中途採用の市場が活発化し、人材獲得の難易度が高まっています。さらに採用手法も多様化し、人事担当者が向き合う採用課題も複雑になっています。そこで、採用にまつわる課題を大きく5つに分類し、それぞれの解決策について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

企業が抱えるよくある採用課題とは?

採用課題とは、企業が採用活動を進めるうえで、採用の成功を阻む要因を指します。採用戦略・採用計画の策定、募集(母集団形成)、選考、内定・受け入れと、採用活動の各プロセスではさまざまな課題が発生します。採用活動がスムーズに進まない場合、どのプロセスに課題があるのかを分析し、改善策を打つ必要があります。

株式会社リクルートが2023年に行った「企業人事の採用に関する調査(※)」によると、2022年度の中途採用全体の難易度について「難しくなった」「やや難しくなった」と回答した人事担当者が43.3%に達しました。

2021年度と比較した際の、2022年度の中途採用全体の難易度の変化感

なお、中途採用の成功を目的として行った取り組みを聞いたところ、「残業削減」「テレワーク導入」など、働き方改革や働き方の柔軟性向上などを図っている企業が多く見られます。しかし、「新しい採用ブランディング施策」「採用チャネルの拡大」「募集部門による採用への関与」など、採用活動そのものに対する取り組みは十分に進んでいないようです。
そこで、企業が抱える以下の代表的な採用課題に対して、次項でそれぞれの解決策をご紹介します。

  1. 社内の合意形成ができない
  2. 採用の体制が整わない
  3. 求める人材からの応募が集まらない
  4. 内定承諾に至らない
  5. 採用した人材が定着しない

次項では、企業が抱えがちな採用課題を大きく5つに分類し、解決策をご紹介します。

中途採用の成功を目的として行った取り組みについて

(※)出典:株式会社リクルート「企業人事の採用に関する調査 第1弾 中途採用の現状、採用は難化傾向が続く」(2023年9月)

【課題-1】社内の合意形成ができない

採用活動を開始する前段階で、採用方針について経営層・人事部門・採用部門の目線がなかなか揃わないことがあります。例えば、経営層と現場で求める人材像にギャップがあるケースが見られます。また、人事が「この条件が揃った人材は転職市場にほとんどいない」「このレベルの人材はこの待遇では来てくれない」と訴えても、経営層や現場が条件を譲らないことも。こうして、なかなか募集を開始できなかったり、応募者が集まらなかったりする事態に陥る可能性があります。
そこで、社内の合意形成ができないという課題に対する解決策をご紹介します。

客観的な資料や第三者を交える

社内で立場が異なる人たちの目線を合わせるためには、転職市場に関する調査データなど客観的な資料を用いて説明するのが有効です。あるいは、転職エージェントや採用コンサルタントなど採用市場の動向を把握しているプロに介入してもらい、認識の共有を図るという方法もあります。

採用活動を進めながら改善を図る

社内で合意形成に至らなくても、まずは初期費用がかからない採用手法や少ない費用で始められる採用手法から、採用活動をスタートしてみることも一案です。 採用活動を行いながら、直面した課題に都度対応していくことで、実情への理解が進み、改善へつなげられる可能性があります。

なお、人事担当者が世間の相場や思い込みなどにとらわれてしまっているケースも見られます。採用対象職種・ポジションの人たちの志向やニーズを知る現場社員が考えた採用活動手法の方がうまくいくこともあるため、「まずは動いてみる」「試してみる」姿勢も大切です。

【課題-2】採用の体制が整わない

採用目標が明確になっていても、「採用業務にあたる人員が足りない」「採用の経験・ノウハウがない」など、採用体制が整っていないために採用活動を進められないこともあります。

HRテックの導入を検討する

近年の採用関連業務は、HRテック(HR Tech)によってカバーできる範囲が広がっています。例えば「複数の求人媒体・転職エージェントの一元管理」「応募者の活躍可能性の判断」「面接日程調整」「選考スケジュールの管理」などが挙げられます。自社がサポートを必要とする機能を取り入れることで効率化され、限られた人数で活動を進めることができます。

