
取締役や部門長など経営に関わるポジションには、優秀な人材を配置したいと考えるものです。しかし、社内でなかなか適任者が見つからなかったり、自社にない知見を持っている人材を登用したいと考えたりすることもあるでしょう。その際に有効な手法とされるのが「エグゼクティブサーチ」です。今回はエグゼクティブサーチの利用目的や手順、メリット・デメリットについて組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
エグゼクティブサーチとは?企業の利用目的
そもそもエグゼクティブサーチとは何か、そして企業がエグゼクティブサーチを利用する目的について解説します。
エグゼクティブサーチとは
取締役や部門長などといった「エグゼクティブ層」の採用に際して、求める要件を備えた人材をピンポイントで発掘する採用手法のことを指します。従来は、主に外資系企業が採り入れていた採用手法ですが、人材の流動化やグローバル化などを背景に、近年では日本企業でも一般化しています。
エグゼクティブサーチの利用目的
社内の重要なポジションを強化して組織力を高めたい、優秀な人材が社内に見つからず経営陣や部門長候補がいないなどの場合、外部からふさわしい人材を迎え入れるためにエグゼクティブサーチを利用する企業があります。また、中堅・中小企業を中心に後継者の不在が深刻化しており、将来の経営者となり得る人材を採用したいというニーズもあります。
また昨今では、デジタル化やグローバル化などに伴い、エグゼクティブサーチは経営層だけでなく、ミドルマネジメント層の採用や、デジタル化やグローバル化に伴う専門的で高度な知識や技術を持った人材を採用する際にも活用されるなど対象が広がっています。このような人材は転職市場でなかなか見つけることができないケースが多いため、優秀な人材の採用に特化したエグゼクティブサーチは有効な手段として定着しつつあります。
エグゼクティブサーチが注目される理由とメリット
エグゼクティブサーチが注目されている背景と、利用するメリットについて解説します。
エグゼクティブサーチが注目されている理由
近年、エグゼクティブ層の採用需要は拡大しています。その背景として、大きく2つの理由が挙げられます。
1つ目は、ガバナンス強化に対する意識の高まりです。企業は自社の規則や管理体制を見直すべく、社外から優秀な人材を求めるようになりました。その際に有効なのがエグゼクティブサーチです。経験豊富な経営層人材やリスク管理に詳しい専門人材を採用したいと考える場合に、理想的な人材を紹介してくれるエグゼクティブサーチを採り入れる企業が増えています。人材不足の深刻化に伴い、中途採用の難易度が高まっていることも、エグゼクティブサーチの活用を後押ししています。
2つ目は、キャリアの在り方の変化です。終身雇用が崩れ、経営幹部などのマネジメント層も1社で定年を迎えるケースが少なくなっています。従来は転職の機会が少なかったマネジメント層にとって、転職によるキャリア形成が選択肢の一つとなりました。
このような背景から、マネジメント層の採用を図りたい企業にとってもチャンスが増えたため、エグゼクティブサーチの活用が加速しています。
エグゼクティブサーチを利用するメリット
エグゼクティブサーチを行う際には、エグゼクティブサーチファームを利用します。
エグゼクティブサーチファームとは、企業が求めるエグゼクティブ人材を外部からヘッドハンティングする業務を行う人材紹介会社のこと。ここではエグゼクティブサーチファームを通じて人材採用を行うメリットを3つご紹介します。
高い情報収集能力
エグゼクティブサーチファームは今までの経験や実績から、人材を探す能力に長けていると考えられます。自社の力だけでは見つけられないような、高い専門性や高度なスキルを持った人材をリストアップしてくれるでしょう。
また、候補者の情報だけでなく、自社の採用課題や採用戦略などを言語化する能力にも優れています。エグゼクティブサーチファームは、重要ポジションの採用に関する専門家なので、自社の事業戦略や将来像から適切な条件の人材を提案してくれるでしょう。
スクリーニング精度の高さ
エグゼクティブサーチファームは、候補者が企業の採用要件に合う人材かどうかを多角的に見極める力を持っていると考えられます。スキルや経験、資格のみならず、経営陣との相性やリーダーシップ性など、候補者となる人材を総合的に判断してくれるでしょう。
人材へのアプローチ能力
候補者へのアプローチを効率的に実行してくれることも、エグゼクティブサーチファームの強みと言えるでしょう。
アプローチする候補者は、必ずしも転職の意思があるとは限りません。そのため、転職意向のある人材以上に丁寧なアプローチが必要になります。
その点、エグゼクティブサーチファームはアプローチ能力が高く、適切な方法で候補者と信頼関係を築いていくノウハウを持っています。場合によっては自社でアプローチするよりも、興味を持ってもらえる可能性が高いでしょう。
