フレックスタイム制

近年、働き方改革などを受けて、フレックスタイム制を導入する企業が多数見られます。フレックスタイム制の仕組み、導入するメリット・デメリット、向いている業種・職種、勤怠管理のポイントなどについて、社会保険労務士・岡佳伸氏が解説します。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度」を指します(厚生労働省による定義)。
例えば、1カ月の所定労働時間が160時間と定められている場合、「今日は10時間勤務、明日は5時間勤務」といったバラつきがあっても、1カ月間の労働時間の合計が160時間になればよいのです。

フレックスタイム制は、労働者が日々の都合に合わせ、仕事とプライベートに時間を自由に配分できるようにし、ワーク・ライフ・バランスを取りやすくすることを目的としている制度です。労働時間制度には、以下のように他にもさまざまな種類があります。

  • 固定時間制:労働基準法第四章に定められている原則的な労働者の働き方。働く曜日・時間が固定されています。
  • 変形労働時間制:繁忙期・閑散期など一定時期の業務量に応じ、労働時間を柔軟に調整できる制度です。
  • みなし労働時間制:実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間分の労働をしたとみなす制度。営業職など事業所外で働く職種や専門性が高い職種に適用されており、「事業場外みなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」などの種類があります。

フレックスタイム制の仕組み

フレックスタイム制では、一般的に「清算期間」「コアタイム」「フレキシブルタイム」を設定し運用します。また、コアタイムのない「スーパーフレックスタイム」もあります。それぞれの仕組みをご紹介します。

清算期間

清算期間とは、「フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間」のことです。法律では清算期間の上限は3カ月となっています。

フレックスタイム制ではまず、この「清算期間」と、清算期間が始まる日付である「起算日」を定めます。例えば「清算期間は1カ月間とし、毎月1日を起算日とする」などと明確にします。
その上で、清算期間内で従業員が働くべき総労働時間を決めます。その際、法定労働時間を超えた時間を設定することはできず、清算期間全体の労働時間は週平均40時間以内(特例措置対象事業場(※)では週44時間以内)、かつ1カ月ごとの労働時間は週平均50時間以内になるよう定めなければなりません。どちらのケースにおいても、超過した分は時間外労働として割増賃金を支払うことになります。

(※)特例措置対象事業場=常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業のこと

コアタイム

1日の中で必ず勤務しなければならない時間帯を設けている場合は、その時間帯を「コアタイム」と呼びます。例えば「10時~15時」「11時~14時」など、コアタイムの長さや時間帯の設定は企業や部署によってさまざまです。
フレックスタイム制においては、従業員の始業時刻、終業時刻の指定はできないものの、このコアタイムは就業時間として指定することができます。

フレキシブルタイム

コアタイムの前後の数時間を「フレキシブルタイム」とし、この時間内で従業員は出勤・退勤の時間を自由に選択することができます。

スーパーフレックス制

労働時間をすべて「フレキシブルタイム」とし、労働者の裁量に委ねる企業もあります。このようにコアタイムを設けないフレックスタイム制は、「スーパーフレックス制」と呼ばれています。

フレックスタイム制の労働時間イメージ

出典:厚生労働省ホームページ厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」データを加工して作成

フレックスタイム制のメリット

フレックスタイム制を導入するメリットとしては、主に次の5つが挙げられます。

残業時間の削減

前述のように、フレックスタイム制では3カ月を上限とする「清算期間」が設けられています。3カ月の内に所定労働時間を超過した月があっても、その他の2カ月で労働時間を抑制し、総労働時間を超過しないようコントロールすれば、残業時間の削減が可能となります。

ワーク・ライフ・バランスの実現

例えば「子どもの保育園の送り迎えに合わせて出勤・退勤時間を調整したい」など、育児あるいは介護など時間に制限がある人も、自身のスケジュールに合わせて働きやすくなります。また、趣味の活動やスクール通いなど、プライベートの時間を充実させやすくなるでしょう。

生産性の向上

労働者が自身の裁量によって働く時間を効率的に配分するため、「忙しいときには集中して働き、余裕があるときは早く帰る」といったように、メリハリある働き方が期待できます。タイムマネジメントの能力がつき、生産性の向上につながると考えられます。

優秀な人材の確保

近年テレワークやフレックスタイム制をはじめとして、「柔軟な働き方」を希望する人が増えています。労働者それぞれが抱える事情に寄り添って働きやすい環境を整えることで、優秀な人材の採用や定着も期待できるでしょう。

