内定誓約書

採用選考の最終段階では、内定を出した求職者に「内定誓約書(入社誓約書)」や「内定承諾書」の提出を求めることがあります。内定誓約書の目的・役割、記載項目、法的拘束力などについて、特定社会保険労務士の原祐美子氏が解説します。

内定誓約書とは

「内定誓約書」とは、求職者が内定を承諾し、入社の誓約をするための書類です。内定誓約書と一つにまとめず、「内定承諾書」と「入社誓約書」に分けたり、「入社承諾書」という名称で作成したりすることもあります。

企業の採用活動においては、選考を終えると、内定を出す応募者に対して「内定通知書」「労働条件通知書」などを発行することになりますが、この際、内定誓約書(入社誓約書)も同封して送付し、応募者が入社を承諾する場合に企業に提出するケースが一般的です。

内定誓約書は法律で定められた文書ではない

内定誓約書(入社誓約書)は、法律で定められた文書ではありません。一般的には、企業が内定者に内定を伝達した時点で始期付の労働契約が成立するとされています。

内定誓約書(入社誓約書)は必ず提出してもらわなければならないわけではありませんが、入社の意思表示が口頭のやりとりでは、内容が曖昧になったり、言った・言わないのトラブルに発展したりすることもあります。

そのため、内定者から内定誓約書(入社誓約書)を提出してもらうことによって、企業側は明確に入社の意思を確認することができ、受け入れの準備にとりかかることができるというメリットがあります。

内定誓約書の役割

内定誓約書(入社誓約書)には明確な決まりはございませんが、大きく2つの役割があります。

  1. 内定者が、提示した労働条件に同意し、入社する意思があることを確認する
  2. 企業から、採用内定の前提(大学や大学院等の卒業・修了、就労開始までに必要な資格を取得する、提出した書類に偽りがない、内定時には知りえなかった状況によって就労の不能がないこと等)を伝え、それらに相違がある場合には、内定取消がありうることを了解してもらう

新卒入社の場合も中途入社の場合も、内定誓約書(入社誓約書)に記載する項目は基本的には同様のことが多いです(項目の詳細は後述)。ただし、新卒の場合は、「卒業見込み」に関する項目、中途の場合は「職務経歴の虚偽」に関する項目などが盛り込まれることが見られます。

内定誓約書と内定通知書の違い

「内定通知書」とは、企業が採用選考を行った結果、応募者に採用を内定した旨を通知する書類を指します。「当社に入社してほしい」という意思を伝える目的で発行されます。

「内定」とは、法律で明確に定義されているわけではありませんが、裁判例から「始期付解約権留保付労働契約」と解されています。これは、労働契約の開始時期(始期)は決まっているものの、入社日までの間に、誓約書に記載された事項が守られない等、内定取消事由に該当することがあれば企業は労働契約を解約する権利を持っている(解約権留保)状態を言います。ただし、内定取消事由となるものは、企業が内定を出した当時に知ることができず、また、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られるとされています(※1)。

企業が求職者に内定通知をすることで、雇用(労働)契約が成立すると判断される可能性もあり、正当な理由がない限り内定の取り消しは認められません。

つまり、内定通知書は法的拘束力を持ちうる書類です。しかし、法的に発行を義務付けられているわけではありませんので、発行するかどうかは企業の判断に委ねられます。

内定誓約書(入社誓約書)と内定通知書は、一緒に送付するケースがよく見られますが、それぞれ役割が異なります。内定通知書は企業が内定の意思を伝える書類ですが、内定誓約書(入社誓約書)は、求職者が内定を受け入れ、入社する意思を伝える書類です。送る側・受け取る側が逆となる、ということです。

(※1)参考:厚生労働省『「採用内定の取消」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性』

内定誓約書のテンプレートの一例

内定誓約書の記載項目

内定誓約書(入社誓約書)の様式に決まりはないので、企業によって体裁は異なります。ここでは、一般的に記載される項目をご紹介します。

基本項目

法律で定められた書類ではないため、必ず記載しなければならない項目というものはありませんが、基本的な項目例としては以下が挙げられます。

  • 年月日(内定者が記載するため空白にしておく)
  • 宛先(企業名/代表者名)
  • タイトル(「内定誓約書」「入社誓約書」など)
  • 内定通知書を受領した旨、およびその日付
  • 労働条件を確認した旨
  • 内定を承諾する旨
  • 内定誓約書を提出後、正当な理由なく、また無断で入社を拒否することはない旨
  • 指示された書類を遅滞なく返送する旨
  • 住居変更などがあった場合は直ちに連絡する旨
  • 本人氏名/捺印欄

入社後に従業員として守るべき事項を記載する場合

また、入社後に従業員として守るべき事項を誓約する内容を入れることもあります。この場合、記載する項目としては次のようなものが挙げられます。

  • 服務規程・社内規定の順守
  • 人事異動(転勤・職種転換など)に従うこと
  • 秘密保持義務
  • 故意または過失により会社に損害を与えた場合の損害賠償
  • 経歴・保有資格に虚偽がないかの確認

なお、あまり多くの項目を盛り込むと、威圧的な印象を与え、内定者が抵抗感を抱く恐れもあります。ある程度、必要事項を絞り込んだほうが良いといえるでしょう。

内定誓約書(入社誓約書)にまつわるトラブルと防止法

内定者に、内定通知書・労働条件通知書・内定誓約書(入社誓約書)などを送ったにもかかわらず、内定誓約書(入社誓約書)が返送されないこともあります。

入社意思がないものと判断し、他の応募者を採用した後になって、「入社するつもりだった」と訴えられることも考えられます。その人は内定通知書を受け取っているため、それを盾に内定取り消しの不当性を主張されるかもしれません。

採用を決めるときに内定通知書を一方的に送るだけでなく、内定承諾書や内定誓約書(入社誓約書)などにより、応募者の意思表示を確認する機会を持つことが大切です。

また、送付状・添え状に記載した返信期限までに内定誓約書(入社誓約書)の提出がなく入社への合意が成立しない場合にも、黙って内定を取り消すだけでなく、提出期限が守られなかったことを理由として内定取り消しを通知する文書を送ることをお勧めします。

内定後のフォローも重要

内定者は入社に対して懸念を残していると、内定誓約書(入社誓約書)をすぐに返送できないこともあるでしょう。

しかし、入社確約がとれなければ採用活動を終えることができず、採用部門の業務遂行にも支障をきたすことになりかねません。内定者が入社を決断しやすいよう、採用担当者から「何か気になっていることはありますか?」などと連絡を取り、フォローすることも大切です。

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この記事の監修者

原 祐美子氏(はら ゆみこ)氏

大学卒業後、外資系計測器メーカーに勤務。参議院議員の事務所に勤務時に、社会保険労務士試験に合格。2005年、なぎさ社会保険労務士事務所を開業。2016年、社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ東京事務所長に就任。顧問先の労務相談・諸規程の作成、労働保険・社会保険関係手続き・給与計算にかかわるほか、上場準備企業の労務監査や支援も行う。「聞いてもらえてよかった。この人がいてくれてよかった」と思われる対応を心がけている。産業カウンセラー、第一種衛生管理者の資格も保有。