応募者への調査の一つである「リファレンスチェック」を中途採用に導入する企業が昨今では増えてきています。リファレンスチェックとはどのようなものなのかについて解説するとともに、リファレンスチェックの流れや注意点、質問項目などについて、社会保険労務士の岡佳伸氏監修のもと、 組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
リファレンスチェックとは
リファレンスチェック(Reference Check)とは、企業が応募者の人となりや今までの仕事ぶりなどを確認することを目的に、応募者と一緒に働いたことがある第三者に対して行う調査です。一般的には現職(前職)の上司や同僚に対して行われることが多く、応募者の業務実績や人物像などを確認の上、書類・面接の内容と実際の姿のギャップがあるかを把握し、採用の判断材料にします。リファレンスチェックはメールか電話、最近ではオンラインツールを使って行われることも多く見られます。
海外ではリファレンスチェックを行うことが一般的であり、日本でも外資系企業が実施することが多く見られていましたが、最近では、国内企業もリファレンスチェックを実施するケースが増えています。
リファレンスチェックと前職調査の違い
リファレンスチェックと似た調査に「前職調査」があります。
前職調査はバックグラウンドチェックと呼ばれることもあり、「経歴詐称がないか」「金銭トラブルはないか」などを確認することを目的に行われる調査です。リファレンスチェックは「現職(前職)での実績や勤務状況に偽りがないか」「人となりや職務遂行能力などが書類や面接と乖離がないか」などを確認するので、前職調査とは行われる目的に大きく違いがあります。
リファレンスチェックを行う理由
企業がリファレンスチェックを行う主な理由として、「入社後のミスマッチを防ぐこと」が挙げられます。リファレンスチェックでは、どのような観点からミスマッチを防ぐのかについて解説します。
応募者の客観的な評価を知る
リファレンスチェックを行うと、応募者の客観的な評価を知ることができます。面接という短い時間のなかでは、応募者の人となりや今までの仕事ぶりを把握するのは難しいものです。そこで、応募者と一緒に働いた経験のある上司や同僚にリファレンスチェックを行うことで、応募者の客観的な評価や経験、スキルを知ることができます。
場合によっては、応募者が面接で話したこと以外に強みが見つかることもあるでしょう。例えば、本人は自覚していないが第三者から見ると「後輩の面倒見がよい」「顧客との信頼関係を築くことに長けている」などの評価を受けているケースがあるかもしれません。
提出書類の事実確認を行う
リファレンスチェックでは、応募書類に記載されている内容の事実確認も行います。
一緒に働いていた上司や同僚に対して、書類に記載されているプロジェクトの実施有無や達成率の確認などに加えて、部署やプロジェクト内の応募者の役割・業務内容なども確認します。そうすることで、応募者が自社の求めている経験やスキルを持ち合わせているかも把握することができます。
リファレンスチェックのタイミング・方法
リファレンスチェックは内定前に実施することが多く、一般的には最終面接の前後に行います。
リファレンスチェック先は、一般的に応募者が選定します。どのような人物にリファレンスチェックを行いたいかや必要な人数を採用企業が指定し、それに沿って応募者が候補者を選びます。上司と同僚などを対象に3名程度に行うケースが多いですが、企業によっては取引先まで対象を広げることもあります。
リファレンスチェックの流れ
ここでは実際にリファレンスチェックを行う際の流れを解説します。
- 応募者の同意を得る
- リファレンスチェック先の候補を出してもらう
- リファレンスチェック先と連絡を取り日程調整する
- リファレンスチェックを実施する
- リファレンスチェックの結果をまとめる
それぞれの項目を詳しく解説していきます。
応募者の同意を得る
必ず事前に応募者の同意を得てから、リファレンスチェックを行います。リファレンスチェックで得られる情報は「個人情報」にあたりますので、個人情報保護法の観点から、応募者にはリファレンスチェックを行う前に確認を取り、書面で同意を得ておくようにします。
リファレンスチェック先の候補を出してもらう
応募者の同意を得られたら、応募者にリファレンスチェック先を選んでもらいます。必要な人数を伝えておき、候補者を複数出してもらいましょう。その中から実際にリファレンスチェックを行う人を自社で指定します。
リファレンスチェック先と連絡を取り日程調整する
リファレンスチェック先が決まったら、自社の担当者から連絡をします。
メールやオンラインツールを使用する場合でも、リファレンスチェックを行いたい旨の説明と日程確認のため、まずは電話でリファレンスチェック先に連絡をすることが一般的です。
実施日については、なるべく早めに設定することが大切です。実施日まで時間が空いてしまうと、応募者の他の企業の選考が進んでしまう可能性が考えられます。
リファレンスチェックを実施する
メールの場合は、本文に質問事項や回答期限などの必要事項を記載して送付します。
オンラインツールや電話の場合は、リファレンスチェック先の負担も考慮し、15分程度で終わらせることが一般的です。事前に質問事項などの必要なことは考えておくようにしましょう。
リファレンスチェックの結果をまとめる
