オフィスにて打ち合わせをしている人たち

人材獲得の手法の一つである「ヘッドハンティング」。経営幹部層をはじめ、高度な専門性を持つ人材などの採用に活用されています。「引き抜き」や「転職エージェント」との違い、ヘッドハンティングのメリット・デメリット、採用までの流れ、採用事例などについて、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

ヘッドハンティングとは

ヘッドハンティングとは、ヘッドハンティング会社が企業から依頼を受け、求める要件にマッチする人材を探してスカウトする採用手法です。主に経営幹部や事業部門長、高度な専門性を持つスペシャリストなど、重要なポジションの人材採用において活用されます。「エグゼクティブサーチ」とも呼ばれます。

ヘッドハンティングの一般的な手法

ヘッドハンティング会社のヘッドハンターが、依頼企業から採用の背景や目的、求める人材像などをヒアリングした上で、独自のルートとノウハウを活用して適した人材のサーチ・選定を行います。

選定した候補者にアプローチして面談を行い、求人を紹介。候補者が前向きに検討する意思を示したら、求人企業と引き合わせ、面接へとつなげます。

ヘッドハンティングと引き抜きの違い

ヘッドハンティングと似た言葉に「引き抜き」があります。両者の違いは、候補者をスカウトする際にヘッドハンティング会社が介在するかどうかです。

ヘッドハンティングの場合、企業がヘッドハンティング会社に依頼をして外部の人材をスカウトします。一方、引き抜きの場合は、企業が採用したい人材が明確に決まっていることが多く、直接アプローチをして採用を試みます。引き抜きの対象者は、社員の友人や知人であるケースが多いことも特徴の一つです。

ヘッドハンティングと転職エージェントとの違い

「企業が求める人材をサーチ・選定し、候補者本人の承諾を得た上で企業に紹介する」というモデルは、ヘッドハンティングも転職エージェントも共通しています。しかし、ヘッドハンティングが多様なルートで人材をサーチするのに対し、転職エージェントの場合は、基本的に自社の転職支援サービスに登録した人の中から、企業が求める要件に合う人材を選んで紹介します。

なお、ヘッドハンター、転職エージェントともに、「スカウトサービス」の登録者にアプローチするケースも増えています。

今、ヘッドハンティングが注目されているのはなぜか

昨今、ヘッドハンティングが注目されている理由として、下記のポイントが挙げられます。

「変革」を推進する人材のニーズが拡大

時代の変化のスピードが加速する中、多くの企業が事業や組織の「変革」を迫られています。あらゆる業種の企業が取り組む「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や、「脱炭素」を目標とする「GX(グリーントランスフォーメーション)」、あるいは「働き方改革」「人的資本経営」など、企業は多様な課題に直面しています。

自社に知見やノウハウがない場合、これらの専門知識・経験を持ち、変革プロジェクトを推進できる人材が必要となります。しかし、こうした人材は希少であり、一般的な採用手法では出会いにくいため、ヘッドハンティングの活用も検討されています。

「新規事業開発」を担う人材のニーズが拡大

少子高齢化に伴い国内マーケットの拡大は難しく、また産業構造が変化していることから、企業は既存事業を継続していくだけでは存続や成長が望めない状況です。そこで、新規事業を開発する動きが活発化しています。

新規事業開発にあたっては、異分野に参入するケースも多く、その分野の知見・経験を持つ新規事業推進人材のニーズが高まっています。異分野から人材を迎えるとなると、一般的な採用手法や経営陣などが持つ同業界人脈の活用だけでは十分ではない場合が多く、経営陣が持つ同業界人脈なども活用できないため、人材リサーチの専門家であるヘッドハンターが頼りになるでしょう。

「転職潜在層」の増加

近年、キャリア形成の一手段として「転職」が一般的なものとなっています。それはハイクラス層の人材にとっても同様です。転職の必要性に迫られていない、あるいは現職に不満がない状態であっても、「良い機会があれば転職も視野に入れている」という「転職潜在層」が増えつつあるようです。

総務省が公表している「直近の転職者及び転職等希望者の動向について」(※)によると、2023年7~9月期の転職者数は325万人。過去最多は2019年10~12月期の374万人であり、2013年以降の数値を見ると、増減を繰り返しながら増加はしているものの、大幅な伸びは見られません。

一方、転職等希望者は2023年7~9月期に1035万人と過去最多でした。10年前の2013年と比べると200万人以上増加しています。これは、転職に至っていないものの、新たなキャリアの選択肢や可能性を求める「転職潜在層」の増加を示唆していると言えるでしょう。 特に、ヘッドハンティングが対象とするような経営幹部層や専門人材は現職で活躍しており、転職活動まで至っていない「転職潜在増」である可能性が高いと考えられます。そのため、転職潜在層から人材を探し出し、転職のチャンスを提供する役割を担うヘッドハンターに期待が寄せられています。

※出典:総務省統計局ホームページ(https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/roudou/r5/pdf/21siryou4.pdf)