エグゼクティブサーチとの契約形態
エグゼクティブサーチファームは、契約形態によって「リテイナー型/リテイナー契約」と「コンティンジェンシー型/コンティンジェンシー契約」の2つに分けられます。
自社に適した人材を紹介してもらうため、どのような契約形態が適しているのか見極めましょう。
リテイナー型/リテイナー契約
人材紹介会社が企業と一定期間にわたって継続的な業務を行う契約のことで、報酬は「固定報酬」となります。
募集ポジションや職種の難易度などによって、契約内容はさまざまで個別性が高くなりますが、調査活動費、着手金、初回面談時、最低報酬額、採用決定時報酬などが設定されます。一般的には、契約を行った時点で着手金を支払い、その後人材採用に成功したタイミングで残りの報酬を支払います。
主に、採用難易度が高くターゲットの数も少ない、経営トップや経営ボードメンバーなどを採用する際に用いられます。
コンティンジェンシー型/コンティンジェンシー契約
コンティンジェンシー契約とは、成功報酬型の契約を指します。ターゲットとなる人材を採用できた段階で成功報酬を支払い、依頼の段階では費用は発生しません。
経営トップや経営陣よりも採用難易度が相対的に低い、例えばマネジメント層やスペシャリスト人材などを採用する際には、一般的に、リテイナー契約よりも費用が安く済む場合が多いことから、初期費用を抑えられるコンティジェンシー契約を利用するケースが多いようです。
自社に合う契約形態を見極めることが重要
国内のエグゼクティブサーチファームの大半は、リテイナー契約とコンティンジェンシー契約の両方に対応する「複合型」の契約形態であることが多いようです。自社が採用したい人材の希少性や採用難易度などをもとに、リテイナー契約が最適か、それともコンティジェンシー契約のほうがいいのかを判断しましょう。
リテイナー契約は、企業によって幅はあるものの、私(監修・粟野氏)の経験から言えば採用1人あたり数百万円が一般的で、場合によっては数千万円と高額になるケースもあります。高い採用コストや投じる人的労力の大きさがあっても、そのエグゼクティブ人材を採用することが重要であり、是が非でも実現しなければならない場合はリテイナー契約を選ぶケースが多いようです。
一方、成功報酬型のコンティジェンシー契約は、採用者の年収の30~40%を料金として支払うケースが一般的です。
採用難易度と採用緊急度がそこまで高くないケースであれば、コンティジェンシー契約を選ぶケースが多いようです。また、リテイナー契約をするほどまでに採用ターゲットを絞り切れていない、適切な報酬を用意できないなどの理由で、コンティジェンシー契約を選ぶ企業もあるようです。
いずれにおいても、エグゼクティブサーチを利用する際には、求めるエグゼクティブ人材の採用難易度を見極め、契約内容を決めることが重要です。
エグゼクティブサーチを利用する手順
実際にエグゼクティブサーチファームを利用する手順について説明します。
1.採用人材の明確化と利用するファームの検討
まずは、採用したい人材の採用要件を明確化しましょう。具体的には自社の将来像や事業戦略をもとに、経験やスキル、採用後の役割などを言語化します。エグゼクティブサーチファームとの打ち合わせの場で双方の情報を持ち寄り、互いがイメージする人物像が一致することが理想的です。
採用人材の明確化と同時に、どのエグゼクティブサーチファームを利用するか比較検討するとよいでしょう。ファームによって得意領域や提供するサービスが異なるので、求める人材の採用難易度や自社の予算など、総合的に検討すると効率よく採用活動を進められます。
2.エグゼクティブサーチファームと打ち合わせ
利用するエグゼクティブサーチファームを決定した後は、担当コンサルタントとの打ち合わせを行います。採用したい人材像や企業の事業戦略、採用活動にかかる費用などを相談します。採用対象者の年収は事前に決まっていなくても、相場感など含めて相談することができます。
前述のように、求めるエグゼクティブ人材の採用難易度を見極め、コンサルタントとともに契約方法を検討することも重要です。例えば、経営幹部層や超希少人材・職種の場合はリテイナー契約、部長・課長クラスなどのミドルマネジメント層の場合はコンティジェンシー契約、といった方法が考えられます。
双方に問題がなければ契約の締結となりますが、契約内容だけでなくコンサルタントとの相性を確認することも大切です。長く付き合う可能性もあるので、自社の業界に対する経験や知識、コミュニケーション方法なども併せて確認するようにしましょう。
3.エグゼクティブサーチファームによるサーチと候補リスト作成
契約を締結すると、コンサルタントが候補者のサーチを開始します。採用条件に見合う候補者をリストアップしながら、企業へ実際に紹介したい人材の絞り込みを行います。
4.エグゼクティブサーチファームが候補者へアプローチ
