
人材採用の手段の一つに「転職エージェントの利用」があります。転職サイトへの求人広告出稿とは異なり、転職エージェントは採用に至って初めて手数料が発生する「成功報酬型」であることが特徴です。転職エージェントを利用する場合の手数料の相場、依頼の流れと手数料を支払うタイミング、転職エージェントの選び方、他の採用手段の費用との比較について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
転職エージェントの手数料や費用、返金規定の相場
転職エージェントの多くは「成功報酬型」のサービスです。人材の紹介に対する費用はかからず、紹介を受けた人材が選考を経て採用決定した段階で費用が発生するのが一般的です。転職エージェントによって手数料などの規定は異なりますが、一般的な相場についてお伝えします。
手数料
転職エージェントから紹介を受けた人材が選考を経て入社に至ると、成功報酬として手数料を支払います。その金額は、「理論年収×料率(%)」で算出されるのが一般的です。
「理論年収」とは、入社者が1年間在籍した場合の想定年収総額を指します。多くの場合、月額固定額(基本給+諸手当)×12カ月+賞与で算出されます。
料率は転職エージェントによって異なりますが、理論年収の30%~40%で設定するケースが多いようです。また、採用対象となる職種やポジションなどによっても料率が変動することがあります。採用難易度が高い職種・ポジションの場合、料率40%~100%など高めに設定されているケースもあります。
着手金
前述のとおり、転職エージェントは一般的に「成功報酬型」のサービスであるため、採用に至らなければ費用は発生しません。
ただし、一部サービスでは、利用開始時に「着手金」を支払うこともあります。一般的な転職エージェントは、自社または外部の人材データベースに登録している人材の中から要件に合う人材を紹介しますが、企業から依頼を受けて転職エージェントが人材を探す「サーチ型」サービスの場合、着手金が発生するケースがあります。サーチ型サービスは、経営幹部や専門性が高い人材など、採用難易度が高い人材が主な対象となります。
返金規定
多くの転職エージェントでは、紹介した人材が入社に至ったものの早期に離職した場合、紹介手数料を返金する規定を設けています。入社から退職までの期間に応じて、紹介手数料の一定割合の額を返還する仕組みです。例えば、以下のような例が挙げられます。
- 1カ月以内の退職:80%返金
- 3カ月以内の退職:50%返金
- 6カ月以内の退職:10%返金
なお、職業安定法においても、「就職から一定期間以内に離職した場合に、手数料の一部を返戻する制度その他これに準ずる制度」のことを、「返戻金制度」と規定しています。職業紹介事業者は、厚生労働省の運営する人材サービス総合サイトにおいて、返戻金制度の有無と、導入している場合はその内容について情報提供を行うことが義務付けられています。
転職エージェントに依頼する場合の流れと支払いタイミング
転職エージェントに依頼した場合、どのような流れでサービスが提供され、どの段階で手数料を支払うのかを解説します。
ヒアリング
転職エージェントが「採用したい人材像」についてヒアリングを行います。聞かれる可能性が高い項目は以下のとおりです。依頼前に整理しておくとスムーズです。
- 求める職種/役職/業務内容
- 採用ポジションの業務を遂行するために必要な経験・スキル
- 人物像(社風に合う人物タイプ/既存社員にいない新しい人物タイプなど)
- 採用の背景、課題
- 期待する役割、成果
- 採用条件(給与・福利厚生など)
- 入社後のキャリア展望
求人票の作成
ヒアリング項目をもとに、転職エージェント側で求人票を作成します。求人要件だけに限らず、事業戦略・社風・各種制度など、ターゲット人材に魅力を感じてもらえる情報を盛り込みます。
候補者の選定・推薦
転職エージェントが自社や外部の人材データベースに登録している人材から企業が求める要件にマッチする人材を選定し、その候補者に求人を紹介します。候補者が興味を持ち、応募の意向を表明すれば、転職エージェントから企業に紹介します。
選考
企業は、候補者の書類選考・面接を行います。面接日程の調整など、候補者とのやりとりは転職エージェントが行う場合が多く、企業は選考に集中できます。
採用決定
選考の結果、企業が採用可否を判断し、転職エージェントに通知します。候補者への採否結果通知、入社意思の確認は、多くの場合、転職エージェントを介して行われます。候補者が入社を承諾したら、現職の退職交渉などを転職エージェントがフォローするのが一般的です。
手数料の支払い
候補者の入社が確認できた段階で手数料が発生します。紹介を受けた人材の入社日を請求日とするのが一般的です。規定に基づき、転職エージェントに対して紹介手数料を支払います。
(早期離職が発生した場合)返金の手続き
転職エージェントを介して採用した人材が早期に退職した場合、転職エージェントにその旨を伝えます。転職エージェントの規定に基づき、手数料返金の手続きを行います。
自社に合った転職エージェントの選び方
転職エージェントによって、強みとする業界・職種・領域、サービスの内容や仕組みが異なるため、自社の採用目的やターゲットに合う転職エージェントを選ぶことが大切です。転職エージェントの選定にあたり、注目したいポイントをご紹介します。
募集職種や採用規模にマッチしているか
転職エージェントには、多様な業種・職種の求人を取り扱う「総合型」と、特定領域を専門とする「特化型」があります。
