採用DXを進めている企業のイメージ画像

近年、あらゆる業種・業務において「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が進められています。
採用活動においても、DXによって効率化や自社に合う人材の選定といった効果が期待できます。採用に活用できる採用DXツールの種類、採用DXのメリット、推進のポイント、ツール導入の注意点などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

採用DXとは?

「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称です。経済産業省では、DXを以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf)

「採用DX」とは、採用活動にデジタル技術・ツールを取り入れることにより、採用業務の効率化、採用関連データの管理・分析、自社にマッチした人材の獲得などにつなげることを指します。これまでも勤怠管理や給与計算など人事業務に関するシステムはありましたが、近年、採用業務に関するツールやサービスの種類も増えています。

採用手法が多様化・複雑化しているなか、限られた採用リソースで成果を挙げるには、効率化が必要となります。また、人材獲得と離職防止のために、求職者と自社の「マッチング」の精度を向上させることも重要です。こうした課題解決の手段として、採用DXが注目されています。

採用DXツールの種類

採用DXツールにはさまざまな種類があります。ツールを活用してできることをご紹介します。

母集団形成

採用候補者を集めて母集団形成を行う採用DXツールとしては、「求人サイトへの掲載情報の作成サポート」「スカウトサービスの運用」「採用SNSでの発信・運用」「リファラル採用の支援」などがあります。候補者からのアクセスに自動対応してくれるサービスもあります。

選考管理

各種求人媒体や転職エージェントからの応募・選考状況・評価を一元管理する機能を持つツールです。他サービスとの連携も進んでおり、ビジネスチャットツールなどを使った面接担当者への情報共有、カレンダー管理アプリと連携した面接日程調整などが容易となることもあるでしょう。応募者の選考進捗状況が可視化できると、システムのガイドによって次のアクションの抜け漏れを防いだり、選考プロセスのデータを分析したりしやすくなると思われるため、振り返りや今後の対策にも役立てることができるかもしれません。

採用サイト作成

Webサイト制作のスキルがなくても、採用サイトを簡単に作成することができます。求人検索エンジンなどとの自動連携機能を備えたツールもあります。

適性検査

応募者のメールアドレスなどを登録して受検URLなどを送信。実施結果もすぐに分析・可視化されるため、選考をスピーディーに進められます。既存社員の適性診断結果や社風分析などのデータをベースに自社に適した人材を見極める、マッチング機能付きのサービスもあります。

面接ツール

Web面接ツールの活用により、面接会場を確保する手間や時間、コストを削減できます。企業側が質問を設定しておき、候補者が動画・テキストで回答する機能を備えたツールもあります。「評価」の管理も可能です。

採用DXのメリット

採用DXのメリットとしては、以下が挙げられます。

採用活動の効率化

従来の採用業務を効率化することで、時間やコストの削減につながります。採用担当者は業務負担が軽くなる分、採用戦略の策定や改善、応募者・内定者などとのコミュニケーションにパワーをかけられるようになるでしょう。

採用ミスマッチの改善

応募者が、自社が求める人材像にマッチしているかどうかの判断をサポートする機能もあります。例えば、高い業績を挙げている従業員を分析して性格特性・行動特性などを設定し、適性検査によって応募者の活躍可能性を判断するなどの方法が挙げられます。多様なデータの収集・分析の機能を活用することにより、選考過程でのミスマッチの防止につながる可能性があります。

採用活動のデータ化

求人媒体ごとのコスト・応募者数・採用に至った人数など、採用活動にまつわるデータを蓄積することで、費用対効果の分析が可能になります。データ分析によって課題を特定できれば、今後の採用活動の効率化につなげられるでしょう。募集要件の設定や、選考フローの見直しにあたっての検討材料にもなります。

応募者体験の向上

応募者が「応募~選考」のプロセスでストレスを感じることなく円滑に進む体験ができれば、企業に好印象を抱き、志望度が高まることが期待できます。企業が「選ぶ」立場から「選ばれる」立場になっている昨今、応募者に心地よい体験を提供することで、選考の途中辞退・内定辞退の防止につながると期待できます。

採用DXを進めるポイント

成果につなげるために、採用DXを進めるポイントをお伝えします。

自社の採用課題を分類する

まずは自社の現状を把握し、どこに採用課題があるかを洗い出しましょう。例えば「応募が集まらない」「応募はあるが、求める人材からの応募はない」「選考途中で辞退される」「内定を辞退される」「入社後にミスマッチが起こる」などが挙げられます。採用課題を明確化・分類することで、それぞれの対策を検討しやすくなります。

自社に合う採用DXツールを選定する

課題・目的を明確化したら、実現できる機能を持つ採用DXツール・サービスの情報を収集します。例えば「応募者管理や選考プロセスの社内共有が十分ではなく選考辞退が多い」場合は「選考管理システムの導入」、「入社後、ミスマッチによる早期離職が多い」場合は「適性検査ツールの導入」などが考えられます。

該当する採用DXツールについて、「自社の目的にマッチするか」「コストは見合うか」などを検討し、デモンストレーションを通じて「使いやすそうか」も見極め、最適なサービスを選択します。 

導入準備を行う

情報収集や社内への共有など、導入に向けて準備します。これまで使ってきた業務システムとの調整・連携も必要となるため、情報システム担当者としっかり協議を行い、目線を合わせることが大切です。 自社の仕事の進め方にマッチする理想的なサービスが見つかるとは限りません。導入準備の際に、本当に必要な業務や機能の取捨選択を行い、速やかな導入を目指しましょう。

振り返りを実施する

振り返りのポイントを事前に定め、定期的に振り返りを行い、採用DXツール導入の過程で生じた課題の洗い出しや蓄積データの分析を行います。成果が出ている部分、出ていない部分を検証し、改善につなげましょう。

採用DXツール導入の注意点

採用DXツールの導入に際しては、以下のポイントに注意してください。

自社に合っているか

どんなに優れた機能を備えた採用DXツールでも、自社に合っていなければ思うような成果が出ず、結局使わなくなってしまう可能性もあります。他社の導入事例を参考にしたり、デモ画面で実際の使用感を確認したりして、自社にマッチしそうかどうかを見極めましょう。

工数とコストが見合っているか

例えば、年間採用目標が数名程度など、採用規模がそれほど大きくなく工数もかからない場合、高額な選考管理システムは必要ないと考えられます。また、母集団形成に使うスカウトサービスや採用SNSなども、自社の採用リソース(人員やノウハウなど)を考慮せずに増やしすぎると、使い切れないことも考えられます。高機能のシステムを導入し、結果的に初期費用や導入準備にかけた工数がムダになるケースもあるでしょう。採用目標に対し、工数とコストが見合っているかどうかに留意してください。

既存ツールとの互換性

新たなツールを導入する場合、これまで使ってきた業務システムとの調整・統合が必要となります。これまでしていたことができなくなるケースも多々あります。 ツールを選ぶ際には、既存ツールとの互換性や業務の見直しを検討するようにしましょう。

採用DXを導入し採用活動を改善しよう

HRテック(HR Tech)を手がける企業は増えており、採用DXは進化を続けています。より一層、デジタルを活用した採用活動は一般化・多様化していくでしょう。採用活動のすべてのプロセスを一気に置き換えるのはハードルが高いかもしれませんが、課題がある部分から少しずつ導入・活用を始めてみるというのも一案です。中長期視点で、未来の採用活動にプラスになるかもしれません。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。