ターゲットが絞り込めたら、コンサルタントが候補者にアプローチしていきます。コンサルタントが候補者と信頼関係を築き、採用ポジションとのマッチングを見極めるために、複数回の面談を行うことが一般的です。企業の希望によっては、この段階ではまだ企業名を候補者には明かさないケースもあります。候補者が興味を持ち、話を聞きたいという段階に進んだら、企業名開示なども行い、企業への紹介を進めます。
5.企業・候補者・エグゼクティブサーチファーム間の面談とオファー
続いて、企業と候補者にて面談を行います。コンサルタントが同席することもあります。
面談の設定は、コンサルタントが間に入って日程などを調整し、実施されます。面談の結果、両者とも前向きとなれば、入社日や年収など細かい条件面の調整を進めます。この調整もコンサルタントが対応することが一般的ですが、念のため事前に役割について確認しておくといいでしょう。
6.内定前後のフォロー
条件面での合意に達したら、入社に向けて手続きを進めます。
取締役や部門長などのポジションとなると、候補者は現職の企業をすぐに退職することが困難な場合もあるでしょう。退職交渉や引き継ぎに時間がかかることも多いため、候補者が無事に入社するまで、コンサルタントがフォローに入ってくれることが一般的です。
エグゼクティブサーチを利用する際の注意点
エグゼクティブ層の採用においては利用メリットの多いエグゼクティブサーチですが、注意したほうがいいこともあります。ここでは3つの注意点をお伝えします。
採用まで時間がかかる可能性がある
重要ポジションの人材を探すには、時間がかかることもあります。採用ポジションに適した人材が限られていることに加え、転職を意識していない候補者の場合は転職を決断してもらうまで長期戦となるでしょう。また入社が決まったとしても、重要ポジションの場合は退職交渉や引き継ぎが長引いてしまうケースがほとんどです。
エグゼクティブサーチファームの利用は急を要する採用には適さないケースがあるので、スケジュール感を初回の打ち合わせ時に確認しておきましょう。
費用が高額となるケースがある
エグゼクティブサーチファームは、通常では採用が困難である人材を探してもらうため、費用が高額となる傾向があります。
特にリテイナー契約の場合は、初期費用として採用の可否に関わらず着手金を支払うケースがほとんどです。自社で採用にかけられる予算をあらかじめ把握し、進めるようにしましょう。
自社の目的に合う契約方法を見極める必要がある
エグゼクティブサーチファームにはそれぞれの特徴があり、自社の採用戦略に合う会社を選ばなくてはいけません。採用したいポジションとエグゼクティブサーチファームの得意領域が合致しているか、ミドルクラスにも対応しているかなど、総合的に判断しましょう。
また、エグゼクティブサーチファームによって提供するサービスも異なります。リテイナー型とコンティンジェンシー型両方のサービスを提供している場合や、外部だけでなく社内の候補者とも面談して採用ポジションに適しているかを判断してくれる場合もあります。
エグゼクティブサーチファームを活用する際は、複数のファームを比較検討してから採用活動を始めるのがおすすめです。
ハイクラス層人材の採用ならリクルートダイレクトスカウト
エグゼクティブやミドルマネジメント、スペシャリストなどハイクラス層の採用においては、ダイレクトリクルーティングを活用するという方法もあります。
ダイレクトリクルーティングとは、企業が求職者に直接アプローチして採用につなげる手法のことです。そしてリクルート では人材業界で60年以上の実績をもとに「リクルートダイレクトスカウト」というダイレクトリクルーティングサービスを提供しています。
企業が求める人材要件と求職中の登録者のレジュメを分析し、システムマッチングにより企業と合う可能性の高い候補者を自動でレコメンドします。数多くの登録者の中から、求める人材要件に適した候補者にアプローチすることができます。登録者は日本全域、さまざまな業種・職種に渡るため、求める候補者に出会える可能性も高いでしょう。
リクルートダイレクトスカウトの導入費用は0円のため、入社時課金が発生するまでの間は無料でご利用いただくことが可能です(入社時の理論年収×15%が採用決定手数料としてかかります)。そしてスカウト送信数に上限はなく、利用期間中は対象となる方の登録がある限り採用人数に達するまでスカウトを続けられます。また、求人掲載数も無制限のため「緊急ではないけれど、いい人材がいたら採用したい」というニーズにも対応しています。
初期費用をかけず、安心してハイクラス人材の採用活動を行うためにも、ぜひリクルートダイレクトスカウトの活用を検討してみてください。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
記事掲載日 :
記事更新日 :
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。