
近年、少子高齢化に伴う人材不足が深刻化する中で、人材採用の難易度が高まっています。求める人材を採用するためには、戦略・計画を立てて進めることが重要です。人材採用市場の状況、採用の進め方、採用手法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
人材採用とは?国内の採用実態と課題
人材採用とは、企業が経営戦略・事業計画を遂行する上で必要な人材を明確にし、候補者の中から最適な人材を選んで雇用するための活動です。
近年、日本は少子高齢化に伴って労働力が減少傾向にあるため、人材採用に苦戦する企業が増えています。リクルートワークス研究所が行った「中途採用実態調査」(2023年度実績・正規社員)によると、2023年度下半期に中途採用を「実施した・実施中」の企業の割合は約8割(79.5%)に達しました。5000人以上企業に絞ると、95.9%の企業が中途採用を実施しています。しかし、2023年度下半期で必要な人数を「確保できた」と回答した企業は45.5%、「確保できなかった」と回答した企業53.2%と、確保できなかった企業の割合が上回っている状況です。
人材採用のハードルが高まる中、企業にとっては「多様な採用手法を併用する」「これまで採用していなかった層・雇用形態へ広げる」「採用活動に十分な人的リソースを配分する」「年間通じた途切れない常時採用活動を行う」など、新たな取り組みが必要となっています。
出典:リクルートワークス研究所「中途採用実態調査」(2024年)
人材採用の進め方
人材採用の活動をどのように進めていけば良いか、手順の一例をご紹介します。
過去の採用活動を振り返る
まずは、自社のこれまでの採用活動を振り返り、人材採用についての課題を抽出しましょう。
以下のように、採用計画に対しての結果を定量的に確認し、採用活動で具体的に行っている施策の内容やその効果検証を行います。
- 採用計画に対して、毎年の達成率はどのくらいか
- 採用手法・求人媒体ごとに、どのくらいの応募が来たのか
- 求人への応募者の経験・スキルは基準を満たしているか
- 自社が求める人材像に該当する応募者は、どのくらい応募してきているか など
- 採用手法・求人媒体の選定が固定化していないか
- 求人情報は自社が求める人材の興味を引く内容になっているか
- 会社説明会の開催数や転職フェアなどの利用状況はどの程度か
- 自社サイトの採用ページの内容は随時更新されているか など
転職市場の動向・相場を把握する
転職市場の動向や人材採用に必要なコストの相場を把握します。採用競合が存在する可能性があるため、転職市場の業界動向を調査し、自社のポジションを明確化して強みをアピールする必要があります。さらに、自社の規模や成長フェーズが近い企業の採用活動の調査・分析も行うと良いでしょう。自社の採用活動の参考になるのはもちろん、差別化して他社とは異なるルートから人材採用をするといった新たな施策の開拓にもつながるかもしれません。
また、採用活動に必要なコストの相場を確認することも重要です。自社サイトでの求人募集や会社説明会の実施といった自社リソースの活用だけでは、人材要件を満たした求職者が思うように集まらない可能性があります。その場合は、外部のサービスの利用が必要になることもあるでしょう。転職エージェントやスカウトサービスの利用料の相場、転職サイトへの求人広告の出稿費なども確認しておくことで、採用活動に必要な予算の見積もりができます。
人材要件を明確にする
自社に必要な職種・ポジション、その業務遂行に必要な経験・スキルなど、採用にあたっての人材要件を明確にします。
人材要件が明確になっていない状態では、適した採用手法や求人媒体を選べず、応募者を集められない可能性があります。また、選考担当者が何を基準に判断すれば良いかわからず、マッチする人材の採用に至らないケースも見られます。
採用計画を立てる
必要な人材要件を明確にしたら、具体的な採用計画に落とし込みます。以下の項目について検討し、方針を定めましょう。
- 配属する部署・組織
- より詳細な人材要件(経験・スキル・保有資格など)
- 採用人数
- 採用者を受け入れる時期
- 採用方法
- 使用する求人媒体
- 選考方法(面接回数・面接担当者・選考基準など)
- 選考スケジュール
採用方法に合わせて求人を作成する
採用方法に合わせて求人情報を作成します。転職サイトなどに求人広告を出稿する場合、その媒体の規定の項目・ボリュームに合わせて作成します。一方、自社サイト内の採用ページは、募集時に明示すべき労働条件などに注意を払った上であれば、記載内容に制限はありません。