一般的には、総合型には幅広く多数の人材が登録しているため、複数職種や未経験者だけでなく、人数の多い採用にも向いているといえるでしょう。一方で、専門性が高い人材を求める場合は、専門領域に精通しているコンサルタントが在籍している特化型の転職エージェントに依頼すると、転職市場動向などの具体的な情報を得られる可能性があります。自社が求める職種・ポジション、採用規模にマッチした転職エージェントを選ぶと良いでしょう。
自社のリソースがどの程度確保できるか
複数の転職エージェントを併用すると、提供される転職市場情報や紹介を受ける人材の数が多くなることが期待できます。ただし、依頼先が多くなりすぎると、やりとりが増えて管理が煩雑になるというデメリットが生じます。
自社の採用担当者数など、採用活動に費やせるリソースを確認し、工数に対応できる範囲内で活用すると良いでしょう。
業界・職種や自社への理解があるか
自社が採用したい人材に関する業界・職種の知見や採用支援実績が少ない転職エージェントを利用すると、説明に時間を要したり、紹介される人材がマッチしなかったりと、採用活動がスムーズに進まない可能性があります。「○○業界専門」「○○職に特化」と謳っていても、実際には理解が浅く、経験も乏しいこともあるため、事前に転職エージェントが得意とする領域や実績を調べた上で、試しに情報提供を受けてみてレベル感を見極めると良いでしょう。
対応力・スタンス・コミュニケーションなどの相性が合っているか
転職エージェントと付き合うに際しては、定性的な「相性」も大切です。特にハイクラス層を対象とする採用活動では、候補者にアプローチする積極性やスピード感といったスタンスが自社にフィットするかどうかも、採用活動に影響する可能性があります。また、コミュニケーションの取り方も、転職エージェントの選定の重要な要素なので、実際にやりとりをしてみて違和感がないかどうかを確認しましょう。
転職エージェントの手数料と他の採用支援サービスの費用比較
転職エージェントの手数料は、その他の採用手段でかかる費用とどの程度違うのでしょうか。各採用手段の費用相場をご紹介します。
転職サイト
転職サイトに求人広告を出稿する場合、料金体系は媒体によってさまざまです。厚生労働省が発表したアンケート調査によると、インターネットの求人情報サイトを利用した場合の1件あたりの平均採用コスト(正社員)は28.5万円という結果になっています。1回の広告出稿で複数名の採用に至れば、1人あたりの採用コストを低く抑えられるといえるでしょう。
スカウトサービス
「スカウトサービス」とは、企業が転職サイトなどのデータベースに登録されている求職者の職務経歴・希望条件を閲覧し、自社が求める人材に直接アプローチする仕組みです。
スカウトサービス提供企業によって料金体系や金額が異なりますが、相場の一例として「システムの基本使用料+成功報酬(理論年収の15%)」が挙げられます。
リクルートダイレクトスカウトの場合、導入時の初期費用は無料。採用決定手数料は、入社時の理論年収×15%です。理論年収ごとの手数料は以下の額となります。
| 理論年収 | 採用決定手数料 |
|---|---|
| 500万円 | 75万円 |
| 600万円 | 90万円 |
| 800万円 | 120万円 |
| 1000万円 | 150万円 |
参考:リクルートダイレクトスカウトの費用・料金│企業・法人向け
前述のとおり、転職エージェントの手数料は、理論年収30%~40%で設定されているケースが多く見られます。仮に理論年収1000万円の人材を採用した場合、転職エージェントの紹介手数料は1000万円×35%=350万円。一方、スカウトサービスの採用決定時手数料は1000万円×15%=150万円。基本使用料と合わせても、スカウトサービスの方がコストを抑えられる可能性があります。
求人検索エンジン
「求人検索エンジン」は、求人情報に特化した検索エンジンです。求職者がキーワード(業種・職種・勤務地・希望条件など)を入力して検索すると、さまざまな求人サイトや企業の採用ページに掲載されている求人情報の中から、キーワードに合致する求人情報が検索結果に表示される仕組みです。
無料で利用できるサービスが多く、採用コストを抑えやすい手法ですが、検索結果に表示されて求職者の目に留まるようにするためにはノウハウや工夫が必要となります。有料掲載プランもあり、「クリック課金型」では、企業によって1クリックあたりの単価が10円~1000円などで設定されています。
ハローワーク
国が運営する総合的雇用サービス機関であるハローワーク(公共職業安定所)では、企業は無料で求人を公開できます。各都道府県に設置されており、インターネットでの求人検索機能もあるため、全国での募集が可能です。
費用を抑えたいならスカウトサービスも有効
採用支援サービスの手数料率を比較すると、理論年収に対し、転職エージェントは30%~40%。採用難易度が高い職種やポジションでは40~100%などに設定しているケースもあります。一方、スカウトサービスの手数料率は15%程度。採用ターゲット人材の年収が高いほど、コストの軽減につながりやすいといえるでしょう。
自社で人材を探し直接アプローチするため、時間と手間はかかる一方で、採用コストを抑えられる可能性があります。採用活動を始める場合は、スカウトサービスも検討してみると良いでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。