優秀な人材を採用する手法である「ヘッドハンティング」。経営幹部などのマネジメント層の採用だけでなく、昨今はグローバル化やデジタル化に伴って専門性の高い人材への採用ニーズが高まり、ヘッドハンティングは注目されています。今回はヘッドハンティングの種類や特徴に加えて、注目される理由や依頼の流れ、メリット・デメリットなどをリクルートのコンサルタントが解説します。
ヘッドハンティングとは
ヘッドハンティングとは、社外の優秀な人材をヘッドハンティング会社がスカウトして、依頼先である企業に招き入れる採用手法のことを言います。
ヘッドハンティングの対象となるのは、経営幹部層や専門的なスキルを持った人材などが一般的です。このような人材は採用ニーズが高く、現職の労働条件が良かったり、転職市場に出てきてもすぐに転職先が決まったりするため、自社だけで探すのは限界があります。そこで、企業はヘッドハンティング会社を活用し、自社の採用要件に合う人材を探してもらいます。
ヘッドハンティングの種類
ヘッドハンティング会社には「サーチ型」と「登録型」の2種類あります。それぞれの特徴について説明します。
サーチ型
「サーチ型」のヘッドハンティング会社は、ヘッドハンターが依頼企業の要望に添って、適した人材をサーチし、スカウトします。人材を探す前に依頼企業と打ち合わせを行い、どのような目的でどのような人材を探すのか、などヒアリングを行ってから人材のサーチを開始します。
今までの経験やノウハウを活かした独自のルートで人材をサーチして候補者を選定し、求職者の同意を得てから依頼企業へ報告します。
サーチ型を利用する場合、最初に着手金が必要となるのが一般的です。それに加えて、採用が決まったら入社者の年収の一定割合を成功報酬として支払う場合もあるので、社内で予算などを協議してから利用を開始することをおすすめします。
登録型
「登録型」のヘッドハンティング会社は、自社のデータベースなどに登録した人材のスキルや経験などを見て、依頼先の企業の採用要件と合致する人材にアプローチし、スカウトします。
一般的には、サーチ型とは異なり着手金がかからないので、初期費用を抑えて採用活動を進められるのが特徴です。ただし、サービス使用料や成功報酬などの費用は掛かることが一般的なので、登録型を利用する場合も事前に予算の確認は必要です。
ヘッドハンティングと引き抜きの違い
ヘッドハンティングと似た言葉に「引き抜き」があります。両者の違いは、スカウトの際にヘッドハンティング会社が介在するかどうかです。
ヘッドハンティングの場合は、企業がヘッドハンティング会社に依頼をして外部の人材をスカウトします。一方で引き抜きの場合は、企業が採用したい人材が明確に決まっていることが多く、直接アプローチをして採用を試みます。そのため、引き抜きの対象者は社員の友人や知人のことが多いのも特徴の一つです。
ヘッドハンティングが注目される理由
近年ヘッドハンティングが注目されている理由は、主に「専門的な人材のニーズ拡大」と「登録型サービスの一般化」の2つがあげられます。
専門的な人材のニーズ拡大
近年のグローバル化やデジタル化によって、専門的なスキルを持った人材の需要が非常に高まっています。しかし、このような人材を社内で育成するとなると時間がかかり、事業の変革スピードについていけません。そこで、ヘッドハンティングを利用し、求めているスキルを持つ人材をスカウトする手法が広まりました。
登録型サービスの一般化
インターネットの普及や発達によって、転職者は求人サービスに簡単に登録できるようになりました。今すぐ転職する意思がなくても「今より条件が良くなるならば話を聞いてみたい」という考えで登録するケースも考えられます。このような「転職潜在層」は、経営幹部や専門スキルを持つ人材により多く見られ、特に登録型のヘッドハンティング会社を利用する人が増えています。