離職率低減の可能性

フレックスタイム制は、離職率の低減につながるとも期待されています。先に挙げたように、例えば育児や介護など時間の制限がある人の中には、仕事を続けたくても両立が難しく、退職を余儀なくされる人も少なくありません。フレックスタイム制で働く時間を自由に設計できれば、ライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるようになり、離職を選ぶ人も減ると考えられます。

フレックスタイム制のデメリット

一方、フレックスタイム制には企業にとってデメリットとなる側面もあります。導入・運用する際は、以下のような点に注意する必要があるでしょう。

従業員同士のコミュニケーション不足

職場のメンバーの出勤・退勤時間がバラバラになるため、コミュニケーションが不足することが懸念されます。情報共有や意見交換、関係構築の仕組みを工夫することが重要です。

時間を固定する業務応対が難しくなる

フレックスタイム制だと、顧客や取引先から問い合わせがある時間帯に、出勤している従業員がいないという状況になり得ます。「いつ問い合わせをしても担当者がいない」状態だと、信用を損ねてしまう恐れもあります。
業務の属人化を避け誰でも対応できるようにするなど、顧客対応の体制を整える必要があります。

時間管理がルーズになる

タイムマネジメント能力がある従業員にとっては生産性向上につながる制度ですが、勤務時間が定められていない分、時間にルーズになり、生活リズムを崩す従業員も出てくる可能性があります。

勤怠管理の煩雑化

従業員の勤務時間帯がバラバラであるため、勤怠管理が煩雑になります。給与計算や人事評価にも影響が及ぶ可能性があるでしょう。特にフレックスタイム制移行期には、勤怠の労務管理の手間が増えることも考えられます。

水道光熱費の増加

フレックスタイム制を導入すると、従業員の働く時間帯が多様になることも想定され、オフィスの稼働時間がこれまでより長時間になる可能性があります。それに伴い、水道光熱費もかさむと考えられます。生産性向上が期待できる一方で、固定費の増加には留意する必要があるでしょう。

フレックスタイム制を導入している企業の特徴

フレックスタイム制を導入し、効果的に運用できているのはどのような企業なのでしょうか。向いている業種・職種の特徴をお伝えします。

フレックスタイム制に向いている業種

IT・通信・インターネット業界は、オンラインで進められる業務も多いため、フレックスタイム制を活用した柔軟な働き方が浸透しています。また、コンサルティング業界や人材業界など、人材採用に積極的な業界では、応募者の獲得のためにフレックスタイム制を導入しているケースが見られます。

フレックスタイム制に向いている職種

時間や場所にしばられずに作業ができ、自身のペースで業務を進められるような職種でフレックスタイム制が導入されていることが多いようです。

また、外部の顧客や取引先と接する機会が少ない職種も、導入しやすい傾向にあるでしょう。具体的には、ITエンジニア、デザイナー、企画職、事務職などが挙げられます。

フレックスタイム制導入のポイント

フレックスタイム制を新たに導入する際のポイントを、ルールの策定から順を追って解説します。

フレックスタイム制のルールを定める

フレックスタイム制を導入する際にはまずルールを定める必要があります。例えば、フレックスタイム制の対象となる従業員の範囲や、清算期間と清算期間における総労働時間、具体的なコアタイム・フレキシブルタイムなどを定めておきましょう。

就業規則を規定する

ルールを定めたら、就業規則に「始業時刻・終業時刻を労働者の決定に委ねる」旨を記載します。コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合は、具体的な時間帯も明記する必要があります。

労使協定を締結する

労働組合または労働者代表と、労使協定を結びます。労使協定で定める事項は次の通りです。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 清算期間
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイム・フレキシブルタイム(任意)

労働基準監督署へ届け出る

就業規則への記載後は、管轄の労働基準監督署への届出が必要です。1カ月を超える清算期間とする場合には、締結した労使協定を同様に労働基準監督署長に届け出る必要があります。

従業員に周知・説明する

フレックスタイム制導入に伴い、就業規則を変更したら、従業員にも周知・説明を行う必要があります。
制度を正しく運用するには、自社におけるフレックスタイム制の詳細および、導入に伴い考えられるメリット・デメリットを十分に説明し、理解を深めてもらうことが重要です。

運用を開始する

定めたルールに則って、運用を開始します。通常の労働時間制度とは異なる方法であるうえ、社内にフレックスタイム制の適用職種と適用外職種が混在する場合は勤怠管理がより複雑になります。フレックスタイム制を適切に管理できるシステムの導入なども検討すると良いでしょう。

フレックスタイム制の注意点

フレックスタイム制を導入するにあたり、気をつけておきたい点をご説明します。

従業員へのルールの周知・徹底が必要

フレックスタイム制を導入する際には、従業員へ周知させる義務があります。従業員がフレックスタイム制の中身を理解し切れていないと、例えば「自由な時間に働ける」などと間違ったイメージのもと、各々が勝手な働き方をしてしまい、ワーク・ライフ・バランスの実現や生産性の向上などにつながらない可能性もあります。

