握手をする人たち

取締役や部門長など経営に関わるポジションには、優秀な人材を配置したいと考えるものです。しかし、社内でなかなか適任者が見つからなかったり、自社にない知見を持っている人材を登用したいと考えたりすることもあるでしょう。その際に検討される手法が「エグゼクティブサーチ」です。今回はエグゼクティブサーチの目的や手順、メリット・デメリットについてリクルートのコンサルタントが解説します。

エグゼクティブサーチとは

エグゼクティブサーチとは、取締役や部門長など、社内の重要なポジションに適した人材をピンポイントで発掘する採用手法のことを言います。従来は、主に外資系企業が採り入れていた採用手法ですが、近年は国内企業でも一般化してきました。新聞やニュースなどで、大手企業の役員が他の企業に招聘(へい)されたという事例を目にすることもあるでしょう。

また昨今のデジタル化やグローバル化に伴って、エグゼクティブサーチは経営層だけでなく、専門的な知識や技術を持った人材を採用する際にも活用されています。このような人材は転職市場でなかなか見つけることができないケースが多く、優秀な人材の採用に特化したエグゼクティブサーチは有効な手段です。

エグゼクティブサーチの目的

エグゼクティブサーチが利用される5つの目的を解説します。

組織力強化を図るため

部門長以上ともなると、企業の業績に関わる重要な経営判断を行わないといけません。適切な判断を下すためには、さまざまな知見や経験だけでなく、リーダー性や組織との相性なども大切です。このような人材を社外から取り入れたいと考えた場合に、企業はエグゼクティブサーチを利用し、理想的な人材の採用を図ります。

ガバナンス強化に対する意識が高まっているため

2つ目の目的として、「企業のガバナンス強化へ対する意識が高まっていること」があげられます。東京証券取引所より設定されたコーポレートガバナンスコードの浸透が、ガバナンス強化への意識が強まった一因といえます。

企業は自社の規則や管理体制を見直すべく、社外から優秀な人材を求めるようになりました。その際に有効なのがエグゼクティブサーチです。経験豊富な経営層人材やリスク管理に詳しい専門人材を採用したいと考える場合に、理想的な人材を紹介してくれるエグゼクティブサーチを採り入れる企業が増えています。

キャリアの在り方が変化しているため

終身雇用というキャリアの在り方が変化し、経営幹部などのマネジメント層も1社で定年を迎えるという考え方ではなくなりつつあります。従来は転職の機会が少なかったマネジメント層にとって、転職によるキャリア形成が選択肢の一つとなりました。
このような背景から、マネジメント層の採用を図りたい企業にとってもチャンスが増えたため、エグゼクティブサーチの活用が加速しています。

優秀な人材が社内に不足しているため

重要なポジションにふさわしい人材の育成に時間がかかることも、企業がエグゼクティブサーチを利用する要因の一つです。特にグローバル化を目指す企業やスタートアップ企業は、事業成長に社内での人材育成がなかなか追いつかず、社外の優秀な人材の採用が進んでいます。

事業継続を目的とした後継者採用のため

昨今、中堅・中小企業を中心に後継者の不在が深刻化しています。そこでエグゼクティブサーチを利用して、将来の経営者となる人材を採用するケースも増えています。ミドルシニア層の経営幹部経験者の採用が加速しています。

エグゼクティブサーチファームとは

エグゼクティブサーチを採り入れたい場合、企業は「エグゼクティブサーチファーム」に依頼をして自社に適した人材を紹介してもらいます。

エグゼクティブサーチファームとは、企業の依頼を受け、取締役や部門長などの経営幹部や専門性の高い知識やスキルを持つ人材を、外部からヘッドハンティングする業務をメインに行っている人材紹介会社のことを言います。

一般的にエグゼクティブサーチファームに依頼をすると、コンサルタントやリサーチャーと呼ばれる担当者が企業と候補者の間に立ち、それぞれへの交渉を行います。
コンサルタントは、まずは企業から採用要件や予算、スケジュールなどをヒアリングします。そしてそれらを基に、自社の持つネットワークや経営人材への独自のつながりを使って人材をサーチし、アプローチしていきます。

