
人口の減少などにより企業の採用活動が難しくなる中、自社社員から友人・知人の紹介を受けて選考する「リファラル採用」が注目されています。リファラル採用のメリット・デメリット、進め方、紹介した社員へのインセンティブの相場と決め方、トラブル防止策、実現させるポイントについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
リファラル採用とは
リファラル採用とは、自社の社員から紹介された友人や知人などを採用する手法を指します。欧米では一般的な採用手法ですが、日本でも近年、導入が広がっています。
株式会社リクルート(現・株式会社インディードリクルートパートナーズ)が企業の人事担当者を対象に行った調査(2023年3月実施)によると、約5社に1社(23.2%)が「2022年度に力を入れた採用手法」の一つとして「リファラル採用」を挙げています。

出典:企業人事の採用に関する調査 第1弾 中途採用の現状、採用は難化傾向が続く(株式会社リクルート(現・株式会社インディードリクルートパートナーズ))
縁故採用との違い
縁故採用は、社員からの紹介という点ではリファラル採用と同じです。しかし、縁故採用はリファラル採用に比べると、社員と血縁や姻戚などの関係がある人を特別待遇で迎えるケースが多いという一面があります。選考フローも、通常の採用とは異なる場合が多いでしょう。
一方のリファラル採用は、自社社員からの紹介とはいえ、通常とほぼ同様の選考が行わることが多いようです。適性や経験・スキルなどが自社の採用基準を満たせば採用に至ります。
ヘッドハンティングとの違い
ヘッドハンティングは、自社が求める人材にアプローチして採用する手法であり、一般的には、「ヘッドハンター」と呼ばれるプロに依頼します。ヘッドハンターが独自のルートやネットワークを活用して求める要件にマッチする人材を探し出します。ヘッドハンターからアプローチし、対象者が応募を決断すれば選考に進みます。
リファラル採用のメリット
リファラル採用では、他の採用手法と比べ、さまざまなメリットを得られる可能性があります。以下に一例を紹介します。
マッチング率が高い
自社の社員であれば、自社の企業理念や社風といった価値観はもちろん、業務内容や組織を構成するメンバーの特徴なども理解しています。それを踏まえて自社で活躍できそうな友人・知人を紹介するため、マッチング率が高い人材を採用できる可能性があります。
候補者が自社社員からじっくり話を聞いた上で入社を決断すれば、入社後のギャップが生じにくく、定着率も高くなることが期待できます。
転職市場にいない潜在層にアプローチできる
転職活動をしていない「転職潜在層」へのアプローチも可能となります。
転職サイトや転職エージェンなどを利用した採用活動では、転職に対して積極的な「転職顕在層」への訴求にとどまりがちです。その点、リファラル採用では、転職を考えていない人材にも自社の魅力を訴求し、応募につなげられる可能性があります。
採用コストを削減できる
他の採用手法を用いる場合、例えば転職サイトへの求人広告出稿料、転職エージェントへの成功報酬、転職イベントへの出展料などのコストが発生します。リファラル採用で人材を確保できれば、それらのコストの削減が可能となるでしょう。
既存社員のエンゲージメント向上につながる
リファラル採用活動の「副産物」として、既存社員のエンゲージメント向上につながっているケースも見られます。リファラル採用制度を運用するプロセスで、既存社員は自社に対する理解が深まって自社の魅力を再認識したり、他部署とのコミュニケーションが生まれたりするためです。
リファラル採用のデメリット
リファラル採用は、場合によってはデメリットをもたらす可能性もあります。注意しておきたいポイントをお伝えします。
採用担当者の業務負荷が大きい
リファラル採用の制度の整備・運用を行うにあたり、採用担当者の業務負荷が大きくなる可能性があります。
リファラル採用を行うためには制度策定が必須であり、入社者に対する採用基準や制度を整えるだけでなく、紹介者である社員に対しての説明や人材要件の共有、情報のキャッチアップなども欠かせません。採用担当者には、これまでの採用活動に加えてさらなる業務負荷がかかってしまうことが考えられます。
採用までに時間がかかる
リファラル採用は、他の採用に比べると時間がかかるケースも見られます。
社員がアプローチできる人材には限りがあり、その人材の転職意欲が高いとも限りません。自社の魅力や採用への熱意を丁寧に伝えるために、カジュアル面談を行うなどして会話の機会を増やすことから始めるケースもあり、応募意欲の喚起までに時間がかかる可能性があります。
不採用の場合は紹介者にリスクが生じる
リファラル採用は、社員が「自社に合いそう」と思う友人・知人に声をかけます。しかし、採用選考は通常通りに行われるため、場合によっては不採用になってしまうこともあります。その場合、紹介者である社員と紹介された知人との人間関係に影響を及ぼす恐れもあります。
社内の人間関係への配慮が必要