また、副業を認める企業が増えていることも、求職者が登録型のヘッドハンティング会社を利用する要因の一つです。今の企業に在籍しながらも他社で働ける環境となったことで、新たな収入や経験を求めて登録する人材が増えてきています。
このように、登録型のヘッドハンティング会社を使う人材の増加に伴い、企業もヘッドハンティング会社に依頼をして人材確保に乗り出す動きが加速しています。
ヘッドハンティングのメリット
ヘッドハンティングを行うメリットとして、「転職市場に出てこない優秀・希少人材もターゲットとなる」「優秀人材の採用可能性が高まる」の2点があげられます。
転職市場に出てこない優秀・希少人材もターゲットとなる
ヘッドハンティングを活用すると、前述のように転職市場に出てきにくい人材へのアプローチが可能です。
優秀な人材や専門性の高いスキルを持った人材は、以下などの理由からなかなか転職市場に出てきません。
- 現職で良い条件で働いているため、転職する必要性を感じていない
- 現職の企業内外での人脈などが豊富であり、すぐに次の転職先が決まる
このような人材を採用したいと考えた場合、ヘッドハンティングは有効です。なぜなら、ヘッドハンティング会社の持つ、業界・職種のネットワークや経営層とのつながりによって、転職活動を積極的にしていない人材にもアプローチが可能だからです。そのため、自社だけではなかなか採用に至らないような人材に出会うチャンスが増えるでしょう。
ハイクラス層採用の可能性が高まる
ヘッドハンティングを行うことで、ハイクラス層を採用できる可能性が高まります。
スカウトサービスやリファラル採用などの「ダイレクトリクルーティング」も、ヘッドハンティング同様に求職者に直接アプローチできる点では似ていますが、ダイレクトリクルーティングの場合は自社の採用担当者が人材との交渉を行うので、ハイクラス層の採用ノウハウを持っていなかったり、人的リソースが足りずに交渉が失敗に終わってしまったりするケースもあります。
一方でヘッドハンティングの場合は、ハイクラス層採用に関するノウハウや人的リソースも充実しています。自社ではなかなか交渉が難しいような人材も、ヘッドハンティング会社を活用すると採用できる可能性が高まるでしょう。
ヘッドハンティングのデメリット
メリットがある一方で、ヘッドハンティングには「時間がかかる」「費用がかかる」という注意点もあります。
時間がかかる
ヘッドハンティングでは、重要ポジションに就いている人材や転職意思が低い人材をターゲットとするケースもあり、他の手法に比べると時間がかかる傾向にあります。
ヘッドハンティングを利用する場合は、人材を探す期間や人材との信頼関係を築く期間、退職交渉と引き継ぎの期間など、さまざまなことを考慮し、全体のスケジュールを想定しておきましょう。
費用がかかる
ヘッドハンティングは時間がかかることに加えて、採用コストも高くなる可能性があります。特にサーチ型は、採用の有無にかかわらず着手金が発生するので、社内で採用にかけられる費用感を固めておきましょう。
また、多くのヘッドハンティング会社は成功報酬型を取り入れており、採用する人材の内定時の想定年収によって支払う費用が変わります。初回の打ち合わせ時に、条件として提示する年収も含めたトータルコストを確認することも大切です。
ヘッドハンティングの流れ
ヘッドハンティングの導入から採用までの流れを紹介します。今回は「サーチ型」のヘッドハンティング会社を利用する場合について解説します。
「登録型」のヘッドハンティング会社についての流れは、以下の記事を参考にしてください。
1.採用したい人材の採用要件を明確にする
まずは自社で採用したい人材の採用要件を明確にする必要があります。
自社の事業戦略などをベースにして、どのような経験やスキルを持った人材を対象とするかなど、できる限り具体的に言語化しておきます。そうすることで、ヘッドハンティング会社との打ち合わせがスムーズに進むでしょう。