ヘッドハンティングのメリット

採用活動にヘッドハンティングを活用するメリットとしては、下記が挙げられます。

転職市場に出てこない希少人材にもアプローチできる

転職市場に出てきにくい人材へのアプローチが可能になります。

経営人材や高度な専門スキルを持つ人材は、以下などの理由から、なかなか転職市場に出てこない傾向が見られます。

  • 現職に特に不満がない場合も多く、転職する必要性を感じていない
  • 社内外に豊富な人脈を築いており、「リファラル」によって次の転職先が決まりやすい

このような人材を採用したいと考えた場合、ヘッドハンティングは有効と言えるでしょう。
なぜなら、ヘッドハンティング会社の持つ、業界・職種のネットワークや経営層とのつながりによって、転職活動を積極的にしていない人材にもアプローチが可能だからです。
そのため、自社だけではなかなか採用に至らないような人材に出会うチャンスが増えるでしょう。

スカウトした人材が、入社まで至る確率が高まる

スカウトサービスやリファラル採用といった「ダイレクトリクルーティング」でも、ヘッドハンティング同様に、求める人材を探して直接スカウトをかけることが可能です。

しかし、ダイレクトリクルーティングに関しては、自社の採用担当者がハイクラス人材とスムーズな交渉を進める経験やノウハウを持っていない場合、求める人材が、入社まで至らない可能性があります。

その点、ハイクラス層との交渉術に長けたヘッドハンターを活用することで、採用できる確率が高まるかもしれません。

トラブルを回避しながら交渉できる

企業から求める人材に直接アプローチして「引き抜き」を行う場合、現職企業とのトラブルを招く恐れがあります。その点、専門ノウハウを持つヘッドハンターであれば、トラブルを回避しながら交渉を進め、円満退社・入社を実現できる可能性があります。

ヘッドハンティングのデメリット

ヘッドハンティングの利用を検討するにあたっては、デメリットも理解しておきましょう。次のポイントに注意してください。

時間がかかる

ヘッドハンティングでは、重要ポジションに就いている人材や転職意思が低い人材をターゲットとするケースもあり、他の手法に比べると時間がかかる傾向にあります。

ヘッドハンティングを利用する場合は、人材を探す期間や人材との信頼関係を築く期間、候補者が在職中の場合は退職交渉と引き継ぎの期間など、さまざまなことを考慮し、全体のスケジュールを想定しておきましょう。

採用コストが高くなる

採用が成立した際に「成功報酬」を支払う点は、ヘッドハンティングも転職エージェントも同様です。しかし、ヘッドハンティングに関しては、成功報酬に加えて「着手金」を支払うケースが多く、採用の成立・不成立にかかわらずコストが発生します。

ヘッドハンティング(採用)の難易度や、採用する人材の内定時の想定年収によって支払う費用が変わるため、社内で採用にかけられる費用感の合意や、条件として提示する年収も含めたトータルコストを事前に確認することが大切です。

コストをかけても採用できない可能性もある

求人企業が自社の魅力を具体化できない場合や、採用スタンスが適切ではない場合(企業側が一方的に選考するというスタンスなど)、いくら時間・労力・お金を投じても、個人側の興味喚起・意向醸成が難しく、採用がいつまでたってもできないこともあります。

ヘッドハンティングで採用する流れ

ヘッドハンティングの導入から採用までの流れの一例を紹介します。

1.採用したい人材の採用要件を明確にする

まずは自社で採用したい人材の採用要件を明確にする必要があります。自社の事業戦略などをベースにして、どのような経験やスキルを持った人材を対象とするかなど、できる限り具体的に言語化しておきます。そうすることで、ヘッドハンティング会社との打ち合わせがスムーズに進むでしょう。

2.ヘッドハンティング会社の選定

求める人材像が明確になったら、依頼するヘッドハンティング会社を選定します。得意とする業界・職種、提供サービス、料金形態などが異なるので、まずはいくつかのヘッドハンティング会社の提案を聞いて、自社の採用に合致するか、比較検討しましょう。

3.ヘッドハンティング会社と打ち合わせ

ヘッドハンティング会社を選定したら、依頼前に打ち合わせを行います。自社の採用要件を伝え、かかる費用や受けられるサービスなどを確認し、合意に至ったら契約へ進みます。

初回の打ち合わせの際は、担当ヘッドハンターとの相性も重要な確認ポイントです。「自社や業界に対する理解があるのか」「コミュニケーションが取りやすいか」などをみておくと良いでしょう。

4.ヘッドハンティング会社のサーチ開始

ヘッドハンティング会社と契約を結ぶと、ヘッドハンターは候補者のサーチを開始します。ヘッドハンターはSNSや新聞、IRなどの情報や、独自のネットワークを活用して候補者を探します。
ヘッドハンターによっては見つけた候補者をリストアップし、企業とともにそのリストを確認しながら、アプローチする候補者の絞り込みを進めることもあります。