リファラル採用で採用した人材と紹介者である社員は友人・知人関係でもあるため、社内の人間関係への配慮が欠かせません。 紹介者の社員が採用された人材を優遇してしまったり、閉鎖的なグループができたりといったことが起きないように、配属先や人材配置への配慮が必要となるでしょう。
リファラル採用の進め方
リファラル採用を実施するための、手順の一例を紹介します。
リファラル採用プロジェクトを立ち上げる
リファラル採用は、必ずしも大がかりなプロジェクト化をしなければならないわけではありませんが、人事部の採用担当者と一部社員だけで進めるよりも、社内の多くの人を巻き込んだ方が実現につながりやすくなります。
プロジェクト立ち上げに際しては、「旗振り役」を担う経営陣・部門長クラスや、採用部門のメンバーに協力を要請します。さらに社内の各部門から有志を募る、あるいは影響力があるメンバーを推挙してもらうなどするところから始めると良いでしょう。
プロジェクトチームのメンバーが起点となって各部門に情報発信を行い、実施メリットを伝えていくことで「自社でリファラル採用をやっている。自分も協力しよう」という機運が生まれやすくなると考えられます。
採用目標や予算を設定する
リファラル採用で獲得したい人数・職種・時期といった「目標」を設定し、社内に発信・共有します。複数職種を募集する場合、他部門の社員に優先順位や緊急度、採用人数などを伝えると、どの職種を念頭に友人・知人を探せば良いかイメージを描きやすくなるでしょう。
予算面では、紹介した社員へのインセンティブの金額や支払条件を設定します。候補者との会食などの費用の会社負担なども想定し、採用予算全体を圧迫しないように調整しましょう。
ルールを設定し、戦略を立てる
インセンティブの金額や支払い条件、候補者の個人情報管理・選考情報の開示範囲などのルールを設定します。社員が人材を紹介しやすいようなフローを組み立て、ツールも準備しましょう。例えば、社員が簡単に採用情報を確認・紹介できる、進捗管理を可視化・共有できるなど、リファラル採用活動を支援する専門ツールもあります。
企業規模にもよりますが、最初から全社で展開するのではなく、段階的に進めても良いでしょう。まずは一部の部門で展開して成功事例を生み出す、プロジェクトチームメインで活動してみて改善点などを洗い出すなどして、徐々に対象部門を広げていく方法もあります。
導入と検証、改善を繰り返す
リファラル採用を導入後、運用しながら課題を検証し、改善を図っていきましょう。上記のように、一部から始めて段階を踏んでいく進め方であれば、軌道修正もしやすいといえます。経験値が高まれば、自社にマッチする施策やツールなどもつかめてくるでしょう。
また、社員に対しては導入時に説明して終わりではなく、社内イベントや全社会議などを通じ、定期的にリファラル採用の社内広報や成果報告などを続けていくことが望ましいでしょう。
リファラル採用のルールや戦略は策定するまでに時間がかかり、導入してもすぐに自社内に浸透させることが難しいため、長期的視点で進めていくことが大切です。
リファラル採用のインセンティブ相場と決め方
リファラル採用では、応募者が採用された際に、リクルーターの役割を果たした社員に対してインセンティブ(報酬)を支払う制度を導入するのが一般的です。インセンティブがあれば、「自社への入社を検討してくれそうな友人・知人を探してみよう」というモチベーションアップにつながる可能性があります。なるべくインセンティブを設けると良いでしょう。ここでは、インセンティブの相場や金額の決め方について紹介します。
リファラル採用のインセンティブ相場
リファラル採用のインセンティブの相場は、転職サイトや転職エージェントなどのサービスに支払う費用よりは低く、数万円から設定されるのが一般的です。企業によって幅があり、数十万円のケースもあるようです。ただし、「自分の利益のために友人・知人を利用するなんて」といった抵抗感を抱く人もいる可能性があるため、インセンティブ金額を高くしすぎても逆効果を生むことも考えられます。
企業によってはインセンティブを設定していなかったり、リクルーター活動の実費精算のみを行っていたりする場合もあります。
インセンティブ設定のルール
リファラル採用のインセンティブ設定については各社さまざまです。具体的な設定のルール事例としては、以下のようなものがあります。
- 紹介した応募者の面接実施後にインセンティブを○円支給
- 紹介した応募者が入社した場合、お祝い金として○円支給
- リファラル採用の候補者との会食費として○円支給
違法にならないための注意点
リファラル採用によるインセンティブ支給は、場合によっては違法になってしまう恐れがあるため注意が必要です。
職業安定法第30条では、「業」として職業紹介事業を行う場合は、厚生労働大臣の許可が必要とされています。そのため、リファラル採用の報酬として直接社員にお金を支払う行為は違法となります。
ただし、職業安定法第40条では、リファラル採用のように自社社員の人材紹介に対する報酬を「賃金・給料またはこれに準じるもの」として支払うことは許可されています。