サーチ型のヘッドハンティング会社を利用する場合は、経営層に近い重要なポストの人材を採用に使用することが多いです。そのため、人材要件の整理にも時間がかかることがあるので、事前に全体のおおまかなスケジュールを立てておくと安心です。
2.ヘッドハンティング会社の選定
人材の採用要件が明確になったら、どのヘッドハンティング会社を利用するのか決めていきます。「ヘッドハンティング会社の得意領域と求める人材が合致しているか」「予算と実際にかかる費用が乖離していないか」などの観点から、複数のヘッドハンティング会社を比較検討するとよいでしょう。
3.ヘッドハンティング会社と打ち合わせ
利用したいヘッドハンティング会社を選定したら、まずは依頼前に打ち合わせを行います。自社の採用要件を伝え、かかる費用や受けられるサービスなどを確認し、双方で合意に至ったら契約へと進みます。
初回の打ち合わせの際は、担当ヘッドハンターとの相性も重要な確認ポイントです。「自社や業界に対する理解があるのか」「コミュニケーションが取りやすいか」などをみておくと良いでしょう。ヘッドハンティングは重要ポジションを採用するケースが多いので、信頼できるヘッドハンターに依頼できると非常に心強いでしょう。
4.ヘッドハンティング会社のサーチ開始
ヘッドハンティング会社と契約を結ぶと、ヘッドハンターは候補者のサーチを開始します。ヘッドハンターはSNSや新聞、IR情報などの公開されている情報や、独自のつながりを活用して候補者を探します。
ヘッドハンターによっては見つけた候補者をリストアップし、企業とともにそのリストを確認しながら、アプローチする候補者の絞り込みを進めることもあります。
5.ヘッドハンティング会社が候補者と接触する
絞り込んだ候補者に対して、ヘッドハンターからアプローチを行います。このとき、ヘッドハンターは時間をかけて候補者と信頼関係を築き、適切な方法でアプローチしてくれます。
6.依頼企業へ候補者の紹介と面談
続いて、企業と候補者の面談が行われます。ヘッドハンターが同席することもあります。
面談の設定は、ヘッドハンターが企業と候補者の間に入って日程などを調整します。
面談が行われるタイミングは、ヘッドハンティング会社によって異なります。候補者とヘッドハンターだけで複数回の面談したのちに、企業を交えた三者間の面談に臨むこともあれば、早い段階で三者間の面談を実施することもあります。面談の設定や進め方については、ヘッドハンティング会社に事前に確認しておくといいでしょう。
7.オファーの提示や入社条件を調整
候補者の入社意欲と企業の採用意欲が合致したら、詳細な条件や入社日などの調整を進めます。ヘッドハンティング会社によっては、ヘッドハンターが両者の間に入って、このような調整をサポートしてくれることがあります。
8.内定前後のフォロー
候補者が内定を承諾したら、入社に向けて退職交渉や入社手続きを進めます。採用した人材が現職で重要なポジションに就いている場合、入社までに時間がかることがあります。このような場合も、ヘッドハンターは退職に関するサポートを行ってくれることがあります。
企業は、採用した人材の退職交渉や引き継ぎ期間を頭に入れておくと安心です。
ヘッドハンティングは優秀な人材の採用に近づける手段
グローバル化やデジタル化などの影響で、近年多くの企業は変革を求められています。既存の社員だけでは変革について行くことが難しい場合などは、専門性の高いスキルを持った人材や幅広い知見を持った外部の優秀な人材などが必要です。ヘッドハンティング会社をうまく活用し、優秀な人材を採用しましょう。
八尋弓枝
リクルート(現ホールディングス)にて、外資系および日系上場企業から数名の企業まで幅広く人材採用および育成、研修、人事制度の領域に従事。起業のため退職後2007年にリクルートエグゼクティブエージェントにコンサルタントとして就職。2009年よりリクルート。転職者にとってはキャリア発展の観点に加え転職のリスクを踏まえた提案かどうか、企業にとっては事業戦略の実現に欠かせない人材のご紹介になっているかどうか、この二点を大事にしている。