5.ヘッドハンティング会社が候補者と接触する

絞り込んだ候補者に対して、ヘッドハンターからアプローチします。このとき、ヘッドハンターは時間をかけて候補者と信頼関係を築き、適切な方法でアプローチしてくれます。

6.依頼企業へ候補者の紹介と面談

候補者が興味を持てば、企業と候補者の面談が行われます。ヘッドハンターが同席することもあります。
面談の設定は、ヘッドハンターが企業と候補者の間に入って日程などを調整します。

面談が行われるタイミングは、ヘッドハンティング会社によって異なります。候補者とヘッドハンターだけで複数回の面談したのちに、企業を交えた三者間の面談に臨むこともあれば、早い段階で三者間の面談を実施することもあります。面談の設定や進め方については、ヘッドハンティング会社に事前に確認しておくといいでしょう。

7.オファーの提示や入社条件を調整

候補者の入社意欲と企業の採用意欲が合致したら、詳細な条件や入社日などの調整を進めます。ヘッドハンティング会社によっては、ヘッドハンターが両者の間に入って、このような調整をサポートしてくれることがあります。

8.内定前後のフォロー

候補者が内定を承諾したら、入社に向けて入社手続きや候補者が在職中の場合は退職交渉を進めます。採用した人材が現職で重要なポジションに就いている場合、入社までに時間がかることがあります。このような場合も、ヘッドハンターは退職に関するサポートを行ってくれることがあります。

ヘッドハンティングで採用を進める際の注意点

ヘッドハンティングで採用を進める場合、注意しておきたいポイントをお伝えします。

契約内容を精査する

ヘッドハンティングの場合、契約内容が複雑になるケースが多いため、慎重に精査した上で契約を結びましょう。 前述した通り、ヘッドハンティング会社では、採用活動を行う時点で「着手金」が発生する契約形態が多くあり、会社によって「追加料金」「違約金」の設定が異なります。サービス規定を確認しておくと、後々のトラブルを回避しやすくなるでしょう。 また、「独占契約期間」を設けているヘッドハンティング会社と契約した場合、一定の期間(3カ月など)は、他の経路(転職エージェント、スカウトサービス、リファラルなど)での採用活動を行えないこともあるため注意が必要です。

ヘッドハンティングが本当に自社に有効なのか見極める

自社が求める人材の採用難易度、自社の転職市場における認知度などによって、ヘッドハンティングが適しているのか、あるいはスカウトサービス、転職エージェント、転職サイトなどの方が成果を期待できるのかが変わってきます。 採用の重要度・緊急度や費用対効果を踏まえ、本当にヘッドハンティング会社に依頼したほうがよいのか、冷静に見極めましょう。

ヘッドハンティングの事例紹介

ヘッドハンティングの活用によって採用を実現した事例をご紹介しましょう。

事例1:IT業界の法務部長(年収1500万円)

IT企業・A社は、スピーディな事業展開のため、インハウス法務体制の強化が必須の状況でした。転職エージェント経由で半年以上採用活動を行っても採用できず、事業上の緊急度・重要度の観点からヘッドハンティングに切り替えることに。3~4カ月ほどで、IT業界での企業法務経験を持つ人材を迎えることができました。

事例2:コンサルティング業界の執行役員候補(年収1200万円)

コンサルティング企業・B社は、新サービスの提供開始・組織拡大に伴い、即戦力の執行役員候補の採用が急務となっていました。スカウトサービス、リファラル採用、転職エージェントで採用活動を行っていましたが、採用に至らず、ヘッドハンティングを活用。約6ヶ月でコンサル経験・マネジメント経験・公認会計士資格を持つ人材の採用に至りました。

スカウトサービスを利用し、自社でヘッドハンティングを行うことも可能

採用活動において、転職サイトや転職エージェントを活用した場合、アプローチできる対象者は「転職の意思を持って求人検索している人、転職エージェントへ登録している人」です。

一方、「転職潜在層」から求める人材を探し出してアプローチしようとすると、従来はヘッドハンターに依頼するのが一般的でした。しかし現在は、スカウトサービスを活用することで、自社の採用担当者が直接、転職潜在層にアプローチしやすくなっています。

例えば、リクルートダイレクトスカウトを活用し、次のような人材の採用事例が生まれています。

  • IT業界/ITプロジェクトマネジメント 年収 約1000万円
  • 建設業界/施工管理 年収 約900万円
  • 医療メーカー/事業開発責任者 年収 約900万円

企業が自社の魅力を具体化し、候補者の興味喚起、入社意欲の醸成をすることができれば、コストを抑えて求める人材の採用を実現できる可能性があります。

リクルートダイレクトスカウトをご利用いただくと、日々の時間をかけなくても候補者を確保できたり、独自のデータベースから他では出会えない即戦力人材を採用できる可能性が高まります。初期費用も無料ですので、ぜひご検討ください。
この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。