採用面接の手法の一つに「STAR面接」があります。STAR面接は、面接で生じがちな悩みである「応募者の本質を見極めにくい」「面接担当者によって評価にバラつきがある」といった課題を解決する方法として取り入れられています。そこで、STAR面接を導入するメリット、質問例、実施のポイント、デメリット・注意点などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
STAR面接とは?
「STAR面接」とは「行動面接」とも呼ばれ、応募者の「過去の行動」にフォーカスして質問し、その背景や思考のプロセスなどを深く掘り下げる面接フレームワークです。あらかじめ設定した質問項目・評価基準に沿って面接を進めていく「構造化面接」の一種といえます。
STARとは「Situation(状況)」「Task(課題)」「Action(行動)」「Result(結果)」の頭文字であり、この4つの観点で質問を進めます。
STAR面接を導入するメリット
STAR面接を導入することによって得られるメリットとして、以下が挙げられます。
面接で見極めたい観点を均一化する
STAR面接では、自社の採用方針に基づいて質問項目・評価基準を決め、すべての応募者に対して同じ質問を、同じ順番で投げかけます。そのため、誰が面接を行ったとしても同一の観点で、一定の基準に基づいて評価できると考えられます。
応募者の価値観や思考特性を把握できる
応募者は面接に向けて好印象を与える受け答えなどを準備します。面接対策の内容によっては、面接担当者が応募者の本質をつかみにくくなる場合もあります。その点、STAR面接では過去の応募者の具体的な行動について、その理由や考え方を引き出すため、応募者の価値観や思考特性を把握しやすくなります。自社が求める人材像とのすり合わせがしやすくなるため、入社後にミスマッチが生じにくくなることが期待できます。
選考に対する社内の納得度が高まる
同一の観点・一定の評価基準を定めたうえで面接が行われるため、面接担当者個人の主観によって偏った評価がされることを防げるでしょう。選考に対する社内の納得度が高まり、採否判断の協議に費やす時間・労力の軽減にもつながる可能性があります。
面接担当者の経験に関わらず面接のレベルを保てる
あらかじめ決めた質問項目に沿って面接を進めるため、面接経験がない社員・経験が短い社員が面接を担当しても一定の面接レベルを保つことが可能になります。面接担当者を務められる社員が増えれば、選考のスピードアップにつながります。より多くの社員が選考に関与すれば、組織全体で「採用・人材育成」への意識が高まり、協力体制が築ける効果も期待できるでしょう。
STAR面接の質問例
STAR面接を構成する、「S(Situation)=状況」「T(Task)=課題」「A(Action)=行動」「R(Result)=成果」についての質問例をご紹介します。
Situation(状況)
応募者の過去の行動を質問するにあたり、まずはその行動に至った「背景」「前提」を知る必要があります。行動を起こしたときの会社や組織、担当業務など「どのような状況に身を置いていたか」を把握します。
<質問例>
- どのようなチーム体制で仕事をしていましたか
- どのような規模のプロジェクトを担当していましたか
- あなたのチームはどのようなミッションを与えられていましたか
- あなたのチームはどのような目標を掲げていたのですか
- チーム(プロジェクト)内で、あなたはどのような役割を担っていましたか
Task(課題)
Situation(状況)において、どのような課題に取り組んでいたか、どのような壁や障害にぶつかっていたかなどを質問します。
<質問例>
- 目標達成に向け、どのような問題点や障壁がありましたか
- どのような背景から、どのような課題が発生したのですか
- 課題解決に向けて、どのような役割を担いましたか
Action(行動)
STAR面接において最も重要なポイントです。Task(課題)に対し、どのように考え、具体的にどのような行動を起こしたのかを質問します。
<質問例>
- 課題に対し、どのような行動を起こしましたか。なぜその行動が適切と考えたのですか。
- 目標を達成するために、どのような工夫をしましたか
- 周囲の人とどのように協力、連携しましたか
- 壁にぶつかったとき、どのように乗り越えましたか
Result(結果)
行動した結果や成果、周囲に与えた影響について質問します。単に結果を確認するだけでなく、そこから何を学んだり身につけたりしたかも確認し、自社で再現できそうかを判断しましょう。