採用ポジションについて、「仕事内容」「求める経験・スキル」のほか、「期待する役割」「チーム体制」「仕事の進め方」など、なるべく詳細に記載することで、マッチする人材の応募につながりやすくなります。
加えて、採用ターゲットとなる人材が興味を持ったり魅力を感じたりする情報を発信することが大切です。以下にキーワードの一例を挙げますので参考にしてください。
- 成長率
- 市場シェア
- 顧客ラインナップ
- プロダクトの先進性
- 裁量権
- 昇進スピード
- 経営陣や同僚の経歴
- 年収アップ
- 副業
- 教育プログラム
- 資格取得支援
- リモートワーク
- フルフレックス
- オフィス内の福利厚生
- 部活動 など
採用活動を開始する
採用活動の開始に際しては、採用部署の責任者との連携が欠かせません。部署のスケジュール(プロジェクトの繁忙期など)にも配慮し、採用活動の進捗状況について密にコミュニケーションをとりながら進めましょう。
採用状況に応じて計画を見直す
「スケジュール通りに進んでいるか」「目標達成が見込めそうか」「外部環境や自社内の方針に変化はないか」など、採用状況に応じて随時計画の見直しを行います。
計画段階で、チェックポイントを設けておくと良いでしょう。例えば「募集開始から2週間後に応募状況を確認し、追加施策や採用手法の変更を検討する」「1カ月経過後の成果を検証し、戦略の見直しを行う」など。途中経過で見直しを行わないと、適切ではない採用活動をそのまま進めてしまい、採用に至らないまま活動が長引いてしまう可能性があります。
転職エージェントやスカウトサービスを利用している場合、担当者から採用市場のトレンドや応募者の動向などの情報を入手するのも一案です。
採用活動を振り返る
採用活動を終え、思うように採用が進まなかった場合、どのフェーズに課題があったかを分析します。場合によっては、採用目標や人材要件、採用手法から変えることを検討しましょう。
目標を達成できた場合も、この先同じ方法を継続して同じ成果を得られるとは限りません。採用市場は常に変化しています。採用競合が増えたり、転職トレンドが変わったりすることも考えられるため、情報収集を継続すると良いでしょう。
代表的な中途採用方法・12種
中途採用の手法・12種類をご紹介します。自社が求める人材にマッチした手法を選びましょう。
人材紹介(転職エージェント)
厚生労働大臣の認可を受けて、職業紹介を行っている人材紹介会社(転職エージェント)に、自社が求める人材要件を伝え、マッチする人材の紹介を依頼できます。人材紹介会社(転職エージェント)を利用すると、応募の一次スクリーニングの手間を省けること、また、競合他社などに自社の動きを知られたくない場合、「非公開求人」として募集を行える点にメリットがあります。
多くの人材紹介会社(転職エージェント)は「成功報酬型」をとっており、一般的に採用が決まるまでサービス利用料はかかりません。ただし、採用に至った場合は紹介した人材の年収の一定割合が成功報酬となるため、職種や人数によってはコストが高くなる傾向にあります。
ヘッドハンティング
ヘッドハンティング会社に自社が求める人材要件を伝えると、「ヘッドハンター」と呼ばれる専門家がマッチする人材をサーチし、自社に代わってスカウトを行います。経営幹部や高度な専門職など、ハイクラス層向けの採用で使われるケースが多い手法です。
ヘッドハンターは独自の情報ルートを持ち、人材を発見する力に長けていますが、人材サーチや対象者との交渉に時間がかかることもあります。成功報酬に加えて「着手金」が必要となり、コストがかさむケースもあります。
紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、直接雇用を前提に、人材派遣会社に登録している人材を自社へ派遣してもらう手法です。派遣期間(最長6カ月)満了時に派遣社員と企業の双方が合意すれば直接契約を結ぶことができます。雇用が最終目的となるため、書類選考や面接も実施の上で選考できます。
紹介予定派遣のメリットは、即戦力となり得る人材を迅速に確保できる点です。また、業務や環境、社風とマッチするかどうかを派遣期間中に判断できることもメリットと言えるでしょう。
一方で、採用にかかる費用が高くなる可能性があるほか、派遣期間終了後に派遣社員から直接雇用を断られるケースも考えられます。
転職サイト