外部人材を活用する

転職エージェント・採用コンサルタント・採用代行サービス(RPO)など外部人材を活用する方法もあります。転職エージェントからは転職市場動向の情報を得るとともに候補者を紹介してもらう、採用コンサルタントには採用戦略策定や活動のプランニングから伴走してもらう、採用代行サービス(RPO)には実務の一部を委託するなど、自社のリソースでは足りない部分を補います。

採用人材を育成する

近年は、人事担当者だけでなく、採用部門の現場のメンバーが採用活動に積極的に関わることで採用成功につながっているケースが多く見られます。現場社員に人材要件の設定、採用手法・媒体の選定、求人情報で打ち出すメッセージの考案、面接などに関与してもらうことで、採用人材としての育成を図ってもいいでしょう。

【課題-3】求める人材からの応募が集まらない

「求めている人材からの応募がない」「応募はあるが数が少ない」、あるいは「応募は多数あるが求めている人材像と異なる」といった悩みも多く見られます。

適切な採用方法を選択する

かつての採用活動は「求人媒体に出稿する」あるいは「転職エージェントから紹介を受ける」といった手法が中心でしたが、現在は採用手法・媒体が多様化しています。求人媒体や転職エージェントが得意とする業界・職種領域を見極めるほかに、「スカウトサービス」、SNSを活用した「ソーシャルリクルーティング」、自社社員から友人・知人の紹介を受ける「リファラル採用」、退職した社員を再雇用する「アルムナイ採用」など、多様な採用手段があります。自社の採用ターゲットに合わせ、最適な手法を検討しましょう。

求める人材に合わせてメッセージを変える

自社が求めているターゲット人材は、転職においてどのようなポイントを重視しているのかを意識することが大切です。自社の同職種の人にヒアリングしたり、転職エージェントから情報を得たりするといいでしょう。ターゲットのニーズを踏まえ、自社の特徴や魅力をアピールするメッセージを発信してください。アピール材料となり得るポイントの一例は以下のとおりです。

  • 会社・事業の成長率
  • 商品・サービスの業界シェア
  • プロダクトの先進性
  • 裁量権の大きさ
  • 昇進スピード
  • 人事評価制度
  • キャリアパスの多様性
  • 一緒に働く上司や同僚の経歴
  • 副業OK
  • リモートワーク・フレックスタイム制など柔軟な働き方の制度
  • 育児と仕事の両立支援

応募条件・待遇を見直す

応募条件を細かく設定しすぎていると、該当する求職者の数が少なくなり、応募者の獲得につながりません。一つひとつの条件について「必須」「あれば尚可」に分けて整理しましょう。採用部門の責任者とも協議し、「この経験は必須だが、この経験は既存メンバーがサポートするのでなくても良い」「このスキルは必須だが、このスキルは入社後のキャッチアップで可」など、条件を緩和することで応募者数を増やせる可能性があります。

条件面を再確認する必要がある場合、求める人材レベルに見合う給与水準・待遇になっているか、相場と照らし合わせて見直すことを検討すると良いでしょう。

【課題-4】内定承諾に至らない

求める人材像にマッチする人から応募があっても選考を途中で辞退されてしまう、あるいは内定まで至っても入社を辞退されてしまう可能性もあります。

選考回数を調整する

応募者は他の複数企業にも応募しており、同時期に選考が進んでいることも多いものです。選考回数が多いと、その分選考期間が長引くため、その間に内定が出た他社に入社を決めてしまう可能性もあります。応募者の状況によって、選考回数を調整する工夫をするといいでしょう。