エグゼクティブサーチファームは大きく「リテイナーファーム」と「コンティンジェンシーファーム」の2つに分けられ、それぞれの特徴については以下の通りです。

リテイナーファーム

リテイナーファームとは、主にトップマネジメント層を採用したいときに利用されます。

当然のことながら、このような人材を採用するには時間がかかります。依頼企業の採用要件に合う人材が見つかるまで、場合によっては1年以上かかるケースもあります。リテイナーファームに依頼をする際は、採用活動を始める段階で着手金を支払うことが一般的です。さらに採用が決定した際は、成功報酬で入社者の年収の一定割合を支払うケースもあります。

複数のリテイナーファームの併用はできないことが多く、リテイナーファームに依頼する場合は一社のみが基本です。そのため、秘匿性を保ちながら採用活動できるのが特徴です。

コンティンジェンシーファーム

コンティンジェンシーファームはトップマネジメント層だけでなく、幅広く採用対象としたい場合に利用されることが一般的です。
コンティンジェンシーファームは完全成功報酬であることが多く、企業は採用が決まった際に入社者の年収の一定割合を支払います。リテイナーファームと異なり、初期費用がかからない場合がほとんどです。

エグゼクティブサーチファームを利用する手順

実際にエグゼクティブサーチファームを利用する手順を説明していきます。

1.採用人材の明確化と利用するファームの検討

まずは、採用したい人材の採用要件を明確化しましょう。具体的には自社の将来像や事業戦略をもとに、経験やスキル、採用後の役割などを言語化します。エグゼクティブサーチファームとの打ち合わせの場で双方の情報を持ち寄り、互いがイメージする人物像が一致することが理想的です

採用人材の明確化と同時に、どのエグゼクティブサーチファームを利用するか比較検討するとよいでしょう。ファームによって得意領域や提供するサービスが異なるので、求める人材の採用難易度や自社の予算など、総合的に検討すると効率よく採用活動を進められます。

2.エグゼクティブサーチファームと打ち合わせ

利用するエグゼクティブサーチファームを決定した後は、担当コンサルタントとの打ち合わせを行います。採用したい人材像や企業の事業戦略、採用活動にかかる費用などを相談します。採用対象者の年収は事前に決まっていなくても、相場感など含めて相談することができます。

双方に問題がなければ契約の締結となりますが、契約内容だけでなくコンサルタントとの相性を確認することも大切です。長く付き合う可能性もあるので、自社の業界に対する経験や知識、コミュニケーション方法なども併せて確認するようにしましょう。

3.エグゼクティブサーチファームによるサーチと候補リスト作成

契約が締結すると、コンサルタントが候補者のサーチを開始します。採用条件に見合う候補者をリストアップしながら、企業へ実際に紹介したい人材の絞り込みを行います。   

4.エグゼクティブサーチファームが候補者へアプローチ

人材の絞り込みを行ったら、コンサルタントが候補者にアプローチしていきます。コンサルタントが候補者と信頼関係を築き、採用ポジションとのマッチングを見極めるために、複数回の面談を行うことが一般的です。企業の希望によっては、この段階ではまだ企業名を候補者には明かさないケースもあります。候補者が興味を持ち、話を聞きたいという段階に進んだら、企業名開示なども行い、企業への紹介を進めます。

5.企業・候補者・エグゼクティブサーチファーム間の面談とオファー

続いて、企業と候補者にて面談を行います。コンサルタントが同席することもあります。 
面談の設定は、コンサルタントが間に入って日程などを調整し、実施されます。
面談の結果、両者とも前向きとなれば、入社日や年収など細かい条件面の調整を進めます。この調整もコンサルタントが対応することが一般的ですが、念のため事前に役割について確認しておくことがおすすめです。

6.内定前後のフォロー

条件面での合意に達したら、入社に向けて手続きを進めます。
取締役や部門長などのポジションとなると、候補者は現職の企業をすぐに退職することは困難です。退職交渉や引き継ぎに時間がかかることも多いため、候補者が無事に入社するまで、コンサルタントがフォローに入ってくれることが一般的です。