転職サイトとは、求人を掲載できる無料・有料のインターネットサービスです。幅広い業種・職種の求人を掲載する「総合型転職サイト」と、「医療」「IT」「外資系」など特定の業界や領域に特化した人材募集に向く「特化型転職サイト」があります。
短期間の準備で採用活動が始められることが多いことや、転職を検討している多くの人の目に触れるため、応募者の母集団形成がしやすい点がメリットと言えるでしょう。一方で、応募者とのやり取りを自社で行う必要や、知名度の高い企業に注目が集まり自社の求人票が埋もれてしまう可能性などもあります。
求人検索エンジン
「求人検索エンジン」とは、求人情報に特化した検索エンジンです。求職者がキーワード(業種・職種・勤務地・希望条件など)を入力して検索すると、さまざまな求人サイトや企業の採用ページに掲載されている求人情報の中から、キーワードに合致する求人情報が検索結果に表示される仕組みです。
自社の採用サイトを運営していれば、求職者の目に留まる可能性が高まります。予算がコントロールしやすく、詳細な条件でミスマッチも減らせる一方で、多くの求人に埋もれてしまう可能性があります。表示回数を増やすために、定期的な更新作業やキーワードの工夫が必要となるでしょう。有料枠を利用すると、こういった手間をかけずに検索結果に表示されやすくなるため、応募数の増加が期待できるようになります。
スカウトサービス
スカウトサービスは、企業自らがほしい人材に直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」の手法の一つです。
「スカウトサービス」に登録されている人材のデータベースから、企業が自社に合うスキルや経験を持つ人材を探して直接アプローチします。詳細な条件設定でミスマッチを低減でき、直接アプローチすることで、熱意を伝えやすいというメリットがありますが、アプローチした相手が応じてくれるとは限りません。興味喚起するメール文面を作成するなど、応募意欲を促すための工夫が必要になるなど、対応工数がかかることもあります。サービスによっては運営元から、求める人材の条件設定や求人の作成などのサポートを受けられる場合もあるので確認しましょう。
自社サイト
自社のウェブサイト内に「採用ページ」を設け、求人を公開します。「オウンドメディアリクルーティング」とも呼ばれています。転職サイトなどは、掲載できるボリューム・内容・表現方法(画像・動画など)に制限があるのに対し、自社ホームページであれば、自由に情報を発信できます。
採用ページの立ち上げにはコストがかかるものの、求人広告の出稿や転職エージェントへの成功報酬がかからない分、長期的には採用コストを抑えられるでしょう。ただし、運営にあたり求職者に「管理が行き届いていない」と思われないよう、サイト更新が滞らないようにするなど、工数がかかる可能性があります。また、知名度が低い企業の場合、求職者に「見つけてもらう」ことが難しく、応募者が集まらない可能性があります。SNSと連動させたり、求人検索エンジンに登録したりするなど、アクセスを増やす工夫が必要です。
ソーシャルリクルーティング
SNSの企業アカウントで自社の魅力を発信して応募者を集める方法で、ダイレクトリクルーティングの一つに分類されます。幅広い人材にアプローチでき、自社とマッチ度の高い人材をターゲットとした情報発信ができるのがメリットでしょう。低コストで優良人材の採用実現や若年層や潜在層にもアプローチできる可能性があります。
一方、SNSを使っていない人材へのアプローチには適していません。また、認知・ファンづくりには時間がかかる場合が多いため、短期間の採用には不向きでしょう。社内でDM対応や継続的な投稿更新による情報発信が必要となります。
リファラル採用
自社社員に自身の友人・知人に声をかけてもらい、自社への応募を促すもので、ダイレクトリクルーティングの一種です。社員が「自社にマッチしている」と思う人を選ぶこと、対象者が友人から会社の話を聞いて理解して応募することから、入社後にミスマッチが生じにくい傾向にあります。他の手法と比較して、採用コストも抑えられるでしょう。
ただし、大量採用は難しく、自社に興味を持ってもらうためのアプローチが必要になるため、採用に時間がかかる傾向があります。 また、紹介者と求職者の関係にフォローが必要になる可能性もあります。
アルムナイ採用