リファレンスチェックの結果は社内で共有できるように、簡易的にでも報告書としてまとめておきましょう。面接の結果とリファレンスチェックの結果を照らし合わせて、選考の判断を行うためです。例えば、最終面接前にリファレンスチェックを実施した場合、最終面接の担当者と共有することで、調査結果に基づいて面接を進めることができます。
リファレンスチェックでの質問事項
リファレンスチェックで知りたい情報を効率よく聞くために、質問事項の具体例を紹介します。
基本情報・勤務情報
基本情報や勤務情報では、次のような内容を確認します。
- 応募者との関係性と一緒に働いた期間
- 応募者が担当していた業務(部署、ポジション、勤務期間など)
- 勤怠状況(欠勤、遅刻、早退など)
- 残業状況(残業が多い、または少ない理由) など
人となり
応募者の人となりを知るという観点で、次のような質問をするといいでしょう。
- 応募者の人柄や印象
- 応募者の長所・短所
- 一緒に仕事をするうえで感じたこと
- 個人とチームどちらの仕事の進め方が向いているか
- 協調性やコミュニケーション能力
- 上司や部下との接し方
- 周囲に対する影響力 など
業務経験・スキル
業務経験やスキルでは、自社でどのようなところを活かしてもらえそうかといったことが判断できるような質問を考えましょう。
- 在職中の業務における実績
- 業務やプロジェクトなどで、改善したことや良い方向に導くためにどのようなことを行ったか
- 問題解決能力や決断力はあるか
- リーダーシップを発揮した経験とその結果
- トラブルへの対応力
- 採用後に必要となるスキルの習熟度
- 業務において、応募者が改善した方が良いと考えられるところはあるか
- 語学力(採用後に語学が必要な場合) など
リファレンスチェックを行う際の注意点
リファレンスチェックは選考中に行うため、スピード感を持って進める必要があります。実際にリファレンスチェックを行うにあたっての注意点を6つ解説します。
本当にリファレンスチェックが必要か検討する
リファレンスチェックが本当に必要かどうかを事前に検討しておくとよいでしょう。自社でリファレンスチェックを行うと時間や人員も必要となりますし、第三者機関に依頼すると費用が発生します。さらに応募者がリファレンスチェック先を探す手間や、リファレンスチェック先が回答する手間もかかり、内定を出すまでの時間が延びてしまいます。
例えば「リファレンスチェックを行うのは部長クラス以上の選考ポジションに限定にする」などの基準を決め、本当に必要な場合のみ実施することがおすすめです。
必ず事前に応募者の同意を得る
繰り返しになりますが、リファレンスチェックを行う際は、必ず応募者の同意を得るようにします。リファレンスチェックで得る情報は個人情報に該当しますので、応募者の同意を得ずに実施してしまうと、個人情報保護法に抵触しかねません。また、同意を得て(リファレンスチェックを)行う場合も、得られた情報の取り扱いには十分注意し、進めるようにしましょう。
質問事項を決めておく
リファレンスチェックを行う場合は、事前にどのような質問をするのか決めておく必要があります。そうすることで、より採用後のミスマッチを防げる可能性が高まります。
また、電話やオンラインツールでリファレンスチェックを行う場合は、リファレンスチェック先にあらかじめ質問を伝えておくこともおすすめです。リファレンスチェック先が質問を受けることに慣れていない可能性があるので、事前に質問を理解しておくと、安心して臨むことができるでしょう。
拒否されたときのために複数先を候補にあげる
リファレンスチェック先に拒否されたときのために、候補者は複数あげておいてもらうことをおすすめします。候補者が集まらなさそうな場合は、応募者と相談しつつ、リファレンスチェックの対象を前職や前々職、取引先まで範囲を広げておくと見つけやすくなります。
リファレンスチェックが完了したことを応募者に伝える
リファレンスチェックの実施が完了したら、応募者にその旨を伝えます。応募者がリファレンスチェック先にお礼などを伝えたいと考えているケースもあるため、必ず一言伝えるようにしましょう。
リファレンスチェック後の不採用は慎重に対応する
リファレンスチェック後に不採用とする際は、慎重に結果を伝えましょう。リファレンスチェックの結果が不採用につながったと応募者に伝える必要はありませんが、場合によっては「不採用はリファレンスチェックが原因なのでは?」と応募者が受け取る可能性もあります。リファレンスチェック先と応募者の関係悪化にもつながりかねませんので、伝える際は十分に気を付けるようにします。
また、内定を出してからの取り消しは原則行えません。最終面接後にリファレンスチェックを行う場合は、必ずリファレンスチェックが終了してから内定を伝えるようにしましょう。
リファレンスチェックによって採用のミスマッチを減らすことが可能
リファレンスチェックは、採用のミスマッチを防ぐために効果的な手段です。しかし、慎重に進めないと個人情報保護法に触れてしまうケースも考えられます。適切な実施方法やタイミングを理解してリファレンスチェックを実施することで、企業は自社で活躍できる人材を採用できる可能性が高まります。ぜひリファレンスチェックをうまく活用して、採用のミスマッチ防止に役立ててください。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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