始業時刻・終業時刻は指定できない

フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。したがって、会社側が従業員に対し、コアタイムを労使協定で定めた場合以外、始業時刻や終業時刻を指定することはできないため注意しましょう。

フレックスタイム制でも時間外労働残業代は発生する

フレックスタイム制で働く労働者についても、時間外労働を行う場合には、36協定の締結・届出が必要となります。
清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外労働としてカウントされます。また、清算期間が1カ月を超える場合は、(1)1カ月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間、(2)清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(※(1)でカウントした時間を除く)が時間外労働としてカウントされます。

働き方改革関連法により、2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日から)時間外労働の上限規制が導入され、時間外労働の上限は原則、月45時間、年360時間となっています。フレックスタイム制は労働時間管理が複雑化しやすく、従業員本人も時間管理がしにくくなり意図せず労働時間が多くなるケースもあります。次の項目「フレックスタイム制の勤怠管理ポイント」を参考にして、場合によっては勤怠システムなどの導入も検討するとよいでしょう。

フレックスタイム制の勤怠管理ポイント

フレックスタイム制を導入した場合の勤怠管理について、注意しておきたいポイントをお伝えします。

遅刻・早退・欠勤の扱い

コアタイムを設けている場合、コアタイム開始時間までに出勤していなければ遅刻となり、コアタイム中に勤務を終えれば早退となります。一方、コアタイムがない場合は遅刻・早退にはなりません。

なお、コアタイムを設けていて遅刻・早退があった場合、人事評価に反映することは可能ですが、原則賃金控除はできません。フレックスタイム制では「清算期間内」での労働時間が所定の総労働時間を満たしていれば、遅刻・早退は賃金控除の対象となりません。

また、フレックスタイム制では、清算期間内で定めている1日の標準労働時間に達しなくても欠勤扱いにはなりません。

コアタイムの設定

コアタイムの設定については、「平日の10時~15時」といったように、勤務してほしい時間帯を設定します。なお、週1日のみコアタイムを設けることも可能です。例えば、必ず勤務して欲しい曜日・時間帯がある場合は「月~木はコアタイムなし、金曜日のみ10時~15時をコアタイム」とし、コアタイム内に定例会議を入れる、なども可能です。

ただし、例えば「9時」を始業時刻に設定している企業において、コアタイムを「9時~」とすることはできません(※1)。出勤時間の選択の自由がないためです。9時が始業時刻の企業であれば、「10時~」をコアタイムとしているケースが多く見られます。

なおコアタイムは、必要な場合を除いて、22時以降には設定しない方が良いでしょう。22時以降の業務には割増賃金が発生するほか、深夜業(※2)とみなされます。また、従事する労働者も「特定業務従事者」とみなされ、6カ月以内に1回の健康診断が必要となります。

(※1)出典:厚労省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1899&dataType=1&pageNo=1)
なお、『改正労働基準法の施行について(◆昭和63年01月01日基発第1号婦発第1号)』によると、「フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を定める必要があるものであること。その場合、始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定にゆだねる必要があり、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ労働者の決定にゆだねるのでは足りないものであること」「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること」(昭63.1.1 基発1号、平11.3.31 基発168号)とされています。

(※2)深夜業:午後10時から午前5時までの勤務を常態的に行なう(週に1回以上または1ヵ月に4回以上)業務のこと

残業・休日出勤の場合

労働者自身が日々の労働時間を決めるフレックスタイム制では、「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えて働いても、ただちに時間外労働とはみなされません。

清算期間内で実際に労働した時間のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間数を時間外労働とし、残業代を支払うことになります。

休日出勤については、所定労働日ではない日の出勤を禁止することも可能ですし、申請・許可制にすることも可能です。

今後フレックスタイム制導入はどう進化する?

副業・兼業も拡大していくと見られる今後は、フレックスタイム制の導入がますます増えると予想されます。「スーパーフレックス制」として、所定労働日の労働義務も免除すれば、「1日10時間・週4日」勤務も可能になります。

現在、フレックスタイム制をうまく運用している企業では、「月末・月初は忙しいから月の半ばは自由に休む」「テレワークと組み合わせてワーケーションする」といったように活用されています。

ただし、フレックスタイム制のデメリットとして前述したように、社員同士のすれ違いは生じやすくなるため、定例ミーティングを設定して出席を要請するなど、コミュニケーションの機会を確保する工夫も大切です。

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この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

  

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。