選考スピードを速める

上記と同様、選考に長い時間がかかっていると、結果を待つ間に内定が出た他社に入社を決めたり、新たな候補企業が見つかってそちらへの入社意欲が高まったりすることもあります。応募者をあまり長い時間待たせないように、選考の見直しや工夫を検討することも大切でしょう。

選考後、早期に通知が届けば、採用への熱意が伝わり、好印象を抱いて入社意欲が高まる可能性もあります。

面談の場を設けて懸念を払しょくする

面接(選考)とは切り離した形で、「面談」を設定するのも有効です。お互いにリラックスした状態で、本音で対話し、応募者が抱いている疑問や不安を払しょくすることにより、入社意欲が高まる可能性があります。一緒に働く現場のメンバーや、応募者とバックグラウンドが近い社員(同業界からの転職者、育児中の社員など)との面談を設けるのも有効です。

面接の質を高める

面接担当者が自社の魅力を十分にアピールできておらず応募者の心をつかめていない、あるいは面接担当者の不適切な態度・発言によってネガティブな印象を抱かれたことが辞退につながっているケースもあります。面接担当者に対して研修やトレーニングを行うことで、自社の魅力がより伝わることにもつながるでしょう。

【課題-5】採用した人材が定着しない

せっかく採用した人材が早期に離職してしまうと、採用活動をやり直すことになり、時間もコストもかかります。ミスマッチを防ぎ、定着率を高めることは大きな課題の一つです。

オンボーディング体制を整える

「オンボーディング」とは、航空機や船に乗り込むことを意味する「on-board(オンボード)」から派生した言葉です。人事領域では、入社者が早く仕事や職場環境に慣れ、活躍できるように支援する取り組みを指します。「研修」「既存社員とのコミュニケーション促進(食事会・懇親会など)」「上司との1on1」「人事との面談」「目標設定とフィードバック」「メンター制度」など、多様なオンボーディング施策の中から、入社者に適したものを選んで実施体制を整えるといいでしょう。

人事によるフォローを厚くする

入社後の対応を配属部門に任せきりにするのではなく、人事担当者が適切なフォローを行うことで早期離職を防げる可能性があります。入社後数カ月~半年程度の間は定期的にフォロー面談を実施するなど、困りごとや悩みを吸い上げて対応できるようにしましょう。

エンゲージメント施策を実施する

エンゲージメントを高めるためには、「社内コミュニケーションの促進」「納得感をもてる人事評価制度の整備」「不安やストレスが少ない職場環境の整備」「ワークライフバランスの向上」「個々のキャリアや成長の支援」「経営層からのメッセージの発信」など、さまざまな施策があります。自社の状況や入社者のニーズに応じて施策を打つことで、定着率アップにつながる可能性があります。

中途採用は現場責任者との関係構築がカギ

冒頭でも紹介した「企業人事の採用に関する調査」によると、中途採用がうまくいっている企業は、採用するポジションの現場責任者と人事部の関係性が良いという結果が表れています。
人事と現場の連携強化を意識することで、採用課題の解決、採用目標の達成につながる可能性が高まると期待できます。

採用するポジションの現場責任者と人事部の関係性(中途採用状況別)のグラフ

(※)出典:株式会社リクルート「企業人事の採用に関する調査 第1弾 中途採用の現状、採用は難化傾向が続く」(2023年9月)

スカウトサービスの活用も採用課題解決策のひとつ

採用がうまく運ばない場合、「スカウトサービス」を活用するのも一つの方法です。スカウトサービスとは、媒体のデータベースに登録してある求職者のスキルや経験などを見て、企業から求職者に直接アプローチができる採用支援サービスです。応募を待っているだけでは採用活動は進むとは限りません。企業自ら行動を起こすことで、求める人材像にマッチする人材と出会える可能性があります。

リクルートダイレクトスカウトをご利用いただくと、日々の時間をかけなくても候補者を確保できたり、独自のデータベースから他では出会えない即戦力人材を採用できる可能性が高まります。初期費用も無料ですので、ぜひご検討ください。
この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。