をとらえ、対応する人事戦略・施策を打っていくことも、人事管理を担う担当者の重要な役割といえるでしょう。

時代の変化に応じた「戦略人事」が求められる

従来の人事部門は「管理・運用」部門として位置付けられていましたが、変化に対応する人事管理のために、近年は経営戦略と連携した「戦略人事」を遂行する重要性が高まってきました。

経営層や事業戦略を実行する現場部門と密に連携をとる体制を築き、従業員一人ひとりの価値観や志向をつかんだうえでの配置や育成を行うことで、組織全体のパフォーマンス向上、企業の競争力強化へつながるでしょう。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。