エグゼクティブサーチファームを利用するメリット

エグゼクティブサーチファームを利用する際のメリットを3つ紹介します。

高い情報収集能力

エグゼクティブサーチファームは今までの経験や実績から、人材を探す能力に長けています。自社の力だけでは見つけられないような人材をリストアップしてくれるでしょう。

また、候補者の情報だけでなく、自社の情報から今の課題や採用ステップを言語化する能力にも優れています。エグゼクティブサーチファームは、重要ポジションの採用に関する専門家なので、自社の事業戦略や将来像から適切な条件の人材を提案してくれます。

スクリーニング精度の高さ

エグゼクティブサーチファームは、候補者が企業の採用要件に合う人材かどうかを多角的に見極める力も有しています。スキルや経験、資格のみならず、経営陣との相性やリーダーシップ性など、候補者となる人材を総合的に判断してくれるでしょう。

人材へのアプローチ能力

候補者へのアプローチを効率的に実行してくれることも、エグゼクティブサーチファームの強みです。

アプローチの候補者は、必ずしも転職の意思があるとは限りません。そのため、転職意向のある人材とは異なり、丁寧にアプローチすることが必要になります。

その点、エグゼクティブサーチファームはアプローチ能力が高く、適切な方法で候補者と信頼関係を築いていくノウハウを持っています。場合によっては自社でアプローチするよりも、興味を持ってもらえる可能性が高いでしょう。

エグゼクティブサーチファームを利用するデメリット

メリットがある一方で、エグゼクティブサーチファームを利用する際のデメリットもあります。ここでは、3つの注意点をお伝えします。

時間を要する

重要ポジションの人材を探すには、時間がかかることもあります。採用ポジションに適した人材が限られていることに加え、転職を意識していない候補者の場合に入社まで話を進めるには長期戦となるでしょう。また入社が決まったとしても、重要ポジションの場合は退職交渉や引き継ぎの期間が発生してしまうことがほとんどです。

エグゼクティブサーチファームの利用は急を要する採用には適さないケースがあるので、スケジュール感を初回の打ち合わせ時に確認しておきましょう。

費用が高額となるケースがある

エグゼクティブサーチファームは、通常では採用が困難である人材を探してもらうため、費用が高額となる傾向があります。

特にリテイナーファームに依頼する場合は、初期費用として採用の可否に関わらず着手金を支払うケースがほとんどです。自社で採用にかけられる予算をあらかじめ把握し、進めるようにしましょう。

自社に合うファームを選ぶ必要がある

エグゼクティブサーチファームにはそれぞれの特徴があり、自社の採用戦略に合う会社を選ばなくてはいけません。採用したいポジションとエグゼクティブサーチファームの得意領域が合致しているか、ミドルクラスにも対応しているかなど、総合的に判断しましょう。

また、エグゼクティブサーチファームによって提供するサービスも異なります。リテイナーファームとコンティンジェンシーファーム両方のサービスを提供している場合や、外部だけでなく社内の候補者とも面談して採用ポジションに適しているかを判断してくれる場合もあります。

エグゼクティブサーチファームを活用する際は、複数のファームを比較検討してから採用活動を始めるのがおすすめです。

エグゼクティブサーチを活用すると貴重な人材を採用できる

企業にとって、経営層の採用は特にハードルが高いものです。エグゼクティブサーチは、自社の力だけでは見つけられない優秀な人材を採用できるという利点があります。さらに、重要ポジションの採用に関するノウハウも保有しているため、自社へのアドバイスも期待できます。エグゼクティブサーチをうまく活用して、トップマネジメント層に優秀かつ適切な人材を採用しましょう。

この記事の監修者

八尋弓枝

リクルート(現ホールディングス)にて、外資系および日系上場企業から数名の企業まで幅広く人材採用および育成、研修、人事制度の領域に従事。起業のため退職後2007年にリクルートエグゼクティブエージェントにコンサルタントとして就職。2009年よりリクルート。転職者にとってはキャリア発展の観点に加え転職のリスクを踏まえた提案かどうか、企業にとっては事業戦略の実現に欠かせない人材のご紹介になっているかどうか、この二点を大事にしている。

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