そのため、「業」としてみなされない価格帯で、就業規則の賃金項目にリファラル採用についてのインセンティブについて記載した上で、賃金・給与に準じる形で支給するようにしましょう。なお、賃金・給与として支給するため、税務上の給与、社会保険上の報酬、賞与にあたり、所得税や社会保険料は控除されます。
リファラル採用でのトラブルを防止するポイント
リファラル採用では、トラブルにつながるケースも見られます。次のポイントを心がけることで、トラブルを防止できる可能性があります。
選考案内の前に面談を行う
社員から紹介された応募者とは、選考に進む前にまずは面談を行うと良いでしょう。
紹介を受けた人は、転職意思が固まっていない可能性があります。選考に入る前に面談などで自社について説明をしたり、応募者の意向を確認したりすると良いでしょう。
また、リファラル採用の場合、社員が気の合う人を紹介する傾向があり、性格や能力などが似たタイプの人材が集まりやすくなるかもしれません。「新しい視点や発想を自社に取り入れること」を採用目的とする場合、リファラルの特徴を考慮して、選考前の面談を通して応募者の人となりを知ってくことも大切です。
採用基準や労働条件を明確化する
採用基準や労働条件については、リファラル採用を行う前に明確にしておきましょう。
採用基準が曖昧なままだと、社員の紹介を受けたとしても適正な選考が行えない恐れがあります。また、労働条件が明確でなければ、応募者が紹介者から聞いた情報との乖離などが起こり、選考や内定を辞退される可能性もあります。
採用基準や労働条件を明確にした上で、紹介者である社員にも共有しておくことが大切です。
紹介者のフォローを徹底し負担やリスクを減らす
紹介を受けた人が選考段階に進んだ後も、紹介した社員のフォローを欠かさずに行いましょう。
社員としては、自身が紹介した知人・友人の選考の進捗がわからない状態だと、その人とのコミュニケーションに支障が生じ、気まずい思いをするかもしれません。最悪の場合、信頼関係が損なわれる恐れもあるため、面談・面接後の進捗状況をしっかりと共有しましょう。
また、募集の最新状況を定期的に社員に共有・フォローすることが望ましいでしょう。もし、社員が友人・知人に声を掛けて応募に至ったとしても、「その職種の募集はすでに終了している」という回答をした場合、「話が違う」となり、社員とその友人・知人との関係にマイナスの影響を及ぼすかもしれません。「もうリファラル採用に協力しない」とモチベーションダウンにもつながりかねないため、採用情報の管理・共有はこまめに行うことが望ましいでしょう。
普段から、社員が友人・知人に自社のことを伝えやすいように、情報を一元管理し、アクセスしやすい状況にしておくことも大切です。社員が友人・知人を紹介する活動を「面倒」と感じないようにフォローしましょう。
リファラル採用を実現させるポイント
リファラル採用の実現確率を高めるには、以下のポイントを意識して進めると良いでしょう。
社内の認知を徹底する
リファラル採用制度の導入を社内に告知しても、すべての社員に情報が行き届かないこともあるでしょう。確実に認知される方法で伝えること、また、リファラル採用を行うことでもたらされるメリットも伝えることで、社員の参加率の向上につながると期待できます。
現場と連携する
リファラル採用は、採用予定部門の社員が積極的に人材を探したり、他部門に向けて「このような人材を求めているので紹介してほしい」と情報展開したりすることが大きな推進力となります。現場の社員たちが主体的にアクションを起こせるようにするためにも、人事部門だけに閉じることなく、現場との連携強化を図りましょう。
また、他部門の社員が友人・知人を紹介しても、現場のニーズに合わず、採用に至らないケースも考えられます。現場とのギャップを生まないためにも、密にコミュニケーションを取って、求める人材要件をアップデートしていくことが大切です。
社外への採用広報を強化する
社外に向けて、リファラル採用を実施していることを広報しましょう。自社の採用サイト内に、リファラル採用について解説するページを設けている企業も見られます。
採用広報を強化すると、社員がリファラル採用の候補者(友人・知人)に自社を気軽に紹介・説明しやすくなる効果が期待できます。転職を考えていない相手であれば、本格的な採用案内よりも、SNSやブログの記事などの方が気軽に読んでもらえる可能性が高いでしょう。
リファラル採用と同時に、スカウトサービスの活用もおすすめ
リファラル採用には、ミスマッチが起こりにくいというメリットはありますが、社員の多様性に偏りが生じたり、採用に時間がかかったりというデメリットもあります。
スカウトサービスは、登録している求職者に企業から直接スカウトができるので、自社が求める人材へのアプローチが可能です。リファラル採用と並行で活用すると、採用活動を強化できるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
記事掲載日 :
記事更新日 :
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。