<質問例>
- 行動の結果、どのような成果を挙げましたか
- 行動の結果、周囲にどのような影響を与えましたか
- その経験を通じて、学んだこと、身に付いたことはありますか
- これから同様の状況になった場合、経験を踏まえて改善すべきことはありますか
STAR面接実施のポイント
STAR面接の導入に際し、意識しておきたいポイントとして以下が挙げられます。
面接で判断したいことを決める
まずは人事担当者・採用部門の責任者・経営陣で協議を行い、採用ポジションについて自社が求める人材像を明確化します。それをもとに、面接で判断したいポイントを整理します。例えば「主体性」「協調性」「ストレス耐性」「課題分析・解決力」「行動力」「調整力」などが挙げられます。
質問項目を作成し、評価基準を設定する
面接で判断したいポイントに応じ、評価しやすい回答を引き出す質問項目を作成します。例えば「主体性」を重要な指標と設定するなら「自ら課題を発見して、周囲に解決策を提案したことはありますか」、「協調性」を重視するなら「その課題解決に向け、周囲の人とどのように協力・連携しましたか」といったように、自社が求める特性を発揮したエピソードが語られるような質問を用意するといいでしょう。
また、定量的・具体的な回答を求めるような質問項目を作成することも重要です。回答に対する評価基準を設定することで、評価のバラつきを防げるでしょう。
質問のバランスを考慮する
STAR面接は、決められた質問項目に沿って進めていくため、応募者から見ると機械的で単調な印象を与えることもあります。また「なぜそう考えたのか」「具体的にはどうしたのか」と掘り下げていくと、圧迫感を抱く可能性もあります。応募者にネガティブに捉えられてしまうと、本音を引き出しにくくなるかもしれません。
質問を終始同じペースで進めるのではなく、応募者にとって重要と思われる経験に対してはじっくり耳を傾けるなど、メリハリをつけるといいでしょう。また、面接をすべてSTAR面接だけで固めるのではなく、例えば面接の1時間のうち15分程度は自由な質疑応答にあてるといった方法もあります。それによって、STAR面接では表れなかった重要な要素が引き出せる可能性もあります。
STAR面接のデメリット・注意点
STAR面接にはデメリットもあります。実施する際に注意しておきたいポイントをお伝えします。
応募者が負担に感じる可能性がある
あらかじめ決められた質問どおりに進んでいくと、機械的なやりとりとなり、ストレスを感じる応募者もいます。対話が深まらないまま次の質問へ移っていくと、自分の思いが十分に伝わっていないと感じることもあるかもしれません。結果的に入社意欲が低下し、選考辞退や内定辞退につながるケースもあります。
そのため、相手の気持ちに寄り添って聞く姿勢が重要です。相手の言葉にしっかり相づちを打つほか、「それはつらい状況でしたね」「よく乗り越えられましたね」といったように、共感や感想を伝えるなど、安心感を持ってもらえるリアクションを心がけるといいでしょう。
面接担当者に徹底させることが難しい
決められた質問どおりに進めていく面接スタイルに抵抗感を抱く面接担当者もいます。面接担当者が興味を持ったポイントに対話が集中したり横道にそれていったりと、予定通りに進まないケースもあるでしょう。場合によっては、従来の面接手法の継続を求める声が上がる可能性もあります。STAR面接を行う意義・目的について面接担当者の理解を促し、必要に応じてトレーニングを実施する必要があります。
導入することで見極めが難しくなるケースもある
STAR面接では質問をマニュアル化するため、応募者が慣れてくるとマニュアル的な回答を用意することも可能となります。本音を引き出しにくくなり、応募者が本当に自社にマッチするかどうかの見極めが難しくなるケースもあります。
導入・運用の負荷がかかる
STAR面接を初めて導入する際には、求める人材像の協議・設定、質問項目の作成、評価基準の設定など、検討項目が多く負荷がかかります。運用においても、各面接担当者への説明や研修に時間と労力を要し、定着させるまでには時間がかかる可能性があるでしょう。
STAR面接は導入後も重要
STAR面接の手法は導入して終わりではありません。面接辞退や内定辞退、入社後のミスマッチの発生状況や定着状況などを踏まえ、修正していく必要があります。採用ポジションや自社の戦略・組織の変化に応じて、よりフィットするように見直し、改善を続けていきましょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。