自社から「卒業した人(アルムナイ)」、つまり退職者を再雇用する方法です。過去に自社で働いていた経験があるため、採用・育成のコストも抑えられ、「即戦力」が期待できます。ただし、退職理由によっては再雇用することがそもそも難しいケースもあるほか、制度化するとなると、アルムナイとの継続的な関係構築に時間と手間を要します。また、再雇用の際の待遇にも慎重な対応が必要です。仮に退職した社員が好条件で再雇用されると在籍社員のモチベーションに影響しかねません。制度の整備や在籍社員のフォローなども必要となるでしょう。
ミートアップ
自社に中途入社希望者を招待し、社内見学や社員との交流によって、入社意欲を高めてもらいます。自社を見学してもらうことでコストを抑えることができ、潜在層にも興味を持ってもらいやすいメリットがあります。企画や事前準備が工数になるほか、参加者にとっては「イベント」の意味合いが強くなる可能性もあり、必ずしも応募につながるとは限りません。 応募や採用決定までに比較的時間を要することになるでしょう。
転職イベント
人材サービス企業や自治体などが主催する合同説明会や「転職フェア」などのイベントに出展する方法があります。転職意思がある来場者に直接アプローチが可能で、自社を知らない・興味がない潜在的な人材にも接触できる可能性があるでしょう。一方で、イベントの準備や当日の対応など、自社の担当者の負担が大きくなる、他社と差別化してもらう工夫が必要といった面もあります。
人材採用を進める前に採用戦略を固めよう
採用活動を始める前に、まずは「採用戦略」を策定することが重要です。自社にとって必要な人材を確実かつスムーズに採用するための戦略です。採用難易度が高まる環境下では、戦略をしっかり立てることが以前に増して重要となっています。
また、採用活動の結果、一定数の採用に至ったとしても、入社後にミスマッチが生じて早期離職につながるケースは少なくありません。早期離職が発生すると、採用活動や導入研修をやり直すことになり、コストと手間がかさむことになります。採用戦略を固めて、必要な人材要件・採用手法・選考方法が適切に行われれば、ミスマッチの防止につながるでしょう。
人材採用で押さえたいポイント
求める人材の採用を実現するためには、以下のポイントを意識しておきましょう。
社内関連部署との連携
自社の人材採用方針・計画について、採用活動に関わる社員はもちろんですが、関連部署の現場社員や管理職にも共有すると良いでしょう。
人材採用は組織の強化を目的として行うものであり、その重要性や具体的な戦略は採用担当者だけでなく、採用予定先の部署の社員も認識しておくと効果的です。例えば、リファラル採用を取り入れて社員の友人・知人などの中から自社にマッチする人材を探したい場合は、社員が自社の採用戦略を把握しておくことで、必要な経験やスキルを持つ人材にアプローチできるでしょう。
採用基準を明確にする
「採用基準」とは、企業が採用選考を行うにあたり、自社にマッチした人材を選べるように設定する評価指標です。
採用選考においては、選考を行う人の「主観」が評価に影響を及ぼすケースが少なくありません。書類選考や面接で判断にばらつきが生じないようにするために、経営陣・人事担当者・配属部門責任者など、選考に携わるすべての人が目線を合わせる必要があります。そこで、「採用基準」を言語化し、共通認識を持っておくことが大切です。
イベントやカジュアル面談なども活用する
「イベント」を活用するのも有効な手段です。「転職フェア」など、多数の求人企業が合同で行うイベントでは、多様な求職者と直接対話する機会を得られます。最近の手法では、「ワークショップ」を実施して自社の事業課題や仕事内容を知ってもらう機会を提供したり、先ほども触れた「ミートアップ」を実施したりするケースもあります。
また、求職者が応募する前に、選考とは切り離した「カジュアル面談」を取り入れる企業も増えています。スカウトサービスを通じて求める人材にアプローチした場合などに有効でしょう。
人材募集はリクルートダイレクトスカウトがおすすめ
リクルートダイレクトスカウトは、サービスに登録している求職者のプロフィールを確認して、企業から直接スカウトができる転職スカウトサービスです。さまざまな経験やスキルを持つ人材が登録しており、人材要件が定まっている企業にとっては、優秀な人材を幅広い選択肢から選ぶのにおすすめです。
人材採用活動において、外部リソースの利用は効果を最大限に高めるための助けとなるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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